2020-09-14

ワラミズゴケ



 北海道・苫小牧市の湿原で大きな群落を形成していたワラミズゴケ Sphagnum subfulvum です(撮影:2020.8.30.)。 緑に見える部分は茎頂付近のみで、ほとんどの部分は淡褐色~赤みがかった褐色で、和名はこの藁(わら)に似た色に由来するのではないでしょうか。


 サイズ的には中形のミズゴケです。


 ミズゴケ類には開出枝と下垂枝の2種類の枝があります(こちらを参照)。 上の写真で、右に伸びている2本が本種の開出枝、左に伸びているのが下垂枝です。


 ミズゴケ類の同定には、茎についている葉つまり茎葉の形態も重要なポイントです。 茎葉はほとんど透明で、多くの場合は茎に張り付いていて見分け難いのですが、茎をまっすぐに引っ張って千切ると、上の写真のように茎葉がよく分かります。 この茎葉を顕微鏡で観察したのが下です。


 本種の茎葉は二等辺三角形で、先端は狭い切頭で鋸歯があります。 縁には(厚壁の細胞からなり、上の写真では白っぽく見えています)があり、この舷は中部以下では中央部近くにまで広がっています


 茎葉上部の多くの透明細胞には膜壁があります。


 上は開出枝の枝葉を背面から撮っています。 枝葉は卵状披針形で、縁は波打っていません。
 上の写真では、枝葉の基部に少し枝の表皮がついていますが、茎の表皮も同様で、細胞は方形~長方形で、孔や肥厚などは見られません。 こののっぺらぼうであるのも本種の特徴の一つです。


 上は枝葉の上部で、下はその一部を、少しピントの位置を変え、さらに拡大しています。


 本種の枝葉の透明細胞の背面には三日月形の偽孔があります。 なお、腹面には孔はありません。


 上は枝葉の横断面で、上方が腹面、下方が背面です。 本種の葉緑細胞は三角形で、腹面に広く開いています


 上は開出枝の横断面です。 上の写真では下方は葉につながっていますが、基本的には開出枝の全周は1層の表皮細胞で取り囲まれています。 なお本種の茎では、この表皮細胞は2~3層になります。