2026-09-30

ヨモギの花

 ヨモギはとても身近な野草です。 身近に見られるだけでなく、草餅にしたり、新芽をおひたしや汁物の具や天ぷらにもしますし、ヨモギ風呂、せんじ薬など民間薬としても使われてきました。 灸に使う艾(もぐさ)も、葉の裏側の綿毛から作られます。
 このような身近な野草であるにも関わらず、夏から秋にかけて咲く花は、キク科には珍しく風媒花で小さく目立たないためか、ヨモギの利用はほとんど葉であるためか、あまり注目されません。 しかし拡大して見ると、なかなか美しくおもしろい花です。 頭花は複総状花序を作っています(上の写真)。

 上は2026年9月27日に泉北ニュータウン(栂・美木多地区)で撮ったヨモギの花序の一部です。 下は上の赤い四角で囲った頭花の拡大です。

 頭花(頭状花序)は複数の花(小花)の集まりです。 1つの頭花を構成している花は、タンポポ類などのように舌状花だけのもの、アザミ類などのように筒状花のみのもの、ヨメナやノコンギクなどのように舌状花と筒状花からなるものがあります。 ヨモギの頭花は、両性花と雌花の2種類の筒状花からなっています。
 上の写真で赤褐色のものは両性花の花弁です。 ①や②が両性花なのですが、両性花のオシベは筒状に配列していて花粉を出します。 その後、オシベが作る筒の中をメシベが上昇してきてオシベが作った花粉を押し上げて表に出します。 ①は押し上げられた花粉がほとんど飛散してしまった状態でしょう。 その後、上昇してきたメシベが表に現れ、柱頭が左右に開きます。 これが②の状態です。
 ③は雌花のメシベです。 雌花にオシベはありません。

 頭花から雌花と両性花を1つずつ取り出してみました。 上の写真の左が雌花、右が両性花です。 どちらも大きな子房があり、雌花も両性花も種子を作ることが可能なようにみえます。

 上は2~3枚目の写真より少し若い花序です。 aの両性花はまだツボミですし、bの両性花にはメシベに持ち上げられた花粉がたくさん溜まっています。 雌花の長いメシベはまだあまり目立っていません。

 上は花後の姿です。 総苞に守られて種子は熟し、熟した種子は冠毛で風に乗って散布されていきます。

2026-09-29

シマヤバネゴケ

 上はシマヤバネゴケ Cephalozia hamatiloba にいろいろなコケが混じった湿岩上の群落です。
 従来 Cephalozia(ヤバネゴケ属)とされていたものの多くは Fuscocephaloziopsis(マルバヤバネゴケ属)に移され、日本で確認されているヤバネゴケ属は、オタルヤバネゴケ、ヤバネゴケ、シマヤバネゴケの3種のみになっています(古木・内田,2025)。 2つの属で異なる特徴の1つとして、左右の葉の背縁基部の間の2つの表皮細胞の列の有無があり、ヤバネゴケ属には、下に書くようにこの列がありません。 これで、迷うことの多かったこの仲間の同定も、少し楽になりました。

 オタルヤバネゴケに比べると大形で、茎の径は3㎜ほどあります。

 上は背面から撮っています。 上に書いたように、左右の葉の背縁基部の間に2列の表皮細胞はありません。

(2026.7.20. 京都府南丹市美山町 音谷の滝)

◎ こちらには本種の胞子体を中心に、こちらには葉や葉身細胞などを載せています。

2026-09-28

ガガブタ

 9月27日に堺植物同好会の観察会が泉北ニュータウンの栂・美木多地区で実施されました。 いろいろな植物を観察しましたが、そのうちの1種がガガブタ Nymphoides indica でした。 あちこちの池で美しく咲いていたのですが、柵がしてあり、近づけません。 採集していただいたものを間近に観察することができたのですが、ここでは Part1からの引っ越しも兼ねて、これまでに撮った写真を使い、ガガブタについてまとめなおすことにしました。 上も2023年8月31日に神戸市立森林植物園で撮った写真です。
 ガガブタは本州や九州に分布する多年生の水草です。 花は径1.5cmほどで、7月~9月頃に咲き、朝に開き夕方には水中に没する1日花です。 花弁の周囲は細かく裂けていて、いちめんに毛が生えたようになっています。
 葉はスイレンに似た少し小ぶりの浮葉で、属名の Nymphoides も「スイレン( Nymphaea )に似た」という意味です。 しかし、スイレンはスイレン科ですし、ガガブタはミツガシワ科の植物で、花も違えば全体の体制も異なります。

 上はガガブタを少し持ち上げて花柄の付け根付近を撮った写真です。 たくさんのツボミも残っています。 花はどこについているのでしょうか。
 花の基は花芽という芽です。 種子植物の芽のできるところは、茎の先端と葉の付け根の2ヶ所しかありません(前者の芽は「頂芽」、後者の芽は「腋芽」と呼ばれています)。 長い葉柄の途中に花がつくことはありません。
 つまりガガブタは、下に示すように、水面近くまで伸びる長い茎があり、その先にたくさんの花芽や短い葉柄を持つ葉をつけていると理解すべきでしょう。 そしてその花芽が順次伸び、次々と花を咲かせていきます。
 ちなみに、スイレンの茎は地下茎で、そこから水面まで長い葉柄を伸ばして葉を広げます。

