2021-08-22

カブトゴケ属の一種

 

 ブナの幹についていた大きな葉状地衣、カブトゴケ属( Lobaria )の一種でしょう。 カブトゴケ属は22種あるとされ、主たる共生藻が緑藻である緑色カブトゴケ類と、主たる共生藻がシアノバクテリアである藍色カブトゴケ類に分けられますが、写真のカブトゴケは前者になります。
 下は上の一部の拡大です。

 上の写真の左の地衣体の縁にたくさんついているのは円筒状裂芽でしょうか。 当初絵合わせで、写真の地衣はナメラカブトゴケではないかと思っていたのですが、ナメラは栄養繁殖器官を持たないはずです。

(2021.7.9. 秋田県 岩手県寄りの標高800m地点)



2021-08-21

コサンカクミズゴケ

 上はコサンカクミズゴケ Sphagnum recurvum var. tenue だと思います。 北半球周局地域に分布する中形のミズゴケで、日本では北海道と本州に分布します。 サンカクミズゴケやアオモリミズゴケとよく似ているのですが、違いや判断した理由は最後に書くことにします。

 上のような湿原で育っていました。

 枝葉は乾くと葉縁が波打ち、葉先は反り返ります(上の写真)。

 開出枝の葉は披針形です(上の写真)。

 上は開出枝の葉の背面です。 葉緑細胞の幅が広いのが印象的でした。

 上は開出枝の葉の横断面です。 葉緑細胞は背面に広く開いていますが、腹面にも少し開いています。

 下垂枝の葉は開出枝の葉より少し小さく、卵形です(上の写真)。

 上は下垂枝の葉の上部背面で、透明細胞の先端に大きな孔があります。 これがこの種の大きな特徴の1つです。

 上は茎葉で、正三角形に近い形をしています。

 上は茎葉の先端部で、先端の透明細胞に孔があります(上の赤い矢印)。

 上は茎の横断面です。 表皮細胞は分化せず、木質部との境は不明瞭です。

 茎の表皮細胞は矩形で、螺旋状の肥厚も孔もありません(上の写真)。

(2021.7.15. 長野県 栂池自然園)

 コサンカクミズゴケとサンカクミズゴケはアオモリミズゴケを母種とする変種とされていて、個体の変異もあることを考えると、その違いはわずかです。 ここでは以下の点に特に注目しています。
・アオモリミズゴケ:下垂枝の葉が披針形、茎の横断面で1~2層の表皮細胞の分化が見られる。
・サンカクミズゴケ:下垂枝の葉が披針形、枝葉断面で葉緑細胞は腹面には出ない。

2021-08-20

コブヤハズカミキリ


 秋田県の標高900m付近で撮ったコブヤハズカミキリの仲間です(撮影:2021.7.9.)。 この仲間は上翅がくっついていて飛ぶことができません。 移動距離が限られているため、種分化が進み、日本国内にはコブ、マヤサンコブ、タニグチコブ、フジコブ、セダカコブ、ヤクシマコブの6種が分布しているとされていますが、亜種を入れるともっと多くの種類になりますし、雑種も生じやすく、分類はなかなか困難なようです。 上の写真のものは、青森県~長野県に分布するコブヤハズカミキリ Mesechthistatus binodosus で、触角の長さからメスだとだと思います(オスの触角は体長の2倍ほどの長さです)。 ちなみに、大阪付近にはセダカコブヤハズカミキリが分布します。
 新成虫は夏に出現し、成虫越冬します。 上記のように飛べませんから、採集は下に網を受けておき、いそうな枝を叩き、偽死で落下した個体をつかまえる方法がよく使われます。 秋の新成虫が出そろった時期は、カミキリムシ愛好家の間では「コブ叩き」のシーズンとなります。

2021-08-19

キダチミズゴケ

 

 写真はキダチミズゴケ Sphagnum compactum だと思います。 秋田県の標高1,140mあたりにある高層湿原で、木道から直下を手を伸ばして撮っていて、ピントがあまくなっています。 水から出ている部分はわずかで、その部分だけが緑色をしていました。

 中形のぽっちゃりした感じのミズゴケで、上の写真は茎頂付近ですが、この下も茎が見えないほど枝が密に出ていました。

 上は茎の下部についていて緑をほぼ失っている開出枝と下垂枝で、乾いた状態です。 開出枝は太く短く、枝葉は長く、2.5mm前後あります。

 上は開出枝の枝葉です。 長卵形で、ボート状に深く凹んでいます。

 開出枝の枝葉の先端はかなり幅広く切頭で、不規則な歯があります(上の写真)。

 上は枝葉の横断面です。 葉緑細胞は楕円形で、透明細胞に囲まれて表面には出ていません。

 上は枝葉を取り除いた開出枝で、透明なのは表皮細胞です。 下はこれを押し潰して平らにして撮っています(倍率は少し異なります)。

 どの表皮細胞も、上に孔が開いています。 なお、これらの細胞と様子が異なるレトルト細胞は見られません。

 上は茎葉です。 茎葉は三角形~楕円状三角形で、長さにはかなりの変異が見られました。 上の写真はかなり長い茎葉ですが、それでも枝葉の半分以下の長さです。

 上は茎の横断面です。 表皮細胞は2~3層です。

 上は茎を表面から撮っています。 表皮細胞に螺旋状の肥厚は見られません。


2021-08-18

イボミズゴケ

 写真はイボミズゴケ Sphagnum papillosum でしょう。 秋田県・乳頭山から尾根伝いに下った標高約1,140mの雪田にありました。

 大形のミズゴケで、オオミズゴケに似ています。 上は乾いた状態で、色は白っぽくなっています。

 上は茎の頂端付近で、乾きはじめていて葉先が白っぽくなってきています。 枝葉はボート型に深く凹んでいます。

 上は押し潰さないようにして撮った枝葉です。 葉の反り返りはわずかしかありません。

 上は枝葉の葉先付近を茎側から見ています。 葉先は僧帽状になっています。

 上は枝葉の横断面で、写真の上が腹側になります。 葉緑細胞は楕円形~樽型で、背腹両側で表面に出ていますが、腹面で広く表面に出ています。 さらに倍率を上げると・・・

 葉緑細胞と接する透明細胞の側壁面に多くの細かいパピラがあります。 和名の「イボ」はこのパピラのことでしょう。
 このパビラは下の2枚の写真のように、枝葉の表面からでも観察する事ができます。

 上は枝葉のほぼ中央を背面から撮っています。

 上は枝葉のほぼ中央を腹面から撮っています。 腹面からの観察でもパピラは確認できますが、背面からの方が観察は容易です。


 上の2枚は茎葉で、2枚目は下に茎の表皮がついています。 縁に舷は無く、葉の上半部を中心に、縁は細く総状に裂けています。

 上は茎の表皮細胞です。 細いらせん状の肥厚があり、多くの細胞には1~2個の孔が見られます。

 上は茎の横断面(一部)です。 表皮細胞は3~4層です。

 上は枝の横断面です。

◎ イボミズゴケはこちらにも載せています。