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2024-07-26

コケ観察に適したルーペは?

 コケは小さな植物です。 小さなコケの小さな違いを見分けるには拡大する必要があります。
 最近はカメラの性能が良くなり、かなり拡大して撮ることのできるカメラもありますが、違いを探しながらいろいろな方向から見るには、やはりルーペが便利です。 ただ単にシャッターを押しても、そのコケの特徴が写っていなかったり、特徴的な場所がピンボケであることはとてもよくあることです。 マクロ撮影するにも、ルーペで観察して撮るべき特徴を見定め、その特徴が分かりやすい方向を決めてから撮影すべきです。

 虫めがね、天眼鏡、ルーペ、みんな同じものですが、ある程度倍率の高いものをルーペと呼ぶ傾向があるようです。 以下、この記事でも倍率の低いものを「虫めがね」、倍率の高いものを「ルーペ」と呼ぶことにします。

 ルーペは基本的には凸レンズの性質を使って拡大する器具です。 

 凸レンズに光軸(レンズの中心と焦点とを結ぶ直線)に平行な光を当てると、光は焦点と呼ばれる1点に集まります(上の図)。この性質を利用して拡大するのですが、焦点は厳密には上の図のように少し幅があります。
 この焦点のずれは、膨らみ方が大きい(「曲率が大きい」と表現します)レンズの方が大きくなります。曲率が大きいレンズの方が大きく拡大できるのですが、そのままでは焦点のずれが大きくなり、像がぼけてしまいます。

 ルーペでは、くっきりした像を得るために、2つの方法を組み合わせています。 1つは、複数のレンズを使って少しずつ拡大することです。 虫めがねに比べてルーペが厚いのは、距離を置いて複数のレンズを使っているからです。 安価なルーペでは2枚の凸レンズを使っていますし、トリプレットレンズは、よりくっきりした像を得るために3枚のレンズを組み合わせています。
 もうひとつは、上の図から分かるように、凸レンズの周辺部からの光は焦点からのずれが大きくなりますから、このレンズの周辺部を切り落とし、中心部だけを使うことです。 高倍率にしようとするほど、多くの部分を切り落とさねばならず、レンズの径は小さくなります。

 小さな穴から広い世界を見るには、目を小さな穴に近づける必要があります。 ルーペを使った観察でも、ルーペの径は小さいので、目に近づけて使うのが基本になります。 さらに言えば、ルーペを持った手を頬(ほお)に押し当てて使えば、ルーペと目の距離が一定に保たれ、観察し易くなります。
 なお、大きい径の方が広い範囲が見えて使いやすいと思う人も多いようで、たしかに倍率も比較的高く、径の大きいルーペも売られています。 これらのルーペを覗くと、視野の周辺ほど像がぼけていて、流れたように見えます。
※ 視野の隅まで像がゆがまずに見えているかのチェックには1mm方眼をルーペで見るのが便利です。

 では、コケ観察には何倍のルーペが適しているのでしょうか。 もちろん倍率が高いほど小さなものが大きく見えます。 しかし倍率が高すぎると、使いこなすのが難しくなります。 まず、倍率が高くなればなるほど、見える範囲は狭くなります。 この“見える範囲”は、面積だけではなく、奥行きも浅くなります。 つまり見たい所にピントを合わせるのが難しくなります。 また、ほんの少しルーペが動くだけで、視野が大きくずれてしまいます。 ルーペの扱いに十分慣れるまでは、10倍程度の倍率のルーペが良いと思います。
※ 日本では倍率は長さで表しますが、中国では面積で表しているようです。 例えば中国製の30倍のルーペは、日本の倍率では 5.4~5.5倍になります。

 最近はLEDライト付きのルーペもたくさん出回っています。 たしかに日の差し込まない渓谷の岩に張り付いたコケを見る時など、自分の頭の影でいっそう暗くなり、ライトの必要性を感じる時もあります。 しかしLEDライト付きのルーペは、電池の重量で本体が重くなりますし、電池交換も面倒です。 充電式もありますが、バッテリーの容量も限られていますし、充電に気を配らねばならず面倒ですし、部品が小さく壊れやすい点も問題です。 また、岩などにくっついているコケの観察などでは、岩に光が反射し、かえって見えづらくなる場合もあります。 価格もライト無しのルーペの方が、その分安くなります。
 これは好みにもよるでしょうが、私はライトが無いものの方が好きで、どうしてもライトが必要な場合に備えて、ルーペとは別に、100均のライトをバックに入れています。

 ルーペを購入する際には、上のようなことを頭に置き、実際にお店に行って手に取って確認するのがいちばんいいのでしょうが、近くにルーペを販売している店が無いなどの人のために、1つだけ、Amazonで購入できるルーペを紹介しておきます。
 トリプレットレンズで倍率10倍のLEDライトのついていないルーペです。無駄な反射を防ぐためのマットブラック塗装をしています。(グランクラフト、¥2,680-)

 上の写真をクリックすると、Amazonに移動します。


2022-08-18

顕微鏡写真の深度合成(私の方法)

 上は8月16日に載せたリュウキュウミノゴケの葉の基部の写真(再掲)で、深度合成しています。 縦皺もある(=高低差がある)葉で、シャッターを1回押すだけでは、このような写真は、いくら工夫しても撮れないでしょう。 今回は、このような写真をどのように作成したのか、具体的に書いてみます。
 使用したカメラはオリンパスのTG-6で、このカメラはレンズが中央にあるため、顕微鏡の接眼レンズの上にちょこんと載せて撮影できます。
 深度合成は少しずつピントをずらした複数枚の写真を撮り、ピントの合った部分をコンピュータの深度合成ソフトを使ってつなぎ合わせる技法ですが、顕微鏡写真でこれを行うにはカメラにマニュアルフォーカスモードがなければなりません。 TG-5以前のカメラにはマニュアルフォーカスモードが無く、オートフォーカスモードでは、顕微鏡で少しピントをずらしても、カメラでピントを合わせなおすという“いらないお世話”をしてくれるので、ピントがずれません。
 ちょこんと載せるだけて撮影できるのは、三眼鏡筒式または直筒式(こちら)の顕微鏡の場合です。 鏡筒が斜めになっている顕微鏡では、カメラを固定する工夫が必要になります。
 深度合成するためには、顕微鏡の調節ねじを少しずつ動かしてピントの合う場所を少しずつずらして複数枚の写真を撮る必要があります。 この時カメラの位置を動かしてはいけないのですが、シャッターボタンを押す時に、どうしてもカメラを少し動かしてしまいがちです。 少しのずれは深度合成ソフトで補正してくれますが、できるだけカメラを動かさないようにしてシャッターを押すのは、なかなかたいへんです。
 オリンパスはカメラとスマホをつなぐ「Ol.Share」というアプリを作っています。 このアプリは画像転送なども行えますが、リモート撮影つまりカメラに手を触れずに撮影することが可能です。 TG-6は無線LAN機能(Wi-Fi)を持っていますので、スマホにインストールした Ol.Share を起動しておき、TG-6のメニューからスマートフォンと接続します。
 Ol.Shareのリモート撮影機能には、「ライブビューモード」と「ワイヤレスレリーズモード」の2つのモードがあります。 「ライブビューモード」では、スマホ画面でカメラの映像を見ながらカメラの設定もスマホで行い、撮影します。 「ワイヤレスレリーズモード」は、様々な撮影設定はカメラで行い、スマホでレリーズ操作(シャッターを切る操作)を行います。 深度合成では撮影条件が同じ方がいいので、後者のモードで、顕微鏡でピントを少しずつ変え、それをカメラのモニターで確認しながら、カメラには一切触らず、スマホでシャッターを切るという方法がいいようです。
 撮った複数枚の写真を深度合成するにはコンピュータのソフトが必要になります。 性能のいい有料のものもいろいろありますが、私はフリーソフトの「Combine ZP」を使っています。 最初に載せた写真も、以上のようにして深度合成した写真です。


2021-09-22

私の顕微鏡切片の作成方法

 コケを同定する場合、葉や茎の横断面の観察が必要になる場合が多くあります。 今回は私がそのような切片をどのように作成しているかを紹介します。

 上はある種のコケの葉の翼部の横断面作成の様子を上から見たイメージ図です。 赤い線の所で切断するのですが、葉が指で押さえられないほど小さい場合は、葉が動かないように何かで葉を押さえなくてはなりません。 私はそのために、上のような自作の“長刀型へら”を使っています。

 上は“長刀型へら”の実写です。 これで幅が1mm程度のものまで押さえる事ができます(上の写真のスケールの数字の単位はmmです)。 それより大きなものを切るには、指で押さえられるでしょう。
 “長刀型へら”は、針の頭を焼きなまして柔らかくし、金槌で叩いて扁平にした後、砥石で整形して作成しました。 なお、この“長刀型へら”は、蘚類の上に苔類がくっついている時に、両者の間に差し込んで分離したり、種によっては葉を茎から外す時に使用するなど、いろいろ応用できます。

 次に切る時のテクニックです。 茎や葉など切りたいもの(以下、「対象物」と書きます)を安全カミソリで切るのですが、対象物の下まで刃が突き抜けないとうまく切れません。 そのために・・・

