昨年の5月30日に青森県の「蔦沼めぐり自然研究路」でサンプリングしたエビゴケを観察し直してみました。 エビゴケ Bryoxiphium norvegicum subsp. japonicum は関東・東北あたりでは比較的よく見られるようですが、近畿以西では多くありません。
上は現地で撮った岩から垂れ下がっている状態の写真で、中央少し下には蒴も見えます。
蒴は茎に頂生します。 残念ながら蒴は古いものですが、蒴歯は無さそうです。
蒴の左右から葉の一部が長く伸びています。 和名は、植物体そのものもエビの腹部に似ていますが、これをエビの触角に見立てたのかもしれませんね。 この長く伸びているのは・・・
上の写真では“エビの触角”は見あたりません。 つまり“エビの触角”のある葉は苞葉なのでしょう。
蘚類の葉は、ホウオウゴケ科など一部を除き、放射状につきます。 しかし上のように拡大して撮ると、エビゴケの葉も左右に規則正しく並んでいるようです。 また、葉と葉の重なりもかなり大きいようです。 この葉の重なり具合は、岩に面している側もその反対側も観察する限りでは違いは見られませんでした。
平凡社の図鑑のエビゴケ科の解説を見ると、「葉の基部は2枚になって、ホウオウゴケの葉のように茎を抱く。」と書かれています。 また、種の解説では「腹翼は長くて葉先に達し、ホウオウゴケのように茎を抱く。」となっています。 これまでサラッと読み流してきていたのですが、きっちり読むと分からないことだらけです。 茎と葉の関係は書かれていますが、葉と葉の関係は何も書かれていません。 また、「腹翼」とはどの部分なのでしょうか? 「腹翼」があるのなら「背翼」もどこかにあるのでしょうか? 顕微鏡を使って、もう少し詳しく観察することにしました。
上は、基部が少し欠けてしまいましたが、1枚の葉を茎から外して撮ったものです。 赤い楕円で囲ったところなどを見ると、葉は2つ折りにたたまれているように見えます。
葉が2つ折りになっているなら、細胞は少なくとも2層になっているはずです。 上の2枚はそのことを確認したもので、同じ葉の葉先に近い同じ所をピントをずらせて撮っています。
2枚の写真が一致しているか否かは、写真を重ねてみれば明らかになります。 この2枚の写真を合成すると、下のような写真になります。
これで細胞は2層(以上)になっていることは分かりますが、2つ折りの葉であるか否かは、横断面で確認する方が確かです。 小さい葉ですから横断面作成は避けたかったのですが、チャレンジしてみました。
上が苦労して作った葉の横断面です。 切断は乾いた状態の葉を茎と共に実体双眼顕微鏡下で行いました。 切断時には扁平だった葉は、水を加えるとすぐにV字型に広がり、2つ折りになっていたことがはっきりしました。
上はV字に折れ曲がっている部分つまり中肋近くの拡大です。 赤い丸で囲んだ部分ですが、中肋の一部と見ることもできそうですが、とても短いながらも、これを中肋とは別のものとして、つまり背翼として見ることもできそうです。 そのような目で再度2つ折りになった葉を横から見ると・・・
葉は上の赤い文字のa、b、cの3つの部分に分けられそうです。 aが腹翼、bが中肋、cが背翼(と呼ぶにはあまりにも狭いですが・・・)でしょう。 中肋は葉先から突出しています。
上は腹翼が茎を抱いている様子で、偏光を使って撮影しています。 エビゴケの植物体が扁平なのは、扁平な茎の左右にのみ葉がつくからのようです。
上は葉の基部を側面から見ています。 やはり腹翼、中肋、背翼が区別できます。 腹翼の細胞は方形から線形へと連続的に形と大きさを変えています。
◎ 大阪府下で観察したエビゴケはこちらやこちらに、北海道の「苔の洞門」で観察した蒴のついたエビゴケはこちらに載せています。