2020-11-30

フユザンショウ

 

 上はフユザンショウ Zanthoxylum armatum var. subtrifoliatum です(写真のものは園芸種で斑が入っています)。 関東以西に分布する常緑低木で、サンショウと同じ属に分類されていす。 葉の形は少し異なりますが、サンショウ(山椒)と同じようにトゲがあり、同じように赤い果実をつけます。 しかし葉や実に芳香性が無いため、サンショウのように香辛料として利用さることはありません。 利用されるのはサンショウの接ぎ木の台木としてです。

(2020.11.11. 京都府立植物園)


2020-11-29

造精器をつけたトサホラゴケモドキ

 

 土の斜面にトサホラゴケモドキ Calypogeia tosana が育っていました。 この腹面を見ると・・・

 白い袋状のものが見えました(上の写真)。 これを顕微鏡で(=透過光で)袋の中を透かして観察すると・・・


 丸い造精器がありました。 袋は造精器を保護する苞葉だったようです。

 トサホラゴケモドキは雌雄同株ですので、雌器も探したのですが見つけられませんでした。
 トサホラゴケモドキを含むツキヌキゴケ属では、受精卵から育つ胚はマルスピウム(小袋状体)に保護されて生長します。 上は 2020.11.15.(撮影場所:大阪府富田林市の錦織公園)の様子ですが、受精後間もない段階と思われる12月中旬のマルスピウムをこちらに、この胚が生長した4月中旬の胞子体の様子をこちらに載せています。
 また、トサホラゴケモドキの腹葉や葉身細胞の様子などはこちらこちらに載せています。


2020-11-28

ヒメミズゴケ

 これも北海道から送っていただいたコケで、ヒメミズゴケ Sphagnum fimbriatum だと思います。 トドマツの枯葉の長さが2cmあまりなので、おおよその大きさがわかります。

 大形のミズゴケで、送っていただいたものも茎の高さは 20cmほどあったのですが、細長く繊細で、上はその茎の上部です。

 上は茎の横断面で、表皮細胞は2~3層です。

 上は表皮で、右が茎頂の方向です。 表皮の表面には(0~)1(~2)個の孔があります。

 茎葉は扇形に大きく広がり、総状に裂けています(上の写真)。 茎葉の基部には広い舷があります。

 上は枝葉です。

 上は枝葉背面の中央部で、透明細胞には縁に沿った大きな孔があります。

 上の2枚は枝葉の断面です。 葉緑細胞は台形で、腹面に広く開いています。

◎ ヒメミズゴケはこちらにも載せています。


2020-11-27

ホソミズゴケ

 

 今回も北海道から送っていただいたコケで、上( 2020.11.15.撮影)はウロコミズゴケ節のホソミズゴケ Sphagnum teres のようです。 葉はやや反り返っていますが、ウロコミズゴケほどではありません。

 中形のミズゴケで、大型のウロコミズゴケより細い印象です。

 上は枝葉です。 ウロコミズゴケの枝葉は急に細くなりますが、本種の枝葉は葉先に向かって徐々に狭くなります。

 上は枝葉の腹面の中央付近です。

 枝葉の背面の中央付近を×800で観察したところ、イボミズゴケのように、葉緑細胞と接する透明細胞の側壁面に、多くの細かいパピラがありました(上の写真)。 このパピラは下の枝葉の断面の写真でも見る事ができます。 しかしこのことについては図鑑には書かれておらず、検索してもみつけることはできませんでした。 時期的なものや環境によるものかもしれません。

 上は枝葉の断面です。 葉緑細胞は卵形で、背面に広く、腹面に狭く開いています。

 上は茎葉です。 茎葉は舌形で、中部より下の縁に細い舷があります。

 上は茎葉の上部です。

 上は茎葉の下部で、葉縁に2~3列の舷があります。

 上は茎の横断面です。 表皮細胞は2~3層です。

 上は茎の表皮です。

 上は枝の表皮です。

◎ ホソミズゴケはこちらにも載せています。


2020-11-25

チャミズゴケ

 

 今回も北海道から送っていただいたコケで、チャミズゴケ Sphagnum fuscum だろうと思います。 上は 2020.11.15.の撮影です。

 ミズゴケの仲間としては中形です。

 上は植物体の上部で、開出枝と下垂枝が区別できます。 乾いた状態で撮っていますので、茎の表皮など透明な細胞は空気を含んで反射し、全体が白っぽくなっています。 開出枝の枝葉はやや5列に配列しています。

 上は枝葉です。 枝葉の葉先は狭く、先端に3~4歯があります。

 上は枝葉の中央部を背面から撮っています。 葉緑細胞ははっきりせず、透明細胞には孔があります。

 上は枝葉の中央部の少し葉先寄りを腹面から撮った写真で、右が葉先の方向です。 葉先に近い透明細胞には孔が見られますが、枝葉の中央部(写真の左側)の透明細胞には孔がありません。 葉緑細胞ははっきりしています。
 この枝葉の背面と腹面の見え方の違いを、枝葉の横断面を作って調べてみると・・・