 上は対象物の切断の様子を横から見たイメージ図です。 私はスライドグラスの上に少し厚めのビニールを載せ、その上に対象物を載せて切断しています。 対象物が小さい場合は上に書いたように“長刀型へら”で対象物を押さえています。 これを 20倍の実体双眼顕微鏡下で行っています(倍率が高すぎるとピントの合う高さが少なくなりすぎますし、倍率が低いとなかなか薄く切れません)。
 安全カミソリの刃はできるだけ薄いものの方が美しく切れるのですが、私はフェ〇ー剃刀替え刃(青箱)を2つに切って使用しています。 過去にはもっと刃の薄い緑箱があったのですが、残念ながら生産終了になっているようです。
 以前、このようなことを説明していた時に、厚めのビニールとは具体的にどれくらいの厚さなのか聞かれたことがあります。 特に理想的な厚さがあるわけではないのですが、参考までに、下に写真を載せておきます。

 上はスライドグラスの上に、私が使っているビニールを載せ、比較のためにその上にカバーグラスを載せて撮った写真です。 私が使っているビニールは、上の写真からすると、カバーグラスの 1.5倍ほどの厚さ(=0.3mmほどの厚さ)のようです。

2021-09-12

顕微鏡で試料の長さを測定 & 顕微鏡写真にスケールを入れる

 細胞や胞子の大きさなど、顕微鏡で観察したものの長さを知ることは同定にも大切な作業です。 同定のためだけなら、自分だけが分かればいいのですが、それを人に伝えるには顕微鏡写真にスケールを入れておくと便利です。 写真にスケールを入れておくと、どのように写真を拡大や縮小しても、大きさが分かります。

 顕微鏡で見ているもの(以下、「試料」と書きます)の長さは、顕微鏡下で“ものさし”を使えば測定できます。 顕微鏡下で使うことのできる“ものさし”として、「対物ミクロメーター」というものがあります。
 対物ミクロメーターとは、スライドグラスに目盛を刻んであるようなものと思えばいいでしょう。 この目盛は顕微鏡下で使うものですから、とても細かい目盛で、普通は最小目盛が 10μm(=1/100mm)です。(ですから値段もそんなに安いものではありません。)
 試料と対物ミクロメーターを並べて見ることができれば長さを測定できるはずですが、顕微鏡ではとても狭い範囲しか観察できませんから、試料と対物ミクロメーターを並べて両方を同時に見ることは不可能です。 試料と対物ミクロメーターを重ねて観察しても、顕微鏡ではわずかの高さの違いでもピントがずれて、両方を見ることは不可能です。 また対物ミクロメーターに直接試料を置くことは、とても細かい目盛を傷めてしまうことになります。
 試料の長さを測るには、試料と対物ミクロメーターとを同時に見ることができないのですから、対物ミクロメーターをどこかに写し取って、その写し取ったもので試料の長さを測ることになります。 教科書などでは、この写し取るためのものとして「接眼ミクロメーター」を使用する方法が載せられていますが、これについては、最後に簡単に触れることにします。

 デジカメが発達して顕微鏡写真が簡単に撮れるようになった現代では、対物ミクロメーターと試料を重ね合わせることは簡単にできます。 カメラのズームや対物レンズの倍率など、同じ条件で試料と対物ミクロメーターとを別々に撮影しておき、その2枚の写真を合成すればいいわけです。

 原理は上記のように簡単で、具体的な方法は各個人が工夫すればいいのですが、参考として、私が行っている方法を以下に書いておきます。

 上はツクシハリガネゴケの葉の顕微鏡写真(これを「写真①」とします)ですが、この写真にスケールを入れることにします。
 下は同じ倍率(同じ対物レンズと接眼レンズ、カメラのズームも同じ)で撮った対物ミクロメーターです(これを「写真②」とします)。

 対物ミクロメーターの目盛はたいへん細かいため(=線がとても細いため)、薄い色にしか見えなくて、少しピントがずれると見えなくなってしまいます。 そのため、簡単に目盛を探せるように、太い線の(=はっきり見える)円で目盛を囲ってあります。

 写真①と写真②の2枚の写真を合成すればいいのですが、そのままだと目盛の周囲の円が邪魔ですので、これを何らかのソフトで消します。 その際、2枚の写真とも背景をまっ白にしておけば、消すにも便利ですし、合成の条件として暗い画素を優先にできます(下記の「作業①」)。
 ちなみに、私はPixia(32bit版)というお絵かきソフトを使って、円を白で塗りつぶすか、白い部分を黒い円にコピーするなどして消しています。 昔から使い慣れているのでそのまま使っていますが、このソフトは画像データが大きいとエラーになるなど、時代遅れ的な所もあります。最近はGIMPというフリーソフトを使っています(2023.10.28.加筆)。 私は使ったことはありませんが、Pixiaにも64bit版がありますし、他にもいろんなフリーのお絵描きソフト(ペイントソフト)があります。 Windowsについている「ペイント」でも、背景をコピーすることで消す事ができます。

 上が写真②から円を消した写真です(これを「写真③」とします)。 これと写真①とを合成します。 合成もいろいろなソフトで可能でしょうが、私は JTrim というフリーの画像編集ソフトを使っています(ソフトの名前は「JPGファイル(画像ファイル)をトリミング」からでしょうか)。 このソフトの「編集 > 合成(暗い画素優先)」で合成(作業①)したのが下です。

 これで一応写真①に目盛を入れることができました。 しかし目盛そのものを写し込むのは、少し野暮ったいですし、もっと高倍率になると目盛が大きく写りすぎる問題が起こります(後に書きます)。 そこで ・・・

 お絵描きソフトを使って、写真③に「0.5mm」の文字と線を書き加えたのが上です。 この後、対物ミクロメーターの目盛をお絵かきソフトを使って消してしまったのが下です。

 上の写真(これを「写真④」とします)と写真①を合成すると下のようになります。

 これで完成です。 なお、写真④を保存しておくと、同じ倍率で撮影した他の写真にも使えます。 つまり、同じ倍率での撮影なら、もう対物ミクロメーターは不要ということになります。

 もうひとつ、もう少し倍率の高い場合の例を下に載せておきます。

 上はツクシハリガネゴケの葉身細胞の写真(写真⑤)です。 下は上と同じ条件で撮った対物ミクロメーターの目盛(写真⑥)です。

 写真⑤と⑥を黒い画素優先で合成すると、下のようになります。

 これでは目盛が邪魔ですね。 そこで ・・・

 上は写真⑥に赤い楕円の部分を書き加えた写真です。 この後、対物ミクロメーターの目盛を消し去ると下のようになります。

 上(写真⑦)と写真⑤とを黒い画素優先で合成したのが下です。

 これで完成です。 写真⑦は同じ倍率で撮った他の写真にも使えます。

 以上で具体例は終わりにしますが、最後に接眼ミクロメーターを使った試料の教科書的な長さの測り方も簡単に書いておきます。

 まず光学顕微鏡の原理を少し・・・。 光学顕微鏡は対物レンズでできる実像を接眼レンズでさらに拡大した虚像を見ることになります。 この原理からも分かるように、対物レンズでできる実像は接眼レンズの中にできます。 この接眼レンズの実像のできる位置に、もうひとつ別の目盛(これを「接眼ミクロメーター」と言います)を入れてやれば、実像と接眼ミクロメーターの目盛とが重なって見えることになります。
 あちこちに載せられている顕微鏡写真で、中央に細い目盛が写っていることがよくありますが、これは接眼ミクロメーターの目盛です。 接眼レンズに接眼ミクロメーターを入れておけば、必ずくっきりと接眼ミクロメーターの目盛が見えますし、写真に撮れば写ります。
 この接眼ミクロメーターの目盛には、10,20,・・・の数字が刻んでありますが、上の原理からも分かると思いますが、これは実際の長さとは無関係です。 対物レンズの倍率を変えても、接眼ミクロメーターの目盛の見え方は変わりません。
 光学顕微鏡下で試料の長さは、教科書的には次のようにして測定します。 実際の長さが刻まれている対物ミクロメーターで接眼ミクロメーターの1目盛の長さ(倍率が変われば変わります)を調べておき、同じ倍率で、その接眼ミクロメーターの目盛で試料を測定します。

2018-10-12

顕微鏡観察のススメ

 コケの愛好者増加などで、私の近くでも顕微鏡を購入しようかどうかと迷っている人が増えてきたように思います。
 顕微鏡があれば、今まで見ることのできなかった別の世界が広がります。 そして、顕微鏡の性能の進歩はカメラほど速くはないので、一生ものとして使える可能性大です。 お子さんやお孫さんのおられる家庭ならば、一家で楽しむのもいいでしょう。

