2021-05-30

カシワノミゾウムシ

 蚤のような小さな甲虫でゾウの鼻のような長い口吻を持つノミゾウムシ、これらの仲間には、幼虫が葉に潜って葉肉組織を食べて育つリーフマイナーが多くいます。 カシワノミゾウムシ Orchestes koltzei もそのうちの1種で、幼虫はカシワ、コナラ、クヌギ、アベマキなどの、落葉性のブナ科の新葉の先端に潜って育ちます。
 以下は Part1の 2013年の4月8日と5月29日に載せた記事に若干の補足を加え、 2013.4.1.~5.30.に行った観察結果をまとめなおしたものです。



 4月1日、クヌギでメスがオスを載せているカシワノミゾウムシをたくさん見かけました(上の写真:奈良県馬見丘陵公園)。 単独のものもいましたが、ペアになっているものの方が多いようでした。
 ここでは3組の写真を載せましたが、 いずれも交尾はしていません。 産卵に適した時期を待っているのでしょうか。

 近くにはムネスジノミゾウムシもいました(上の写真)。 この幼虫も同様に潜葉性です。

 上は5月5日に堺自然ふれあいの森でコナラの葉を陽の光に透かして撮った写真ですが、幼虫が見えます。 カシワノミゾウムシの幼虫である確証はありませんが、可能性は高いと思います。
 カシワノミゾウムシの幼虫の様子は、おちゃたてむしさんのブログに良い写真が載せられています。

こちらにはケヤキの葉で見た潜葉性の幼虫を載せています(2013.4.23.大阪城公園にて撮影)。 アカアシノミゾウムシの幼虫だと思われます。

 5月16日に4月1日と同じクヌギとコナラが混じった場所を見に行くと・・・

 先端付近の葉肉が食べられた葉をたくさんつけているコナラがありました(上の写真)。

 葉を陽の光に透かしてみると、円い部屋が作られていて、その中に蛹らしきものが見えます(上の写真)。


 上は葉を破って取り出した蛹で、1枚目が背側、2枚目が腹側です。

 写真を撮っていると、オオシワアリが寄ってきて蛹を運ぼうとしだしました(上の写真)。 動けない蛹はアリの格好の餌となり、そうならないように、葉の中に蛹の部屋を作るのでしょう。


 5月30日、5月5日と同じ場所に行ってみると、蛹がいたはずの円い部屋が破れていました。 捕食者に破られた可能性もありますが、破れ方から見て、たぶん無事に羽化したのでしょう。

2021-05-29

フチナシイボクチキゴケ

 岩上を這う糸くずのようなコケ、拡大して見ると・・・

 外見はクチキゴケに似ているのですが、色が濃く、触ってみると厚く硬い感じがします。 以下の観察結果から、フチナシイボクチキゴケ Odontoschisma pseudogrosseverrucosum と判断しました。
 従来イボクチキゴケとされていた日本の標本の大半が本種なのですが、Odontoschisma(クチキゴケ属)の世界的な分類学的再検討が Gradstein & Ilkiu-Borges(2015)により行われ、従来のイボクチキゴケの学名 Odontoschisma grosseverrucosumフチドリイボクチキゴケの学名となっています(片桐・古木,2015)。

 枝につく葉は次第に大きくなったり小さくなったりで、枝の一部は鞭状になっています。

 葉は全縁です。 葉身はほぼ平らですが、縁はやや内曲ぎみのため、上の写真では色濃くみえています。

 葉身細胞は縦横ほぼ同径で 10~20μmです。 トリゴンは小さく、油体は丸~楕円体で、各細胞に2~4個あります。 上の写真の葉の縁を見ると、細胞の外側にもこもこしたものがあって・・・

 上は葉身細胞にピントの合った状態から、ピントの合う位置を少し上にずらした写真です。 葉縁だけではなく、葉の中央部でも葉身細胞を覆うように透明な丸いものがびっしりとあるようです。 平凡社の図鑑の検索表では本種の葉身細胞の表面には著しいベルカがあることになっていますが、少なくとも上の写真のものはベルカと呼ぶには大きすぎるように思います。
 表面からでは、どうなっているのかよく分からないので、葉の断面を作ってみました。


 上の2枚は葉の断面です。 背面も腹面も、葉全体が透明なものに厚く覆われています。 この透明なものは巨大なパピラがひしめきあっている状態と理解すべきなのでしょうか。

 腹葉は痕跡的です(上の写真)。

 上は鞭状になった枝の一部です。 葉(側葉)は腹葉とあまり変わらない大きさになっています。

(2021.5.24. 奈良県宇陀市)

こちらには花被をつけ赤っぽくなったフチナシイボクチキゴケを載せています。

【参考文献】
片桐知之・古木達郎(2015).日本産タイ類・ツノゴケ類学名情報1.クチキゴケ属Odonto-
schisma.蘚苔類研究11(5).

