2025-03-07

『ミクロの世界のコケ図鑑』の「分類順さくいん」の変更

 昨日は『ミクロの世界のコケ図鑑』(以下、「図鑑」)の図鑑部分に掲載している種と、井上・山口(2024)の「日本産セン類の分類表」(以下、「新分類」)との科名の違いについて書きました。 図鑑は生育環境別に載せているので、科の何がどう変化したのか、分かりにくい面もあったと思います。
 図鑑の p234~p237には、他の図鑑にはほとんど見られない「分類順さくいん」をつけてありますので、今回はこれが新分類ではどうなったのかについてまとめました。 私には多くが「なるほど」と思われる変更でした。

 図鑑ではページ見出しのあるコケにのみ学名を書いています。 今回は、科が変わった種については、学名を書かなかったコケについても載せています。
 なお、新分類では属までしか書かれていませんので、属が変化している場合には、違いが生じる可能性があります。

 以下、科ごとに必要な場合は解説を加え、科名が変化する種を[ 図鑑の整理番号、和名、図鑑の掲載ページ ]として載せています。

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ギボウシゴケ科
 図鑑で扱っているギボウシゴケ科は、大きくギボウシゴケの仲間、シモフリゴケの仲間(スナゴケの仲間)、チヂレゴケの仲間に分けられますが、そのうちのチヂレゴケの仲間の
 165 ハチヂレゴケ p128
 166 コバノヒダゴケ p128
 167 ナガバチヂレゴケ(イシノウエノヒダゴケ) p129
 168 シナチヂレゴケ p129
 169 チヂレゴケ p130
 170 ヒダゴケ p130
 は、新設のチヂレゴケ科になりました。

シッポゴケ科
 189 ススキゴケ p77 と
 190 ナガスジススキゴケ p77 は新設のススキゴケ科になりました。

カゲロウゴケ科
 カゲロウゴケ科は無くなり、
 223 カゲロウゴケ p106 はセンボンゴケ科になりました。

ハリガネゴケ科
 234 ナシゴケ p38 は、“変なハリガネゴケコケ”でしたが、ヌマチゴケ科になりました。
 ちなみに、ヌマチゴケ科はオオツボゴケ科とともに、オオツボゴケ目に分類されています。 ナシゴケの蒴は下向き、オオツボゴケ科(整理番号224~227)の蒴は上向きですが、たしかに蒴の形は似ています。
 なお、出版時の校正ミスで、索引から
 240 カサゴケ p88 が抜けています。 追加をお願いします。

ヤナギゴケ科
 274 カギハイゴケ p230 は、新設のカギハイゴケ科になりました。

ウスグロゴケ科
 278 ミヤベゴケ p194 は、新設のミヤベゴケ科になりました。

ムジナゴケ科
 ムジナゴケ科は無くなりました。
 304 ノコギリゴケ(タイワンノコギリゴケ) p220 と
 305 マツムラゴケ p220 は、ハイヒモゴケ科になりました。

コゴメゴケ科
 307 キノウエノケゴケ p186 は、ウスグロゴケ科になりました。

ハイゴケ科
 いちばん変化の大きかったのがハイゴケ科です。 図鑑のハイゴケのページを見ていただくと、既にハイゴケ科ではなくなっていますが、新分類では、この図鑑に載せているハイゴケ科は無くなりました。
 311 アカイチイゴケ p51 と
 312 ヒダハイチイゴケ p51 は サナダゴケ科に、
 313 ダチョウゴケ p100 と
 318 シワラッコゴケ p151(順番を入れ替えています) は キヌゴケ科に、
 314 イヌサナダゴケ p149 は コモチイトゴケ科に、
 315 キャラハゴケ p150 と
 316 アオモリサナダゴケ p151 は 新設のキャラハゴケ科に、
 317 ヒラハイゴケ p151 は 新設のチリメンゴケ科に、
 319 クサゴケ p187 と
 320 フジハイゴケ p187 は 新設のクサゴケ科になりました。

イワダレゴケ科                
 321 クシノハゴケ p100 と
 322 コクシノハゴケ p100 は、ナワゴケ科になりました。

ナワゴケ科
 342 カクレゴケ p153 は、スジイタチゴケ科になりました。

ヒラゴケ科
 この科も出入りの大きい科です。
 353 タチヒラゴケ p156 は、基部の片側が大きく折れ曲がる“変なヒラゴケ”でしたが、ミヤベゴケ科になりました。
 356 トラノオゴケ p154 は、新設のトラノオゴケ科になりました。

コクサゴケ科
 コクサゴケ科は無くなりました。
 357 ヒメコクサゴケ p157 と
 358 コクサゴケ p194 は、上記新設のトラノオゴケ科になりました。

キヌイトゴケ科
 359 ラセンゴケ p157 は シノブゴケ科 に、
 360 オオギボウシゴケモドキ p195 と
 361 エゾイトゴケ p195 は、ヒラゴケ科になりました。
 

