2025-06-26

イボヒシャクゴケ

 先日、マルバコオイゴケに似たコケを、著しいいぼ状パピラがあることなどから、イボヒシャクゴケ Scapania verrucosa ではないかと思い、こちらに載せましたが、先日大阪市立自然史博物館に収蔵されているイボヒシャクゴケの標本を見る機会があり、比較検討の結果、両者は全くの別種であることが分かりました。 なお、このイボヒシャクゴケの標本は、狩野・佐治(2016)により蘚苔類研究11(7)に報告されたもので、山田耕作博士により同定確認されています。
 以下はこのイボヒシャクゴケの標本の観察結果です。

 葉を含めた茎の幅は約2㎜で、マルバコオイゴケの約2倍の幅があります。腹片は腹方に反り返り気味です。 キールの長さは腹片の長さの1/3~1/4で、腹片の基部はキールより下に下延しています。

 腹片も背片もほぼ全周に長い歯があります。

 上は腹片の先端付近です。 下は上とほぼ同じ場所で倍率を上げて少し焦点をずらして撮った写真です。

 細胞表面には著しいいぼ状ベルカが見られます(上の写真)。 このベルカ、細胞表面にも細胞間の隔壁の表面にも同様に存在することからベルカ(verruca)と言わざるを得ないのでしょうが、よく見られるベルカよりは、はるかに大きなものです。 またこのようないぼ状ベルカの存在は、平凡社の図鑑を見るかぎりはイボヒシャクゴケの大きな特徴で、そのことが和名の由来にもなっているようですが、注意深く観察すれば、他のいろいろなヒシャクゴケ科でも見ることができそうです(2025年6月現在ではノコギリコオイゴケとマルバコオイゴケで確認しています)。

 背片も腹片から切り離して観察しました。 上は背片の背縁です。 背片はほぼ全周で透明な細胞に縁どられ、歯は腹片の歯より少し短めです。
 観察したのは、大切な標本ですので葉1枚だけの観察ですが、上の写真の葉では、背片におけるいぼ状ベルカは、葉先近くではあまり見られず、基部付近に多く見られました。

 上は腹片中央付近の、背片を取り除いた所を撮った写真です。 いぼ状ベルカは腹片全体にほぼ均一に見られました。
 上の写真には無性芽も写っています。 腹片と背片の間に挟まって残っていたようです。 無性芽は2細胞からなっています。

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