2022-09-25

フトスジニセオキナゴケ

 上は北海道の泉田さんが2022.9.19.に支笏湖近くの林道で撮影された写真で、倒木上に育っていたコケです。 調べた結果は、フトスジニセオキナゴケ Paraleucobryum enerve のようです。 分布の中心は高山帯で、北海道と本州に分布します。
 属名は Leucobryum(シラガゴケ属)に似ているところからで、平凡社の図鑑にも、“どことなくシラガゴケに似た白っぽい色をしている。”と書かれてあるのですが、上の写真を見ても実物を見ても、「どことなく」であり、そんなに白い色ではありません。

 比較的大型で、全形はシッポゴケ属に似ています。 葉は落ちやすく、長く伸びた茎では所々葉の無い所があります。 観察中もよく葉が落ちました。 下の写真でも、よく見ると茎から離れた葉が引っかかっています。

 茎には仮根が密生しています。 葉は長さ5~8mmで、葉先はあまり曲がっていません。 写真の左下を見ると葉からも仮根が出ているように見えますが、混んでいてよく分かりません。葉を1枚取り出して確認すると・・・

 葉の上部から仮根が出ています。

 上は葉の基部です。 本種の種小名 enerve は「無脈の」という意味で、たしかに中肋がはっきりしません。 これは中肋が無いのではなく、下の葉の断面で分かるように、葉身部の大部分が中肋です。 和名の「フトスジ」の「スジ」も中肋のことでしょう。 なお、同属で本種に似たナガバノシッポゴケは、もう少し中肋の幅が狭くなっています。

 上は葉の基部から1/5ほど葉先に進んだ所の葉の断面です。 葉はU字形で、背面は平滑です。 大部分が中肋ですが、中肋にはガイドセルもステライドもありません。 これが Paraleucobryum(ナガバノシッポゴケ属)の大きな特徴です。

 上は葉先です。 葉縁は葉全体をとおして全縁です。

2022-09-24

オゼヒシャクゴケ


  かわいい頭を並べたようなコケ、そのように見えるのは、コケ群落のなかで直立しているからでしょう。 ちなみに、周囲に写っている無性芽をつけているのはタカネイチョウゴケだと思います。(2022.9.5.北八ヶ岳にて撮影)
 観察結果から平凡社の検索表をたどるとオゼヒシャクゴケ Scapania curta になりました。 平凡社には検索表のみで種別の解説は無いのですが、尼川の図などとも大きな矛盾は無いと思いますし、樋口・古木2018の八ヶ岳の蘚苔類リストにも載っています。 花被があれば、もう少し自信を持って同定できるのですが・・・。

 横から見るとヒシャクゴケの仲間であることがよく分かります。 上部はピンクがかっていますが、全体的には褐色がかっています。


 腹片も背片も全縁です。 腹片は長楕円形で幅は長さの 3/4以下、円頭です。 背片の長さは幅の 1.5倍以下です。 2枚目の背片は一見長く見えますが、茎の組織がついているためです。

 上は腹片の葉身細胞です。 比較的整然と細胞が並んでいるようです。

 上は腹片の縁です。 平凡社の検索表には「腹片は縁がやや厚壁な細胞で縁取られる。」とあり、上の写真はそれに当てはまると思うのですが、どうでしょうか。

2022-09-23

カギハイゴケ

 上は北八ヶ岳の岩上で育っていたカギハイゴケ Sanionia uncinata です(2022.9.5.撮影)。 本種はハイゴケの仲間によく似ていますが、ハイゴケ科ではなく、葉先近くに達する中肋があり、ヤナギゴケ科に分類されていることは知っていました。 しかし、この中肋は縦じわに紛れてルーペではなかなか分かりませんでした。

 茎は不規則な羽状に分枝しています。 蒴はやや傾き、円筒形です。

 枝は葉を含めて径約1mm、茎葉は渦巻き状で長さは2~4mmです。

 上は茎葉です

 上は茎葉の基部です。 ここまで拡大すると、やっと細い中肋もはっきりしてきます。 翼細胞は分化し、大きく透明です。

 上は葉先です。

 上は茎の断面です。 少しわかりにくいのですが、中心束があります。

 茎の表皮細胞の外側は薄壁です。

2022-09-22

ヒカリゴケの原糸体・配偶体・胞子体 ②

  昨日は生育地で撮った写真を使ってヒカリゴケ Schistostega pennata の生活環を紹介しました(こちら)。 今日は室内で観察した結果を載せます。

 ヒカリゴケが光っているのは原糸体であることは昨日も書きましたが、上がその原糸体です。
 蘚類の多くの原糸体は細胞が1列につながっていますが、本種の場合はその細胞の一部がレンズ状細胞と呼ばれる丸い細胞になっています。 丸くなっても原糸体の細胞ですから、1列につながっていることには変わりなく、そのことは上の写真の右側でよく分かります。

