2022-08-31

ムツタチゴケ


 札幌市南区の真駒内川に沿った道(こちら)に小形のナミガタタチゴケのようなコケがありました(2022.8.25.撮影)。

 よく見ると、1本の茎の頂付近から複数の胞子体が伸びています(上の写真)。
 ナミガタタチゴケ(以下、ナミガタ)の変種にムツタチゴケ(以下、ムツ) Atrichum undulatum var. gracilisetum があり、北方に多く、基本種(ナミガタ)よりやや小形で、葉はやや幅広く、葉の横じわは弱く、ふつう1茎に2~3本の胞子体が出るとされています。 上の写真はそのようにも見えましたので、持ち帰って確認することにしました。


 ナミガタも環境によって大きさはかなり変化しますが、やはりよく見るナミガタより小形ですし、2~4本の胞子体をつけています。

 ヒメタチゴケ(以下、ヒメ)もナミガタより小形ですが胞子体は1(~2)本のはずで、違うとは思いますが、一応確認を、と思いました。
 (変種のムツを含む)ナミガタは雌雄同株で、ヒメは雌雄異株です。 若い胞子体をつけている株で造精器を探してみたのですが、これはうまく探せませんでした。
 仕方なく、細胞の長さで判断することにしました。

 上は葉のほぼ中央の葉身細胞です。 平凡社によると、同所のナミガタの細胞は 17-25μm、ヒメは 12-18μmとなっていて、上の写真では 20μmを超える細胞がたくさん見られますから、間違いないでしょう。

2022-08-30

エゾオオマルハナバチとセイヨウオオマルハナバチ

 温帯の重要な花粉媒介者であるマルハナバチの仲間は、日本に15種ほどいるといわれています。 北海道の野幌森林公園では、エゾオオマルハナバチとセイヨウオオマルハナバチの両種を比較することができました(2022.8.23.撮影)。 姿も大きさもよく似ていますが、白い毛と黄色の毛の位置がほぼ逆です。


 上の2枚はエゾオオマルハナバチ Bombus hypocrita ssp. sapporoensis です。 オオマルハナバチの亜種で、北海道各地では普通に見られる在来種です。


 上の2枚はセイヨウオオマルハナバチ Bombus terrestris です。 農作物の受粉によく利用されるのですが、逃げ出したものが野生化し、様々な生態系の攪乱を引き起こすとして問題にされ、日本でも特定外来生物に指定されています。

2022-08-29

イボカタウロコゴケ

 上の写真には数種のコケが写っていますが、主に写っているのは、以下の観察結果から、イボカタウロコゴケ Mylia verrucosa だと思います。 これらの仲間は花被が無いと同定が難しく、写真のコケも顕微鏡で確認するまでは(科も異なる)オオホウキゴケかと思っていたのですが、全体のサイズ、油体の数や細胞表面のひび割れ状の模様などのから判断しました。

 撮ったのは札幌の手稲山の中腹で、朽木の上で育っていました(上の写真:2022.8.24.撮影)。

 上は背面から撮っています。 葉は斜めにつき、広く開出して密に重なっています。 葉の長さは2mmを超えています。

 上は腹面から撮っています。 腹面には仮根が密生しています。

 葉は長舌形で全縁、背縁が外曲しています(上の写真)。 ちなみに、よく似たカタウロコゴケの背縁は外曲しません。

 葉身細胞はトリゴンが大きく、油体は各細胞に 10~20個あり、楕円体で微粒の集合です。

 上は細胞の表面にピントを合わせていますので、細胞壁などはぼやけています。 細胞表面にはひび割れ状の模様がたくさん見られます。

 上に、当初はオオホウキゴケかと思ったと書きました。 オオホウキゴケには腹葉がありませんが、本種には線形の小さな腹葉があるはずです。 この腹葉をみつけてやろうといろいろ工夫はしたのですが、腹面に密生する仮根に阻まれ、どうしても確認できませんでした。

こちらには特徴的な花被をつけたイボカタウロコゴケを載せています。

2022-08-27

ハネヒツジゴケ

 上は鳥海山五合目の岩上にあったコケで、蒴についた水滴に惹かれて撮った写真です(2022.6.1.撮影)。 さてこのコケの名前は、と調べると・・・

 植物体は小形で、まだ冬のダメージから回復していないようで、葉は全て昨年のもののようですし、かなり傷んでいます。

 葉は披針形で葉先は細長く尖っています。 中肋は1本で葉長の1/2ほどの所で終わっています(上の写真)。

 葉身細胞は細長く、長さは約 60μmですが、幅は3~5μmしかありません(上の写真)。

 葉の基部では細胞は短く幅広くなっています(上の写真)。


 上の2枚はいずれも蒴の内側から撮っています。 蒴歯は2列で、内蒴歯の基底膜は高く、歯突起に孔があり、間毛は3本ほどです。 外蒴歯は上部にパビラがあります。

 上は蒴柄で、上部にはパビラがあります。
 蒴壁も観察しましたが、気孔をみつけることはできませんでした。

 以上が主な観察結果ですが、葉形や中肋の様子、蒴柄のパピラなどから、ハネヒツジゴケ Brachythecium plumosum ではないかと思いました。 しかしそれにししては小形ですし、蒴壁に気孔が見つけられなかったことが気になります。 悩んだ末、SNSに載せたところ、なんらかの原因で小型になった B. plumosum の一型としておくのが無難だと思うとのコメントをいただきました。 平凡社の図鑑の本種の[ノート]にも、「変異が著しく,多くの変異が記載されている。」と書かれています。

◎ 本種についてはこちらにまとめています。

2022-08-22

ブログをしばらく休みます

  明日から避暑兼コケ観察にでかけますので、ブログはしばらく休みます。
 (2022.8.22.)

