2020-09-04

苔の洞門

 日本蘚苔類学会が選定した「日本の貴重なコケの森」の1つに、北海道の「苔の洞門」があります。 樽前山の火山活動による溶結凝灰岩が浸食されてできた回廊状の涸れた峡谷で、壁面はエビゴケなどにびっしりと覆われていて、岩壁の大面積を覆う蘚苔類の群落景観が延々と続く(第一洞門は400m、第二洞門は600m)様はたいへん貴重なものとなっていて、「蘚苔類研究」11巻4号(2015年)にも紹介されています。
 この回廊をつくっている溶結凝灰岩は、一般的には1739年の火砕流によることがよく知られていますが、それ以前にも火砕流は何度も起こっていて、火砕流の流れる方向はその度に異なりますが、ここでは多い所では7層になっているそうです。


 火砕流では、大粒の礫ほど先に落ち、その上に細粒が積もります。 上の写真では写真中央に荒い礫の層があり、少なくとも2層になっていることが分かります。

 以前は観光名所となっていて、広い駐車場も作られていたのですが、溶結凝灰岩はもろくて崩れやすく、2001年に岩盤の一部が崩落し、引き続き落石や崩落の危険があるため、以降は入口に観覧台を設置し、そこから見学することになっていました。 しかしその観覧台も2014年9月に発生した大雨により被害を受け、現在苔の洞門は閉鎖中となっています。
 聞くところによると、千歳市が管理しているのですが、維持管理に費用がかかりすぎるため、国に返す方向で検討が進んでいるということです。 国に返すには原状復帰が原則で、施設等は全て撤去することになりそうで、つまり苔の洞門が一般の人が簡単に入ることのできる観光地に復帰することはないようです。

 現状は上記のように一般の人は立ち入り禁止となっていますが、地元の皆さんを中心に「コケの洞門研究会」が結成されていて、温度変化や湿度変化などのデータを蓄積され地学的な研究を行う他、2011年には蘚苔類の分布調査も実施されています(こちら)。 今回、上記研究会のメンバーでこの調査にも参加された泉田氏に苔の洞門(第一洞門)を案内していただくことができました。



 歩く所のほとんどは浸食されて平らですが、途中にはロープを使って降りなければならない場所もあり、ちょっとしたスリルも味わうこともできましたし、すばらしい景観を堪能することができました。


 上はここで最も多く見られたエビゴケです。 多くは蒴をつけていませんでしたが、蒴のついている所を狙って撮ってみました。
 その他のここで観察したコケの一部は、このブログでも紹介していく予定です。

(2020.8.31. 北海道千歳市