上はヒノキ科のクロベ Thuja standishii (別名ネズコ)です。 木曽五木の1つで、日本固有種であり、本州と四国の山地帯から亜高山帯にかけて分布します。 高さ35mにも達する高木で、材は建築用などに利用されるのですが、岩上や風衝地に生育するものは匍匐状の樹形になります。 上の写真も、背景に岩が写っていますが、北八ヶ岳のガレ場で撮ったもので、岩上を匍匐していました。
ところで、ヒノキ科の多くの種では枝の下面の葉に気孔帯(または気孔条)と呼ばれる白い模様が見られます。 この模様はそれぞれの種ごとに形が違い、サワラは「Ⅹ」(または「Ⅴ」)という文字に、ヒノキは「Y」に、アスナロは「W」に似ており、種を見分ける時に役立ちます。 ところがクロベでは、少なくとも肉眼レベルでは気孔帯が無く、そのことがクロベの特徴の1つになっています。
今回は、大きくくっきりとした気孔帯を持つアスナロと気孔帯の目立たないクロベとで、気孔の分布や様子に違いがあるのか、調べてみました。
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上はアスナロの枝の下面(白い気孔帯がはっきりしている)と上面を重ねて撮っています。 この気孔帯と呼ばれる部分にほんとうに気孔が集まっているのか、拡大してみたのが下の写真です。
上の写真程度に拡大すると、気孔帯に小さな点が見えてきます。 下は上の赤い四角で囲った所をさらに拡大した写真です。
上の写真のように拡大すると、小さなドーナツのようなものがたくさん見えます。 この“ドーナツの中央の穴”が気孔だと思いました。
次にクロベです。 上に書いたように、少なくとも肉眼レベルでは気孔帯の存在は分からず、枝の上面と下面を見比べても、下面の方が少し緑が薄い程度の違いしかありません。 ところが・・・
上はクロベの枝の下面をフラッシュを使って撮影し、コントラストを少し強調した写真です。 上の写真を見ると、境ははっきりしないものの、クロベにも気孔帯らしいものがあるのが分かります。 この少し白っぽい所を拡大したのが下の写真です。
上はアスナロの3枚目の写真と同じ拡大率です。 やはり“ドーナツ”のたくさん集まっている所があります。 しかし“ドーナツ”もアスナロほどは白くなく、ドーナツ間の組織は緑色です。
調べてみると、白くみえるのはワックスがあるためのようです。 ワックスは水をはじきますが、気孔帯のワックスの多少が生育環境とどのように関係するのか、興味あるところです。
以上、“ドーナツ”(の中央の穴)が気孔ではないかとして書いてきましたが、ほんとうにそうなのか、顕微鏡でもう少し詳しく観察してみました。
クロベの葉の表面を安全カミソリの刃で薄く剥ぎ取り、顕微鏡観察したのが下の写真です。
たくさんの孔が開いています。 よく見る被子植物の気孔とはずいぶん様子が異なり、この孔そのものが気孔かは疑問が残りますが、少なくとも気孔に関係する孔であることには間違いないでしょう。
気孔と断言する自信が無いのは、葉緑体を持った孔辺細胞が見当たらず、どのように開閉調節を行っているのかが不明なためです。 もしかしたらこの孔の奥にほんとうの気孔があるのかもしれないと思い、縦断面も作成してみましたが、安全カミソリではうまく切れず、確認できませんでした。 それに周囲にたくさんあるさらに小形のドーナツに似た構造も気になります。
ヒノキ科の気孔については文献を調べてもみあたらず、なぜ気孔が葉の光の当たらない側に散らばらず気孔帯に集中するのかなど、いろいろ疑問も残りますが、とりあえずここまでにしておきます。
参考までに、下は白っぽくない所の葉の表面で、上と同じ倍率です。 葉の表皮細胞は透明で、その下に葉緑体を持った細胞が透けて見えます。
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