2024-07-26

コケ観察に適したルーペは?

 コケは小さな植物です。 小さなコケの小さな違いを見分けるには拡大する必要があります。
 最近はカメラの性能が良くなり、かなり拡大して撮ることのできるカメラもありますが、違いを探しながらいろいろな方向から見るには、やはりルーペが便利です。 ただ単にシャッターを押しても、そのコケの特徴が写っていなかったり、特徴的な場所がピンボケであることはとてもよくあることです。 マクロ撮影するにも、ルーペで観察して撮るべき特徴を見定め、その特徴が分かりやすい方向を決めてから撮影すべきです。

 虫めがね、天眼鏡、ルーペ、みんな同じものですが、ある程度倍率の高いものをルーペと呼ぶ傾向があるようです。 以下、この記事でも倍率の低いものを「虫めがね」、倍率の高いものを「ルーペ」と呼ぶことにします。

 ルーペは基本的には凸レンズの性質を使って拡大する器具です。 

 凸レンズに光軸(レンズの中心と焦点とを結ぶ直線)に平行な光を当てると、光は焦点と呼ばれる1点に集まります(上の図)。この性質を利用して拡大するのですが、焦点は厳密には上の図のように少し幅があります。
 この焦点のずれは、膨らみ方が大きい(「曲率が大きい」と表現します)レンズの方が大きくなります。曲率が大きいレンズの方が大きく拡大できるのですが、そのままでは焦点のずれが大きくなり、像がぼけてしまいます。

 ルーペでは、くっきりした像を得るために、2つの方法を組み合わせています。 1つは、複数のレンズを使って少しずつ拡大することです。 虫めがねに比べてルーペが厚いのは、距離を置いて複数のレンズを使っているからです。 安価なルーペでは2枚の凸レンズを使っていますし、トリプレットレンズは、よりくっきりした像を得るために3枚のレンズを組み合わせています。
 もうひとつは、上の図から分かるように、凸レンズの周辺部からの光は焦点からのずれが大きくなりますから、このレンズの周辺部を切り落とし、中心部だけを使うことです。 高倍率にしようとするほど、多くの部分を切り落とさねばならず、レンズの径は小さくなります。

 小さな穴から広い世界を見るには、目を小さな穴に近づける必要があります。 ルーペを使った観察でも、ルーペの径は小さいので、目に近づけて使うのが基本になります。 さらに言えば、ルーペを持った手を頬(ほお)に押し当てて使えば、ルーペと目の距離が一定に保たれ、観察し易くなります。
 なお、大きい径の方が広い範囲が見えて使いやすいと思う人も多いようで、たしかに倍率も比較的高く、径の大きいルーペも売られています。 これらのルーペを覗くと、視野の周辺ほど像がぼけていて、流れたように見えます。
※ 視野の隅まで像がゆがまずに見えているかのチェックには1mm方眼をルーペで見るのが便利です。

 では、コケ観察には何倍のルーペが適しているのでしょうか。 もちろん倍率が高いほど小さなものが大きく見えます。 しかし倍率が高すぎると、使いこなすのが難しくなります。 まず、倍率が高くなればなるほど、見える範囲は狭くなります。 この“見える範囲”は、面積だけではなく、奥行きも浅くなります。 つまり見たい所にピントを合わせるのが難しくなります。 また、ほんの少しルーペが動くだけで、視野が大きくずれてしまいます。 ルーペの扱いに十分慣れるまでは、10倍程度の倍率のルーペが良いと思います。

 最近はLEDライト付きのルーペもたくさん出回っています。 たしかに日の差し込まない渓谷の岩に張り付いたコケを見る時など、自分の頭の影でいっそう暗くなり、ライトの必要性を感じる時もあります。 しかしLEDライト付きのルーペは、電池の重量で本体が重くなりますし、電池交換も面倒です。 充電式もありますが、バッテリーの容量も限られていますし、充電に気を配らねばならず面倒でし、部品が小さく壊れやすい点も問題です。 また、岩などにくっついているコケの観察などでは、岩に光が反射し、かえって見えづらくなる場合もあります。 価格もライト無しのルーペの方が、その分安くなります。
 これは好みにもよるでしょうが、私はライトが無いものの方が好きで、どうしてもライトが必要な場合に備えて、ルーペとは別に、100均のライトをバックに入れています。

 ルーペを購入する際には、上のようなことを頭に置き、実際にお店に行って手に取って確認するのがいちばんいいのでしょうが、近くにルーペを販売している店が無いなどの人のために、1つだけ、Amazonで購入できるルーペを紹介しておきます。
 トリプレットレンズで倍率10倍のLEDライトのついていないルーペです。無駄な反射を防ぐためのマットブラック塗装をしています。(グランクラフト、¥2,680-)

 上の写真をクリックすると、Amazonに移動します。


2024-07-24

オオツボミゴケ

 小さな渓谷の、水際の岩上に育っていた写真のコケ、平凡社の検索表をたどると、オオツボミゴケ Solenostoma radicellosum になりました。

 この時期の花被は稜のある三角錐です

 上は花被の縦断面です。 ペリギニウムが発達し、最内側の雌苞葉は明らかに造卵器より上についています。

 上は植物体を横から撮っていて、上が腹面、下が背面です。 腹葉は無く、茎の腹面には仮根の束がついています。 仮根の束は、上の写真では茎の腹側が木化したようにも見えますが・・・