 原糸体が黄緑色に光る様子は神秘的で美しいのですが、では、なぜ光るのでしょうか。
 ヒカリゴケは薄暗い洞を好んで生えているのではありません。 植物にとって好条件な環境は他の植物との生存競争に負け、他の植物が生きていくのに必要な量の光合成ができない薄暗い所で、さまざまな工夫を凝らしてどうにか生きているのがヒカリゴケです。
 下は光るしくみと意義を説明するための模式図です。

 自然光はいろいろな波長の光(いわゆる虹の7色)の集まりです。 植物は光を葉緑体で吸収し、そのエネルギーで生きるために必要な物質を合成しているのですが、葉緑体が吸収できる光は赤と紫が中心で、緑色の光は使えません。(だから、植物が吸収できなかった緑色の光は透過または反射し、私たちの目に入ってくるので、植物は緑色に見えるのです。)
 原糸体のレンズ細胞に入った光のうち、赤や紫の光はレンズ細胞の中にある葉緑体で吸収され、減少します。 レンズ細胞はその形のため光を細胞壁で反射し、光は何度も葉緑体を通り、そのたびに赤や紫の光は減少し、レンズ細胞から出る時は吸収されなかった緑色を中心とした光になっています。
 以上をまとめると、ヒカリゴケの原糸体が光るのは、光を有効利用するために光を反射するからで、光が黄緑色に見えるのは、それらの波長の光が吸収されなかったためです。 私たちが見ているのは反射光ですから、強い光を当ててやれば強く光ります。

 上は原糸体から育ったヒカリゴケの植物体です。 以下、上の ①~⑤ について、順番に見ていくことにします。

 ① は生殖器をつけていない配偶体ですが、乾いて縮んできています。 水分を失い易いつくりのようです。 元気な姿は昨日の写真を見てください。

 葉は茎の左右に2列に並んでいますが、基部は下延し、下の葉と融合しています。

 葉身細胞は長い菱形で、長さは 90~140μmでした(上の写真)。

 ② は胞子体を茎頂につけた配偶体です。 同じ配偶体でも①よりずっと小さく、葉も小さく、茎頂に集まって5列についています。

 ③ は胞子体です。 蒴柄は約5mm、蒴はほぼ球形で小さく、幅は3mmほどしかありません。

 上は蒴の拡大です。 蒴歯は無いようですが、胞子があふれ出ていてよく分かりません。 そこで・・・

 蒴口近くを顕微鏡で観察してみました(上の写真)。 退化した小さな蒴歯も無いようです。

 上は胞子で、長さは 10~12μmです。

 胞子体が作られているということは、卵と精子が出会っているはずです。 平凡社ではヒカリゴケに関しては雌雄同株とも雌雄異株とも書いてありません。 調べてみることにしました。

 ④は②と葉の付き方などがそっくりです。 調べてみると・・・

 ④の茎頂はたくさんの小さな葉で覆われていました。 その葉をできるだけ取り去り顕微鏡で観察したのが上の写真です。 気泡が入ってしまいましたが、造卵器の姿を残したまま、中の卵細胞が受精し、胚として生長している姿を観察することができました。 ほぼ予想通りです。

 ⑤ は④と似ているのですが、小さな葉が比較的茎の下にまでついています。 これも同様に茎頂の葉をできるだけ取り去って顕微鏡で観察すると・・・

 茎頂には複数の造精器がついていました(上の写真)。

2022-09-21

ヒカリゴケの原糸体・配偶体・胞子体 ①

 今年行った北八ヶ岳(2022.9.3.~9.5.)では行った先々でヒカリゴケをみつけました。 群生地をまとめて1カ所としても、計5カ所になります。 何らかの影響で増えたのか、今まで気づかなかっただけなのか・・・。

 ヒカリゴケ Schistostega pennata が光るのは原糸体の丸い細胞が光を反射するからで、原糸体から生じる配偶体(いわゆるコケ本体)は光らないことはこちらに書きました。 上の写真でも、赤い円内などにわずかにみられる配偶体は光っていません。

 ヒカリゴケの群落が成熟するにつれ、配偶体が増えてきます。

 上の写真では配偶体ばかりが目立っています。 配偶体は葉を2列につけ、植物体全体としてはとても扁平なのですが、上の写真ではどの配偶体もカメラの方に広い面を向けています。 これはカメラの位置がヒカリゴケの生育する洞の入り口であり、洞に光が入る所にあるためです。 つまりヒカリゴケの配偶体はいちばん効率的に光を受け取ることのできる姿勢を取っていることになります。

 群落が充実してくると胞子体を作り始めるようです。 上の写真の右奥には、ピントは合っていませんが、胞子体をつけたヒカリゴケが写っています。

 上の写真の中央が胞子体です。 生殖器官をつけていない茎は上述のように葉を2列につけているのですが、胞子体を頂につけている茎はとても短く、その茎の葉は茎頂に集まり5列につきます(上の写真の赤い楕円内)。

 上は蒴で、胞子が出てきています。 蒴歯はありません。

 以上、生育地での様子をまとめました。 こちらには、室内でもう少し細部を細かく観察した結果を載せています。