2023-05-12

ツツクチヒゲゴケ

 水の滴る岸壁にあったコケ群落、上の写真にはいろいろなコケが混じっていますが、いちばん目立っているのはツツクチヒゲゴケ Oxystegus tenuirostris ではないかと思います。
 この記事は、当初、いくつかの疑問があり、「?」付きでムツコネジレゴケ Trichostomum platyphyllum としていました(その理由は下に書きます)が、「?」の1つは生育環境でした。 ムツコネジレゴケはもっと乾いた所に見られるはずです。

 黒っぽい茎です。 葉は中部が最も幅広くなっているようです。 葉の長さは約4mm、上の写真でも、少し乾きかけてきて葉先がねじれはじめていますが・・・


 乾くと葉は上の2枚の写真のようになります。
 平凡社の図鑑のセンボンゴケ科の検索表をたどっていくと、葉は乾くと管状になるか、キールするか凹み、管状にはならないかの分岐があります。 後者を選ぶとツツクチヒゲ属には至りません。

 葉は下部を除くと、多くのパピラが光を乱反射するためか、暗く見えます。 下部の細胞は大きくなり、矩形で透明、平滑です。 この透明細胞群は葉縁に沿ってせり上がってはいません。

 上は葉先です。

 中部の細胞は方形~短い矩形で、各細胞には4~7個のパピラがあります(上の写真)。

 上は葉の中肋付近の横断面です。 中肋の腹面側の表皮細胞は葉身細胞に類似し、密なパピラがありますが、背面側は平滑です。 ステライドは背腹両側にあります。

 上は背面から中肋の表皮細胞にピントを合わせて撮っています。 中肋背面の表皮細胞は、細長く平滑な細胞です。

 上は葉縁を含む葉の横断面です。 パピラは背面と腹面でほとんど変わりません。 葉縁の反曲は見られません。

 上は葉を取り除いて撮影した葉腋毛で、8~15細胞の長さがあります。

 上は茎の横断面です。 ムツコネジレゴケの属する Trichostomum(クチヒゲゴケ属)の茎には明瞭な中心束があるはずですが、上の写真で中心束は無さそうです。 これが決め手になりました。

(2023.5.3. 奈良県宇陀市)

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