 上は茎の横断面で、中央の円い所が茎で、写真の上が背面、下が腹面です。 茎から右上と左上に伸びているのが葉で、茎の腹面の赤い四角内の褐色の部分が仮根の束です。
 下は上の赤い四角の部分の拡大です。

 上の写真のように拡大すると、仮根の束であったことが、はっきりと確認できます。


 上の2枚は背面から撮っています。 茎の幅は葉を含めて約2.5mmです。 この仲間の同定にはこの幅が関係することもあるので、2枚載せておきました。


 上の2枚は葉です。 仮根が葉の基部から出ています。 平凡社の図鑑の検索表では、葉の幅と高さのどちらが長いかが重要になってきます。 オオツボミゴケなら、葉の形が腎臓形で、幅が長さより広い方を選ぶことになるのですが・・・
 葉の幅や高さは、どこをどのように測るのでしょうか。

 私は葉の背縁基部と腹縁基部に接する線分を基準に、上のように測るのではないかと思います。 この測り方で良いのなら、明らかに高さより幅の方が広くなります。

 上は葉縁付近の細胞です。

 上は葉身細胞です。

(2024.7.21. 京都市西京区大原野)

◎ オオツボミゴケはこちらにも載せています。

2024-07-20

ムレコムラサキホコリ?


 朽木の上にあったムラサキホコリ科の変形菌、かなり小さく、フィールドでの撮影の段階で、ムラサキホコリ属(Stemonitis)ではなく、コムラサキホコリ属(Stemonitopsis)だろうと思いました。 柄は子嚢の1/2~2/3ほどの長さです。

 子実体の高さは約3mmです。 子嚢は細長い楕円形~円筒形です。

 上は胞子です。 径は8~9μmで、表面に特記すべき特徴は見当たりません。

 コムラサキホコリ属にも、コムラサキホコリ、セイタカコムラサキホコリ、ダテコムラサキホコリ、ハダカコムラサキホコリ、チャコムラサキホコリ、ムレコムラサキホコリなど、多くの種類があります。 特徴のよくあてはまるものは無いのですが、とりあえず、ムレコムラサキホコリ Stemonitopsis subcaespitosa としておきたいと思います。 この種の柄は子実体の約1/4で、写真のものよりかなり短いのですが、胞子の径がほぼ一致します。

(2024.7.17. 兵庫県西宮市 北山公園)

2024-07-19

クヌギハマルタマフシ


 クヌギの葉にたくさんついていた赤い虫こぶ(2024.7.17. 兵庫県西宮市で撮影)、クヌキハマルタマフシという名がつけられています。 長い名前ですが、ふつう虫こぶの名前は、
   植物の名前+作られる場所+虫こぶの形状+「フシ(附子:こぶのこと)」
 というふうにつけられています。 この場合も、「クヌギ(など)の葉に作られる丸く玉のような附子」という意味を持った名前です。
 作ったのはクヌキハマルタマバチ Aphelonyx acutissimae です。 このハチはクヌギの葉に1つずつ産卵し、成虫が卵と共に葉に注入する物質の作用なのか、幼虫が出す物質の作用なのかは知りませんが、とにかく何らかの物質の作用でクヌギの葉の組織が増殖・肥大し、ハチの幼虫を包み込むような虫こぶとなります。 ハチの幼虫は“部屋付き食べ物付きの独身生活”を送ることができるのですが、虫こぶの外から産卵管を刺してこのハチに寄生するハチや同居するハチもいるようです。
 クヌキハマルタマバチは、単性世代(雌だけが存在し、単為生殖を行う世代)と両性世代(雌と雄が存在し、有性生殖を行う世代)を交互に繰り返します。 どちらの世代の幼虫も虫こぶ暮らしをするのですが、虫こぶの形態は違っています。 写真の虫こぶは単性世代が作ったもので、この虫こぶからは、まもなくオスかメスが出てくるはずです。 この雌雄が交尾し産卵してできる虫こぶは、クヌギハナコケタマフシと呼ばれています。

2024-07-18

ジクホコリ

 写真はジクホコリ Diachea leucopodia です。 子実体の大きさは2mm足らずで、柄は石灰質でもろく、白色です。 鮮度の良い子嚢に光を当てると、とても美しい構造色を示す場合が多いのですが、今回は古くなってボロボロ。 それでもほんの少し残っている子嚢壁は美しい色を出しています(2024.7.17. 兵庫県西宮市 北山公園で撮影)。 本種は梅雨明け頃に見かける事が多いのですが、いちおう春~秋に見られることになっている普通種ですので、そのうち美しい姿を見ることもあるでしょう。
 美しい子嚢は見られませんでしたが、子嚢の中にある軸柱の様子がよく分かります。

 子実体を拡大してみました(上の写真)。 子嚢の上部まで伸びている軸柱は石灰質で、柄がそのまま伸びて軸柱になったような姿をしています。

 上は子嚢を顕微鏡で観察しています。 透過光ですので、白い軸柱も光を通さず黒くなっています。 細毛体はほぼ黒色です。 円いものは胞子で、径は10μm前後です。