 この記事を書く気になったのは、数千円で最高倍率 1,000倍の新品の顕微鏡を購入しようとしている人の話を聞いたからです。 もし顕微鏡の購入目的がコケなどの観察であれば、これは止めた方がいいでしょう。
 後に書くように、電子顕微鏡は別として、顕微鏡には2種類あって、透過光で見る生物顕微鏡(いわゆる普通の顕微鏡:以後「顕微鏡」と書いてある場合は、これを指すことにします)と反射光で見る「実体顕微鏡」があるのですが、顕微鏡の倍率は、簡単にいくらでも上げる事ができます。 しかし、写真を印刷する場合にいくらでも大きな印画紙に印刷できるのと同様に、像はどんどんぼやけてきます。 大切なのは倍率ではなく、分解能です。 このことは光学顕微鏡であろうと電子式顕微鏡であろうと変わりません。
 顕微鏡の原理は、対物レンズで作った実像を、接眼レンズで虚像として拡大して観察するしくみです。 要は対物レンズでいかに細部まで鮮明な実像を作れるかです。 接眼レンズの倍率を上げれば簡単に拡大できます。 安価で高倍率をうたっている顕微鏡はこの方法を使っています。
 実用的な顕微鏡の値段は、カメラとほぼ同じと考えて良いでしょう。 カメラにもコンパクトカメラもレンズ交換式の高級カメラもありますが、実用的な顕微鏡の値段は2~3万円から数十万円でしょう。 この違いは、対物レンズの光特性の違いや、光源の違いや、単眼(片目で観察)か双眼(両目で観察)かの違いなどいろいろあって、もちろん高価な顕微鏡の方がよく見えるのですが、この違いを詳しく書き出すとキリが無いので止めておきます。 カメラに例えるならコンパクトカメラにするか高級カメラにするかに似た感覚でしょうか。
 結論的に書けば、新品で実用的な顕微鏡の購入を考えるなら、JIS規格またはDIN規格(ドイツ工業規格)の製品(価格は最も安いものでも2~3万円します:以下、これを「安価な顕微鏡」と書きます)をお勧めします。 もちろん中古品なら、もっと安く入手できますが、対物レンズに傷が無いか、カビがきていないかの確認は必要でしょう。
 安価な顕微鏡の場合、付属の対物レンズは x10 と x40 の場合が多いのですが、コケを観察する場合は、x4(接眼レンズの倍率がx10として、総合倍率 40倍)程度の対物レンズがあると、とても便利です。 もちろん上記規格の顕微鏡であれば、対物レンズはいくらでも別途購入可能ですし、倍率の低いレンズは安価です。 また、高価な顕微鏡の場合は x100の対物レンズがついてくると思いますが、コケの観察で x100の対物レンズを使用することは、まずありません。 ちなみに、私が使っている対物レンズは、x4、x10、x20、x40 の4種類で、接眼レンズは x10 のみです。

 実体顕微鏡のことも少し書いておきます。 顕微鏡は下から光を当てて観察対象物を透かして見るのに対し、実体顕微鏡は上から(=観察する側から)光を当てて、観察対象物の表面を見ることになります。 原理的にはルーペに近いもので、倍率もそんなに高くはなく、多くは総合倍率で20倍か40倍程度で、いくら高い倍率でも、せいぜい 100倍までです。 しかしあればとても便利です。 ルーペよりも詳しく観察できますし、何よりも実体顕微鏡下で作業ができます。 ルーペなら片手でルーペを持ち、もう片手で観察対象物を持てば両手が塞がります。 私は観察に用いる以外にも、顕微鏡写真を撮る前のゴミの除去や葉などの断面作成などを実体顕微鏡を覗きながらやっています。
 作業をすることを考えれば、立体的に見える双眼で、視野が広く明るく見えるものが良いのですが、そうなるとレンズが大きくなって値段も高くなり、重くもなります。 しかし重いと、ちょっと触れただけでは簡単に動きませんから、その下での作業はとても楽になります。 また、倍率が簡単に変えられるズーム型の実体双眼顕微鏡はとても便利ですが、高価になり、最も安価なものでも6万円ほどします。

◎ 顕微鏡写真の撮り方についてはこちらをご覧ください。 なお、顕微鏡写真で深度合成を行うには、マニュアルフォーカス機能がついたカメラ( TG-5 など)が必要になります。

2018-09-17

ギンゴケの葉を撮る


 上はギンゴケ Bryum argenteum の葉ですが、少し工夫して撮っています。
 ギンゴケの葉は、葉緑体を持った細胞とそうでない細胞からなるおもしろい葉ですが、これまで1枚の葉をうまく撮れたことがありませんでした。 ギンゴケの葉は丸みがあるうえに、特に葉緑体を持つ細胞と持たない細胞で剛性が異なるのか、その境付近で裂けやすいようで、慎重に扱っても、こちらのようにカバーグラスの重みで葉が裂けてしまいがちです。


 1枚目の葉は、上の写真のよく伸びたギンゴケの葉です。



 上は1枚目の葉の写真を撮って顕微鏡から下ろしたプレパラートです。 要は葉に直接カバーグラスの重みがかからなければいいわけですから、CDの中央付近を切り取ったものをスライドグラスに張り付け、その凹みに葉を入れて水を満たし、カバーグラスをかけています。 市販品にスライドグラスの中央を凹ませたホールスライドグラスがありますが、上のようなものを作れば同様の効果が得られます。
 葉は押し潰されていませんから、葉の中央部と縁とでは高低差があり、1枚目のような写真を撮るには深度合成しなければなりません。 1枚目の写真は、顕微鏡 10×10 の倍率で 15枚の写真を撮り、深度合成しています。

(材料のギンゴケは 2018.9.12.に京都市大原で採集)

2018-03-03

深度合成はほどほどに

 蘚苔類の新しく作られたばかりの枝や葉は、確率的にあまりゴミがついていない場合が多いのですが、寒さで生長の止まっている冬季はどうしても枝や葉に汚れが多くなり、ミクロの写真撮影には困った季節です。


 久しぶりにあまり汚れていないツクシウロコゴケ Heteroscyphus planus に出会えたので、いままでいい写真が撮れていない腹葉の撮影にチャレンジしました。


 上は深度合成した写真で、下はその深度合成に使った写真のうちの1枚です。


 2枚の写真を比較すると、深度合成したものは茎や葉(側葉)がくっきり写りすぎていて、腹葉が目立ちません。 腹葉の様子を理解するにはこの写真の方が適しているでしょう。

 撮影に使用したツクシウロコゴケは 2018.2.28.に堺自然ふれあいの森で採集したものです。


2017-09-23

ヒメクジャクゴケの群落をフォーカスブラケットモードで


 深度合成は群落を撮る場合にも使えます。 上はヒメクジャクゴケ Hypopterygium japonicum の群落ですが、TG-5のフォーカスブラケットモード(注1)で撮った20枚の写真をCombineZPで深度合成して作成しました。 作成した写真は4000×3000で、そのまま載せてもよかったのですが、あまりにも大きすぎるかと思い、ここでは1600×1200にしています。 PCの大きな画面をお持ちの方は拡大してご覧ください。 隅々までピントが合っているのがお分かりいただけるでしょう。
 1600×1200で見ていただくには、写真上でクリックし、写真だけが表示された状態の写真上で右クリックし、「画像だけを表示」を選択し、表示された画像上でさらにクリックすると、本来の大きさの写真をスクロールバーを使って見ていただけるようになります。
 元に戻る場合はブラウザの「戻る」ボタンを使用してください。


 この写真を見て、どのような感想をお持ちでしょうか。 下の写真と比較してみてください。


 上は深度合成に使った20枚の写真のうちの1枚ですが、自然と左方のヒメクジャクゴケに注目することになると思います。
 良い写真とは余計なものを削ぎ落とし、いかに“主役”を引き立たせるかだと言われています。 “主役”をはっきりさせることで、その“主役”をしっかり見ることになります。 “主役”がはっきりしない写真は散漫な印象を与えてしまいます。
 フォーカスブラケットには、このように、ピントを少しずつずらした写真を撮っておいて、そのうちのいちばん気に入った写真を選ぶという活用方法もありますし、たくさんの写真のうちの数枚だけを選んで深度合成するという方法も可能です。

 上の2枚の写真、ヒメクジャクゴケの群落というものをしっかり見ようとするのか、ヒメクジャクゴケそのものをしっかり見ようとするのかで、どちらが良い写真かが決まってくるのではないでしょうか。 どんな場合でも隅々までしっかりピントの合った写真がいい写真だとは限らないと思います。
 撮る側からすると、要は何を撮りたいのか、写真で何を伝えたいのかを明確にすることでしょう。 何を撮りたいのかという「意志」が先にあり、その次に、それを撮るにはどうすればいいのかという「方法」があるのだと思います。

(ヒメクジャクゴケは 2017.9.23.に大阪府和泉市の槇尾山で撮りました)

◎ ヒメクジャクゴケの細部のつくりはこちらに載せています。

(注1)【 TG-5 のフォーカスブラケットに関して】
 フォーカスブラケットとはピントを少しずつずらせて連続して撮影する機能です。 TG-5 では顕微鏡モードのサブモードで FokusBKT を選択し、MENUボタンを押して撮影メニュー2の「Fokus BKT」を On にすると、1度のシャッターで何枚の写真を撮るのか(撮影枚数)と、ピントをどれくらいずらして撮っていくのか(フォーカスステップ)を、それぞれ3段階から選択できます。