2021-05-28

トキソウ



  兵庫県西宮市の甲山湿原観察園でトキソウ Pogonia japonica が咲いていました(撮影:2021.5.28.)。 近寄れないので、他の植物の葉が邪魔をして、写真としてはよくありませんが、鉢で育てられていないトキソウは大阪付近では貴重です。
 トキソウは湿地に育つラン科の多年草で、和名は花の色が鳥のトキの翼の色に似ていることに由来します。

 かつて六甲山系には、土砂崩れなどで表土が流出し、不透水層の上にできた多くの湿原がありましたが、これらの湿原は山地の整備や開発などによって減少しています。
 六甲山系の東端に位置する甲山周辺には、大小合わせて5ヶ所の湿原がありますが、これらは生物保護地として一般の立ち入りを禁止する一方、一般の人が観察できるようにと、湿原の一部は甲山湿原観察園として整備されています。



2021-05-27

アオシノブゴケ

 

 岩上で数種類のコケが混生していました(2021.5.23. 奈良県宇陀市)。 上の写真はその一部で、たくさん写っているのは(ハネムクムクゴケではなく)ムクムクゴケと、アオシノブゴケです。
 以下はアオシノブゴケ Thuidium pristocalyx の観察結果です。

 上は背面から、下は腹面からの撮影です。

 茎は2回羽状に分枝しています。 茎葉は重なって茎に接しているため分かりにくいのですが、長さは 1.5mmほどです。

 上は茎葉です。 葉先は透明尖になっていません。

 上は茎葉の葉先で、先端の細胞は鈍頭で、上の写真では3個のパピラがあります。

 上は茎葉の葉身細胞で、先がいくつかに分かれた大きなパピラがあります。


 上の2枚は枝葉です。 各細胞には1~数個のパピラがあります。 特に葉先の細胞には数個の小さなパピラがあるケースが多いようです(2枚目の赤い矢印)。

 上は毛葉で、パピラは腔上にあります。

◎ アオシノブゴケはこちらこちらにも載せています。

2021-05-26

交尾中のニホンベニコメツキ

 


 写真は交尾中のニホンベニコメツキ Denticollis nipponensis (コメツキムシ科)だと思います。 上に乗っているのがオス、下がメスで、触角の形が異なります。
 同属のミヤマベニコメツキ D. miniatus とはとてもよく似ていますが、本種の前胸部には中央を横切る凹溝が無く、頭部には1対の褐色班があります。 なお、本種の前翅の会合部は黒いことが多いのですが、上の写真では、この黒い線は見られません。

 赤い上翅の甲虫は、ベニボタル科のベニボタル、アカハネムシ科のアカハネムシ、ヒラタムシ科のベニヒラタムシ、カミキリムシ科のアカハナカミキリなど、様々な科で見られます。 これは、ベニボタルやアカハネムシの仲間は体に毒を持っていて、警戒色として目立つ赤い上翅を持っていますが、それらへの擬態が身を守ることに役立っていると考えられます。

(2021.4.30. 明治の森箕面国定公園)

2021-05-24

コウヤノマンネングサの新しい二次茎

 

 コウヤノマンネングサ Climacium japonicum の新しい二次茎が枝を広げはじめていました。 色の違いで新旧の交代がよく分かります。

 本種の二次茎は上部が湾曲して頭を垂れるような姿になり、そこからたくさんの枝を出し、結果的に二次茎の先は枝と見分けがつきにくくなるのですが、この時期は枝が十分伸びておらず、二次茎との区別が容易です。
 なお、本種によく似たフロウソウの二次茎はまっすぐ上に伸び、茎頂近くから放射状にたくさんの枝を出し、本種に似た姿になります。

(2021.5.24. 奈良県宇陀市)

2021-05-22

キヘチマゴケ

 上は土の斜面に生えていたヘチマゴケの仲間ですが、平凡社の図鑑には「(ヘチマゴケ属の)分類は容易でない。」と書かれています。
 平凡社の図鑑(2001年)より後に書かれている秋山・山口(2008)によると、写真のコケはキヘチマゴケ Pohlia annotina になると思います。 なおこの論文では、平凡社の図鑑のキヘチマゴケにあてられていた学名は、コンペイヘチマゴケ(新称)の学名となっています。 また、ケヘチマゴケとキヘチマゴケが同種か別種かは今後解明すべき疑問とされています。

