2026-04-10

潜葉虫に潜られたオオジャゴケ

 上は潜葉虫に潜られた跡のあるオオジャゴケ Conocephalum orientalis です。 潜葉虫は既に羽化した後のようで、潜っていた昆虫の正体は分かりません。
 オオジャゴケを含む葉状体苔類は、ハモグリバエ科、シギアブ科、フショクバエ科などのハエ目の幼虫に潜られることが分かってきています。
 特にハモグリバエ科では研究が進んでいて、加藤ら(2022)によれば、葉状体を作るコケから羽化する潜葉虫を調べたところ、苔類から36 種、ツノゴケから3 種、合計39 種のハモグリバエの羽化が確認されています。 これらの種の多くは新種でしたが、寄主特異性がきわめて高く、13種はジャゴケ属を利用していたとのことです。
 葉状苔類には多様なハモグリバエ類が寄生していて、それぞれが非常に高い寄主特異性を持っているという事実は、チョウやガ、ハムシ、ハバチなどで見られるような、維管束食物の上で起こった食植性昆虫の多様化が、コケの上でも起こったということを示唆しています(加藤ら,2022)。
 食植性昆虫の多様化は、植物は食べられないようにと毒性を高め、昆虫はその毒の解毒能力を高める中で起こる共進化過程と考えられます。 苔類の場合は、油体が存在する意義との関係も興味あるところです。

【文献】
Makoto Kato, Luna Yamamori, Yume Imada:Diversity underfoot of agromyzids (Agromyzidae, Diptera) mining thalli of liverworts and hornworts. ZooKeys 1133 (2022).

2026-04-04

コシノウスグロゴケ

 神戸市・六甲山の標高約240mの岩上に育っていた写真のコケ、以下の観察結果からはコシノウスグロゴケ Leskea polycarpa だと思います(2026.3.28.撮影)。 しかし、野口(1991)によれば、本種がよく見られるのは北日本、特に日本海に面した所のようですし、広島大学デジタルミュージアムでは「日本では北海道と本州のブナ帯の樹幹上に生育する.」と書かれています。 また、胞子体も確認できませんでしたので、同定には自信がありません。


 茎は不規則な羽状に密に分枝していました。 上の2枚は同じものを上下両面から撮影した写真ですが、全部つながっていて、1本の茎からの分枝です。

 葉は乾くと上の写真のようにやや縮れます。 枝葉の長さは長いもので約1㎜です。

 葉は広披針形で漸尖し、中肋は太く、葉先近くで消えています(上の写真)。 上の写真の下の葉のように、葉縁の中部が狭く反曲している葉があちこちに見られました。

 上は葉先です。

 葉身細胞は六角形~菱形で角張り、長さ8~13μm、中央に1個のパピラがあります(上の写真)。

◎ コシノウスグロゴケと思われるコケはこちらにも載せています。

2026-03-26

ヒジキゴケ

 岩上に育っていた上の写真のコケ、これまでに見たことの無いコケだと思って調べると、ヒジキゴケ Hedwigia ciliata でした。 環境によっては、こんなに透明尖が発達し、目立つようになるんですね。

 上は葉です。 中肋は無く、基部の中央は黄色~橙色です。

 透明尖にはパピラがあります(上の写真)。

 葉身細胞は厚壁で、各細胞には(1~)2(~3)個のパピラがあります(上の写真)。

(2026.2.21. 京都市 梅小路公園)

◎ 本種のよく見られる姿はこちら(乾いた状態)やこちら(湿った状態)に、胞子体に関してはこちらなどに載せています。

2026-03-25

ホクセツイボナシミノゴケ

 写真はホクセツイボナシミノゴケ Macromitrium ousiense です。
 本種は中国福建省の標本に基づき記載されました(Paris,1910)。 日本では Yu et al.(2013)の記録があるのですが、論文中での標本の引用が不正確ですし、その後の報告は無く、忘れ去られた存在になっていました。 平凡社の図鑑でも、Macromitrium(ミノゴケ属)は、9種が載せられていますが、本種はこの9種には含まれていません。 ところが最近になって、秋山先生の調査により、本種が北摂地方を中心に分布していることが分かり、その特徴は蘚苔類研究13(6)にまとめられています。
 2026.3.21.に、その秋山先生に本種の生育場所に案内していただき、観察することができました。 上の写真も、その時に撮った写真です。 上は乾いた状態で、葉は強く卷宿しています。