 上の写真には伸びはじめた殖芽(しょくが)も写っています。 本種は茎と葉柄の境から根を出すことも可能で、例えば水位が下がった時に、ここから出た根で定着するなど、スイレンとは違った生活を可能にしています。 ガガブタは夏から秋にかけて、この根がバナナの房のように変形し、さらに肥大して太く短くなり、その根が集合して房状となった殖芽というものをつくります。 寒くなると茎や葉は枯れますが、栄養を蓄えた殖芽が水底に沈み、春になると殖芽から新しい株が育ちます。 その際、殖芽に貯めた栄養を使って水面近くまで茎を伸ばさなければならず、ガガブタは水深の深い所では育つことができません。

 上は9月27日に見たガガブタの花で、メシベが突き出し、その基部にオシベが見えます。 じつはガガブタにはメシベが長いタイプの花(長花柱花)とメシベが短いタイプの花(短花柱花)の2つのタイプの花があり(異型花柱性)、上は長花柱花です。
 長花柱花と短花柱花の違いは遺伝的に決まっているようです。 そして本種には自家不和合性があり、異なるタイプの花同士で受粉しなければ種子ができません。
 観察した池とその周辺の池のガガブタの花は全て長花柱花でした。 つまりこのあたりのガガブタは種子を作れず、殖芽によって増えたものなのでしょう。 上の写真でも、花粉はちゃんと作られているように見えるのですが、2~3枚目の写真の花の終わった後を見ても、種子ができそうな様子はありません。
 上の写真はオシベにピントを合わせていますので、メシベはボケています。 メシベにピントを合わせた写真を下に載せておきます。

 上は長花柱花のメシベの拡大です。柱頭は2裂し、縁には毛が密生していて繊細なつくりです。

 上はいちばん最初の写真の花で、短花柱花です。 5本のオシベが目立っています。 なお、このオシベは花粉を出してしまった後のようです。 そしてよく見ると、花の中央に小さなメシベがあります。

2026-09-21

ケチョウチンゴケ

 上は2026年9月12日に京都市右京区京北上弓削町にあったコケで、見慣れた姿とは少し異なるのですが、調べた結果はケチョウチンゴケ Rhizomnium tuomikoskii だろうと思います。 上の撮り方では分かりにくいのですが、まだ細い若い胞子体があちこちについています。

 本種の茎には、ふつう黒褐色の仮根が密生し、よく見られるのは葉の上にまで仮根が広がっている姿ですが(こちらやこちら)、上の横から撮った写真で見ても、茎の上部の仮根は多くありません。 胞子体をつけていることが影響しているのかとも思いましたが、最初の写真を見ても、不稔の茎でも葉の上の仮根は確認できません。


 Rhizomnium(ウチワチョウチンゴケ属)では、うちわのような広い葉が茎の上部に集まってつきますが、この葉の様子は最初の写真で分かります。 上の2枚は茎の中央につく葉です。 葉は丸みを帯びた四角形です。
 以下も上のような茎の中央につく葉についての観察結果です。

 葉先は円頭で、中肋は葉先に届いていません。

 葉先には小さな突起があり、舷は葉先にもあります。

 上は葉の中央付近の舷です。 舷は3~4列で、今回は褐色でした。


 葉身細胞は大きく、0.1㎜前後の長さがあります(上の2枚の写真)。

 上は仮根(大仮根)です。

(2026.9.12. 京都市右京区京北上弓削町 標高 500m)

◎ こちらには胞子体をつけた雌株の様子を、こちらには雄花盤をつけた雄株の様子を載せています。

2026-09-19

ナメリチョウチンゴケ

 マツタケジャゴケの隙間から伸び出していた小さなチョウチンゴケ(上の写真)、ホシガタチョウチンゴケかも、と思って調べた結果はナメリチョウチンゴケ Mnium lycopodioides のようです。

 今回は最初の写真のように不稔の茎しか見られませんでしたが、不稔の茎の葉は上の写真のように離れてついていて2列にみえます。 茎の長さは1~3cmです。
 下は上と同じ植物体の乾いた状態です。

 乾くと上の写真のように縮れます。

 葉は鋭頭で、中部(より少し下)で最も幅広くなっています(上の写真)。

 上は葉先近くを背面から撮っています。 中肋はほぼ葉先に達しています。 中肋背面に小歯は見られません。

 葉縁には2~3細胞列の舷があり、歯は双歯です(上の写真)。 平凡社の図鑑には、舷は褐色とあり、たしかにその傾向はあるのですが(こちらやこちら)、環境条件によっては褐色でない場合もあるようです。

 葉身細胞は円形~丸みを帯びた方形~六角形です(上の写真)。 細胞はほぼ等径で、上では20~23㎛です。 平凡社では12~18㎛で(不稔の茎の葉の径は)やや大きいことがあるとなっています。

 上は茎の断面で、中心束があるのは Mnium(チョウチンゴケ属)の特徴です。

(2026.9.12. 京都市右京区京北上弓削町 標高 500m)

◎ 本種は雌雄異株です。 雄株の雄花盤の様子などはこちらに、雌株の胞子体の様子などはこちらに載せています。