2016-05-16
ゼニゴケの雄器托・雌器托と胞子体
上の写真の中央~左の傘状のものがゼニゴケ Marchantia polymorpha の雄器托で、柄を除いた横に広がっている部分が雄器床です。(「雌器托」と「雌器床」は正確には同じ意味ですが、ここでは部位を細かく示すために、あえて上記のように使い分けることにします。) また、それより小さく右側に写っているたたんだ破れ傘のようなものは雌器托です(2016.4.24.池田市五月山にて撮影)。 雄器床には造精器が、雌器床には造卵器が形成されます。
上は雄器床の表面を見たものです。 造精器はこの雄器床の組織内に作られます。 雨などで雄器床の表面が濡れると、精子が表面に出てきます。
雄器床の縁は上に少し反り返っていて、水が溜まるようになっています。 この水に出てきた精子は、雄器床に当たった雨滴などで跳ね散らかされます。 雄器床のこのようなつくりはスプラッシュカップと呼ばれています。 なお、このような傘状の雄器托を作るのはゼニゴケ属の特徴です。
下は上の一部を拡大したものです。
雄器床の表面には小さな孔がたくさん開いています。 ここから精子が出てくるのでしょう。
上は雄器床の断面です。 赤く染まった部分の内側に造精器があり、少し分かりにくいですが、精子が出ていく通路が表面に達しています。
※ ゼニゴケの精子についてはこちらに載せています。 また、この精子が造卵器にある卵細胞にたどり着く道筋についてはこちらで考察しています。
一方、雌器床の下面に形成された造卵器にある卵細胞は受精すると細胞分裂を繰り返し、胞子体へと変化していきます。 これと併せて、胞子散布に都合が良いからでしょうか、雌器托の柄が伸びていきます。 上の写真では雄器托より雌器托の方が背が高くなっています。
上は5月11日に撮ったもので(撮影場所:堺市美原区平尾)、黄色い胞子体が所々に見えています。 雌器托の高さは5cmほどになっています。
上は雌器床を横から見ています。 黄色い蒴は短い蒴柄で雌器床の下にぶら下がっています。 このように胞子体がぶら下がるのはゼニゴケ目だけの特徴です。
右の蒴は胞子を出しはじめています。
上は雌器床を斜め下から見上げた写真です。 a1 と a2 は接していて境が分かりにくくなっていますが、a~c は胞子体です。 a1、a2 と c の蒴はほとんど胞子を出しきっていて、弾糸が目立ちます。 c は破れた蒴をほぼ真上から見る角度になっていて、弾糸の様子がよく分かります。
a2 の基部には偽花被が見えています。 また、a3 と b1~b3 の若い胞子体は、まだ偽花被(とその内側のカリプトラ)に包まれています。 写真のように、ゼニゴケは1つの包膜の中に数個の胞子体をつけますが、ふつう蘚苔類は1つの包膜(または苞葉)には1つの胞子体があるだけです。
◎ ゼニゴケの雄器托・雌器托の写真はこちらにも載せています。 また今回は触れなかったゼニゴケの無性芽に関してはこちらに載せています。