2022-07-29

ヤマトクサリゴケ

 上の写真、岩上で複数のコケが混生していますが、一番多く写っているのはヤマトクサリゴケ Cheilolejeunea nipponica だと思います。 背片は円形に近い形をしています。

 上は腹面から撮っています。 背片、腹片、腹葉が確認できます。 赤い矢印は花被です。


 上は腹面から背片にピントを合わせています。 腹片は背片の 1/2~2/3の長さです。 腹葉はピントが合っておらず、ほとんど分かりません。

 上は腹片の第2歯牙とその周辺の様子です。

 腹葉は茎径の2~3倍幅で、約 2/5まで2裂しています(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 油体は各細胞に1~2個で、楕円体、ブドウ房状ですが、2個の場合は片方が小さくなっていました。

(2022.7.13. 大阪府高槻市 摂津峡)

◎ ヤマトクサリゴケはこちらにも載せています。

2022-07-27

ヤマトフデゴケ

 秋田県の標高約 470m、草刈りされた広い草原の一角で、ウマスギゴケに囲まれて葉の細いコケの群落がありました(上の写真:撮影は 2022.5.31.)。 分離された枝先もありますし、ヤマトフデゴケかと思いましたが、場所が場所ですので、大阪では見ることのできないようなコケかもしれないと、少し持ち帰って調べることにしました。
 以下の観察結果は、やはりヤマトフデゴケ Campylopus japonicus のようでしたが、このブログには過去1回しか登場していませんので(こちら)、載せることにしました。

 上は乾きかけていますが、葉の縮れは見られません。 葉はやや広い基部から針状に伸びています。
 緑色をした葉のすぐ下あたりには、たくさんの仮根が見られるのですが、茎の下部の仮根は失われてしまったり古い葉に隠されたりで、ほとんど目立ちません。

 上は切れた枝先です。 無性生殖に使われるのでしょう。

 葉の下部では中肋は葉の幅の約 1/2を占めています(上の写真)。 翼部の細胞は分化し、大きく薄壁です。

 上は葉の基部から 1/3ほどの所です。ここから上では中肋が葉の幅のほとんどを占めます。

 葉先近くの葉縁には歯があります(上の写真)。 葉先はしばしば透明な芒となります。

 上は基部から 1/7ほどの所の中肋(左)~葉縁(右)の様子です。 葉縁の細胞は細長くなっていますが、舷とは言えません。 縁寄りの細胞は矩形~菱形です。

 平凡社の図鑑には「(この仲間の)分類には中肋の横断切片をつくり,ステライドの有無や位置などを調べる。」とあります。

 上は基部から 1/7ほどの所の葉の横断面で、ステライドは中肋の背面のみにあります。

2022-07-24

造精器をつけたカビゴケ

 5月下旬にカビゴケLeptolejeunea elliptica の胞子体を載せましたが(こちら)、今回は造精器をつけたカビゴケです。 もしカビゴケが年間の決まった時期に胞子散布を行うのなら、胞子散布を終えてしばらく経った今が次の胞子体世代のスタートの時期だと思うのですが、どうなのでしょうか。 熱帯多雨林では葉上苔類は年間を通して胞子体を形成していると聞いたことがあるのですが、日本でのカビゴケのフェノロジーは固定的なのでしょうか。

 上はアラカシの葉についていたカビゴケですが、あちこちの枝の先端に、葉より大きな楕円形のものがついています。 これが雄花序です。 顕微鏡で観察すると・・・


 雄苞葉に守られてたくさんの球形の造精器があります。

 カビゴケは雌雄同株です。 このようにたくさんの造精器があるのですから、造卵器もあるはずだと思い、探したのですが、みつけることはできませんでした。 下の写真のようなものはあちこちにあるのですが・・・

 A・Bのどちらかが造卵器だとうれしいのですが、Aは伸び始めた枝ではないかと思います。 Bはよく分からないのですが、何かの虫の卵ではないかと思います。

(2022.7.20. 京都市左京区大原野村町)

