2026-05-21

ヒメフウロ


 写真はヒメフウロ Geranium robertianum です。 葉と茎は長い毛に覆われています。 対生する葉は深く3裂-5裂し、茎と葉の端が赤みを帯びます。
 本種は山地帯の日当たりのよい石灰岩地質に生える一年草または越年草で、伊吹山、鈴鹿山脈北部の霊仙山などの養老山地北部や、四国剣山の一部地域のみに分布します。 上の2枚は、2010年7月31日に伊吹山山頂で撮った写真ですが、昨年(2025年)8月18日に行った時には、シカの影響だと思いますが、ずいぶん少なくなっていました。

 世界的に見れば、本種はアジア、ヨーロッパ、北アメリカなどの北半球の温帯域に広く分布しています。 日本では、この外国産由来のものが山野草として販売され(注1)、それが逃げ出してあちこちで野生化しています。

 上は大阪府と和歌山県の境にある紀見峠付近で 2026.5.17.に撮ったものですが、道路沿いにたくさん見られました。 本来が石灰岩地質を好む植物ですから、セメント好きなのかもしれません。
 本種は花の色やオシベの数など、種内変異の幅が広いようです。 逸脱種と伊吹山などで見られる自生種とは生育環境も異なるのですが、逸脱種や海外から侵入した植物は、日本の種類と同種であっても、違う形質を示すことがよくあるようです。
 下野・姉川(2023)によれば、日本には少なくとも2外来系統が侵入しており,1系統は主に北海道・東北を中心とした冷涼な地域に,もう1系統は東北以南の温暖な地域に分布しているようです。 また、外来系統と在来系統間には稔性のある雑種種子ができるようです。
 遺伝的な違いを守るため、逸脱したヒメフウロをブルーリスト(地域本来の生態系や自然環境に影響を及ぼすおそれのある外来種をまとめたリスト)に指定している自治体もあります。

 本種には「シオヤキソウ」という別名があります。 10数名の参加による上記の紀見峠での観察会では、本種の茂る間を歩き回るだけで、焼いた塩のようなにおいが漂っていました。

(注1) オランダフウロ属など、本種と別属の園芸種が「姫フウロ」という名で販売されていることもあります。

【文献】
下野嘉子・姉川盤音:絶滅危惧種ヒメフウロにおける在来および外来系統間の生育特性の比較および交雑可能性の評価.然保護助成基金助成成果報告書 32 (2023).

2026-05-06

サツマキジラミ@5月上旬

 5月5日、ビルの地上から150mの高さの窓に、肉眼では橙色にみえる体長3㎜ほどの虫がたくさんついていました。 ルーペで見るとキジラミらしいので、宮武先生からいただいた日本環境動物昆虫学会(2014)のキジラミ類の絵解き検索で調べてみました。 この本には156種のキジラミ類が載せられていますが、検索表をたどると、サツマキジラミ Cacopsylla satsumensis に落ちました。
 本種の幼虫時代の食樹はシャリンバイで、道路の分離帯や道路脇などにたくさん植えられています。 越冬成虫は早春にシャリンバイ上で交尾・産卵し、5月上旬には多数の羽化した個体がシャリンバイ上に見られます。 この個体が分散する途中で風に巻き上げられたのでしょうが、こんななに高くまで巻き上げられているとは驚きです。

 このブログには、これまでサツマキジラミは3回載せています。
  ・ 12月下旬に見た交尾と幼虫 → こちら
  ・ 3月上旬の交尾と幼虫など → こちら
  ・ 3月下旬の幼虫など → こちら
 今回見たものはこれらとは体色が少し異なるのですが、これまで見た成虫は冬の寒さを経験した個体(秋型)ですし、今回は羽化して間もなくの個体ですので、その違いだろうと思います。

2026-05-04

イトラッキョウゴケ

 

 写真はイトラッキョウゴケ Anoectangium thomsonii だろうと思います。 (コケ観察会ではなく)植物観察会の担当者としての活動中に少しつまんで持ち帰ったもので、生育状況を示す写真はありませんが、明るい緑の密な饅頭型の群落でした。
 これまでに観察したことのあるコケ(こちらこちら)でしたので同定できましたが、センボンゴケ科は微妙で、検索表にまとめるのが難しく、平凡社のセンボンゴケ科の検索表から同定するのは難しい(具体的には下に書きます)と改めて思いました。

