2025-06-30

タカネヤバネゴケ

 写真はタカネヤバネゴケ Fuscocephaloziopsis leucantha だと思います。 前に載せたナンジャモンジャゴケに混生していました。
 葉は横に近い斜めにつき、葉の幅は茎径とほぼ同じです。

 上は腹面を撮っています。 分枝は腹面からもしています。 腹葉はありません

 葉は幅が約 0.15㎜、1/2~1/3までV字形に2裂しています(上の写真)。 背側の裂片は小さく、欠くこともあるようです。 葉身細胞はやや厚壁で、トリゴンや油体はありません。

◎ タカネヤバネゴケはこちらにも載せています。

2025-06-28

ナンジャモンジャゴケ

 岡山コケの会関西支部では毎月第4火曜日に顕微鏡観察会を行っていますが、6月の観察会にと長野県のKさんからいろいろなコケを送っていただきました。 上はそのうちの1種で、ナンジャモンジャゴケです。

 上は葉の横断面です。 蘚類でも苔類でも葉には背面と腹面があるのですが、本種ではその区別がつきません。 現在では本種は蘚類の中で最も早く枝分かれしたグループとされていますが、そのことと関係しているのでしょうか。


 上の2枚は茎にあった粘液細胞です。 本種が発見された当初、蘚類か苔類かなのかも不明でしたが、苔類とする意見の方が多かったようです。 苔類とする根拠の1つが上の粘液細胞で、このような粘液細胞は苔類に見られますが、蘚類には見られません。
◎ 本種の粘液細胞はこちらにも載せています。

 上は茎の断面です。 葉とは異なり、茎は中実です。

こちらこちらには本種の自生している様子などを載せています。

2025-06-27

マルバコオイゴケモドキ

 上はマルバコオイゴケモドキDiplophyllum andrewsii で、大阪市立自然史博物館に収蔵されていた標本です。 先日載せたイボヒシャクゴケとマルバコオイゴケとを比較検討するにあたり、この標本も参考にしました。 以下はこの標本の観察結果です。

 腹片は長舌形でやや曲がり円頭、背片は腹片の1/2~3/4長です(上の写真)。 葉縁の鋸歯はほとんど目立ちません。

 上は腹片の葉先付近、下は背片の葉先付近です。

 葉身細胞はやや厚壁でトリゴンは不明瞭です。 マルバコオイゴケで問題になったいぼ状ベルカは確認できませんでした。

2025-06-26

イボヒシャクゴケ

 先日、マルバコオイゴケに似たコケを、著しいいぼ状パピラがあることなどから、イボヒシャクゴケ Scapania verrucosa ではないかと思い、こちらに載せましたが、先日大阪市立自然史博物館に収蔵されているイボヒシャクゴケの標本を見る機会があり、比較検討の結果、両者は全くの別種であることが分かりました。 なお、このイボヒシャクゴケの標本は、狩野・佐治(2016)により蘚苔類研究11(7)に報告されたもので、山田耕作博士により同定確認されています。
 以下はこのイボヒシャクゴケの標本の観察結果です。

 葉を含めた茎の幅は約2㎜で、マルバコオイゴケの約2倍の幅があります。腹片は腹方に反り返り気味です。 キールの長さは腹片の長さの1/3~1/4で、腹片の基部はキールより下に下延しています。

 腹片も背片もほぼ全周に長い歯があります。

 上は腹片の先端付近です。 下は上とほぼ同じ場所で倍率を上げて少し焦点をずらして撮った写真です。

 細胞表面には著しいいぼ状ベルカが見られます(上の写真)。 このベルカ、細胞表面にも細胞間の隔壁の表面にも同様に存在することからベルカ(verruca)と言わざるを得ないのでしょうが、よく見られるベルカよりは、はるかに大きなものです。 またこのようないぼ状ベルカの存在は、平凡社の図鑑を見るかぎりはイボヒシャクゴケの大きな特徴で、そのことが和名の由来にもなっているようですが、注意深く観察すれば、他のいろいろなヒシャクゴケ科でも見ることができそうです(2025年6月現在ではノコギリコオイゴケとマルバコオイゴケで確認しています)。

 背片も腹片から切り離して観察しました。 上は背片の背縁です。 背片はほぼ全周で透明な細胞に縁どられ、歯は腹片の歯より少し短めです。
 観察したのは、大切な標本ですので葉1枚だけの観察ですが、上の写真の葉では、背片におけるいぼ状ベルカは、葉先近くではあまり見られず、基部付近に多く見られました。

 上は腹片中央付近の、背片を取り除いた所を撮った写真です。 いぼ状ベルカは腹片全体にほぼ均一に見られました。
 上の写真には無性芽も写っています。 腹片と背片の間に挟まって残っていたようです。 無性芽は2細胞からなっています。

2025-06-23

マルバヤバネゴケ

 岩上に厚く育ったコケ群落、一見オヤコゴケの群落に見えましたが、持ち帰って調べてみると、群落の奥に細いひも状のコケがたくさんありました(上の写真)。 この細いひも状のコケ、観察の結果はマルバヤバネゴケ Fuscocephaloziopsis lunulifolia のようです。
 オヤコゴケもマルバヤバネゴケもブナ帯を中心に分布するコケですが、撮ったのは京都市右京区京北上弓削町の標高500m付近です(2025.6.1.撮影)。