2017-09-19

ムモントックリバチを TG-5 のプロキャプチャーモードで

 オリンパスのカメラ TG-5 にプロキャプチャーという機能がつきました。 これは、シャッターボタン半押しで連続撮影を開始し、カメラ内に記憶し続け、シャッターボタンを全押しした時に記憶していた撮影画像をSDカードに記録するというものです。 カメラ内に記憶している画像はどんどん新しいものに置き換わっていきますから、シャッターボタン全押しする直前の過去が撮れるという機能です。 この機能が無いカメラでは、虫が飛び立つ瞬間や果実がはじける瞬間などは、その瞬間を撮るつもりでシャッターを切っても遅れてしまい、大がかりなセンサーを使用するなど特別な工夫をしないと、撮ることはほとんど不可能です。
 どれくらい過去が撮れるかというと、同じオリンパスの OM-D E-M1 MarkⅡ では 14枚の過去の画像を記録できるのですが、TG-5 の小さなボディでは限度があり、シャッター全押しの 0.5秒前からの画像を、撮影条件にもよりますが、4枚ほどの写真として記録してくれます。(シャッター全押し後の 0.5秒間の写真も4枚ほど撮ってくれます。)
 たったの 0.5秒前からしか撮れませんが、「今だ!」と思ってからシャッターボタンを押すまでのタイムラグは 0.2~0.4秒ですから、これでも「今だ!」という瞬間が撮れるわけです。 フラッシュは機能しないので明るい条件でしか使えませんが、持ち運びに便利な小さな TG-5 にこんな機能がついたことは、私にとってはうれしいことです。

 下の2枚は、オミナエシの花に来ていたムモントックリバチ Eumenes rubronotatus rubronotatus を TG-5 のプロキャプチャーモードで撮ったものです。 どちらも顔が向こう向きで良い写真とは言えませんが、とりあえずは TG-5 のプロキャプチャーモードの説明まで。



(2017.9.8. 堺自然ふれあいの森)

2017-09-17

ヒメウルシゴケを TG-5 で(深度合成など)


 ヒメウルシゴケ Jubula japonica の腹面のような複雑さになってくると、深度合成する意義も大きくなってくるのですが、これがなかなか難しい。 前回は水が多くてテカテカ光ってしまいましたが、水分を拭き取ると、どんどん丸く変形してきます。 深度合成は撮影中に被写体が動くとできないので、変形しないように運を天に任せるしかありません。
 今回は前回よりは少しはうまく撮れたかと思ったのですが、ゴミが多すぎました・・・(-_-; とりあえずは、腹葉が1/2まで2裂し側縁に長歯があることが明瞭に写っていることで満足したいと思います。
 ところで、上は TG-5 のフォーカスブラケットモードで撮影したものを CombineZP で深度合成したのですが、私の撮り方では、フォーカスブラケットモードでの撮影では、TG-5 は TG-4 よりも機能的にまずくなっていました。 私は TG-4 を使ってのフォーカスブラケットモードでの撮影では、シャッターを押す時にカメラが動くことを防ぐためにタイマーを使っていました。 ところが TG-5 ではシャッターの切り方が単写/連写/タイマーからの選択になっています。 つまり連写とタイマーは両立せず、フォーカスブラケットモードを選ぶと自動的に連写になり、タイマーを選べなくなります。


 上はヒメウルシゴケの葉身細胞です。 平凡社の図鑑には、油体は楕円体で微粒の集合だが、しばしば眼点がある旨の記載があります。 今回は上の写真のようにたくさんの眼点が見られました。

(2017.9.13. 京都市 西芳寺川)

2017-09-03

クストガリキジラミの幼虫を TG-5 で

 オリンパスの TG-5 を購入しました。 どれくらい美しく大きく撮れるのか、クスノキの葉の裏についていたクストガリキジラミ Trioza camphorae の幼虫を撮ってみました。


 上がその写真です。 TG-5 に FD-1 をつけ、葉が波打っていたのでほんの少しカメラを浮かせていますが、ほぼ密着させて撮った写真をトリミングし、ピクセル等倍で切り出しています。 つまり、TG-5 で大きく撮れるほぼ限界の写真です。
 TG-5 は TG-4 と同じサイズのセンサーで、画質を高めるために 1,600万画素から 1,200万画素へ画素数を減らしたことは知っていましたが、 TG-4 にあったデジタルズーム(×2)だけでなく、超解像ズーム(×2)も無くしていたとは知りませんでした。 たしかに無理に大きくすれば画質は落ちますが、良い画質を保証することと引き換えに、TG-5 で拡大できるのは光学ズームの4倍のみになっています。
 ではそのような TG-5 でどれくらい大きく撮れるのか、上のクストガリキジラミはどれくらいの大きさなのかを見ていくことにします。
 TG-5 に FD-1 をつけて対象物に密着させて撮ると、長辺で8mmの範囲が撮れます。 撮れる写真の大きさは 4,000×3,000(=1.200万画素)ですから、長辺だけで見ていくと、8mmを 4,000画素で表現できることになります。
 上の写真は 640×640 ですから、上の写真の1辺の長さは、8×(640/4000)で、ほぼ 1.3mmということになり、クストガリキジラミ幼虫の体長は約 0.7mmということになります。

 比較のために、デジタル1眼にマクロレンズをつけて上と同様にピクセル等倍で切り出してみました。
 使用したカメラはニコンの D7100 で、このカメラは DXフォーマットですので、35mm用等倍マクロレンズで、6,000×4,000の写真に写る範囲は長辺が 23mmです。 このようにして撮ったクストガリキジラミ幼虫の写真をトリミングし、640×640 にピクセル等倍で切り出したのが下の写真です。


 上の写真の1辺は約 2.4mmですから、両者の写真を比較すると、TG-5 の方が長さにして2倍弱拡大した写真が撮れていることになります。 TG-5 で撮った写真のほうが幼虫の体の表面の様子が分かりにくくなっているのは、 FD-1 を使用して光を横から当てたため、わずかな表面の突起に光が当たって光ってしまったためでしょう。

(堺市南区鉢ヶ峯寺にいた幼虫を、2017.8.29.に撮影)

2017-05-19

オリンパス TG-5

(この記事は7月8日に一部書き換えています)

 このブログでも、顕微鏡写真深度合成した写真など、TG-4 で撮った写真をたくさん載せていますが、その後継機である TG-5 が、6月16日からアメリカ合衆国で発売されるようです。 日本での発売に関しての情報はまだありませんが、USAでのユーザーの声を踏まえて、間もなく販売されるものと思われます。 6月23日に販売されました。
 TG-4 からの変更点としては、気圧センサー、温度センサー、加速度センサーなど環境センサーのログ機能を搭載していますが、これは私のような使い方をしている者にはあまり関係ありません。 それよりも気になるのは、小さなセンサー(撮像素子)の限界で、画質の悪さが目立った TG-4 でしたが、TG-5 では、TG-3 や TG-4 の 1,600万画素から 1,200万画素へと、あえて画素数を減らしています(こちら)。 同じ大きさのセンサーで画素数が減れば、写真は小さくなりますが、その分画質は良くなるはずです。
 また、特に顕微鏡で深度合成する場合など、マニュアルフォーカス機能がほしかったのですが、これも搭載されました。
 私が対称としている被写体は、コケを含む植物や昆虫など、多岐にわたっていますが、特に昆虫の撮影に関しては、プロキャプチャーモードの追加が大きいと思います。 これは、シャッターを押した時に、予めシャッターを半押ししていた時にメモリーに保存されていた 0.5秒前からの写真5枚が撮れる(つまり過去が撮れる)というもので、虫などの飛び立つ瞬間などを撮るには便利です。 その他、ハイスピードムービーをフルハイビジョンで撮れることや、フル画素で20枚/秒の高速連写が可能になったのも魅力です。

2017-03-15

私の顕微鏡写真撮影方法

 最近はこのブログでも顕微鏡で撮影したコケの写真をよく載せています。 観察会などでその撮影方法について質問されたりもしますので、私の方法について載せておきます。 といってもたいしたことをしているわけでもなく、顕微鏡の上にコンデジを載せているだけですが・・・(いわゆる「コリメート法」です)。
 もちろん高画質の顕微鏡写真を撮るにはよくクリーニングされた解像度の良い顕微鏡レンズや調光可能なLED光源と高性能のコンデンサー等を供えた顕微鏡や撮像素子が大きく画像処理の優れた高性能のカメラが必要ですが、ここではこのブログに載せている程度の顕微鏡写真であれば、これくらいの装置と工夫で撮れることを紹介したいと思います。 なお、顕微鏡専用カメラは汎用性に欠ける分、機能のわりには高価ですし、画素数的にもコンパクトカメラの方が優れているものが多いように思います。



 上はつい最近まで私が実際に使っていた顕微鏡とカメラです。 現在は3筒の顕微鏡を使っていますが、原理的には上の写真と同じですし、この写真の方が分かり易いので、この写真のケースについて、いくつかの項目に整理して、もう少し解説を加えることにします。

【 顕微鏡 】
 最近の顕微鏡のほとんどは観察し易いように鏡筒が斜めになっていますので、カメラを顕微鏡の接眼レンズに密着させるためには、顕微鏡を鏡筒に固定するしくみを自作するなり三脚を使うなどの工夫が必要になります。 顕微鏡撮影では、シャッター速度が遅くなりますので、手持ちでカメラを接眼レンズに押し当てて撮ろうとすると、どうしても手振れが起きてしまいます。
 写真のオールドスタイルの顕微鏡を購入するのは難しいかもしれませんが、もし入手可能なら、撮影にはお勧めです。 もちろんお金を出してもいいのなら、3筒(観察用の双眼+撮影用の直筒)の顕微鏡は撮影以外の面でもいろいろな長所がありますが、撮影用の直筒のついていない双眼顕微鏡は撮影にはお勧めできません。