 8月26日の夜に札幌から帰ってきました。
 旅行の内容などをこちらにまとめています。


タマガヤツリとヒゲナガヤチバエの関係は?

 

 タマガヤツリ Cyperus difforis は、全体が柔らかい湿地に生えるカヤツリグサ科の1年草です。 花茎の先端には3枚ほどの長い苞葉があり、そこに数個の花序がつきます。

 タマガヤツリの名前は、小穂が玉のような形に集まっているからです。 花序には数cmほどの柄があるものや、ほとんど柄の無いものもあります。

 小穂は咲き始めは淡緑色です、種子が熟すにしたがって暗紫褐色を帯びてきます。 上の写真では種子の熟したものから順に落ちはじめています。

 このタマガヤツリにヒゲナガヤチバエ Sepedon aenescens がいました。

 上の写真では小穂に邪魔されて口吻の全体がはっきり見えていませんが、太い口吻を伸ばしていました。 かなり小穂に執着している様子でしたので、何かを食べているのでしょう。

 写真を撮っていて、誤って飛ばれてしまったのですが、なんと私の手に着地し、口吻を伸ばしていました(上の写真)。 そっとタマガヤツリに乗り移らせて、写真撮影を継続。 そんなに飛翔力が無いのか、タマガヤツリが気に入っているのか、とにかくカメラを近づけても、全く平気です。



 ヒゲナガヤチバエはヤチバエ科に分類されていています。 「ヤチ」とは「谷地」で、ヤチバエ科の幼虫は貝類を餌としています。 ヒゲナガヤチバエの幼虫もヒメモノアラガイなどの淡水産巻貝を食べているようで、成虫も水辺からそんなには離れないようです。
 永冨昭・櫛下町鉦敏「ヒゲナガヤチバエの生活史」(昆蟲33(1)1965)によれば、成虫は貝の死体やアリマキの分泌物などをなめて餌としているとのことですが、今回はタマガヤツリの花序に口吻を伸ばしていました。
 植物が分泌する蜜は昆虫共通のエネルギー源になります。 しかしタマガヤツリは風媒花ですから、蜜は期待できないはずです。 また、タマガヤツリのあちこちにアリマキがいたとは思えません。 いったい何を食べているのでしょうか。 餌になりそうなものといえば、花粉や未熟な種子の液状の胚乳しか思いつきません。 ヒゲナガヤチバエはそんなものも餌にするのでしょうか。

(2013.8.23. 長居植物園)

※ 冬に撮った体色の異なるヒゲナガヤチバエはこちらに載せています。

 ※ 上は Part1の 2013.8.25-26に載せていた記事を、まとめなおしたものです。


2022-08-20

ヒロハヤナギゴケ?

 用水路に流れ込むコンクリート壁についていた写真のコケ、ゴワゴワした手触りで、現地では少し小さいがミズシダゴケかと思ったのですが、葉を調べると違いました。
 ヤナギゴケ科だろうと思いましたが、それ以上進めず、SNSに載せたところ、葉細胞の形とサイズは小型のヤナギゴケ科に特徴的な様子をしているとのコメントをいただきました。
 気を取り直して再度平凡社の検索表と Noguchi1991を見直したところ、Noguchiの Amblystegium radicale と図も解説も比較的よく一致するように思いました。 平凡社では Leptodictyum radicale となっていて、ヒロハヤナギゴケの和名がつけられているのですが、検索表にあるのみで種別の解説はありません。 他に確かめる手段もありませんので、タイトルは「?」付きとしておきます。


 茎は不規則に分枝し、葉を含めた枝の幅は1mmほどです。

 上は茎葉(左)と枝葉(右)です。 茎葉は三角状卵形で長さ約2mm、葉の基部の少し上で最も幅広く、幅は約 0.7mmです。 葉先は細長く伸びています。

 上は葉先です。 まっすぐに伸びてきた中肋は次第に消えています。

 葉身細胞は線状六角形で、長さ 30~50μm、幅は約 10μmです(上の写真)。 下は葉の基部の様子で、上と倍率が異なります。

 葉の基部の細胞は矩形で、長さ約 60μm、幅約 20μmと、葉の中央付近の細胞よりやや大きく、細胞壁も少し厚くなっています。

(2022.6.20. 神戸市北区 道場)

2022-08-18

顕微鏡写真の深度合成(私の方法)

