2020-06-19

ヤマトフタマタゴケ(生殖器官と胞子体)


 上はヤマトフタマタゴケ Metzgeria lindbergii で、毛を生やした多くのシュートカリプトラが見えます。 シュートカリプトラとは、胞子体の保護器官であるカリプトラの一種ですが、真正のカリプトラが造卵器に由来するのに対し、造卵器に加えてその周囲の茎の細胞も関与している器官です。 濡れているからかもしれませんが、中の胞子の色が透けて見えているようで、胞子が未熟なものは緑色で(上の黄色の矢印)、胞子が成熟していると黒っぽくなっているのだと思います(赤い矢印)。


 上は葉状体の一部を腹面から(=裏側から)撮っています。 雨の後でたくさんの砂などがついていますし、取り出す時にあちこち破れてしまっています。
 本種は雌雄同株です。 造卵器も造精器も葉状体の腹面の中肋部から分枝した短枝の背面につきます。 雌枝にできた造卵器は、上に書いたようにシュートカリプトラとなり、受精卵からできた胞子体を保護します。 シュートカリプトラは胞子体が若いうちは葉状体の腹面に隠れていますが、胞子体が大きくなるにつれ、頸を伸ばして背面からでも見えるようになります。
 造精器は雄枝の中肋の左右にできるのですが、この雄枝の縁が著しく反り返り、造精器を包み込むようにして保護します。 上の写真で「中に造精器」と書いたのは、この雄枝が反り返って半球形になったものです。


 上はシュートカリプトラの断面で、実際の状態とは上下を逆にしています。 中に胞子体が入っています。 下は上の一部の拡大です(少し回転しています)。


 シュートカリプトラの断面を作る時に、当然蒴も切れていますので、蒴の中にあった胞子や弾糸の一部も蒴の外に出ています。 弾糸は1本鎖のらせんです。

◎ この胞子体が成熟し、蒴がシュートカリプトラの外に出て胞子を散布している時期の様子をこちらに載せています。


 上は葉状体と、その中肋から枝分かれする雄枝と、その背面につく造精器の断面です。 なお、中肋部の表皮細胞は、背面、腹面とも、2つの細胞が横に並んでいます。

(2020.6.15. 兵庫県 六甲山)

◎ ヤマトフタマタゴケはこちらにも載せています。

2020-06-18

ヤマトケビラゴケ


 樹幹に張り付いた上のコケを調べました。 写真の右上には昨日載せたアカイボトビムシもいます。


 背片は重なり、全縁で円頭、葉先はやや内曲しているため、上の写真では色濃くなっています。 腹片はほぼ方形で、背片の1/2ほどの長さです。 キールはやや弓形に張り出すものや少し凹んでいるものもありますが、総体的には直線状です。


 腹片の基部は茎を少し覆っています。 なお、腹葉はありません。


 上は葉身細胞です。 トリゴンはほとんどありません。 油体は各細胞に1個、小粒の集合で、その小粒が少し大きな場合、眼点のように見えることもありますが、全体を見た場合、眼点は無いと言ってよいでしょう。

 以上の観察結果からヤマトケビラゴケ Radula japonica だと思ったのですが、念のため、平凡社の図鑑の検索表をたどってみました。
 この図鑑のケビラゴケ属(日本産23種)の検索表では、背片が鋭尖/円頭から始まり、鋭尖の3種を除いた円頭20種の次の分岐は、茎の皮層細胞が薄壁か厚壁かです。 茎の横断面のプレパラートを作成し、撮影したのが下です。


 私は最初、これを厚壁と見ましたが、厚壁から検索表を先に進んでも、上の観察結果に合致する種は存在せず、ヤマトケビラゴケに至るには薄壁を選ばなくてはなりません。
 悩みましたが、茎の皮層細胞が厚壁とされているオオケビラゴケの茎の断面を見て納得しました。 薄い/厚い、長い/短い、広い/狭いなど、相対的な表現には比較検討が必要だと改めて思った次第です。

(2020.6.15. 兵庫県 六甲山)

◎ 3枚目の写真の腹片と茎の関係は、透過光で見ると、茎と腹片の基部は接していて見分けがつきにくいのですが、反射光で撮ったこちらでは、はっきり確認できます。 またこちらには花被をつけた本種を、こちらには開裂した蒴をもった本種を載せています。

2020-06-17

アカイボトビムシの一種


 写真はアカイボトビムシの一種 Lobella sp. (イボトビムシ科)でしょう。 写っている葉は昨日載せたナガハシゴケです。
 トビムシの仲間の多くは跳躍器を持ち、その名のとおりこれを使って跳ぶのですが、この属は跳躍器を持ちません。 最近、発光することが分かりました。 この仲間は国内で18種ほどが知られています。



 コケを接写していると、いろいろな小さな虫たちも目につきますが、特にトビムシの仲間はよく目にします。

(2020.6.15. 兵庫県 六甲山)


2020-06-16

ナガハシゴケ ① 葉を中心に


 樹幹を這う写真のコケ、ナガハシゴケ Sematophyllum subhumile のようです。


 上の写真のほぼ中央の蒴は赤い蓋がまさに外れようとしていて、蒴歯が少し見えています。


 葉の長さは1~1.5mm、上の写真の蒴柄は約6mmです(平凡社の図鑑では蒴柄の長さは3~10mmとなっています)。

 以下、葉をもう少し詳しく観察します。 なお、蒴に関することはこちらに書いています。


 葉はほぼ全縁で、葉の上部にも目立った歯はありません。 中肋もありません。


 翼部には楕円形で大きく薄壁の細胞が数個あります。 葉基部の細胞は黄色味を帯びています。 この特徴的な翼部の大きな細胞は・・・



  上の2枚の葉は同じ群落の葉ですが、翼部の大きな細胞の配列には変異があり、1段のことも2~3段のこともあります。 2~3段の葉を持つものは西日本に多いようで、以前は別種とされていたこともありました(こちら)。


 上は葉の中央付近の葉身細胞です。

(2020.6.15. 兵庫県 六甲山)

◎ ナガハシゴケはこちらにも載せています。

2020-06-15

アカイチイゴケ


 岩の棚上になっている所に育っていた写真のコケ、アカイチイゴケ Pseudotaxiphyllum pohliaecarpum だと思うのですが・・・

 これまでこのブログにアカイチイゴケを3回載せています。
     1月中旬 上を向いた細い蒴 赤い葉
     3月下旬 傾いた、まだ細い蒴 赤い葉
     6月中旬 胞子を出している蒴 無性芽あり
 上のように蒴の変化は追えましたが、同定に関しては、①と②は赤い葉があり、③は無性芽があり、容易であったため、細部をあまり詳しく見ていませんでした。 今回は赤い葉も特徴的な無性芽もありませんでしたので、細部まで観察することにしました。


 葉の長さは1~1.5mm、蒴柄の長さは2cmほどあります。


 葉は多型ですが、多くは卵形で非相称、基部の片側(上の写真では下側)が内曲し、葉縁の上部に細かい歯があり、中肋は2叉しています。


 翼部の細胞は小さいのですが、境はあまりはっきりしていないようです(上の写真)。


 上は葉身細胞です。


 蒴歯は2列で完全です。 上の写真で色の薄い方が内蒴歯です。


 口環はよく発達しています(上の写真)。


 上は茎の断面で、表皮細胞は小さく、厚壁です。

(2020.6.9. 京都市 西芳寺川)