※ 顕微鏡については、こちらで詳しく書いています。

【 カメラ 】
 上の写真はオリンパスの TG-4 というコンパクトカメラですが、鏡筒の上にカメラを乗せるだけで撮ろうとするには、次の条件をクリアしたカメラが必要になります。
  ① レンズがカメラの中央にあること
    レンズが片側に寄っている場合は三脚が必要になり、セッティングがめんどうです。
  ② インナーフォーカス(レンズが繰り出さない)カメラであること
    レンズが繰り出されると不安定になり、カメラが落下する危険性があります。
  ③ レンズの径が顕微鏡の接眼レンズの径とほぼ一致すること
    一致していない場合は横から光が入らないように何らかの工夫が必要になります。
 TG-4 はこの3条件をクリアしていますので、カメラを顕微鏡の上に乗せ、(マクロモードではなく)通常の撮影モードを使用し、ズームで適度な大きさにして(そのままだと周辺部が真っ黒な丸い視野になってしまいます)撮ることができます。 いろいろなカメラで確かめたわけではありませんが、上の3条件をクリアできれば、他のコンパクトカメラでも撮影可能だと思います。 特に③は顕微鏡撮影時のコンパクトカメラの優位性で、レンズ交換式カメラでは、画質はいいのですが、顕微鏡撮影には鏡筒とカメラをつなぐアダプターが必要になります。
 なお、シャッターボタンを手で押すと、その瞬間にほんの少しでもカメラが動く場合がほとんどで、これも手振れの原因になります。 私はセルフタイマーを使うことで、この問題をクリアしています。 ちなみに、一眼レフカメラではミラーの跳ね上げ時の振動が問題になりますが、コンパクトカメラではその心配もありません。

 以上でとりあえずの顕微鏡写真は撮れるのですが、以下はより良い写真を撮るために・・・

【 光源 】
 顕微鏡の光源を気にする人はそんなに多くないと思いますが、写真の出来栄えに大きく影響するのが光源です (私の知る範囲では、観察には十分な明るさでも撮影には不十分な光量で撮影されている方が多いように思います)。
 顕微鏡撮影では、反射鏡による光ではどうしても明るさ不足になりますので、光源を使うことになるのですが、対物レンズを使い分ける場合、低倍率では観察に眩しすぎないように、高倍率では撮影時に明るさ不足にならないように、調光できる光源が欲しくなります。
 従来、顕微鏡の光源としては、フィラメント式の電球が使われてきました。 この場合は変圧器をつなげば簡単に調光できるのですが、光の強度によって色が若干変わりますし、通常は赤っぽい光になってしまいます。 また熱が試料に与える影響も考慮する必要があります。
 撮影には白色LEDが良いのですが、私の理解では、LEDの明るさ調節は原理的には人の目に認識できない範囲で点灯と消灯を繰り返すことで行われていて、減光した場合は人の目には認識できなくても、カメラではちらついてしまうことが多いように思います。 ちらつきを無くすには点滅周波数を高くすればよいのでしょうが、そのための装置が高額になるでしょう。
 LEDの明るさを一定にして、距離を変えるのは現実的ではありませんし、減光フィルターを利用するのでは連続的に明るさを変化させられません。 光源をどのようにすれば良いのかは、現在の私も試行錯誤中です。 良い方法がありましたらお教えください。

【 写真の補正 】
 デジタルカメラで撮影できるようになって、画像処理ソフトによるトリミング、明るさや色あいの補正などが容易になりました。 ちなみに私が使っているソフトは全てフリーソフトです。
 通常の顕微鏡撮影では、背景が白色の場合が最も本来の被写体の色に近いはずです。 先に書いた光源の問題とも関係しますが、現在の私は、光源にフィラメント球を使い、次の方法で背景を白くするようにしています(写真によっては白くすることが不可能な場合もありますが・・・)。 その方法とは、(1)フィラメント球の光源に色フィルターを使ってできるだけ白色に近づけたうえで、(2)カメラのホワイトバランス機能を使用し、(3)撮った写真を画像処理ソフトで最終的に微調整するという3段階の補正を行っています。
 (3)についてもう少し書くと、光の3原色はR(Red:赤)とG(Green:緑)とB(Blue:青)ですので、ソフトでRGBの度合いを調整して背景を灰色にし、そのうえで明るさとコントラストを調整して灰色を白色にしています。
 画像処理に関係するソフトにはさまざまなものがあります。 もっといいソフトもあるでしょうが、ここでは私が以前から使っている使い慣れたフリーソフトを参考に載せておきます( Windows10 で使用しています)。
・ すぽいと君
 マウスポインターのある位置のRGB情報を教えてくれます。 この情報を見ながらRGBの調整を行っています。
・ JTrim
 画像レタッチソフトで、上記のRGB調整や明るさ・コントラストの調整、トリミングなど、最もよく使っているソフトです。
・ Pixia
 ソフトの分類からするとペイントソフトになります。 写真に文字などを入れる場合によく使っていますが、ぼんやりした写真とは相性が良くないようで、写真データを読み込んでくれない場合があります。
・ GIMP2
 非常に高機能なグラフィックソフトですが、その分立ち上がりも遅く、高機能すぎて初めて使用する場合は分かりにくい点も多いかと思います。

2016-06-13

CombineZPによる深度合成

(最終更新日:2018.7.17.)

 オリンパスのカメラ TG-4 のマクロ機能や深度合成についての記事の中で、深度合成を行うフリーソフトである CombineZP についても書きました(こちら)。
 CombineZP による深度合成の具体的な方法は、既にいろんなところで紹介されているので、上記記事では省き、「要望があれば別の記事にします」と書いたところ、要望をいただきましたので、もう少し具体的に CombineZP による深度合成の方法を書いてみたいと思います。(「深度合成」については上記記事を見てください。)

0.深度合成のための写真の準備
 CombineZP で深度合成するためには、ピントの合っている位置が、手前から奥でも、奥から手前でもいいのですが、順番になるように写真(のファイル名)を並べておく必要があります。
 なお、この時、写真のファイル名も写真を入れておくフォルダー名も、漢字やかななどの2バイト文字(=全角文字)を使わないようにしておく必要があります(日本語に対応していません)。

1.CombineZP のダウンロード
 これまでは作者である HadleyさんのHP(hadleyweb)からダウンロードしていたのですが、どういうわけかできなくなっています。 ダウンロードが可能なサイトがいろいろ変化しているようですので、検索してみてください。

2.CombineZP のアップデート
 私のPCには既に CombineZP が入っていますので、確認していませんが、従来は青字で書いた以下の作業が必要でした。 ダウンロードしたものがアップデート済なら下の作業は不要になりますが、念のために残しておきます。
 上記サイト(hadleyweb)から
The Latest update to CombineZP as a Zip Archive (.zip file)
をダウンロード、展開し、CombineZPをインストールしたフォルダー(注1)にコピーします。
(注1) 既定どおりにインストールしていると、Windows10であれば、
 OS(C:) > Plogram Files(x86) > Alan Hadley > CombineZP
となると思います。

3.写真データの読み込み


 CombineZP を立ち上げると、上のようになります(④はどんどん変化します)。 この左上にある①の「 NEW 」をクリックすると、読み込むファイルを聞いてきますので、1.で準備した連続した写真データを指定し、(1枚目の写真をクリックし、最後の写真で「Shift」キーを押しながらクリックすると、まとめて選択できます)「開く」をクリックします。
 連続した写真データの読み込みが終わると、1枚目の写真を表示し、待機状態になります。

4.深度合成の実行と結果の保存
 ②に示されている内容を③の「GO」で実行させることになります。 そのまま「GO」を押すと、「Align and Balance Used Frames」つまり選択した複数枚の写真の位置合わせを行うことになります。 手持ち撮影などの場合にはこの位置合わせが必要ですが、カメラを三脚で固定している場合などは、この位置合わせは省略できます。
 ②の[▼]をクリックし、深度合成の方法を選択します。 これには以下のような方法が準備されています。(番号は私がつけたものです。)
   (1) Do Stack
   (2) Do Soft Stack
   (3) Do Weighted Average
   (4) Pyramid Weighted Average
   (5) Pyramid Do Stack
   (6) Pyramid Maximum Contrast
   (7) All Methods
 準備した写真の条件によって、どれがうまくいくかは一概には言えないようです。 やっているうちにそれぞれの特徴がなんとなく分かってきますが、TG-3~TG-6(2021.8.5.訂正)のフォーカスBKTで撮った写真を深度合成する場合なら、最大でも29枚の写真の深度合成にすぎず、合成に要する時間もそんなにかかりませんから、(7)の All Methods を使えば無難でしょう。
 (7)の All Methods は、(1)~(6)の方法による深度合成を行い、それぞれの合成結果を全て「output」フォルダーに残したうえで、(1)の方法で合成した写真(これが標準のようです)を表示します。 この結果を⑤で保存し、「×」でCombineZPを終了させます。
 「×」をクリックすると、
 Did you wish to Save anything before Leaving CombineZ ?
と聞いてきますが、合成結果を保存すれば通常は他に保存しておくべきものは無いはずで、「いいえ」で終了します。 (7)の All Methods で行った場合は、もっと良い合成画像が無いか、「output」フォルダー内の写真を確認しておくとよいでしょう。 コケの顕微鏡写真のような半透明的要素を持っている場合は、(2)や(6)の結果が良いことも多くあります。

