2022-04-12

フタバネゼニゴケの雄器托

 フタバネゼニゴケ Marchantia paleacea ssp. diptera がたくさんの雄器托をつけていました。 少し離れた所にも大きな群落がありましたが、全て雄株の群落でした。 たぶん無性生殖で雄株だけが増えたのでしょう。

 雄器托を上から見ると小さな孔がたくさん見えますが、これらのほとんどは気室孔です。

 雄器托を横から見ると縁が上に反っています。 雨粒が当たると精子を含んだ水滴が飛び出すよう、染み出た精子を含んだ水を貯めておけるようになっているのでしょう。

 上は雄器托の傘の断面で、白い造精器が確認できます。

(2022.4.10. 槇尾山)

◎ フタバネゼニゴケの生殖に関しては、造卵器などの様子をこちらに、若い胞子体をこちらに、無性生殖をこちらに載せています。

2022-04-08

オオジャゴケの雌器托と胞子

  ジャゴケの仲間はゼニゴケに似た平たい葉状体をもつ苔類です。 葉状体の表面は鱗を並べたような模様がはっきりしていて、その模様をヘビの体表に見立てて名付けられています。
 ジャゴケの仲間は雌雄異株です。 雄株は、夏から秋に、葉状体の先端に、精子を入れる小判形の雄器托を作ります(こちら)。 雌株は秋に葉状体の先端に、小さな芽のような雌器托を作ります(こちら)。 秋、雄株から出た精子は雌器托の造卵器中の卵細胞と受精します。
 受精卵は細胞分裂を繰り返して胞子体となり、この胞子体の蒴(胞子のう)の中で胞子が作られます。

 上はオオジャゴケ Conocephalum orientalis の早春の様子で、胞子体を抱えた雌器托の柄が急激に伸びます。 日本国内にはジャゴケ属が4種分布していますが(こちら)、オオジャゴケの雌器托の柄は特に長く伸びるようです。

 上は長く伸びた雌器托を斜め下から撮ったものですが、隙間から黒い楕円体が顔を覗かせています。 これが胞子体の蒴(胞子のう)です。 多くの苔類の胞子体は長い柄(蒴柄)を持っていますが、ジャゴケの胞子体の柄は雌器托の傘の中に短いものがあるだけです。

 胞子が熟すと蒴の壁が破れ、胞子が散布されます。 上の写真には、まだ破れていない胞子体も、蒴壁が破れて胞子の散布に役立つ弾糸が見えている状態も、胞子も蒴壁も飛散してしまい蒴壁がめくれあがっている状態も写っています。
 ちなみに弾糸は、苔類以外には、シダ植物のトクサ属や真正粘菌類でも見られますが、これらの起源は全て異なっていて、たまたま似た働きをするものを同じ名前で呼んでいるだけです。

 上は散布された胞子と弾糸です。 本種の胞子は蒴内で細胞分裂を開始し、散布される頃には他種の多くの胞子に比較してとても大きなサイズになっています(右下のスケールを参考に、他の胞子と比較してみてください)。
(本種の胞子と弾糸はこちらにも載せています。)

※ 上はPart1の 2012.4.13.に載せていた記事を全面的に書き換えています。 前半の2枚の写真は 2010.4.4.の撮影ですが、後半の2枚の写真は 2022.4.3.に採集した雌器托を 4月8日に撮影しました。

2022-04-07

コケはなぜ美味しくないのか

 最近のコケブームで、コケを五感で楽しもうとする人も増えてきた。 講演会などでも「食べられるコケは無いのですか?」などと質問をされることも多くなった。 しかし、コケ(蘚苔類)は美味しくないどころか、たいへんまずい。 私の知る限り唯一の例外として、オオジャゴケは香りがよくて比較的大きいので、食べられるような調理方法が工夫されているが、加熱すれば香りは無くなるし、どうにか食べられる程度で、決しておいしいとは言えない。

