2026-05-04

イトラッキョウゴケ

 

 写真はイトラッキョウゴケ Anoectangium thomsonii だろうと思います。 (コケ観察会ではなく)植物観察会の担当者としての活動中に少しつまんで持ち帰ったもので、生育状況を示す写真はありませんが、明るい緑の密な饅頭型の群落でした。
 これまでに観察したことのあるコケ(こちらこちら)でしたので同定できましたが、センボンゴケ科は微妙で、検索表にまとめるのが難しく、平凡社のセンボンゴケ科の検索表から同定するのは難しい(具体的には下に書きます)と改めて思いました。

 乾くと葉は上の写真のように茎に密着します。 この時、上の写真では少し分かりにくいのですが、葉はキールしています。

 葉は狭楕円形~狭披針形で全縁、葉先は鋭尖です(上の写真)。 平凡社の検索表では「ふつう基部付近でもっとも幅広い」を選ばなくてはなりませんが、基部は広くなっていません。 「ふつう」とは“そうでないこともある”と理解しなければなりません。
 センボンゴケ科の多くの種では、葉の基部には透明細胞群があるのですが、本種では透明な細胞はほとんどありません。

 葉身細胞は方形で厚壁、多数のパピラが密生しているため、細胞の輪郭は不明瞭です(上の写真)。

 上は葉先です。 中肋背面には低いパピラがあります。

 上は葉の基部です。 基部の細胞は中上部の細胞に比較してやや大きくなり、葉縁部に向かって狭く、短くなっています。

 上は葉のほぼ中央の横断面です。 平凡社の検索表の「中肋のステライドは 背面側だけにある/ふつう背腹両面にある」では後者を選ばなくてはなりませんが、ステライドはガイドセルの背面側にあります。 ここでも「ふつう」とは“そうでないこともある”ことを意味します。

 上は茎の横断面で、中心束があります。

(2026.4.26. 兵庫県西宮市 武田尾)

2026-05-03

ムツコネジレゴケ

 写真はムツコネジレゴケ Trichostomum platyphyllum だと思います。 道路わきのセメントの擁壁を覆っていました。
 顕微鏡で葉やその細胞の様子から、センボンゴケ科だと思いました。 センボンゴケ科にしては葉の幅が広いと感じましたが、学名を見て納得。 種小名は「広い葉の」という意味です。


 最初の写真は湿った状態ですが、乾くと上のように葉は強く巻きます。

 上は茎の色を見るために葉の多くを取り除いて撮っています。 同じ属で本種によく似たクチヒゲゴケの茎は褐色ですが、本種の茎は黒っぽい色をしています。


 上の2枚は葉です。 中部が最も幅広く、鋭頭で、葉縁は内曲せず平坦です。 葉の基部の透明細胞群は葉縁に沿ってせり上がってはいません。


 上の2枚は葉の中部の細胞です。 細胞はほぼ方形で、各細胞には数個の大きなパピラがあります。

 上は葉縁を含む葉の横断面です。 パピラは背腹両面にあります。

 上は葉のほぼ中央の中肋の横断面です。 ステライドは背腹両面にあります。 中肋の腹面の表皮細胞は葉身細胞に類似して密なパピラがありますが、中肋背面の表皮細胞にはパピラは見られません。 この細胞を表面から見ると・・・

 中肋背面の表皮細胞は細長く、平滑です(上の写真)。

 上は葉基部の透明細胞群です。

(2026.4.16. 兵庫県西宮市 武田尾)

◎ ムツコネジレゴケはこちらにも載せています。

2026-04-16

モミジスジゴケ

 

 写真はモミジスジゴケ Riccardia palmata でしょう。 葉状体は小さく、濃緑色で、不規則によく分枝し、掌状に広がっています。 朽木上で育っていました。
 このコケは岡山コケの会の観察会で見てもらったのですが、この仲間の同定は私にはとても難しく、特に本種は油体の数や分枝のしかた、葉状体表皮の細胞壁の厚さなど、多型なようで、同定はM氏に頼りました。
 なお、M氏によると、ここにはもう1種、コダマテングサゴケ Riccardia kodamae もあったとのことでしたが、私は採集できてなかったようです。

 斜め横から見ると、カリプトラがたくさんついていました(上の写真)。


 上の2枚は断面です。 葉状体は背面も腹面も凸面状です。 葉状体の翼部は狭く、表皮細胞は内部細胞の1/3~1/2大です。 葉状体表面の細胞壁は特に厚くはなっていません。 油体はまばらに存在していますが、表皮細胞にも内部細胞にも存在します。

 油体は褐色で、微粒の集合です(上の写真)。

(2026.4.11. 六甲山)

◎ モミジスジゴケはこちらにも載せています。

2026-04-14

クロタニガワカゲロウ


 写真はヒラタカゲロウ科のクロタニガワカゲロウ Ecdyonurus tobiironis の成虫だと思います。 2026.4.13.に箕面公園で撮影したのですが、ちょうど羽化の時期らしく、たくさんいました。
 多くのカゲロウの仲間の尾毛は3本です。 本種も幼虫の時には3本の尾毛があるようですが、亜成虫や成虫の尾毛は2本しかありません。

 頭部を拡大して見ました(上の写真)。 複眼が白色部分と黒色部分に分かれています。 機能的に違いがあるのでしょうか。
 本種の亜成虫や成虫は、頭部の前縁部がくちばしのように長くなるのも特徴です。

2026-04-10

潜葉虫に潜られたオオジャゴケ

 上は潜葉虫に潜られた跡のあるオオジャゴケ Conocephalum orientalis です。 潜葉虫は既に羽化した後のようで、潜っていた昆虫の正体は分かりません。
 オオジャゴケを含む葉状体苔類は、ハモグリバエ科、シギアブ科、フショクバエ科などのハエ目の幼虫に潜られることが分かってきています。
 特にハモグリバエ科については研究が進んでいて、加藤ら(2022)によれば、葉状体を作るコケから羽化する潜葉虫を調べたところ、苔類から36 種、ツノゴケから3 種、合計39 種のハモグリバエの羽化が確認されています。 これらの種の多くは新種でしたが、寄主特異性がきわめて高く、13種はジャゴケ属を利用していたとのことです。
 葉状苔類には多様なハモグリバエ類が寄生していて、それぞれが非常に高い寄主特異性を持っているという事実は、チョウやガ、ハムシ、ハバチなどで見られるような、維管束食物の上で起こった食植性昆虫の多様化が、コケの上でも起こったということを示唆しています(加藤ら,2022)。
 食植性昆虫の多様化は、植物は食べられないようにと毒性を高め、昆虫はその毒の解毒能力を高める中で起こる共進化過程と考えられます。 苔類の場合は、油体が存在する意義との関係も興味あるところです。

【文献】
Makoto Kato, Luna Yamamori, Yume Imada:Diversity underfoot of agromyzids (Agromyzidae, Diptera) mining thalli of liverworts and hornworts. ZooKeys 1133 (2022).