 乾くと葉は上の写真のように茎に密着します。 この時、上の写真では少し分かりにくいのですが、葉はキールしています。

 葉は狭楕円形~狭披針形で全縁、葉先は鋭尖です(上の写真)。 平凡社の検索表では「ふつう基部付近でもっとも幅広い」を選ばなくてはなりませんが、基部は広くなっていません。 「ふつう」とは“そうでないこともある”と理解しなければなりません。
 センボンゴケ科の多くの種では、葉の基部には透明細胞群があるのですが、本種では透明な細胞はほとんどありません。

 葉身細胞は方形で厚壁、多数のパピラが密生しているため、細胞の輪郭は不明瞭です(上の写真)。

 上は葉先です。 中肋背面には低いパピラがあります。

 上は葉の基部です。 基部の細胞は中上部の細胞に比較してやや大きくなり、葉縁部に向かって狭く、短くなっています。

 上は葉のほぼ中央の横断面です。 平凡社の検索表の「中肋のステライドは 背面側だけにある/ふつう背腹両面にある」では後者を選ばなくてはなりませんが、ステライドはガイドセルの背面側にあります。 ここでも「ふつう」とは“そうでないこともある”ことを意味します。

 上は茎の横断面で、中心束があります。

(2026.4.26. 兵庫県西宮市 武田尾)

2026-05-03

ムツコネジレゴケ

 写真はムツコネジレゴケ Trichostomum platyphyllum だと思います。 道路わきのセメントの擁壁を覆っていました。
 顕微鏡で葉やその細胞の様子から、センボンゴケ科だと思いました。 センボンゴケ科にしては葉の幅が広いと感じましたが、学名を見て納得。 種小名は「広い葉の」という意味です。


 最初の写真は湿った状態ですが、乾くと上のように葉は強く巻きます。

 上は茎の色を見るために葉の多くを取り除いて撮っています。 同じ属で本種によく似たクチヒゲゴケの茎は褐色ですが、本種の茎は黒っぽい色をしています。


 上の2枚は葉です。 中部が最も幅広く、鋭頭で、葉縁は内曲せず平坦です。 葉の基部の透明細胞群は葉縁に沿ってせり上がってはいません。


 上の2枚は葉の中部の細胞です。 細胞はほぼ方形で、各細胞には数個の大きなパピラがあります。

 上は葉縁を含む葉の横断面です。 パピラは背腹両面にあります。

 上は葉のほぼ中央の中肋の横断面です。 ステライドは背腹両面にあります。 中肋の腹面の表皮細胞は葉身細胞に類似して密なパピラがありますが、中肋背面の表皮細胞にはパピラは見られません。 この細胞を表面から見ると・・・

 中肋背面の表皮細胞は細長く、平滑です(上の写真)。

 上は葉基部の透明細胞群です。

(2026.4.16. 兵庫県西宮市 武田尾)

◎ ムツコネジレゴケはこちらにも載せています。

2026-04-16

モミジスジゴケ

 

 写真はモミジスジゴケ Riccardia palmata でしょう。 葉状体は小さく、濃緑色で、不規則によく分枝し、掌状に広がっています。 朽木上で育っていました。
 このコケは岡山コケの会の観察会で見てもらったのですが、この仲間の同定は私にはとても難しく、特に本種は油体の数や分枝のしかた、葉状体表皮の細胞壁の厚さなど、多型なようで、同定はM氏に頼りました。
 なお、M氏によると、ここにはもう1種、コダマテングサゴケ Riccardia kodamae もあったとのことでしたが、私は採集できてなかったようです。

 斜め横から見ると、カリプトラがたくさんついていました(上の写真)。


 上の2枚は断面です。 葉状体は背面も腹面も凸面状です。 葉状体の翼部は狭く、表皮細胞は内部細胞の1/3~1/2大です。 葉状体表面の細胞壁は特に厚くはなっていません。 油体はまばらに存在していますが、表皮細胞にも内部細胞にも存在します。

 油体は褐色で、微粒の集合です(上の写真)。

(2026.4.11. 六甲山)

◎ モミジスジゴケはこちらにも載せています。