2025-03-06

『ミクロの世界のコケ図鑑』の一部掲載種の科名変更

 コケ植物の種名を覚えるにも、より深く理解するにも、その種がどの科に分類されているかが大切になります。 同じ科であれば何らかの共通点があるので、複数の種をまとめて理解することにつながりますし、逆に何らかの特徴から科が分かれば、種名はその科の中で検討できます。
 このほど、「日本産セン類の分類表」が出ました(詳しくはこちら)。 セン類の分類に関しては、当面はこの分類表がベースになると思います。
 『ミクロの世界のコケ図鑑』ではコケ研究の専門家ではない強みを活かして、かなり踏み込んで新しい科名をつけたつもりですが、上記の分類表に従うと、さらに下のように科名を訂正する必要があります。 以下は、載せている図鑑のページ、種名(和名)、上記の分類表に従った科名 の順に書いています。

p 38 ナシゴケ ヌマチゴケ科
p 51 アカイチイゴケ サナダゴケ科
p 77 ススキゴケ ススキゴケ科 (新しく作られた科です。)
p100 ダチョウゴケ キヌゴケ科
p100 クシノハゴケ ナワゴケ科
p106 カゲロウゴケ センボンゴケ科
p128 ハチヂレゴケ チヂレゴケ科
p129 ナガバチヂレゴケ チヂレゴケ科
p129 シナチヂレゴケ チヂレゴケ科
p130 チヂレゴケ チヂレゴケ科
p150 キャラハゴケ キャラハゴケ科
p151 ヒラハイゴケ チリメンゴケ科
p151 シワラッコゴケ キヌゴケ科
p157 ヒメコクサゴケ トラノオゴケ科 (コクサゴケ科はなくなりました。)
p157 ラセンゴケ シノブゴケ科に戻りました。
p187 クサゴケ クサゴケ科
p194 コクサゴケ トラノオゴケ科
p194 ミヤベゴケ ミヤベゴケ科
p195 オオギボウシゴケモドキ ヒラゴケ科
p220 ノコギリゴケ ハイヒモゴケ科 (ムジナゴケ科はなくなりました。)
p230 カギハイゴケ カギハイゴケ科

 このブログで『ミクロの世界のコケ図鑑』関する情報をお知らせできるのも、この図鑑の強みの1つです。 ぜひ最新の分類に基づいて、コケに関する理解を深めていただきたいと思います。
 なお、このブログの「セン類 掲載種一覧①」と「セン類 掲載種一覧②」も上記分類表に従って組み換えなおすつもりですが、これにはかなりの時間がかかりますので、少しずつゆっくりとやっていくつもりです。 気長にお付き合いください。
 

2025-03-05

井上・山口(2024)の「日本産セン類の分類表」について

  平凡社の『日本の野生植物 コケ』(2001年発行)には、日本産のコケの(当時分かっていた)すべての種の検索表が載せられていますが、発行から四半世紀が経ち、その間、コケ植物の分類体系は分子系統学的手法を取り入れることで大きく変更されています。
 コケ植物の多様性を体系的に把握するには種までの分類表が望まれます。 コケ植物全体の系統は、COLE T.C.H. ら(2023)の「コケ植物系統樹ポスター」で俯瞰することができるのですが、ここで示されているのは目と主な科までです。
 タイ類・ツノゴケ類については、片桐・古木(2018)の分類表と種名チェックリスト(下記文献)がありますが、蘚類については、これまでこのようにまとめられたものはありませんでした。 日本産セン類の種名目録は鈴木(2016)にあるのですが、それぞれの種の属する科は分かりません。
 このような状況下にあって、昨年、望まれていたセン類の新しい分類表が示されました。
 井上侑哉・山口富美夫:日本産セン類の分類表. Hikobia19(2). 2024.
です。
 この論文では、2023年12月末までに出版された文献に基づき、日本から報告されているセン類の分類群について、綱・亜綱・目・科・属の分類表が載せられています。 種までは載せられていませんが属まで分かると、ほぼなんとかなります。(本分類表の基礎にもなっている種名についても、日本産セン類チェックリストが近く出版されるようです。) なお、この論文は、2025年1月20日からは J-STAGE からダウンロードできるようにもなりました。

ハイゴケ科から新しく作られたクサゴケ科に移されたクサゴケ(2025.2.12.撮影)

  分類は現在理解されていることの集大成と言えるでしょう。 研究が進むにつれ、これからも分類は変化するでしょうが、セン類に関しては当面はこの分類表がベースになるでしょう。 『ミクロの世界のコケ図鑑』もこの分類表に従って見直しを行いました(こちら)。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎:日本産タイ類・ツノゴケ類チェックリスト,2018.Hattoria 9.

2025-03-03

ホソハリゴケ

 写真はホソハリゴケ Claopodium gracillimum でしょう。 細かい砂質土壌の斜面で育っていました。
 ところで、コケ植物の分類体系は分子系統学的手法を取り入れることで大きく変更しています。 Claopodium(ハリゴケ属)も、下に書くように葉身細胞にパピラがあって、平凡社ではシノブゴケ科になっているのですが、その後、キヌイトゴケ科が妥当とされたり、形態的に類似点のあるノミハニワゴケなどのHaplocladium(コメバキヌゴケ属)と同じウスグロゴケ科が妥当とされたりしましたが、下記の井上・山口(2024)では、アオギヌゴケ科に分類されています。
 井上侑哉・山口富美夫:日本産セン類の分類表. Hikobia19(2). 2024.
 (詳しくはこちらに書いています。)

 最初のような写真では大きさがよくわかりませんが、小形で、あまり目立たない種です。 上のスケールの数字の単位はmmです。

 葉は卵形の基部からやや急に細くなり、葉先は細長く尖っています(上の写真)。 基部はほとんど下延せず、葉縁は反曲していません。

 枝葉の中肋は葉先近くで終わっています(上の写真)。 なお、本種によく似たハリゴケの枝葉の中肋は葉先に達しています。 葉縁の細胞は葉身の細胞とほぼ同じです。

 上は葉身細胞で、各細胞に1個のパピラがあります。 

(2025.2.12. 兵庫県西宮市)

こちらには蒴をつけたホソハリゴケを載せています。