2021-10-31

タニゴケ

 

 渓流脇の岩上でタニゴケ Brachythecium rivulare が蒴をつけていました。

 茎は這い、所々鞭枝を出しています(上の写真の赤い矢印)。

 葉の大きさには、かなりの差異があります。


 葉は卵形で深く凹んでいるため、カバーグラスで押さえるとしわになってしまいます(上の写真)。 葉先は短く鋭く尖っています。 基部の両翼は広く茎に下延し、下延部の細胞は大きく、明瞭な区画を作っていますが、この部分を完全な形で茎から切り離すのは至難の業です。 中肋は葉長の 2/3ほどの長さです。

 上は葉身細胞です。

 蒴柄は赤く、上の写真の蒴柄を真っ直ぐにして長さを測定すると、1,8cmになりました。 平凡社では2cmとなっています。

 蒴柄は全面にパピラがあります(上の写真)。

(2021.7.6. 長野県 蓼科)

◎ タニゴケはこちらにも載せています。

2021-10-30

苔・こけ・コケ展 2021

 京都府立植物園で開催される恒例の「苔・こけ・コケ展」(通称「京都コケ展」)、昨年はコロナの影響で各人が植物園内を自由に回る形になりましたが、今年は会場を使って開催できそうです。
 その会場で展示予定の写真を植物園に送り終えました。 今年は顕微鏡写真などではなく、植物園内でコケをルーペで観察する際の参考になるような写真を揃えました。 写真は会場で見てのお楽しみということで・・・。 


 

2021-10-29

シマヤバネゴケ

 

 湿岩上で蒴柄を長く伸ばした写真のコケ、まだ蒴柄の伸びていない胞子体もあれば、既に胞子を飛散し終えて倒れてしまった蒴柄もたくさんあります(撮影:2021.10.7. 北八ヶ岳)。

 葉は茎に横~斜めについています。 茎の幅が 0.2~0.3mmほどであるのに対し、葉の幅は 0.5~0.7mmほどあります。 葉の長さは 0.5~0.8mmほどです。

 上は仮根が出ている所が写っていますが、腹葉が無いことを示すために撮った写真です。

 上の写真には4裂した蒴が写っています。 蒴の裂片には多くの弾糸がくっついて残っています。

 上は4裂した蒴の顕微鏡写真です。


 上の2枚は胞子と弾糸です。

 花被は茎に頂生し、紡錘形です(上の写真)。 雌苞葉はいくつかに裂かれています。

 上は花被の口部で、長毛状になっています。

 上は雌苞葉です。 雌苞葉は葉よりかなり長く、上の場合は2裂した裂片がさらに2裂しています。

 上は葉です。 1/2ほどV字形に2裂しており、やや腹側部が大きくなっています。 裂片は鋭頭です。 葉の背縁基部が下延している様子は見られません。

 葉身細胞は方形~五角形的なものが多く、薄壁で、トリゴンはありません(上の写真)。 油体ははっきりしません。

 上は葉を横から見ています。 葉身細胞の表面は平滑です。

 以上の観察結果から、植物体の大きさや葉の形は異なるものの、花被や蒴、細胞の様子などはオタルヤバネゴケによく似ていると思いました。 そこで、Cephalozia(ヤバネゴケ属)だろうと、平凡社のヤバネゴケ属の検索表をたどると、シマヤバネゴケになりそうなのですが、分布は紀伊半島以西となっており、種別の解説もありません。
 紀伊半島以西に分布するコケが北八ヶ岳の標高2000mほどの所には無いだろうと思いながらも、念のためにとネットで検索しても、学名で検索すると画像が1枚ヒットしただけです。 他に観察したようなコケもみつけられず、樋口・古木の「八ヶ岳の蘚苔類チェックリスト」(2018)に載せられているヤバネゴケ科のコケを徹底的に調べるしかないかな、と思いながらリストを見ると、なんとオタルヤバネゴケと並んでシマヤバネゴケ Cephalozia hamatiloba が載っているではありませんか!

2021-10-28

タンジーに来ていたネッタイヒメクロメバエ

 


 体長は 3.5mmほどしかありませんが眼の色が美しいハエ目の昆虫、ネッタイヒメクロメバエ Spathulina acroleuca のメスだと思うのですが、九州・沖縄の昆虫が詳しい「増補改訂版 昆虫の図鑑 採集と標本の作り方」(南方新社)では、翅の模様は一致するものの、分布は九州~四国となっていて、「体は黒い」とあります。 分布は温暖化の影響で広がっているとしても、体色は気になります。 ネットで調べると、たくさん出てきますが、みんな写真のような体色で、眼の色は写真のような緑色のもの以外にも、赤いものもたくさん出てきます。
 ミバエの仲間の多くは植物の組織内部に卵を産み、幼虫は周囲の組織を食べて育ちます。 果物などを食べれば害虫となり、放牧地などで有害な植物を食べれば益虫となるわけですが、甚大な被害を与える種もあります。 本種の観察例は多いのですが、生態的なことを書いたものに出会うことはできませんでした。

 上の写真の本種がいる黄色い花はタンジー Tanacetum vulgare です。 キク科の多年草で、ヨーロッパからアジアにかけて分布しています。 日本には変種とされているエゾヨモギギクが北海道に自生しています。

