上は潜葉虫に潜られた跡のあるオオジャゴケ Conocephalum orientalis です。 潜葉虫は既に羽化した後のようで、潜っていた昆虫の正体は分かりません。
オオジャゴケを含む葉状体苔類は、ハモグリバエ科、シギアブ科、フショクバエ科などのハエ目の幼虫に潜られることが分かってきています。
特にハモグリバエ科については研究が進んでいて、加藤ら(2022)によれば、葉状体を作るコケから羽化する潜葉虫を調べたところ、苔類から36 種、ツノゴケから3 種、合計39 種のハモグリバエの羽化が確認されています。 これらの種の多くは新種でしたが、寄主特異性がきわめて高く、13種はジャゴケ属を利用していたとのことです。
葉状苔類には多様なハモグリバエ類が寄生していて、それぞれが非常に高い寄主特異性を持っているという事実は、チョウやガ、ハムシ、ハバチなどで見られるような、維管束食物の上で起こった食植性昆虫の多様化が、コケの上でも起こったということを示唆しています(加藤ら,2022)。
食植性昆虫の多様化は、植物は食べられないようにと毒性を高め、昆虫はその毒の解毒能力を高める中で起こる共進化過程と考えられます。 苔類の場合は、油体が存在する意義との関係も興味あるところです。
【文献】
Makoto Kato, Luna Yamamori, Yume Imada:Diversity underfoot of agromyzids (Agromyzidae, Diptera) mining thalli of liverworts and hornworts. ZooKeys 1133 (2022).
2026-04-10
潜葉虫に潜られたオオジャゴケ
2025-12-19
タカオジャゴケ
写真はタカオジャゴケ Conocephalum salebrosum でしょう。 福岡県の古処山で、2025.9.30.に撮影しました。
古処山の標高700m付近から870mの山頂にかけては石灰岩の露頭が多く見られますが、その地帯の斜面には、本種の大きな群落があちこちに見られました。
気室間の溝が浅く、葉状体の表面がのっぺりした印象を受けました。 気室孔はオオジャゴケなどに比較すると、とても小さく感じます。
上は腹面から撮っています。 中肋上に腹鱗片の付属物が並んでいるように見えます。 この部分を拡大すると・・・
円形の付属物のある腹鱗片が2列についています(上の写真)。
上は腹鱗片の付属物です。
上は中肋付近の断面です。 葉緑体を多く持つ細胞は、表皮組織のすぐ下に集中しています。
上は気室孔です。
◎ こちらには本種とオオジャゴケを比較できる写真を載せています。
2025-05-20
マツタケジャゴケの精子の噴出
日本産のジャゴケ属(Conocephalum)は4種からなりますが(こちら)、従来はジャゴケ1種と思われていたように互いによく似ています。 いずれも雌雄異株で、雌株は高く伸びる雌器托をつくり、雄株は小判型の雄器托をつくり、そこから精子を空中に噴出させます。
マツタケジャゴケ Conocephalum toyotae は上記ジャゴケ属4種のうちの1種ですが、このマツタケジャゴケのの精子噴出の様子を道盛正樹氏が動画に記録されましたので、許可を得て下に載せます。
撮影は、栽培されているマツタケジャゴケを用い、2025年の5月中旬に行われました。 庭で撮影されており、噴出した精子が風に乗って飛散する様子が捉えられています。 動画は約2分で、終了近くに映っているアリの動きからも分かるように、撮影の速度は通常です。
◎ こちらにはマツタケジャゴケの体のつくりや若い雌器托の様子などを載せています。
2025-02-27
オオジャゴケ@2月
上は2025.2.12.に兵庫県西宮市の廃線跡にあったオオジャゴケ Conocephalum orientalis です。 雌器托がタケノコのように伸びはじめていました。