 茎の長さは1cmに満たず、葉の長さは1mmほどです。 葉は乾いてもあまり縮れていません。


 上の2枚は葉とその先端部です。 葉は披針形で、葉縁に舷はなく、上部には小歯があり、葉の基部は茎に下延しています。

 葉身細胞は線状六角形~線形で、長さは 60~95μmです(上の写真)。

 蒴は洋梨形です。 僧帽型の帽は薄い膜状で、嘴があります。 頸には白い小さな斑紋がありますが、気孔に関係するのでしょうか。

 上は蒴の頸部の表面の顕微鏡写真で、たくさんの気孔が見られます。

 蒴が若いために蓋を外すことが難しく、蒴歯の観察はきっちりできませんでした。 上はカバーグラスの上から叩いてできた蓋と壺の隙間から蒴歯を見ています。 外蒴歯には細かいパピラがあり、内蒴歯も存在は確認できますが、詳細は観察できませんでした。

 上は無性芽で、おしぼり状です。 1~2枚目の写真を見ても、無性芽はほとんど目立ちませんが、観察している下には、たくさんの無性芽が落ちていました。
 上の写真では色がはっきりしませんが、無性芽は緑色でした。 この無性芽は古い標本では黄色味を帯びるようで、和名はそのことから来ているのだろうと思います(この仲間の分類には無性芽の特徴が大切です)。

(2021.4.20. 京都府相楽郡精華町)

【参考文献】
秋山弘之,山口 富美夫(2008):無性芽を有するヘチマゴケ属(ハリガネゴケ科,蘚類)の研究 1.日本産キヘチマゴケとその近縁種の再検討.蘚苔類研究9(9)p.279-290.

◎ キヘチマゴケはこちらにも載せています。

2021-05-21

アトモンサビカミキリ

 

 4月15日、花崗岩上に育つコケ群落にアトモンサビカミキリ Pterolophia granulata がいました。 カメラを近づけると頭部をコケに突っ込んで動きを止め、全く動こうとしません。
 成虫越冬をするカミキリで、動き出したものの、まだ活発な動きができない気温で、本能的にじっとしているのが身を守る手段なのかもしれません。 木の幹や枯れ木などにいるカミキリムシで、そのような場所では、じっとしていれば、体の色や模様が保護色になるのですが、コケの上ではよく目立ちます。

 どうにかして顔を撮りたいと周囲のコケを抑えようとして少し体に触れてしまったとたん、下に落ちてしまい、探しても草に紛れてみつけられませんでした。
 コケを観察するつもりで近づいてカミキリをみつけたのですが、落ちたカミキリを探す方に集中してしまい、コケのサンプリングをしていませんでした。 写真で見ると、ハイゴケ科やアオギヌゴケ科など、何種類かのコケが混生しているようです。

(2021.4.15. )

◎ アトモンサビカミキリはこちらにも載せています。


2021-05-20

イタドリマダラキジラミ

 

 金剛山の山麓、たくさんあるイタドリを見ていると、イタドリハムシコブヒゲボソゾウムシなと、葉にいるいろんな虫が目につきます。 そんな虫たちを見ていると、茶色い小さな粒が、葉の上のあちこちにあります(下の写真)。 最初は針葉樹の開花しないままに落ちた雄花序かなと思っていました。 念のためにルーペで覗こうとすると、動き出しました。 それがイタドリマダラキジラミとの出会いでした。 下の写真には4頭(うち2頭は交尾中)のイタドリマダラキジラミがいます。

 イタドリマダラキジラミ Aphalara itadori は、体長は翅端までオスで2.5mmほど、メスで3mmほどで、前翅に暗褐色の帯模様があり、イタドリの汁を餌としています。

 以前載せたカシトガリキジラミの交尾もそうでしたが、どうやらキジラミの交尾は横に並ぶようにして行うことが多いようです。 2枚目の写真の交尾中のものもそうでしたが、イタドリマダラキジラミの場合も、雄と雌が横に並んで行っていました。 上の写真でもそうですし、下の写真では、左は単独ですが、右と中央で2頭が並んで交尾しています。

 イギリスでは、シーボルトにより日本(長崎)から持ち込まれたイタドリが、当初は観賞用として歓迎されたのですが、野生化し、旺盛な繁殖力を示すようになりました。 このイタドリの猛威に対処するさまざまな方法が検討された結果、イタドリマダラキジラミはイタドリ以外の植物には害を与えないとして、2009年頃から生物農薬として導入されているそうです。

◎ 上は 2013.5.21.に金剛山で撮影し、Part1の 2013.5.25.に載せていた記事を、こちらに引っ越しさせたものです。