◎ カビゴケの葉についてはこちらに載せています。

2022-07-23

ファージとその医療応用について

 2022.7.22.の読売新聞の「なるほど科学&医療」欄にファージの医療応用についての記事が載せられていました。

 細菌による病気の治療で、多剤耐性菌が問題になっています。 遺伝子の突然変異で、ある抗菌薬が効かなくなった細菌が生き残り、そんなことが繰り返されて、どんな抗菌薬も効かなくなった細菌が出現すると、抗菌薬による治療ができなくなります。 そんな多剤耐性菌対策として注目されているのがファージ療法です。
 ファージは正式にはバクテリオファージ(bacteriophage)と呼ばれているウイルスの1種です。 ファージ(phage)は「食べる」という意味のギリシア語 phagos に由来しますから、バクテリオファージとは「バクテリア(=細菌)を食べる」という意味になります。 このウイルスは細菌にのみ感染しますが、多くの種類があり、それぞれ感染する細菌は決まっています。 ファージは細菌にくっつくと自らのDNAを細菌内に注入し、その遺伝情報に基づき、細菌が持つ酵素などを使って、細菌内にたくさんの新たなファージを作ります。 そしてこれも細菌の細胞内にある物質を使ってファージのDNA情報によって細菌の膜を溶かす「溶菌酵素」を作り、これで細菌の細胞膜を破り(=細菌を殺して)外に出ます。

 ファージの体長は 0.1~0.01μmと、とても小さく、体を作っているタンパク質の立体構造を反映したとてもおもしろい外見をしています。 上は大腸菌に感染するT4というファージの模型で、高槻市にある生命誌研究館からいただいたものです。

 T4ファージは大腸菌にくっつくと、鞘を縮めることで鞘に入っていたスパイクを大腸菌の体に突き刺し、その先からカプシドに入っていたDNAを大腸菌の細胞内に注入します。

 多剤耐性菌に対してだけではなく、腸内細菌のコントロールなど、様々なファージの活用が考えられます。 最近ではファージの溶菌酵素を人工合成することも行われているのですが、日本国内ではファージの研究者が少なく、本格的な創薬に結び付いていないようです。

2022-07-22

蒴をつけたオオミズゴケ


 オオミズゴケ Sphagnum palustre は平凡社の図鑑でも「蒴は稀」とされているのですが、たくさんの胞子体をつけた群落がありました。 この機会に胞子体に関する観察を中心に行いましたが、ミズゴケ科の胞子体は種による違いがほとんどありません。
 ミズゴケ科の胞子体は一見長い蒴柄の先に丸い蒴をつけた苔類の胞子体に似ているようにも見えます。 これはミズゴケ科は蘚類の中でも早くに他のグループから別れており、苔類に近いから・・・ではなくて、

 ミズゴケの胞子体は球形の蒴の部分のみで、蒴柄はありません。 蒴柄のように見えるのは配偶体の組織で、偽足と呼ばれています。
 なお、上の写真を見ても、胞子体をつけている株は、胞子体に栄養分を送ったためか、つけていない株に比較して少し弱々しいイメージがありました。

 偽足の基部には、とても長い雌苞葉が見られます(上の写真のA)。 雌苞葉の長さは、たくさんの葉をつけた枝の長さに相当するほどです。
 上の写真にはまだ偽足が伸びていない若い胞子体も写っています(B)。

 蒴には扁平な蓋があります。 ミズゴケ科の胞子散布時には爆発的に胞子を射出し、蓋はその時に胞子と共に吹き飛ばされます。 上の写真は左が胞子散布後の、右が胞子散布前の蒴です。
  ※ ホソバミズゴケの胞子射出の様子をこちらに載せています。

 上の写真の右のような胞子散布前の胞子体は、透明な薄い膜(組織的には造卵器に由来するカリプトラ)で覆われているのですが、ぴったりと蒴に張り付いてほとんど確認できません。 この薄い膜は、蒴の蓋が容易に外れないように働き、爆発力を高めていると考えられています。
 胞子射出時にはカリプトラの一部も破れて飛び散ります。 胞子を射出して細くなった蒴では、残ったカリプトラは蒴から離れ、上の写真の左のように、乾いて白くなった膜として見ることができます。