 上は8月16日に載せたリュウキュウミノゴケの葉の基部の写真(再掲)で、深度合成しています。 縦皺もある(=高低差がある)葉で、シャッターを1回押すだけでは、このような写真は、いくら工夫しても撮れないでしょう。 今回は、このような写真をどのように作成したのか、具体的に書いてみます。
 使用したカメラはオリンパスのTG-6で、このカメラはレンズが中央にあるため、顕微鏡の接眼レンズの上にちょこんと載せて撮影できます。
 深度合成は少しずつピントをずらした複数枚の写真を撮り、ピントの合った部分をコンピュータの深度合成ソフトを使ってつなぎ合わせる技法ですが、顕微鏡写真でこれを行うにはカメラにマニュアルフォーカスモードがなければなりません。 TG-5以前のカメラにはマニュアルフォーカスモードが無く、オートフォーカスモードでは、顕微鏡で少しピントをずらしても、カメラでピントを合わせなおすという“いらないお世話”をしてくれるので、ピントがずれません。
 ちょこんと載せるだけて撮影できるのは、三眼鏡筒式または直筒式(こちら)の顕微鏡の場合です。 鏡筒が斜めになっている顕微鏡では、カメラを固定する工夫が必要になります。
 深度合成するためには、顕微鏡の調節ねじを少しずつ動かしてピントの合う場所を少しずつずらして複数枚の写真を撮る必要があります。 この時カメラの位置を動かしてはいけないのですが、シャッターボタンを押す時に、どうしてもカメラを少し動かしてしまいがちです。 少しのずれは深度合成ソフトで補正してくれますが、できるだけカメラを動かさないようにしてシャッターを押すのは、なかなかたいへんです。
 オリンパスはカメラとスマホをつなぐ「Ol.Share」というアプリを作っています。 このアプリは画像転送なども行えますが、リモート撮影つまりカメラに手を触れずに撮影することが可能です。 TG-6は無線LAN機能(Wi-Fi)を持っていますので、スマホにインストールした Ol.Share を起動しておき、TG-6のメニューからスマートフォンと接続します。
 Ol.Shareのリモート撮影機能には、「ライブビューモード」と「ワイヤレスレリーズモード」の2つのモードがあります。 「ライブビューモード」では、スマホ画面でカメラの映像を見ながらカメラの設定もスマホで行い、撮影します。 「ワイヤレスレリーズモード」は、様々な撮影設定はカメラで行い、スマホでレリーズ操作(シャッターを切る操作)を行います。 深度合成では撮影条件が同じ方がいいので、後者のモードで、顕微鏡でピントを少しずつ変え、それをカメラのモニターで確認しながら、カメラには一切触らず、スマホでシャッターを切るという方法がいいようです。
 撮った複数枚の写真を深度合成するにはコンピュータのソフトが必要になります。 性能のいい有料のものもいろいろありますが、私はフリーソフトの「Combine ZP」を使っています。 最初に載せた写真も、以上のようにして深度合成した写真です。


2022-08-16

リュウキュウミノゴケ

 岩上に広がるコケ、以下の観察結果からリュウキュウミノゴケ Macromitrium ferriei と判断しました。

 湿らせるとすぐに葉を広げ、上の写真のようになります。 葉は披針形で、まっすぐに伸びるか反り返っています。


 枝葉は長さ 1.5~2.5mmで、やや竜骨状になっています(上の2枚)。

 上は葉先で、中肋は葉先近くに達しています。 葉身細胞は四角形~六角形で、長さは 10μm以下です。

 上は葉の基部です。

 上は葉のほぼ中央の葉身細胞です。 長さは 6.5~10μmで、3~5個のパピラがあり、細胞の輪郭は分かりにくくなっています。
 よく似たケミノゴケの細胞は 10~13μmと本種より少し大きく、細胞の輪郭は明瞭です。

(2022.6.20. 神戸市 道場)

こちらには蒴をつけた本種を載せています。

2022-08-14

シダレゴケ

 

 岩上で育っていた写真のコケ、平凡社の図鑑(2001)ではソリシダレゴケ となっていますが、鈴木(2016)の「A Revised New Catalog of the Mosses of Japan」ではシダレゴケ Chrysocladium retrorsum となっています。

 植物体は長いひも状で不規則な羽状に分枝し、古くなった所は褐色~黒褐色になっています。 乾くと枝は上の写真のように湾曲します。


 上の2枚は緑色をした枝の中ほどの葉です。 葉は広卵形で先は漸尖し多くの葉で毛状になっています。 葉の基部の両翼は耳状で、全周に歯があります。 中肋は1本で、細く、皺に紛れて分かりにくいのですが、中部にまで伸びています。
 本種は前にも載せています(こちら)。 その時のものに比較すると、今回の方が枝も太く、よく育っているようですが、葉を比較すると、葉縁の波打ちも少なく、荒々しい印象が少なくなっています。

 葉身細胞は長い菱形で、中央に1個の鋭いパピラがあります(上の写真)。

 下は枝分かれしたすぐ近くの枝葉と、その葉身細胞(場所は上とほぼ同じ所)です。 葉はより荒々しさが少なくなり、パビラの高さも低くなっているようです。


(2022.6.8. 神戸市 道場)