 強い香りがあり、ポプリの材料などとして利用されるほか、染色用ハーブとしても知られています。 また、有毒であるため、虫除けなどにも使われます。 西洋では台所の入口に植えられてアリなどの虫除けとして使用されたり、蚤よけに粉にして撒いたりされているようですが、最初の写真のように花には虫が好んで飛来していました。 上の写真でもツマグロキンバエが来ています。 花は虫に来てもらうために咲くのですから、少なくともハエの仲間に対する毒性は花には無いのかもしれませんね。

(2021.10.21. 兵庫県西宮市 北山緑化植物園)

2021-10-27

マスハイチョウゴケ


 北八ヶ岳の湿岩上に育っていた写真のコケ(2021.10.7.撮影)は・・・

 上は乾いた状態です。 下は上と同じものを湿らせて撮っています。

 植物体は褐色を帯びています。 葉は接在して斜めにつき、長さ 0.5~0.9mm、広く開出して背側に偏向しています。 白っぽい仮根が腹面全面に密生しています。
 下は上をもう少し拡大しています。

 葉は凹面状で、先は2裂し、切れ込み部は弓形のようです。 茎の先端の赤っぽい部分は、とてもゴチャゴャしていて、若い小さな葉に無性芽がついているようです。

 上は茎の先端部分です。 葉が集まって厚くなり、透過光が通らず暗くなっていますが、無性芽は赤っぽい色をしています。

 顕微鏡で観察すると、葉縁にも無性芽がついていました。

 無性芽は葉の細胞と同じ色から、次第に赤褐色になっていくようです。

 上は葉で、裂片は鋭頭です。 腹葉はありませんでした。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは大きく、ベルカなどは観察されませんでした。

 葉身細胞をもう少し拡大しました(上の写真)。 油体は微粒の集合です。

 さてこの苔ですが、このような形の葉は、いろいろな分類群に見られるうえに、このあたりの仲間の分類は大きく変化していて、同定は私にとってはなかなか難しく感じます。
 とりあえずこれまでに観察したものの中で、白っぽい仮根が密生していて葉身細胞のトリゴンが大きいなど、似たものを探すと、フォーリーイチョウゴケが近そうに思えました。 そこで、その近縁種を平凡社の検索表で調べると、アミバゴケ科のマスハイチョウゴケ Barbilophozia sudetica にたどり着きました。 樋口正信・古木達郎による八ヶ岳の蘚苔類チェックリスト(2018年)にも載せられています。
 ただし、この種も分類は大きく変わっています。 平凡社ではツボミゴケ科の Lophozia  sudetica として載せられていて、科も属も変わっています。

2021-10-25

ノビタキ


 ノビタキは本州中部以北で繁殖する夏鳥で、大阪府あたりでは春と秋の渡りの時に見ることができるのですが、秋の方がゆっくり移動するのか、見る機会が多いようです。
 ノビタキのオスの夏羽は頭や背が黒く、翼の白斑が目立ちますが、今の時期は雌雄の区別のはっきりしないものが多いようです。


 ノビタキは森林で暮らす鳥ではないので、農耕地や河川敷など、開けた所で見ることができます。 餌は昆虫類が主です。
 写真のノビタキのとまっている柵の下は、少し荒れ気味の芝生です。 ノビタキは地面に虫を見つけると飛び降り、捕食しては柵に戻ることを繰り返していました。 草むらの中にいる虫を探すより、芝生の方が虫を探しやすいのでしょうね。
 下は毛繕いです。

※ 上は 2013.10.26.に大阪狭山市で撮影し、同日の Part1に載せていたものを、こちらに引っ越しさせました。

2021-10-24

イチョウゴケ


 上の2枚は、大きな丸い葉は昨日載せたチャケビラゴケですが、そこに混生している小さな細い葉のコケがイチョウゴケ Tritomaria exsecta です。 なお、イチョウウキゴケにもイチョウゴケという別名がありますので注意が必要です。

 葉の長さは、上の写真では約 0.5mmですが、あまりよく育っていないようで、平凡社では 0.8~1.1mmとなっています。

 上は水に浸して葉を広げ、背面から撮っています。 葉はほぼ横につき、斜めに開出して強く背側に偏向しています。 写真上方の枝先が少し赤くなっていますが、これは後で書きますが、無性芽の色です。
 下は上の一部を拡大しています。

 葉は不等に3裂し、各裂片は鋭頭で、腹側の裂片が著しく大きくなっています。

 上は腹面から撮っています。 腹葉はありません。

 タイ類の分類も、さまざまな手法による研究が進むにつれて、大きく変化しています。 本種も2001年発行の平凡社の図鑑ではツボミゴケ科になっていますが、2017年に発行された湯澤先生の「福島県苔類誌」ではヒシャクゴケ科になっており、片桐らの「日本産タイ類・ツノゴケ類チェックリスト,2018」ではタカネイチョウゴケ科になっています。

 上は枝先付近で、葉の先端には無性芽が作られています。 下は上の一部の拡大です。

 顕微鏡写真では実際の色が分かりにくいのですが、無性芽が赤っぽい色であるのが分かると思います。 本種の無性芽は1~2細胞からなり、赤い色をしています。

 上は葉で、背縁が写真の下に、腹縁が写真の上にきています。

 葉身細胞はトリゴンが小さく、厚壁です(上の写真)。

(2021.10.7. 北八ヶ岳)