 胞子を射出した後の蒴の断面を作成してみました(上の写真)。 断面を見ても蒴と偽足は別組織で、蒴と蒴柄のようなつながりはありません。
 蒴の断面を見ると、胞子は蒴壁と胞子室外壁の二重の壁に守られていたことが分かります。 中央に軸柱があるはずなのですが、胞子が射出される時に蓋と共に飛ばされてしまったようです。

 上は胞子です。

 以上、生殖に関する部分を見てきましたが、このミズゴケがオオミズゴケであることを以下に簡単に確認しておきます。 なお、平凡社の検索表に基づいた本種の他のミズゴケ類との違いをこちらに載せています。

 上は茎の表皮で、螺旋状の肥厚が確認できます。

 上は枝葉を背面から撮っています。 枝葉はボート状に深く凹んでいます。

 上は背面から撮った枝葉の葉先を拡大しています。 葉先付近の透明細胞の背面には小歯状突起が見られます。

 上は枝葉の横断面で、上方が腹面、下方が背面です。 本種の葉緑細胞は横断面で狭二等辺三角形で、底辺は葉の腹面側にあります。

 上は、一部折れ曲がったり破れたりしていますが、茎葉です。 本種の茎葉は舌形で舷は無く、葉先はささくれています。

(2022.7.20. 京都市左京区大原野村町)

2022-07-20

エゾキンモウゴケ

 ブナの樹幹にあった写真のコケ、エゾキンモウゴケ Ulota japonica だと思います。 帽の毛は、雨上がり直後で分かりにくくなってはいますが、少ないようです。

 蜘蛛の糸が目立ちますが、外蒴糸は16本ですが、対になっていて(比較的分かり易い所を赤い円で示しました)、8本のように見えます。

 上の写真の葉の長さは約 3.5mmですが、特に大きな葉を選んで撮っています。 葉の基部はカラフトキンモウゴケのようには広がっていません。

 上は葉の基部です。 葉の基部の縁には数列の透明な細胞があり、その細胞の細胞壁は縦方向が薄く横方向が厚くなっているのは Ulota(キンモウゴケ属)の特徴です。

 上は葉身細胞です。

 葉身細胞を拡大するとパビラの存在が確認できました。

(2022.5.31. 秋田県由利本荘市 標高約 470m)

◎ エゾキンモウゴケはこちらにも載せています。

2022-07-17

クモノスシダ

 

 写真はクモノスシダ Asplenium ruprechtii です。 石垣で育っていました。 石灰岩地に多いシダで、石垣の目地に使われているセメントが関係しているのかもしれません。

 若い株の葉身は楕円形ですが、株が充実ししてくると葉先が漸尖して細長く伸び、その先に芽をつけます。 和名はそのようにして次々と無性生殖で広がる様子を蜘蛛の巣に見立てたところからでしょう。

 上は葉の裏です。 胞子のう群は葉裏の主軸から斜めに外側に細長く伸び、薄い包膜があるのですが、上の写真では胞子のうが弾けて広がり、分かりにくくなっています。

(2022.7.13. 大阪府高槻市 摂津峡)

2022-07-16

ホソオカムラゴケ

 セメント製の塀の上にホソオカムラゴケ Okamuraea brachydictyon がありました。 枝先近くに、細い芽状の無性芽をたくさんつけています。 前日の雨で葉はよく開いています。
 平凡社には樹木に着生するとありますが、私が見たのはいずれもコンクリート上でした。

 枝ぶりがわかるようにほぐしてみました(上の写真)。 茎は這い、そこから斜上する枝をたくさん出しています。 葉は丸くついています。

 無性芽を拡大してみました(上の写真)。 無性芽には小さな葉がたくさんついています。 上は乾いた状態で、葉は枝に接していますが、縮れてはいません。

 上は枝葉です。 中肋は葉の中部以上に達しています。

 上は葉先です。 葉先は比較的長く伸びていますが、単細胞列にはなっていません。 細胞は下の葉の中央部の細胞に比較すると細長くなっています。

 上は葉の中央付近の細胞です。 細胞は楕円状六角形~長い菱形で、多少厚角です。

 上は葉の基部です。 翼部ははっきりしませんが、細胞は方形です。

(2022.7.13. 大阪府高槻市 摂津峡)

◎ ホソオカムラゴケはこちらにも載せています。