雌器托は、葉状体の背面からではなく、葉状体の裂け目の奥から出ています。 また、雌器托の傘の表面にも気室孔があり、葉状体の背面と同じつくりであることがわかります。
断面を作ってみました(上の写真)。 上の写真に葉状体と雌器托の連続性を示す黄色の線と名称を書き加えたのが下です。
下は上の写真から抜け落ちた胞子体です。
上の写真の胞子体の長さは、約 2.3㎜です。
上は蒴の中に入っていた胞子です。
弾糸も、らせん状の肥厚がまだほとんど見られない状態から、らせん模様がはっきり見られるものまで、いろいろな段階のものが見られました。
◎ 雌器托の変化については、雌器托が作られ始めた6月と、上の記事から1カ月半後の3月下旬の様子をこちらに、その後急速に雌器托の柄を伸ばして胞子散布を始めた4月上旬の様子をこちらに載せています。
2024-04-20
ウラベニジャゴケ
従来1種と思われていた日本のジャゴケが現在は4種に分けられていることはこちらに書きました。 今回はその4種のうちのウラベニジャゴケです。
上がウラベニジャゴケ Conocephalum purpureorubrum です(2024.4.12. 京都市 嵐山にて撮影)。 表面にオオジャゴケのような光沢はありません。 気室間の溝が深いのは、上の写真からも分かるでしょう。 色に関しては、本種には関東地方で見られる黒みを帯びた東日本型と、静岡~沖縄で見られる黄色味を帯びた西日本型があり、写真は西日本型です。 西日本型の分布は、本州愛知県以西~四国・九州~沖縄本島北部とのことです。
写真右側の葉状体の中央に黒い筋が生じています。 これは下の組織の色が透けて見えているようですが、オオジャゴケやタカオジャゴケにこのような黒い筋は見られません。
上は腹面です。 冬越しの葉状体は和名のように裏面全体が柴紅色に染まるのですが、西日本型の若い葉状体の裏面は緑色~柴紅色といろいろです。
三日月型の腹鱗片が2列につき、各腹鱗片に1個の円形の付属物があることは、ジャゴケ属に共通の特徴です。
気室を拡大して撮りました(上の写真)。 気室孔とそれを取り囲む白色半透明の組織は、気室の幅の半分よりもずっと小さな径です。
上は葉状体中肋部の断面です。 気室間の溝は深く、粘液洞がよく発達しています。
2024-04-19
タカオジャゴケ
従来1種と思われていた日本のジャゴケが現在は4種に分けられていることはこちらに書きました。 今回はその4種のうちのタカオジャゴケ Conocephalum salebrosum です。
上はオオジャゴケとの混生です(2024.4.12. 京都市 嵐山にて撮影)。 春の新しい葉状体は違いが分かりにくいとのことですが、両種を比較すると、光沢のあるオオジャゴケと光沢の無いタカオジャゴケの違いがよく分かります。 色もオオジャゴケよりも黄色みを帯びた薄い緑色です。
気室の大きさは、オオジャゴケの場合は葉状体の辺縁部では小さく、中央付近で大きいのですが、本種の場合は辺縁部と中央付近とで、気室の大きさがあまり変わりません。
本種は石灰岩の風穴の入り口付近で多く見つかっていて、石灰岩との結びつきが強いようにも思われていましたが、むしろ風穴が作る環境の影響が強いようで、上の写真の場所も石灰岩とは関係の無い場所です。
上は新しく伸びた葉状体の先に近い所の横断面です。 1枚目の写真からは分かりにくいかもしれませんが、葉状体の厚さが薄く、気室孔間の溝もとても浅くなっています。
上の青い線の所が中肋部ですが、この部分の厚さが約 0.5mm、翼部との暑さの差もあまりありません。
上の写真の赤い矢印が気室孔で、白い矢印が気室間の溝ですが、とても浅い溝です。 この溝は翼部では上のような写真ではほとんど分からなくなっています。
上は昨年の葉状体で中肋部の厚くなった所を狙って作った切片です。 中肋部がほんの少し厚くなって粘液洞の存在が確認できるようになりましたが、2枚目の写真と同様、葉状体の厚さが全体的に薄く、気室間の溝はとても浅いものです。
◎ タカオジャゴケはこちらにも載せています。
2022-07-05
マツタケジャゴケ