 上は湿らせた状態です。 葉は狭い二等辺三角形で、鋭頭です。 ルーペレベルではリュウキュウミノゴケに似ていますが、葉先はリュウキュウミノゴケの方が尖っています。
 スケールの最小目盛は1㎜です。

 上は枝葉です。


 上の2枚は葉先付近です。 中肋は葉頂近くに達しています。 葉の上部~中部の細胞は均等にやや厚壁で方形~矩形、下部の細胞は方形~長矩形~線形になりますが、いずれにしても、パピラもマミラも見られません。

 本種の特徴を整理しておきます。 ふつうミノゴケ属の葉の細胞にはパピラがあるのですが、本種の葉の細胞は上記のように平坦で、和名の「イボナシ」もこのことに由来します。 今回は蒴が少し若く、観察できませんでしたが、蒴歯は短く不完全な板状で、全面が細かいパピラで覆われます。 胞子は大きさの違う二型があり、この形状から、矮雄を生じる雌雄異株と考えられます(秋山,2025)。

【文献】
秋山弘之:アジア産蘚苔類の分類・生態ノート40.平滑な葉細胞と発達の悪い蒴歯を持つミノゴケ属植物,ホクセツイボナシミノゴケ Macromitrium ousiense Broth. & Paris(蘚類,タチヒダゴケ科)について.蘚苔類研究 13(6).2025.

2026-03-20

シキミ

 写真はシキミ Illicium anisatum です。 シキミはマツブサ科の常緑性小高木~高木で、宮城・石川県以西に分布します。 本種には独特の香りがあり、葉も透かすと油点が見え、傷つけると抹香に似た匂いを出します。 独特の香りがあることや、有毒植物であることが邪気を払う力があると考えられていたようで、仏事に広く用いられています。 なお、神事にはふつうサカキが用いられていますが、平安時代以前には神事にも本種が盛んに用いられていたと考えられています(Wikipedia)。
 上は3月中旬の撮影ですが、花は3月~5月に咲きます。 上の写真の下方にツボミが写っていますが、ガクらしいものは見えません。

 上は花を後ろ側から撮っています。 花被片は螺旋状についています。 ガク片と花弁の明瞭な分化は見られませんが、花の基部に近いものはやや幅広くて短い楕円形で、内側のものは細長い線状長楕円形です。

 本種の花は雌性先熟です。 上には2輪の花が写っていますが、左上の花は雌期で、細い柱頭が八方に広がり受粉できる状態になっているのですが、写真が少し小さいので、下に同時期の花の中央部を載せました。 そして写真中央に写っている花は雄期で、柱頭は集まって束になってしまい、オシベは花粉を出しています。

 上は雌期の花の中央部です。 らせん状についているオシベは若くて伸びきっておらず、メシベの柱頭は八方に広がって花粉を待っています。

 上は花後です。花被片もオシベも受粉できなかったメシベも落ちてしまっています。 メシベは離生心皮からなり、7~10個が1輪についています。

 上は9月下旬の撮影です。 上の写真では7つの袋果が側面で合着しています。 写真のいちばん奥は果実になれず、きれいな輪状になっていませんが、ふつう8個ほどの袋果が側面で合着します。
 この果実が特に毒性が強いのですが、同じ属のトウシキミ Illicium verum(日本には自生していない)は毒成分を含まず、果実は八角、八角茴香(はっかくういきょう)、大茴香(だいういきょう)、スターアニスとよばれ、香辛料や生薬として利用されるため、誤って利用される心配があります。 そのためもあって、シキミの果実は、植物としては唯一毒物及び劇物取締法により劇物に指定されています。

 上は10月中旬の撮影です。 果実は裂開し、種子が見えています。 この種子もヒトには有毒だと思うのですが、ヤマガラやヒメネズミはこの種子を食用としていますし、安芸の宮島のサルは、この種子を食べているようです(Wikipedia)。

 果皮は木質化し、感想によって幅が狭まり、種子をはじき飛ばします。 上は種子が全て押し出された後の姿です。