 葉を含めた茎の幅は 0.3~0.5㎜です。


 上の2枚の写真は、上はほぼ腹面から、下はほぼ横から見ています。 葉は縦に近い斜めにつき、2裂して裂片の先は相接する傾向にあり、背縁基部は下延しています。

 上は腹面を斜め上から見下ろして撮っています。 腹葉はありません。

 上は葉身細胞です。 本種の細胞に油体はありません。

 上は、少し斜めに切れていますが、茎の横断面です。 髄細胞はやや厚壁です。

◎ マルバヤバネゴケはこちらこちらにも載せています。

2025-06-22

タカネツキヌキゴケ

 上はタカネツキヌキゴケ Calypogeia neesiana でしょう。 雨中のTG-6での撮影で、画像はくっきりしていません。 亜高山帯ではふつうに見られるコケですが(こちらこちら)、撮ったのは京都市右京区京北上弓削町の標高500m付近です(2025.6.1.撮影)。

 茎葉体の幅は約3㎜、腹葉は茎径の2~3倍幅です(上の写真)。

 上は葉で、右が背縁です。 背縁の細胞は中央部の細胞より細長くなっています。 下はその拡大です。

 上の写真で、上が葉の背縁です。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは無く、油体は無色でブドウ房状です。

 上は腹葉で、下に少し茎の表皮がついています。 やや凹頭で、左右の肩の部分にも軽い凹みがある場合が多いようです。

2025-06-19

クロバネキノコバエ科の一種

 下は Part1の 2013.1.6.に載せていたものを加筆し、こちらに引っ越しさせた記事です。 写真は 2012.12.14.の撮影です。 

 ハエやカの仲間の分類には翅脈が重要になります。 上は翅脈の様子から、クロバネキノコバエ科(Sciaridae)の一種だと思います。 また、左右の複眼がつながっている(眼橋と呼ばれています)のもこの科の特徴ですが、上の写真でも、かろうじて確認できます。

 クロバネキノコバエ科は、タマバエ科やキノコバエ科と近縁とされていますが、脛節の端に刺があるのはタマバエ科との区別点になります。
 和名に「キノコバエ」とあるのは、この科にはキノコに湧く種類もあるからですが、多くの種では幼虫は土に発生し、腐植した植物を食べて育ちます。
 名前にクロバネとついていますが、翅は黒色とは限らず、透明や、褐色のものや、まれには斑点や暗色の帯があるものもいるようです。 餌は植物の遺体や菌類などです。
 日本では、クロバネキノコバエ科は約500種が確認されているようですが、これは記録されている種数であり、未記載の種も含めるとさらに多く存在すると考えられています。

2025-06-13

コモチネジレゴケ

 生垣の下のコンクリート壁についていたコケ、雨で濡れてよく分からないので少し持ち帰り、水分を拭き取って映したのが上の写真です。 ヒナノハイゴケの群落の所々にコモチネジレゴケ(赤い円内)が育っていました。
 コモチネジレゴケ Syntrichia laevipila は、これまで何度か木の割れ目の奥で育っているのを見たことがありますが、このようなコケの群落に混じって育っているのを見るのは初めてです。

 どちらの葉も葉先が細く伸びています。 2種の葉を並べて比較してみました。 左がコモチネジレゴケ、右がヒナノハイゴケです(倍率は異なります)。

 上はコモチネジレゴケの葉身細胞で、「C」形をしたパピラがあります。

(2025.6.11. 大阪府 岸和田市内)

◎ コモチネジレゴケは茎頂や葉腋に無性芽をたくさんつけるのですが、雨で流れてしまったのか、最初の写真ではほとんどありません。 無性芽をたくさんつけた様子はこちらをご覧ください。

2025-06-09

フソウツキヌキゴケ

 

 上は無性芽をつけたフソウツキヌキゴケ Calypogeia japonica です。 岩上にありました。

 上の写真は上が腹面、下が背面ですが、この撮り方では違いがよく分かりませんね。 とにかく、葉を含めた茎の幅は 2.5~2㎜、葉は広舌形で円頭です。


 上の2枚は腹葉です。 仮根が腹葉のすぐ下から出ています。 腹葉はやや湾入してつき、1/2ほど2裂し、両縁の基部は下延しています。


 上の2枚は葉身細胞です。 トリゴンが無く、表面は平滑で、油体は微粒の集合で眼点があります。

(2025.6.1. 京都市右京区京北上弓削町)

◎ フソウツキヌキゴケはこちらにも載せています。

2025-06-08

フトリュウビゴケ

 写真はフトリュウビゴケ Loeskeobryum cavifolium でしょう。 、雨で濡れています。 蒴をつけていたので、持ち帰って観察することにしました。

 大形のコケで、上の写真では長さ約8cmですが、10cm以上にもなります。 枝は不規則またはまばらに出て1~2回羽状に分枝しています。

 葉は丸く重なりあってついています。 ついている葉を見るかぎりでは、茎葉と枝葉は、大きさは異なりますが、葉形の違いはあまり無さそうで、幅広い葉身部から急に細くなった葉先が飛び出ています。 雌苞葉は披針形です。

 上は茎葉です。 基部は耳状に下延して茎を抱きます。 2本の短い中肋があります。

 上は葉身細胞です。

 葉を取り除くと、茎にある多くの毛葉が確認できます(上の写真)。 茎は赤褐色です。

 上は茎の横断面で、表皮には多くの毛葉がついています。 下は上の中央付近の拡大です。

 上の写真の中央付近には中心束が写っています。

 蒴は傾き、非相称です(上の写真)。

 上は蒴歯を蒴の内側から撮っています。 蒴歯は2列で完全です。

(2025.6.1. 京都市右京区京北上弓削町)

◎ 上のフトリュウビゴケは岩から垂れ下がっていましたが、本種は地上でも育ちます。 こちらには平らな所で育った本種の春の枝の伸び出している様子などを載せています。 またこちらには毛葉の顕微鏡写真などを載せています。