コツリガネゴケとヒロクチゴケはとてもよく似ています。 平凡社の図鑑のヒロクチゴケの項には「前者(=コツリガネゴケ)に
非常によく似るが、・・・
かろうじて区別される。」(ボールドにしたのは管理者)と書かれています。 そして、かろうじて区別できる点として、検索表などには次のような違いが書かれています。 なお、「この属は同じ種でも大きさなどに変異が大きい。」とも書かれています。
|
中 肋 |
蒴柄の長さ |
蒴の幅 |
胞子の径 |
胞子の表面 |
コツリガネゴケ |
葉先に達する |
ふつう8mm以上 |
1.1mm以上 |
15-25μm |
密にパビラ |
ヒロクチゴケ |
葉先から短く突出 |
ふつう8mm以下 |
0.9mm以下 |
25-30μm |
密に小さな刺 |
なお、余談ながら、和名もこの名前に至るまでの混乱の跡が窺えます。 ツリガネゴケ属(
Physcomitrium)の中でコツリガネゴケがいちばん大きいのにもかかわらず、「小(こ)」がつき、ツリガネゴケという和名のコケは無く、釣鐘なのに蓋が取れた跡の口は上を向いて開いています。 ハリガネゴケの仲間あたりとの混同があったのかもしれません。
閑話休題、上の表の識別ポイントに従って下の写真のコケを調べると・・・
結論から書くと、以下の結果から、コツリガネゴケ
Physcomitrium japonicum のように思います。 撮っている時には、
ヒロクチゴケより蒴柄が長い印象を受けました。
蒴柄は10mmほどありそうですし、蒴の幅も1.7mmほどありそうです。 上の写真では茎の下部は土に埋まっていて、葉は茎の上部に集まっています。 葉は胞子体に栄養を送り続け、かなり弱ってしまっているようです。
なお、ヒョウタンゴケ科の多くは雌雄同株(異苞)です。 上の写真の右下に見えているのが雄小枝かもしれません(調べるには小さすぎました)。
下方の葉は小さく、上に行くにしたがって大きな葉になりますが、葉の長さはそれでも4mmほどです。
上は1枚の葉です。 中肋が葉先に達しているか葉先から短く突出しているかは微妙です。 少なくともルーペレベルでは見分けるのは難しそうです。
葉先の部分を拡大してみました(上の写真)。 「中肋が葉先に達している」とは葉先に中肋があり、中肋の左右には葉身細胞もある状態で、「中肋が葉先から短く突出している」とは葉先の中肋の左右には葉身細胞が無い状態だと理解しているのですが、ほんとうに微妙です。 ただ、ヒロクチゴケの葉先は、中肋の左右に葉身細胞が無いことが、もっとはっきりしていたと思います。
葉縁には2~3列の細長い細胞があり(上の写真)、舷はやや分化していると言えるでしょう。
上は葉の先端から基部に向かって葉長の1/3ほどの所の葉身細胞です。 細胞は方形~六角形で、長さは 30~60μmほどです。
上は葉の先端から基部に向かって葉長の2/3ほどの所の葉身細胞です。 細胞は方形で、長さは 100μm前後です。
ちなみに平凡社の図鑑では、葉身細胞の長さは 40~70μmとなっていて、ヒロクチゴケの葉身細胞の大きさに関する記載はありません。
上は蒴の中にあった胞子らしきもので、径は図鑑の記載にほぼ一致していますが、パピラの存在がよく分かりません。 胞子はまだ出来上がっていないはずで、写真のものが減数分裂後の細胞である確証もありません。 なお、右下隅は蒴の一部です。
上は蒴の頸部の表面で、たくさんの気孔が見られました。
(2019.4.3. 堺市美原区平尾)