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ナナミノキの果実でメスの羽化を待つニッポンオナガコバチのオス |
ニッポンオナガコバチは、冬季に越冬中のメスがよく見られていて、あちこちのブログに登場しており、1月頃まではオスも見られています。 また羽化の様子は、11月下旬を中心にクロガネモチでよく見られています。 このブログでも、クロガネモチで育ったニッポンオナガコバチの羽化の様子を載せています(こちら)。
ニッポンオナガコバチの羽化については、おちゃたてむしさんのブログに詳しく、その概要は以下のようになります。
おちゃたてむしさんが観察されていたオナガコバチについて、 ezo-aphid さんが、Kamijo,K.(1962) Insecta Matsumurana 25(1):18-40. に基づき、Macrodasyceras属にモチノキタネオナガコバチとニッポンオナガコバチの2種がいて、メスの産卵管は前者は体長とほぼ同じで、後者のは短いことから、後者の可能性が高いが、既知の餌植物はウメモドキ・ナナミノキの実となっている旨が書かれています(こちらのコメント)。 その後、おちゃたてむしさんは上條博士に標本をお送りし、ニッポンオナガコバチであるとの返事をいただかれています(こちらの追記)。
上記のようにニッポンオナガコバチの餌植物として記載されているのはウメモドキとナナミノキですが、よく観察されているのはクロガネモチです。 私の調べたところでは、1頭のニッポンオナガコバチはクロガネモチの1つの種子( 注:果実ではありません )で育っていました(こちら)。 ニッポンオナガコバチの体の大きさには個体差があるのですが、これには育った種子の大きさも関係しているように思います。
ところで、果実の大きさは、ウメモドキ < クロガネモチ < ナナミノキ となります。 これらは同じ Ilex属で、種子の大きさもこの順です。 また、果実の熟す時期も少し違っているようです。
ウメモドキおよびソヨゴ(やはり Ilex属)でのニッポンオナガコバチの羽化はハンマーさんが記録されていますし(こちら)、BABAさんもソヨゴで観察されています(こちら)。 しかしナナミノキでのニッポンオナガコバチの羽化を撮った写真はネット上で探すことができませんでしたので、下記の点に注目して調べてみたいと思っていました。 できれば産卵時期も調べたいのですが、これについては手掛かりがありません。
・ナナミノキでのニッポンオナガコバチの羽化の時期
・クロガネモチより大きなナナミノキの種子から羽化してくるニッポンオナガコバチの大きさ
その前にまず、なぜナナミノキでのニッポンオナガコバチの観察例が少ないのかの考察と、観察対象としたナナミノキについて、書いておきます。
ナナミノキについて
ナナミノキは静岡県以西に分布する雌雄異株の常緑高木で、大阪付近の山林を歩いていても、ソヨゴほどではないにしても、そんなに珍しい木ではありません。 しかし、陽樹としての性質がかなり強いようで、林の中では葉のあるのは光のよく当たる上の方だけのことが多く、当然果実も上の方ということになります。 このことが、ナナミノキでニッポンオナガコバチの観察例が少ない原因の一つだと思われます。
それに加えて、ナナミノキは、はっきりした特徴の少ない木です。 葉柄はクロガネモチの色に近い場合が多いのですが、カシノハモチという別名があるように、葉の形はカシの葉にも似ています(上の写真)。
なめらかな樹肌などからモチノキ科だろうと見当をつければ、6月頃の花の時期であれば、白色~淡緑色の花の多いモチノキ科にあって、ナナミノキの花は淡紫色ですし、実のなっている今の時期であれば、クロガネモチより少し大きく細長い果実が特徴となるでしょう。
◎ ナナミノキはこちらにも載せています。
「ナナミノキ」の名前の由来についても、果実のやや細長い形から「長実の木」が転訛したとする説、たくさんの果実をつけるので、「多い」という意味の「七」の「七実の木」に由来するとした説など、いろいろな説があってはっきりしていませんが、果実が注目されているようです。
観察対象としたナナミノキは、奈良県にある公園で、芝生地に単独で植栽されていたものです。 日当りが良く、低い所までたくさんの果実をつけるので(上の写真)、以前から注目していました。 ただ、観察するにはいいのですが、堺市の自宅からは車で片道50分ほど要しますので、そんなに頻繁には行けません。 しかし運よく、11月7日に、ニッポンオナガコバチの羽化に出会うことができました。
ナナミノキにいたニッポンオナガコバチ
同じ公園で、昨年の11月27日にニッポンオナガコバチのクロガネモチでの羽化を見ていますので、ナナミノキでのニッポンオナガコバチの羽化は、クロガネモチの場合よりも早いようです。
観察した日の状況は、ひとあし早く羽化したニッポンオナガコバチのオスが、ナナミノキの果実に集まり、メスの羽化を待ち構えているようでした。 じっと待つオス、互いに牽制し合うオスなど、いろいろいましたが1頭のオスに注目してみました。
このオスは、上の写真のように、果実の上を一周しては穴を覗き込み・・・
上のように翅を震わせることを繰り返していました。 果実の上を一周するのは他のオスが近づかないようにしているのでしょうか。 また、翅を震わせるのは、果実に細かな振動を与え、メスが出て来るように促しているようにも見えました。
穴の奥には、メスの顔が少し見えています。 メスが出て来るかと5分ほど見ていましたが、すぐに出て来る様子もなく、あきらめました。
オスの体色には個体差があります。 上はメスのように明るい体色ですが、産卵管(鞘)がありませんし、メスの胸部と腹部の境は、写真のように黒くはありません。 体色の明るいオスは黒っぽいオスより小さいようです。
さて、クロガネモチから羽化したニッポンオナガコバチと、クロガネモチより大きな種子のナナミノキで羽化したニッポンオナガコバチの翅端までの体長比較(いずれもオス)ですが、前者が3.5mm前後であったのに対し、後者は4.5mm前後で、明らかにナナミノキの種子で育ったものの方が大きいようです。
気になっているのは、ナナミノキで羽化したオスの背面が、クロガネモチで羽化したものより明るい色であるということです。 まさか別種だということはないと思うのですが・・・。
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