※ ふとしたきっかけで、Wikipedia にも解説記事があることがわかりました(こちら)。 Wikipedia では「深度合成」とは呼ばず、「焦点合成」または「多焦点合成」という言葉を使っていますので、今まで見逃していたようです。 Wikipediaには複数の焦点合成(=深度合成)用ソフトも紹介されています。

2016-05-04

オリンパスの FD-1 を使ってみました

 オリンパスのカメラ TG-4 用のフラッシュディフューザー FD-1 が4月28日に発売されたので、使ってみました。
 TG-4 は、その撮像素子の大きさから画質はレンズ交換式カメラにかないませんが、マクロ撮影の拡大率や機能の豊かさ、それにレンズがカメラの中心にあるので、直筒や3筒の顕微鏡であれば顕微鏡の上にちょこんと載せるだけで撮影できる手軽さから、愛用してきました。 ただ、近接のマクロ撮影ではどうしても光が不足するのですが、光が回らずフラッシュは使えませんでした。
 TG-4 にはフラッシュの他に LEDライトがついていて、その光を導いてリングライトのように使うための LG-1(=LEDライトガイド)があるのですが、LEDライトの光量は弱く、対象物から少し離れると効果がありませんでした。
 今回発売された FD-1 は、フラッシュの光をレンズの傍に導くと共に、レンズを囲むように反射板をセットすることでフラッシュの陰になる部分にも光が回るようにしてあります。


 上が TG-4 に FD-1 を装着した状態で、LG-1 よりかなりゴツイ印象です。 フラッシュから導かれた光で①が光ります。 ②は、影が濃くなりすぎる(後述)など、フラッシュの光が強すぎる場合に光を半減させるスイッチです。


 上はデーニッツハエトリを、FD-1 をつけた TG-4 で撮ったものです。 眼に映った様子で、FD-1 から実際に光がどのように出ているのかがよく分かります。


 上は FD-1 を使って顕微鏡モード(スーパーマクロ使用)でキャラボクゴケを撮ったものです。 ノートリミングで、4mm×3mmの範囲が写っています。 下は同じキャラボクゴケを(水に浸したりして方向などは変わっていますが)できるだけ同じ撮影条件になるようにして LG-1 で撮ったものです。


 両者を比較すると、全周から光が同様に当たる LG-1 を使った場合より、一方向からの光が強くなる FD-1 を使った場合の方が、影が濃くなり、対象物の凹凸がはっきりするようです。
 カメラと対象物との距離が少し離れていて LG-1 では光量不足になるような場合や、動きがある場合の他、上記のように対象物の凹凸をはっきりさせたいような場合には、FD-1 は役立ちそうです。 ただしフラッシュ光は LED のように光りっぱなしではありませんから、フォーカスブラケット撮影や TG-4 の内蔵機能を使った深度合成には使えません。 FD-1 と LG-1 を使い分けろということでしょうね(これについては後述)。
 なお、オリンパスは FD-1 の発売に合わせて、TG-4 の ファームウェアを Ver.2.0 に引き上げています。 以下、このことについて書いておきます。
 ファームウェアとは制御用プログラムのことで、デジタルカメラは部品を変更することなく、ファームウェアを変更することで、その機能を変えることができます。 フラッシュの光量についても、どれくらいの強さで光らせるのか制御が必要で、対象物とフラッシュとの間に FD-1 が入ることで、新しい制御のしくみが必要になります。 つまり TG-4 の ファームウェアを Ver.2.0 に変更しないと、FD-1 はうまく使えません。 もちろんこの新しいファームウェアのダウンロードは無料です。 なお、FD-1 は TG-1~TG-3 にも取り付けられますが、これらのカメらの FD-1 に関するファームウェアのバージョンアップはありませんので、オリンパスによると「撮影環境によっては露出が合わない場合があります」ということです。
 ファームウェアのアップデートは、オリンパスの全カメラに共通の「オリンパスデジタルカメラアップデーター」をダウンロードし、パソコンにインストールして行います。 具体的な方法はオリンパスのサイトに書かれてある内容に従ってください(簡単です)。
 ファームウェアを Ver.2.0 に変更すると、TG-4 の「MENU」ボタンからの「撮影メニュー2」の「アクセサリー」に「FD-1」が追加されます。 FD-1 を使用する時は、これを on にします。 そうすることで顕微鏡モードでは強制発光となり、フラッシュ補正(±2.0EV、0.3EVステップ)も可能になります。 また、顕微鏡モードの ISO 感度も低く( 密着に近いケースでは100 に)自動的に設定されますので、高画質な撮影が可能になります。
 なお、フォーカスブラケット撮影などで 内蔵LEDを使用する( LG-1 を使用する)場合は、上記「アクセサリー」の「FD-1」を off にする必要があります。予めカスタムモードに登録しておけば可能です。(カスタムモードへの登録方法は TG-4 の取扱説明書をご覧ください。)

 FD-1 を使用しない場合でも、ファームウェアの Ver.2.0 では次のような改善も行われていますので、アップデートしておくことをお勧めします。
・ A、P、顕微鏡モードでの撮影設定を保持
  (2つのカスタムモードがあるとはいえ、私にとっては、これは便利!)
・ インターバル撮影枚数が299枚まで撮影可能(従来は99枚)
・ ファイル名メモリーがリセットとオートから選択できる

 ところで、この時期に FD-1 が発売されるということは、「TG-4で深度合成」の最初に少し書いたようにTG-5 はもう作られないのか、それともかなり遅れて TG-4 とは大きく違った性能を持ったカメラとして登場するのかもしれませんね。

2015-12-31

TG-4で深度合成

 今日は大晦日、1年間のまとめをすべきかもしれませんが、見た生物を順に載せているだけのブログをまとめられるはずもありません。 そこで今日は生物各論ではなく、今年の5月末から使い始めたオリンパスのカメラ TG-4 での深度合成について、コケの観察会などで聞かれることもありますので、まとめてみたいと思います。 なお、私はそれまでTG-2を使用しており、TG-3は使用したことはありませんが、TG-3とTG-4とでは、仕様表を見る限り、そんなに違いは無さそうです。(ちまたではTG-5でガラッと変わるのではないかとの噂が流れていますが、もしかしたら、オリンパスの方針としては、TGシリーズのコンパクトさはそのままで、TG-4より良い写真を求める人には、最後に書いた OM-D E-M1 などへの移行を薦めるのかもしれません。)
 深度合成は隅々までピントの合った状態で小さなものを大きく撮るための方法です。 深度合成の話に入る前に、TG-4ではどれくらいの小さなものを大きく撮れるのかを見ておくことにします。

● TG-4のマクロ機能
 TG-4(TG-3も)は、持ち運びに便利な丈夫なコンパクトさと、水中撮影やマクロ撮影ができることが特徴のカメラですが、ここではマクロ撮影、それもカメラと対象物をほぼ密着させた(いわゆる「1cmマクロ」ですが、この1cmは、レンズの先端からの距離ではなく、カメラ内の撮像素子からの距離です)マクロ撮影に話を絞ります。 なお、カメラを被写体に近づけると、カメラ自身の影ができますから、別売のLEDライトガイド(LG-1)が必須になります。

 TG-4のズーム機能は、ズームの上に、ソフト的に画素数を増加させる超解像ズームがあり、さらにその上にデジタルズームがあります。 超解像ズームとデジタルズームは個別に on/off が可能ですが、まずはこれらの機能をすべて使った場合、どこまで大きく撮れるのかを見ていくことにします。
 カタログなどを見ると、いろんな倍率が出てきます。 倍率は「○○の□倍」と、基準となる「○○」があるはずなのですが、これを無視して単に「□倍」とするのは無意味です。 次のa~cに分けると理解し易いでしょう。
a.カメラの背面液晶の表示
 カメラの背面液晶に表示される倍率です。 最もワイドの時の状態(=カメラのスイッチを on にした時の状態)が×1で、その何倍かを表示します。 ズームで×4、超解像ズームで×8、デジタルズームで×16まで拡大できます。 写る範囲(=長方形)の長辺は、LG-1を装着してカメラを被写体に密着させた場合は×1で20mmほどで、×4で約5mm、×8で約2.5mm、×16では1.3mmほどになります。
b.35mm版換算
 デジカメの世界でのマクロ撮影の基準となるのは、撮像素子の長辺が35mmのデジタル1眼レフカメラに等倍マクロレンズを使って撮影する場合でしょう。 この場合、最も大きく撮った場合は、35mmのものを撮像素子いっぱいに写し込むことになります。 35mm版換算とは、撮像素子上での比較です。 TG-4の×8では2.5mmのものを撮像素子いっぱいに写し込んでいますから、この場合の35mm版換算は14倍(35/2.5=14)となります。 撮った写真がどのくらいの大きさの写真なのかは撮像素子の画素数によるのですが、撮像素子の画素数が同じとして比較している数値ということになります。
c.背面液晶での観察倍率
 TG-4を実体顕微鏡やルーペ代わりに使おうとした場合の倍率です。 TG-4の背面液晶の長辺は58mmほどですから、最も大きく見た場合は、1.3mmを58mmに拡大して見ることになります。 パンフレットなどに「背面液晶で最大44.4倍の拡大観察が可能になります。」などと書かれてある倍率がこれにあたります。

