2021-09-12

顕微鏡で試料の長さを測定 & 顕微鏡写真にスケールを入れる

 細胞や胞子の大きさなど、顕微鏡で観察したものの長さを知ることは同定にも大切な作業です。 同定のためだけなら、自分だけが分かればいいのですが、それを人に伝えるには顕微鏡写真にスケールを入れておくと便利です。 写真にスケールを入れておくと、どのように写真を拡大や縮小しても、大きさが分かります。

 顕微鏡で見ているもの(以下、「試料」と書きます)の長さは、顕微鏡下で“ものさし”を使えば測定できます。 顕微鏡下で使うことのできる“ものさし”として、「対物ミクロメーター」というものがあります。
 対物ミクロメーターとは、スライドグラスに目盛を刻んであるようなものと思えばいいでしょう。 この目盛は顕微鏡下で使うものですから、とても細かい目盛で、普通は最小目盛が 10μm(=1/100mm)です。(ですから値段もそんなに安いものではありません。)
 試料と対物ミクロメーターを並べて見ることができれば長さを測定できるはずですが、顕微鏡ではとても狭い範囲しか観察できませんから、試料と対物ミクロメーターを並べて両方を同時に見ることは不可能です。 試料と対物ミクロメーターを重ねて観察しても、顕微鏡ではわずかの高さの違いでもピントがずれて、両方を見ることは不可能です。 また対物ミクロメーターに直接試料を置くことは、とても細かい目盛を傷めてしまうことになります。
 試料の長さを測るには、試料と対物ミクロメーターとを同時に見ることができないのですから、対物ミクロメーターをどこかに写し取って、その写し取ったもので試料の長さを測ることになります。 教科書などでは、この写し取るためのものとして「接眼ミクロメーター」を使用する方法が載せられていますが、これについては、最後に簡単に触れることにします。

 デジカメが発達して顕微鏡写真が簡単に撮れるようになった現代では、対物ミクロメーターと試料を重ね合わせることは簡単にできます。 カメラのズームや対物レンズの倍率など、同じ条件で試料と対物ミクロメーターとを別々に撮影しておき、その2枚の写真を合成すればいいわけです。

 原理は上記のように簡単で、具体的な方法は各個人が工夫すればいいのですが、参考として、私が行っている方法を以下に書いておきます。

 上はツクシハリガネゴケの葉の顕微鏡写真(これを「写真①」とします)ですが、この写真にスケールを入れることにします。
 下は同じ倍率(同じ対物レンズと接眼レンズ、カメラのズームも同じ)で撮った対物ミクロメーターです(これを「写真②」とします)。

 対物ミクロメーターの目盛はたいへん細かいため(=線がとても細いため)、薄い色にしか見えなくて、少しピントがずれると見えなくなってしまいます。 そのため、簡単に目盛を探せるように、太い線の(=はっきり見える)円で目盛を囲ってあります。

 写真①と写真②の2枚の写真を合成すればいいのですが、そのままだと目盛の周囲の円が邪魔ですので、これを何らかのソフトで消します。 その際、2枚の写真とも背景をまっ白にしておけば、消すにも便利ですし、合成の条件として暗い画素を優先にできます(下記の「作業①」)。
 ちなみに、私はPixia(32bit版)というお絵かきソフトを使って、円を白で塗りつぶすか、白い部分を黒い円にコピーするなどして消しています。 昔から使い慣れているのでそのまま使っていますが、このソフトは画像データが大きいとエラーになるなど、時代遅れ的な所もあります。最近はGIMPというフリーソフトを使っています(2023.10.28.加筆)。 私は使ったことはありませんが、Pixiaにも64bit版がありますし、他にもいろんなフリーのお絵描きソフト(ペイントソフト)があります。 Windowsについている「ペイント」でも、背景をコピーすることで消す事ができます。

 上が写真②から円を消した写真です(これを「写真③」とします)。 これと写真①とを合成します。 合成もいろいろなソフトで可能でしょうが、私は JTrim というフリーの画像編集ソフトを使っています(ソフトの名前は「JPGファイル(画像ファイル)をトリミング」からでしょうか)。 このソフトの「編集 > 合成(暗い画素優先)」で合成(作業①)したのが下です。

 これで一応写真①に目盛を入れることができました。 しかし目盛そのものを写し込むのは、少し野暮ったいですし、もっと高倍率になると目盛が大きく写りすぎる問題が起こります(後に書きます)。 そこで ・・・

 お絵描きソフトを使って、写真③に「0.5mm」の文字と線を書き加えたのが上です。 この後、対物ミクロメーターの目盛をお絵かきソフトを使って消してしまったのが下です。

 上の写真(これを「写真④」とします)と写真①を合成すると下のようになります。

 これで完成です。 なお、写真④を保存しておくと、同じ倍率で撮影した他の写真にも使えます。 つまり、同じ倍率での撮影なら、もう対物ミクロメーターは不要ということになります。

 もうひとつ、もう少し倍率の高い場合の例を下に載せておきます。

 上はツクシハリガネゴケの葉身細胞の写真(写真⑤)です。 下は上と同じ条件で撮った対物ミクロメーターの目盛(写真⑥)です。

 写真⑤と⑥を黒い画素優先で合成すると、下のようになります。

 これでは目盛が邪魔ですね。 そこで ・・・

 上は写真⑥に赤い楕円の部分を書き加えた写真です。 この後、対物ミクロメーターの目盛を消し去ると下のようになります。

 上(写真⑦)と写真⑤とを黒い画素優先で合成したのが下です。

 これで完成です。 写真⑦は同じ倍率で撮った他の写真にも使えます。

 以上で具体例は終わりにしますが、最後に接眼ミクロメーターを使った試料の教科書的な長さの測り方も簡単に書いておきます。

 まず光学顕微鏡の原理を少し・・・。 光学顕微鏡は対物レンズでできる実像を接眼レンズでさらに拡大した虚像を見ることになります。 この原理からも分かるように、対物レンズでできる実像は接眼レンズの中にできます。 この接眼レンズの実像のできる位置に、もうひとつ別の目盛(これを「接眼ミクロメーター」と言います)を入れてやれば、実像と接眼ミクロメーターの目盛とが重なって見えることになります。
 あちこちに載せられている顕微鏡写真で、中央に細い目盛が写っていることがよくありますが、これは接眼ミクロメーターの目盛です。 接眼レンズに接眼ミクロメーターを入れておけば、必ずくっきりと接眼ミクロメーターの目盛が見えますし、写真に撮れば写ります。
 この接眼ミクロメーターの目盛には、10,20,・・・の数字が刻んでありますが、上の原理からも分かると思いますが、これは実際の長さとは無関係です。 対物レンズの倍率を変えても、接眼ミクロメーターの目盛の見え方は変わりません。
 光学顕微鏡下で試料の長さは、教科書的には次のようにして測定します。 実際の長さが刻まれている対物ミクロメーターで接眼ミクロメーターの1目盛の長さ(倍率が変われば変わります)を調べておき、同じ倍率で、その接眼ミクロメーターの目盛で試料を測定します。

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