2月上旬のオオジャゴケ

 美味しくない理由として、食害を防ぐためだとよく言われている。 小さな体で生長もゆっくりしているコケは、体内に美味しくない物質を蓄えることで身を守っているというわけだ。 しかしこの説は、進化的に考えると矛盾しているように思う
 陸上の植物は緑藻の一種から進化した。 コケはこの最初の陸上植物に近いものとされているが、その頃の陸上には動物はいなかった。 消費者である動物は、生産者である植物が存在しないと存在できない。
 食べる者がいないのに食害を防ぐ必要は無い。 物質を体内で合成するにはそれなりのエネルギーが必要となる。 エネルギーを浪費して無駄な物質を作る生物が生存競争で生き残れるだろうか。
 植物が最初に陸上に出現したのは約5億年前と考えられるが、陸上に適した生き方をいろいろ模索する中で、比較的早期に蘚苔類と維管束植物に分かれたと考えられている。 それから現在に至るまで、蘚苔類と維管束植物は、それぞれ独自の進化の道筋をたどった。
 生産者が行う生産は光合成による。 光合成に必要なものは二酸化炭素と水と光である。 大きな流れとして、維管束植物は維管束を通して水を上まで持ち上げることが可能になり、他の植物より上に葉を広げて有利に光合成をしようと、体を大きくする方向に進化した。
 生産者である植物が陸上に出現した後に上陸した消費者は何を餌とするだろうか。 餌とするものは、たくさんあって容易に得られるものの方が良い。 どんどん食べてどんどん生長し、どんどん子孫を残す種が栄える。 そして現在の地球上で最もたくさんの葉を茂らせている植物は被子植物である。
 進化の過程で、昆虫などはにおいや触感などで食べる植物が遺伝的にプログラミングされた。 そして我々は「味覚」という食べ物を選択する“道具”を手に入れた。 たくさん食べるには、食べる意欲も必要となる。 身の回りにたくさんあり、栄養となる植物に「美味しい」という感覚を持つことができるように進化した動物は生存上有利になるだろう。
 蘚苔類も独自の進化の道筋で、被子植物とは異なった物質を持つようになった。 その物質とは、陸上の強い紫外線の害を防ぐ物質、寒期に細胞内に氷の結晶ができないようにする物質、乾燥を防ぐ物質、光合成産物を貯蔵する役割をする物質など、蘚苔類の生活に必要な物質である。 そして、これらの物質は我々に「美味しい」という感覚を生じさせる物質とは異なっていた、ただそれだけのことではないだろうか。

(注意) 上の文章は何の科学的根拠もありません。 単なる思考の遊びです。

2022-04-06

コホウオウゴケ


 コホウオウゴケ Fissidens teysmannianus が蒴をつけていました。 蒴は側生です。

 葉縁に舷は無く、葉縁の色も内側と同じです(上の写真)。

 中肋は葉先近くに届いていますが、突出していません。 背翼の細胞にも上翼の細胞にもパピラがあります。

 腹翼の細胞には角ごとに1個のパピラがあります(上の写真)。

(2022.3.28. 箕面公園)

◎ コホウオウゴケはこちらにも載せています。

2022-04-05

ヤマトクサリゴケ

 

 上は岩上を薄く覆っていたコケ群落で、カマハコミミゴケ Lejeunea discretaエダウロコゴケモドキ Fauriella tenuis などと混生しているヤマトクサリゴケ Cheilolejeunea nipponica の花被があちこちに見えます。

 ヤマトクサリゴケとカマハコミミゴケは背面から見ると背片の大きさもよく似ていますが、前者の方が濃い緑色をしています。
 以下、ヤマトクサリゴケの観察です。 本種の背片は円形で円頭です。 花被を正面から見ると4~5稜であることが分かります(上の写真の左下や中央)。

 上は腹面から撮っています。 花被は茎に頂生し、花被の下から新しい茎が伸びています。 腹片の長さは、背片の長さの1/2以上です。

 花被の中では胚が大きく育ってきています(上の写真)。 雌苞葉と雌腹苞葉(暗くなっています)は全縁です。


 上の2枚は腹片です。 腹片の歯牙よりキール側の縁は環状に曲がっています。 腹片の歯牙の先端の細胞は短く、長さは幅の1.5~2倍です。 透明細胞は歯牙のキール側(写真では下)に少し見えているのがそれだと思います。 腹片のキールは丸みを帯びています。
 後に書くように背片で見られる油体は各細胞に1個ですが、茎や腹片で見られる油体は各細胞に1~3個ありました。

 腹葉は茎径の2~3倍幅で、約2/5まで2裂しています(上の写真)。


 上の2枚は背片の葉身細胞です。 トリゴンは小さく、油体は大きく各細胞に1個でブドウ房状です。 上は採集した1日後に撮影したものですが・・・

 室温で放置していたところ、2日後には油体が崩れはじめていました。

(2022.4.3. 箕面公園)

◎ ヤマトクサリゴケはこちらにも載せています。