 一般的な顕微鏡で低倍率と呼ばれているのは、10×10 つまり100倍です。 上の「44.4倍」を見て、顕微鏡の低倍率の半分の大きさか・・・と思ってはいけません。 基準となる「○○の」の○○が異なります。 1.3mmの大きさのものが視野いっぱいに広がる拡大率は、顕微鏡の10×10の視野範囲にほぼ相当します。
 しかしデジタルズームを使用すると、後述のように小さな撮像素子であるためにただでも画質の粗いTG-4の画質がさらにひどくなりますので、私はデジタルズーム機能をoffにしています。(そんな撮影をするなら顕微鏡を使います。) 顕微鏡を持たない人で、画像が多少粗くても・・という人には良いかもしれませんし、透過光と反射光では全く違った画像になるので、この倍率の意義はあるとは思いますが・・・。

● 深度合成とは
 被写体に近づいて写真を撮る場合、ピントの合う範囲(被写界深度)は非常に浅くなります。(例えば小さな虫を正面から撮る場合、複眼にピントを合わせると、胸部はもうピントが合っていません。) そこで少しずつピントの合う位置を変えて複数枚の写真を撮り、ピントの合った部分をつなぎ合わせて1枚の写真にするのが深度合成です。 下に1例を示します。


 上の写真は左下の一部にしかピントが合っていません。 このような一部にピントの合った写真を、ピントをずらして30枚撮り、深度合成したのが下の写真です。 両方の写真とも 1,280×960 で載せていますので、大きなモニターがあれば、写真をクリックして大きく表示し、比較してみてください。 なお、下の写真は、12月19日にクラマゴケモドキの所に載せた写真を再掲しています。


 深度合成については理解していただけたと思いますが、じつはこの写真はTG-4を使っていますが、深度合成モードで作ったものではありません。(この写真の作成方法は後述します。)

● TG-4で深度合成
 TG-4の顕微鏡モードには、①顕微鏡モード、②深度合成モード、③フォーカスBKTモード、④顕微鏡コントロールモードの4種のサブモードが用意されています。 ①と④は性能的に同じで、ズームレンズのように連続して倍率を変えていけるのか(①)、顕微鏡の対物レンズを交換するように倍率を変えていくのか(②)の違いです。

 TG-4購入時に私が期待したのは深度合成モードでしたが、期待外れに終わりました。 TG-4の深度合成モードは、自動的にピントをずらして8枚の写真を撮り、カメラ内の処理で自動的に深度合成した写真を作るというものです。 深度合成という技法は昔からありましたが、このようなカメラ内で自動的に深度合成してくれる機能は、TG-3がはじめて実現させたものです。
 しかし、このような作業を自動的にカメラ内で行うには、8枚の写真データをメモリに残し、比較し、処理するワーキングエリアも必要となります。 そのために、TG-4の深度合成モードには、様々な制約がつけられています。 まず、できてくる写真の画像サイズです。 上記①の顕微鏡モードなどでは最大4,608×3,456 の写真が得られるのですが、深度合成モードでは 3,200×2400 以下に限定されます。 また、デジタルズーム無しで顕微鏡モードなどでは8倍にまで拡大できるのですが、深度合成モードでは4倍までです。 そしてもうひとつ、これが私のいちばん気に入らなかった点なのですが、画像の粗さです。

 写真は明るすぎたり暗すぎたりしないように、被写体からの適度の光が必要なのですが、この光に関する条件が3つあります。 シャッター速度と絞りとISO感度つまりフィルムに相当する撮像素子の光に対する敏感さです。 レンズの小さなコンパクトカメラでは、元々小さなレンズなのですから、絞りはあまり関係しません。 問題はISO感度です。 デジカメではISO感度を電子的に調節できるのですが、ISO感度が高いと少しの光情報で処理してしまうことになり、粗い写真になってしまいますし、ISO感度が低いとたくさんの光を取り込まねばならず、シャッター速度が遅くなり、手振れし易くなります。
 TG-4の深度合成モードでは他のモードでは可能であるISO感度の調節ができません。 これは手持ちで深度合成モードを使うには当然かもしれません。 しかし大きく撮るために被写体にカメラをほぼ密着するまで近づけると、LG-1を使用しても光は不足気味で(こちら)、深度合成モードではISO感度は自動的に上がり、粗い写真になってしまいます。
 TG-4の深度合成モードは被写体が十分明るい条件でその性能を発揮するのでしょう。

 私が最近愛用しているのは、上記③の「フォーカスBKTモード」です。 このモードは、ピントを自動的に少しずつずらして複数枚の写真を撮ってくれるものです。 この機能を持ったカメラは以前からありましたが、大きく拡大した状態でフォーカスBKTが可能なのは、今のところTG-3とTG-4のみです。
 TG-4のフォーカスBKT(たぶんTG-3でも同じ)では、拡大率は4倍までですが、ピントをずらして撮る枚数を10、20、30から選択できますし、撮影ステップ(どれくらいピントをずらすか)も、狭い、標準、広いの3段階から調節できます。 サイズも 4,608×3,456 の画像が得られますし、何よりもISO感度を選ぶことができます! カメラを被写体に近づけて大きく拡大した写真では、手持ち撮影は無理です。 どうせカメラを固定するのならISO感度優先で、私は100に決めています。

 カメラを固定する工夫として私はペットボトルを利用して下の写真の右のようなものを作っています。 厚さの異なる複数枚を作っておき、被写体の厚さによって使い分けています。 左はこれをLG-1をつけたTG-4に取り付けた状態です。 写真を撮る時は、この状態で机の上の被写体に被せて撮っています。


 フォーカスBKTでえられた写真は、その中から自分が気に入った場所にピントの合った写真を1枚選び、他は捨てるという使い方もありますが、私はここで得られた複数枚の写真を、コンピュータのフリーの深度合成ソフト(CombineZP)を使って深度合成しています。

 CombineZP は昔からよく使われているソフトですが、Windows10でもちゃんと動きます(私がそのように使っています)。 アメリカで作られたソフトで、表示は全て英語ですが、その使用方法はいろんなところで(日本語でも)紹介されていますので、検索してみてください。(この記事の字数もかなり多くなったので、ここに載せるのは省きますが、要望があれば別の記事にします。)
 1つだけ注意があります。TG-4のフォーカスBKTでは、最初の1枚はシャッターを押した時の写真になります。 そしてピントを手前にずらして、最初の1枚のピントの位置を経て、奥にピントを合わせていきます。 CombineZPで深度合成するためには、ピントの合っている位置が、手前から奥でも、奥から手前でもいいのですが、順番になるように写真(のファイル名)を並べておく必要があります。 ですから、TG-4のフォーカスBKTで撮った写真を使って深度合成する場合は、最初の1枚は、必ず省いてください。(私はこの写真を写真整理の際の Index として使っています。)

● コケの深度合成
 最近私がよく撮っているコケの深度合成について、その難しさを簡単に書いておきます。 深度合成は簡単ですが、コケの深度合成は難しいという話です。
 乾いたコケを撮る時は問題ないのですが、葉を湿らせて広げて撮ろうとする場合が問題です。 まず葉の表面に水が残っていると、水で光の屈折率が変化して、深度合成すると、とても変な写真になってしまいます。
 そこで十分水を細胞に吸わせてから表面の水を拭き取り、撮影に入るのですが、今度は乾燥との戦いになります。 コケの種類によっては、短時間のうちに乾燥によって葉が巻き込んできます。 深度合成するためには被写体が動かないことが絶対条件になりますが、下手に湿度を保つ工夫をすると、今度はレンズが曇ります。
 コケの深度合成に比較すると、標本など死んでいる昆虫の深度合成は比較にならないほど簡単だ、というのが私の感想です。

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 最後に、少し余談気味になりますが、カメラ内深度合成について補足しておきます。 カメラ内深度合成は今のところはオリンパスの独壇場のようです。 2015年の秋には、ミラーレス一眼レフカメラ(レンズ交換式アドハンスカメラ)の「OLYMPUS OM-D E-M1」にファームウェア Ver. 4.0 が提供され、カメラ内深度合成やフォーカスBKT機能が追加されました。 OM-D E-M1のカメラ内深度合成は、8枚の写真で深度合成する点はTG-3やTG-4と変わりませんが、写真の緻密さでは格段に優れています。 またフォーカスBKTでは 999枚まで撮ることができますし、フォーカスステップ(ピントを変える幅)は1~10から選択できます。
 それに根本にあるのはフィルムに相当する撮像素子の大きさの違いです。  コンパクトなカメラの特徴を持たせるため、TG-4の撮像素子の大きさは6.2×4.6mmであるのに対し、OM-D E-M1の撮像素子の大きさは17.3×13.0mmで、面積にすると約8倍もあります。 こんな小さな撮像素子で画質でかなうわけはありません。
 小さなものを大きく撮るには、数値的には等倍マクロレンズではTG-3やTG-4にかなわないようにも見えますが、大きな撮像素子による美しい写真では大胆なトリミングも可能ですし、一眼レフではテレコンバーターを使うなど、レンズを工夫することも可能でしょう。 価格はTG-4の3~4倍はしますが、これから小さなものをしっかり撮っていこうとする方にはお勧めだと思います。 ちなみに私はニコン派で交換レンズもいろいろ揃えていますので、指をくわえています。