日本国内で従来ジャゴケとされていたものは4種に分けられています(こちら)。 上はそのうちの1種のマツタケジャゴケ Conocephalum toyotae です。
写真は 2022.7.3.に京都市北区雲ケ畑で採集したものですが、当日は強い雨で、撮っても表面が光るので、現地での写真はありません。 下に書くように、本種は乾燥に弱いようで、冬季に雪で覆われる所に分布します。
ジャゴケ属は、元は1種と思われていたように、4種は互いによく似ていますが、本種のいちばん判り易い特徴は強い松茸臭です。 また肉眼レベルでの特徴を、4種の中では最も普通種であるオオジャゴケと比較すると、気室(“蛇の鱗”)のサイズが小さく、色は黒みがかった緑色で、気室孔の周辺の組織が白い斑として目立ちます。 この白い斑は・・・
白い斑は上のように少し乾き気味の時に一層はっきりするようです。 その理由は下の気室の所で書きます。
葉状体の縁と中央付近との気室の大きさの違いは、オオジャゴケに比較すると少ないようです。
上は腹面から撮っています。 細長い腹鱗片が2列につき、その先につく付属物が円形であることなどはオオジャゴケとよく似ています。
上は葉状体の断面で、写真の上が背面です。 背面は表皮に覆われていますが、ドーム状に膨れている所は気室孔、その下の緑色の濃い部分は皮質層で、その下に海綿状組織(または柔組織、髄質)が続きます。中肋部の海綿状組織を構成する細胞は翼部の細胞より小形です。
腹面には、基物にくっつく仮根と、毛細管現象で水を全体に行き渡らせる仮根の、2種類の仮根があるのですが、断面のため前者は写真にはほとんど写っておらず、後者の束(の断面)が中肋部の下に写っています。 またその左右には1対の腹鱗片が写っています。
以下、これらのいくつかを拡大して観察します。
上は背面の表皮とその下の皮質層と海綿状組織上部です。 オオジャゴケなどでは表皮の細胞壁が厚くなり乾燥を防いでいると考えられますが、本種の表皮の細胞壁はとても薄いものです。 またオオジャゴケなどでは中肋部に粘液洞があり、翼部には粘液細胞が散在していて、これらも耐乾燥性を高めていると考えられますが、本種にはこれらがほとんど存在しません。 これらのことから、本種は冬季の乾燥に雪の下で耐えることしかできず、そのことが分布の重要なファクターになっているのではないかと考えられています。
上は翼部の気室の断面です。 翼部ですので海綿状組織の高さは低くなっています。 ジャゴケ属の気室はアーチ形で、その頂に開いている孔が気室孔です。 気室はガス交換する所と考えられていますが、気体の入っている気室は光を反射し、外から見ると白く見えます。 気室の底面には同化糸が並んでいます。
上は同化糸の拡大です。 本種の同化糸は徳利形をしています。
上は中肋部の海綿状組織です。 細胞は厚角細胞となって強度を保っているようです。
上は皮質層と海綿状組織との境付近です。 皮質層と海綿状組織の上部には油体があるのですが、上の写真では葉緑体に隠されて皮質層の油体は確認できません。 なお、上の写真では油体にピントを合わせていますので、細胞の形はぼやけています。
上は最初の写真の一部ですが、赤い円で囲った所が少し膨れています。 この部分の断面を作ると・・・
小さな雌器托ができていました(上の写真)。
◎ こちらには雄株の雄器托から精子が噴出される様子を載せています。
2022-04-08
オオジャゴケの雌器托と胞子
ジャゴケの仲間はゼニゴケに似た平たい葉状体をもつ苔類です。 葉状体の表面は鱗を並べたような模様がはっきりしていて、その模様をヘビの体表に見立てて名付けられています。
ジャゴケの仲間は雌雄異株です。 雄株は、夏から秋に、葉状体の先端に、精子を入れる小判形の雄器托を作ります(こちら)。 雌株は秋に葉状体の先端に、小さな芽のような雌器托を作ります(こちら)。 秋、雄株から出た精子は雌器托の造卵器中の卵細胞と受精します。
