2022-08-12

ヒメクチバスズメ


 写真はヒメクチバスズメ Marumba jankowskii でしょう。 2022.8.10.に京都府南西部にあるNさん宅の庭にいた写真を送っていただきました。 幼虫の食餌植物は オオバボダイジュやシナノキなどのシナノキ科の木の葉とされています。 たぶん近くの公園などに植えられているのでしょう。

 上がメス、下がオスです。 卵で膨れた腹部で分かりますが、翅の模様などは、雌雄差よりも個体差が大きく、ほとんど同じです。

 上は撮り易い所へ強制的に移動させた写真ということですが、移動の過程で触角が見えるようになりました。 多くの夜行性の蛾ではオスの触角の方が発達しているのですが、上の写真を見ても、触角でも雌雄差はほとんどありません。 しかしよ~~く見ると、ほんの少しオスの触角の方が太く、櫛状の突起も発達しているように思います。

2022-08-11

ヒモヒツジゴケ

 写真はヒモヒツジゴケ Brachythecium helminthocladum だと思います。 秋田県への旅行で立ち寄った金峰神社の崖で育っていました。



 葉は丸くつき、乾いても縮れず強く茎に接します。 植物体はかなり傷んでいて、緑色の葉がついている所は、長く伸びた枝なのか、これから茎として伸びていく所なのか、つまり緑色をした葉は枝葉なのか茎葉なのか、判断に迷いますが、とにかくこの葉を観察します。

 葉を観察するために1枚ずつにした時、葉の中央部がとても深く凹んでいることがの印象的でした。 前に本種の葉を顕微鏡で観察した時(こちら)は、立体的な葉がカバーグラスで押され、本来は皺のほとんど無い葉に皺ができたことを思い出し、今回は自作のホールスライドグラスもどき(こちら)を使用して撮影しました。


 上の2枚は、上が反射光で、下が透過光で撮影し、深度合成しています。 このような立体的な葉は、深度合成しないとピントの合う範囲がわずかになり、深度合成すれば平面的になり、写真で立体的な様子を表現するのは、ほんとうに難しいですね。

 葉先は毛状です(上の写真)。

 上は葉の基部です。

 
 上は葉身細胞です。

2022-08-10

ナシゴケ

 

 上は鳥海山山麓の竜ヶ原湿原散策路の展望台(標高 1,180m)で 2022.5.31.に撮った写真で、コンクリート製の構造物の凹みに複数のコケが混じった群落を形成していました。
 少し持ち帰って調べたところ、たくさん見えている細長い蒴はネジクチゴケでした。 写真の大きな緑色の蒴ですが、ハリガネゴケ科のもののように見えましたし、ハリガネゴケ科のような葉も写真に写っているのですが、調べてみると下のようなコケで、上の写真の蒴と葉は別物でした。

 予想外の細い葉で、思い当たるものが無く、SNSに投稿したところ、ナシゴケではないかと教えていただきました。
 ナシゴケ Leptobryum pyriforme はこれまで何度も見ていますが、いずれも鉢植えや温室内など人が関わる所のものばかりで、まさか鳥海山で見るとは思わず、てっきり見たことのないコケだと思い込み、ハリガネゴケ科ではないのではないかと、違う方向に行ってしまいました。
 冷静に考えれば、ハリガネゴケ科で線形の葉と言うだけでナシゴケに決まりなのに・・・。

 上は葉で、緑色はほとんどなくなっていますが、特徴はきっちり残っています。


 上の2枚は葉先と葉の中央付近の様子です。 葉身細胞は線形です。

 葉の断面も調べました。 水で十分に戻る前に切片を作成したのでしわくちゃの写真しかなく、載せませんが、こちらの若いナシゴケの葉の断面と同じつくりであることは確認しています。
 蒴についても、こちらに載せていますし、今回は未熟な蒴ですので、載せません。

 今回の観察で、仮根にたくさんのパピラがあることは、新たな発見でした(下の写真)。


2022-08-08

ウスバカゲロウ / アリジゴク

 ウスバカゲロウはアミメカゲロウ目(脈翅目)ウスバカゲロウ科に分類されています。 漢字で書くと薄翅蜉蝣であり、薄馬鹿下郎(『どくとるマンボウ昆虫記』)ではありません。