2014-09-30

TG-2 に LG-1 ②

 オリンパスの LG-1 を TG-2 につけて試し撮りした結果を前に書きました(こちら)。 その後の使用に関しては、大きくは撮れるが超接写の画質が悪いという印象で、主たる撮影機材にはしていませんが、地面スレスレの写真を撮ったり、水中に入れても大丈夫などの利点もあり、サブカメラとして持ち歩き、次第に使用頻度も増えてきました。  特に、デジイチの太いレンズとフラッシュ使用は不可能な、細い隙間の奥に光を当てて撮りたいような場合には、TG-2 はほんとうに役立ちました。 そこで、 LG-1 を使用した場合の光の回り方を頭に入れておこうと思い、実験してみました。


  上は表面がザラザラしているボードと LG-1 をつけたカメラとの距離を 1.5cmほどにし、カメラ本体のLEDライト光を  LG-1を使用して照射し、ズームのワイド端で撮ったものを、トリミングなしで載せたものです。
 光は隅々まで回っていませんが、こんな近距離でワイド端で撮ることはありませんから、これは問題なし。 問題は中心部に光が回っていないことです。 このような状態で拡大して(=ズームインして)撮ると、LG-1 を使用しても被写体に光が十分回らず、ISO感度が高くなり、画質が粗くなってしまいます。 超接写で画質が悪かった理由の一つはこれかもしれません。
 では、カメラと被写体の距離をどれくらい離せば視野の中心部まで光が回るのか、結論だけ書きますと、5cmほど離せば、ほぽ視野の中心部まで照射されるようです。 LG-1は、光が径3cmほどの範囲からあまり広がらないように作られていますが、それでもカメラと被写体との距離が広がれば、弱い LEDライトの光がさらに弱くなります。 ですから、LG-1 を使用して、最も LEDライトの光を有効に使えるのは、3cm以下の被写体で、カメラと被写体との距離が5cmほどの時だということになりそうです。
 こんなことがいろいろ分かってくると、LEDライトよりはるかに強い光を出すフラッシュも利用したくなります。 LG-1 の注意書きには、LG-1 は LEDライトで使用し、フラッシュでは使用できない旨が書かれてあります。 実際フラッシュを光らせてもリング部分に光が導かれないつくりになっています。 しかし昆虫写真家の海野和男氏などは、LG-1 を改造して、LG-1 でフラッシュを使えるようにしておられるようです。 たぶんオリンパスは、フラッシュの連続使用ではフラッシュの熱に LG-1 が耐えられないなど何らかの理由で、トラブルを避けるために LG-1 ではフラッシュを使用できないようにしたのでしょう。
 私もフラッシュが使えるように、LG-1 を改造してみました。 改造 LG-1 を使用しての結果は、ほぼ満足できるものでした。 上に書いた5cmより短い距離でも、フラッシュの強い光なら有効のようです。 ただしこの改造の方法は、LG-1 の強度を弱めることになるでしょうし、オリンパスの心配を助長するものでしょうから、ここには載せないことにします。
 改造 LG-1 を使用した写真を下に載せておきます。 体長2mmほどのオオチョウバエ?の触角です。 カメラを近づけてもっと大きく撮れますが、逃げられること避けて安全な距離を確保しています。


 上の写真は、下の写真(ニコンD7100、60mmマクロ、トリミング)の水色の四角で囲った部分を撮ったものです。


2014-08-20

TG-2 に LG-1

 オリンパスの TG-3 が6月14に発売され、小さな虫や花の細部を撮る「顕微鏡モード」がとても人気のようです。 私も購入したい気もするのですが、昨年の2月発売の TG-2 を既に持っています。 TG-3 は TG-2 の後継機で、TG-2 も基本的には同じコンセプトで作られています。
 TG-2 に関しては、使用してみての感想や撮影にあたっての問題点をこちらに書きました。 この中で、よく接写する私にとって最大のネックはライティング、つまりカメラとの距離が1cmしかない被写体にいかにして光を当てるかでした。
 今回、TG-3 の発売と同時に、カメラ本体のLEDライト光をレンズの周囲に導くLG-1(LEDライトガイド)が発売になりました。 この LG-1 は TG-2 にも装着できるということで、取り寄せてみました。


 上が TG-2(左上)と LG-1(右下)、下が装着したところです。 LG-1 が白く光って見えるのは、フラッシュの光を反射しているからです。 LG-1 自体に発光能力はありません。


 さっそく、冷蔵庫に入れて動きはにぶくなっているものの、生きている(=動きまわっている)ヤガタアリグモで試し撮りしてみました。


 上が LG-1 を装着した TG-2 (以下、TG-2と書きます)で撮ったものを少しトリミングしたもの、下は従来接写によく利用してきたカメラ(ニコンD7100+60mmマクロレンズ+×1.4テレコン:以下、D7100と書きます)で撮ったものを、大きくトリミングして、ほぼ同じ大きさにしたものです。


 2枚の写真を比較して、かなり印象が異なりますが、その大きな理由は、眼に映り込んでいる光のせいでしょう。 TG-2 ではレンズの周囲が光っているわけですから、眼にはサークル状の光が映り込みます。 D7100でも内臓フラッシュを使用していますので、ディフューザーが眼に白く映り込んでいます。
 TG-2 では、もっともっと大きく撮れますが、動きまわっている虫などを撮るには、このあたりが現実的でしょう。 大きさよりも気になるのは、画面の粗さです。 画面が粗くなる理由の一つは、フィルムに相当する映像素子の大きさです。 これはコンパクトカメラですから仕方のないことですが・・・。 もう一つの理由は、やはり光不足です。 これだけ近くで光を当てているのですが、撮った写真のプロパティを調べてみると、ISO は 1,600 になっていました。 これだけ自動的にISO感度が上がっているのに、露出時間は 1/40秒で、ブレた写真を大量生産してしまいました。 結論としては、動かないものは大きく撮れますが、動くものを接写しようとすると、LG-1 だけでは光量不足で、よほど明るい条件でない限り、補助ライトを用意するなど、工夫が必要ということでしょうね。
 これに対して、私がこれまで使っていた接写システムでは、そんなに大きく撮れませんから、かなりトリミングしているのですが、画質の良さは保たれています。 撮った写真のプロパティを見ても、フラッシュを使用していますので、動きは止まっていますし、ISO も 200 をキープしています。

 上で、TG-2 は  LG-1 を使用すれば、動かないものなら大きく撮れると書きました。 どれくらい撮れるのか試してみました。


 上は1万円札の左下にあるホログラムの一部を、ISOを 100 に固定し(シャッター速度は1/2にまで落ちました)、デジタルズーム無しで撮った、ノートリミングの写真です。 新札ですので、しわのように見えるのは、紙の繊維でしょう。
 実際の写真の大きさは 3,968×2,976 ですので、それをブログに載せるために、1,024×768 (この大きさで見るには写真をクリックしてください)にまで縮小しています。 どれくらいの大きさのものが写っているのか、ルーペを準備して(肉眼ではサクラの花程度しか見えないと思います)、実際の1万円札と見比べてみてください。
 さらに、デジタルズームを使い、ブログに載せる大きさにしているようにトリミングすると、上の写真の左上の「N」は下のようになります( ISO は 100 に固定、1,140×1,140 の切り出しをシャープネス加工し、640×640 に縮小しています)。


 この「N」の文字の実際の横幅は、0.2mmほどです。 TG-3 では、画素数だけを比較しても、TG-2 の 1.3倍になっていますから、もっと大きく撮れるのでしょうね。

TG-3 の接写能力( TG-2 との比較 )
 接写に関して TG-2 に追加された TG-3 の機能を検討してみます。 上に書いたように、TG-3 は購入していませんから、カタログ上の検討になりますが・・・。
 接写では被写界深度が浅くなります。 このことに対する対応策として、TG-3 は「顕微鏡モード」の「サブモード」として、「深度合成」と「フォーカスBKT」が準備されています。 前者では、カメラが自動的にピント位置をずらした複数枚(8枚?)の画像を撮影し、ピントの合った部分を選んで自動的に合成してくれます。 また後者は、カメラが自動的にピント位置を少しずつずらして、最大30枚の画像を撮影してくれますので、その中で自分の思った所にピントの合っている写真を選択すればいいわけですし、この30枚を使って、フリーソフトで深度合成もできるわけです。
 しかし深度合成するには、複数枚の写真を撮る間、被写体とカメラとの関係が不動であることが必要です。 虫が触角を少し動かしてもダメですし、手持ち撮影では不可能でしょう。 私の場合は野外に三脚を持って行くことはまずありませんから、野外では無理でしょうね。
 前に、TG-2 を使って、フリーソフトで深度合成しようとしたことがありました。 この時、TG-2 では、シャッターを押す時に、いくら注意深くしても、ほんの少しですが動いてしまいます。 小さなものを被写体にしていると、このほんの少しのズレが大きく影響し、まともな深度合成の写真を撮ることはできませんでした(こちら)。 ところが TG-3 では、通信機能の性能が上がっていて、スマートフォンでシャッターが切れます。 カメラのシャッターに触れなくても写真を撮ることができるわけです。 この機能は、近寄れば逃げる虫の集まる所に TG-3 をセットしておき、少し離れた所から、虫が来たところでシャッターを切る、といった使い方もできそうです。