受精卵は細胞分裂を繰り返して胞子体となり、この胞子体の蒴(胞子のう)の中で胞子が作られます。
上はオオジャゴケ Conocephalum orientalis の早春の様子で、胞子体を抱えた雌器托の柄が急激に伸びます。 日本国内にはジャゴケ属が4種分布していますが(こちら)、オオジャゴケの雌器托の柄は特に長く伸びるようです。
上は長く伸びた雌器托を斜め下から撮ったものですが、隙間から黒い楕円体が顔を覗かせています。 これが胞子体の蒴(胞子のう)です。 多くの苔類の胞子体は長い柄(蒴柄)を持っていますが、ジャゴケの胞子体の柄は雌器托の傘の中に短いものがあるだけです。
胞子が熟すと蒴の壁が破れ、胞子が散布されます。 上の写真には、まだ破れていない胞子体も、蒴壁が破れて胞子の散布に役立つ弾糸が見えている状態も、胞子も蒴壁も飛散してしまい蒴壁がめくれあがっている状態も写っています。
ちなみに弾糸は、苔類以外には、シダ植物のトクサ属や真正粘菌類でも見られますが、これらの起源は全て異なっていて、たまたま似た働きをするものを同じ名前で呼んでいるだけです。
上は散布された胞子と弾糸です。 本種の胞子は蒴内で細胞分裂を開始し、散布される頃には他種の多くの胞子に比較してとても大きなサイズになっています(右下のスケールを参考に、他の胞子と比較してみてください)。
(本種の胞子と弾糸はこちらにも載せています。)
※ 上はPart1の 2012.4.13.に載せていた記事を全面的に書き換えています。 前半の2枚の写真は 2010.4.4.の撮影ですが、後半の2枚の写真は 2022.4.3.に採集した雌器托を 4月8日に撮影しました。
2018-03-20
ジャゴケの胞子と弾糸
上の写真の3~4本のらせん肥厚のある細長いものが弾糸で、丸いものが胞子です。
上は弾糸(一部)と胞子の拡大です(深度合成しています)。 胞子の表面には大小の小突起が密生しています。
2018-03-19
ジャゴケの雌器托
上は5日前に高槻市で撮った、まだ雌器托の柄が伸びきっていないジャゴケ(オオジャゴケかな?)です。 柄を切るには適した時期だと思い、断面を作ってみました。
上がその雌器托柄の断面です。 「C」の字が肥厚して中央に孔が空いたように見えますが、この孔が外部とつながっていて外からは溝のように見える所は、実際には腹面(=地面側)になります。 下は上の一部の拡大です。
表皮は孔の縁につながっています。 この孔には仮根が詰まっていたはずです。 孔の中を上下に走る仮根は、薄い断面を作る過程で短い断片となり、抜け落ちてしまったようです。 なぜそんなことが言えるかというと・・・
上はジャゴケの葉状体を腹面から撮っていますが、分かり易くするため、仮根の束を少し写真の下方へ引き下ろしています。 仮根束の一部が雌器托の柄の中へと続いています。
下は上と同じ試料ですが、雌器托の柄の断面を正面から見ています。
「孔」は仮根の束で埋められているのが分かります。
ジャゴケの精細胞はできるだけ広く飛散するためか、時期になれば雄器床から15~20cmほどの高さにまで噴出されるそうですが(見たいものです)、雌株の上またはその近くに落ちた精細胞は、上記の仮根束の毛管現象により、雌器托の傘の裏にある造卵器のすぐ近くにまで運ばれるのでしょう。
もちろん精細胞は長く伸びた雌器托の柄の中を運ばれるわけではありません。 もっと早くに受精は完了しているでしょう。 上で書いたのは、長く伸びた雌器托の柄でも、精細胞が運ばれる道筋を確認できるということです。
なお、このような外部から見える溝につながる仮根束の通る孔は、ゼニゴケ科では2つですが(こちら)、ジャゴケ科ではこれまで見てきたように1つです。
上は雌器托の傘の先端近くの断面です。 胞子体の断面がたくさん見えていますが、白く見えているのが仮根束で、仮根束はここまで続いています。
◎ この胞子体の中にあった胞子と弾糸はこちらに載せています。

















