 上は枝葉の断面です。 枝葉が薄く柔らかく、うまく切れなかったので、比較的よく分かる所を2枚連結しました。 葉緑細胞(時期的に緑色はかなり失われています)は台形~三角形で、腹面(写真の上側)に広く開いています。 透明細胞の背面側には、しばしば小さな“部屋”がついていて、表面から見ると、これが孔に見えるのでしょう。

 上の2枚は茎葉で、2枚目は1枚目の赤い四角で囲った部分の拡大です。 茎葉の長さは差異が少ないので、1枚目にはスケールを入れてみました。
 茎葉は広舌形で、先端はささくれています。 舷は細く葉先近くにまで伸び、基部では幅広くなって、茎葉の幅の2/3ほどを占めています。

 上は茎の横断面で、表皮は3~4層です。

 上は表皮です。 表皮細胞の表面に孔はありません。

 上は枝葉を取り去った枝で、写真の中央下や左下にレトルト細胞が写っています。

◎ チャミズゴケはこちらにも載せています。


2020-11-24

ムラサキミズゴケ

 

 写真は、昨日に引き続いて北海道から送っていただいたコケで、ムラサキミズゴケ Sphagnum magellanicum です。 夏はほとんど緑色ですが、多くの場合は秋になると上の写真(2020.11.15.撮影)のように紫紅色がめだつようになり、秋の深まりと共に全体が紫紅色になっていきます。 しかし色の変化の多い種のようで、栄養分の多い所では緑色が残りますし、逆に淡い黄緑色にしかならないケースもあるようです。

 本種はオオミズゴケイボミズゴケなどとともにミズゴケ属ミズゴケ節に分類されています。 これら3種はいずれも大型のミズゴケで、外観もよく似ていて、緑色の時期には外観だけで区別するのは難しい場合も多いようです。

 枝葉はボート状に深く凹んでいます(上の写真)。

 上は顕微鏡で撮った枝葉です。 枝葉は広卵形で、先端は僧帽状になっています。

 上は枝葉の断面で、葉緑細胞は楕円形です。 オオミズゴケやイボミズゴケなど、他のミズゴケ節のコケでは葉緑細胞の一部が表面に現れるのですが、本種の葉緑細胞は透明細胞によって閉じ込められたようになっていて、表面には現れていません

 茎葉は舌形で舷はありません(上の写真)。

 上は茎葉の上部です。 縁は総状に細かく裂けています。

 上は茎の表皮細胞です。 細い螺旋状の肥厚が見られるのはミズゴケ節の特徴です。

 上は茎の断面です。


2020-11-23

ウスベニミズゴケ

 

 許可を得て採集されたミズゴケ数種を北海道から送っていただきました。 上の写真はそのうちの1種で、以下の観察の結果、ウスベニミズゴケ Sphagnum capillifolium var. tenellum ではないかと思います。
 上の写真は現地(北海道)で 2020.11.15.に撮影されたもので、名前のとおり薄紅色ですが、季節が進むともっと濃い紫紅色になっていくのだろうと思います。 ミズゴケ類には赤みを帯びる種も多いのですが、赤みを帯びるか帯びないかも、同定時の重要な特徴の1つになります。

 茎の先付近を拡大してみました(上の写真)。 枝葉は不明瞭に5列に並んでいます。

 ミズゴケの仲間としてはそんなに大きくなく、繊細です。 上は乾いた状態で、白っぽくなっていますが、茎の赤い様子がよく分かります。 この赤い色は・・・

 上は茎の横断面です。 茎の赤い色は透明な表皮細胞をとおして見えている色です。

 気泡がたくさん入ってしまいましたが、上は茎の表皮細胞です。 茎の表皮細胞は長方形で、表面に螺旋状の肥厚は無く、孔もみあたりません。

 上は、基部が割れてしまいましたが、茎葉を腹面から撮っています。 茎葉は二等辺三角形で、舷は狭く葉の上端近くに達し、基部では広がり、葉の幅の1/3~1/2ほどになっています。
 下は上の上端近くを拡大して撮った写真です。

 茎葉の葉先は広く丸みを帯び、歯があります。

 上は茎葉の上端近くを背面から撮っています。 膜壁は背面からの方が明瞭で、糸も見られます。



 上は枝葉です。 枝葉は卵状披針形で、先端に少数の歯があります。

 上は枝葉の上部を背面から撮っています。 3子孔など、多くの孔が見られます。

 上は枝葉の中央部を背面から撮っています。 孔はわずかしかありません。

 上は枝葉の横断面で写真の上方が腹面、下方が背面です。 葉緑細胞は三角形で、腹面に広く開き、背面には狭く開いています。

 上は枝葉を取り去った枝の一部を拡大して撮った写真ですが、写真の中央上にレトルト細胞と呼ばれているフラスコ状の細胞が写っています。 このレトルト細胞の有無や形も種を同定する際の特徴の1つになります。