 このウスバカゲロウの幼虫は、アリジゴクとして知られています。 「アリジゴク」の名称は、巣の名称としても、そこに棲む幼虫の名称としても使用されますが、下の写真のようなアリジゴクはウスバカゲロウ科に分類される何種類かが作ります。

 アリジゴクは、雨のかからないサラサラとした砂地に作られます。 堺自然ふれあいの森で撮った上の巣は、土壌条件としては良くないのでしょうが、泉北ニュータウンは粘土質土壌が中心ですので、妥協して作られたものなのでしょう。
 幼虫はこのすり鉢状の巣の底に潜んでいます。 アリなどの小昆虫がこの“すり鉢”に迷い込むと、ウスバカゲロウの幼虫は頭を素早く反らし、頭の上に乗っていた砂を小昆虫にぶつけ、小昆虫が“すり鉢”の底に滑り落ちると、鋭い牙で捕えます。
 草の細い葉などで“すり鉢”の側面にアリが歩くような振動を与えると、元気な幼虫がいる場合は砂をかけてきますので、その巣を壊すと、下のような幼虫が出てきます。


 上の写真は分かりやすいように葉の上に載せて撮っていますが、全く動こうとしません。 ところが腹側からも撮ろうとひっくり返すと、目にも止まらぬ素早さで頭をパンと叩きつけ、写真のような姿勢に戻ります。 何度やっても同じです。 その素早さはコメツキムシの比ではありませんでした。

※ 上の写真の成虫は 2013.7.14.に、幼虫は 2013.7.26.に撮影し、Part1の 2013.7.28.に載せていた引っ越し記事です。

2022-08-06

キツネゴケ(雌株)

 上の写真のコケ、判断しかねるところがあって、SNS上で質問し、観察しなおした結果は、キツネゴケ Rigodiadelphus  robustus だったようです。

 本種は高地の樹上に育つコケで、今回は、秋田県・鳥海山の5合目、標高 1,150m付近の比較的新しい倒木上で育っていました(上の写真)。

 分枝は不規則で、蒴は長卵形で直立しています。 当初、上の写真の長く伸びているのが茎で、そこから出ている短いものが枝だと思っていました。
 平凡社の図鑑には、「茎には小さな狭三角形の毛葉があり,(以下 略)」と書かれています。 ところが、いくら探しても毛葉がみつかりません。
 頭を冷やして、本種は大形のコケですし、上の写真全体が枝ではないかと考え、もっと太い茎らしいところを探すと・・・。

 上の写真の赤い円で囲った所が茎の毛様だと思います。 上の写真にはスケールをつけていませんが、右端に茶色くなった葉が写っていますので、おおよその大きさは分かると思います。

 上は湿った状態で、上記内容からして、写っている葉は全て枝葉でしょう。 枝葉の長さは2~3mmです。

 乾いた状態でも葉は縮れず、茎や枝に接します(上の写真)。

 枝葉は披針形で、先端は毛状に細く尖っています(上の写真)。 中肋は太いままで葉先近くまで伸びていますが、葉先には達していません。 葉縁の中部は狭く反曲する傾向にあるようです。 上の写真で翼部は少し色濃く写っていますが、葉縁に沿ってかなり上まで上がってきています。
 上の写真の葉では縦皺ははっきりしませんが・・・

 上のように下部に縦皺のみられる葉も多くありました。

 葉の枝についている様子を観察すると、基部は狭く茎に下延しています(上の写真)。

 翼部の細胞は短く方形、厚壁です(上の写真)。

 葉身細胞は狭六角形~線形で、長さは 15~50μmでした。 細胞壁の厚さは一定ではなく、所々にくびれも見られます。

 上は葉の基部近くの中肋寄りの細胞です。 長さは長くなり、細胞壁のくびれが多くなっています。

 上は蒴歯を蒴の内側から撮っています。 ウスグロゴケ科の蒴歯は2列で、この蒴歯を観察した時には1列しかないと思い、ウスグロゴケ科であることを疑ったのですが、調べなおして手前にピントを持ってくると、下の写真のような歯突起が無く基礎膜だけの内蒴歯が確認できました。 つまり上の写真は外蒴歯でしょう。
 外蒴歯の上部は密にパピラに覆われていて、下部でも少なくなるものの、パピラは存在します。

 上が一層の細胞からなる基礎膜のみの内蒴歯です。


 上は蒴の外側から撮っています。 口環はありません。

◎ 本種は雌雄異株です。 造精器をつけた雄株をこちらに載せています。