今日は大晦日、1年間のまとめをすべきかもしれませんが、見た生物を順に載せているだけのブログをまとめられるはずもありません。 そこで今日は生物各論ではなく、今年の5月末から使い始めたオリンパスのカメラ TG-4 での深度合成について、コケの観察会などで聞かれることもありますので、まとめてみたいと思います。 なお、私はそれまでTG-2を使用しており、TG-3は使用したことはありませんが、TG-3とTG-4とでは、仕様表を見る限り、そんなに違いは無さそうです。(ちまたではTG-5でガラッと変わるのではないかとの噂が流れていますが、もしかしたら、オリンパスの方針としては、TGシリーズのコンパクトさはそのままで、TG-4より良い写真を求める人には、最後に書いた OM-D E-M1 などへの移行を薦めるのかもしれません。)
深度合成は隅々までピントの合った状態で小さなものを大きく撮るための方法です。 深度合成の話に入る前に、TG-4ではどれくらいの小さなものを大きく撮れるのかを見ておくことにします。
● TG-4のマクロ機能
TG-4(TG-3も)は、持ち運びに便利な丈夫なコンパクトさと、水中撮影やマクロ撮影ができることが特徴のカメラですが、ここではマクロ撮影、それもカメラと対象物をほぼ密着させた(いわゆる「1cmマクロ」ですが、この1cmは、レンズの先端からの距離ではなく、カメラ内の撮像素子からの距離です)マクロ撮影に話を絞ります。 なお、カメラを被写体に近づけると、カメラ自身の影ができますから、別売のLEDライトガイド(
LG-1)が必須になります。
TG-4のズーム機能は、ズームの上に、ソフト的に画素数を増加させる超解像ズームがあり、さらにその上にデジタルズームがあります。 超解像ズームとデジタルズームは個別に on/off が可能ですが、まずはこれらの機能をすべて使った場合、どこまで大きく撮れるのかを見ていくことにします。
カタログなどを見ると、いろんな倍率が出てきます。 倍率は「○○の□倍」と、基準となる「○○」があるはずなのですが、これを無視して単に「□倍」とするのは無意味です。 次のa~cに分けると理解し易いでしょう。
a.カメラの背面液晶の表示
カメラの背面液晶に表示される倍率です。 最もワイドの時の状態(=カメラのスイッチを on にした時の状態)が×1で、その何倍かを表示します。 ズームで×4、超解像ズームで×8、デジタルズームで×16まで拡大できます。 写る範囲(=長方形)の長辺は、LG-1を装着してカメラを被写体に密着させた場合は×1で20mmほどで、×4で約5mm、×8で約2.5mm、×16では1.3mmほどになります。
b.35mm版換算
デジカメの世界でのマクロ撮影の基準となるのは、撮像素子の長辺が35mmのデジタル1眼レフカメラに等倍マクロレンズを使って撮影する場合でしょう。 この場合、最も大きく撮った場合は、35mmのものを撮像素子いっぱいに写し込むことになります。 35mm版換算とは、撮像素子上での比較です。 TG-4の×8では2.5mmのものを撮像素子いっぱいに写し込んでいますから、この場合の35mm版換算は14倍(35/2.5=14)となります。 撮った写真がどのくらいの大きさの写真なのかは撮像素子の画素数によるのですが、撮像素子の画素数が同じとして比較している数値ということになります。
c.背面液晶での観察倍率
TG-4を実体顕微鏡やルーペ代わりに使おうとした場合の倍率です。 TG-4の背面液晶の長辺は58mmほどですから、最も大きく見た場合は、1.3mmを58mmに拡大して見ることになります。 パンフレットなどに「背面液晶で最大44.4倍の拡大観察が可能になります。」などと書かれてある倍率がこれにあたります。
一般的な顕微鏡で低倍率と呼ばれているのは、10×10 つまり100倍です。 上の「44.4倍」を見て、顕微鏡の低倍率の半分の大きさか・・・と思ってはいけません。 基準となる「○○の」の○○が異なります。 1.3mmの大きさのものが視野いっぱいに広がる拡大率は、顕微鏡の10×10の視野範囲にほぼ相当します。
しかしデジタルズームを使用すると、後述のように小さな撮像素子であるためにただでも画質の粗いTG-4の画質がさらにひどくなりますので、私はデジタルズーム機能をoffにしています。(そんな撮影をするなら顕微鏡を使います。) 顕微鏡を持たない人で、画像が多少粗くても・・という人には良いかもしれませんし、透過光と反射光では全く違った画像になるので、この倍率の意義はあるとは思いますが・・・。
● 深度合成とは
被写体に近づいて写真を撮る場合、ピントの合う範囲(被写界深度)は非常に浅くなります。(例えば小さな虫を正面から撮る場合、複眼にピントを合わせると、胸部はもうピントが合っていません。) そこで少しずつピントの合う位置を変えて複数枚の写真を撮り、ピントの合った部分をつなぎ合わせて1枚の写真にするのが深度合成です。 下に1例を示します。
上の写真は左下の一部にしかピントが合っていません。 このような一部にピントの合った写真を、ピントをずらして30枚撮り、深度合成したのが下の写真です。 両方の写真とも 1,280×960 で載せていますので、大きなモニターがあれば、写真をクリックして大きく表示し、比較してみてください。 なお、下の写真は、12月19日にクラマゴケモドキの所に載せた写真を再掲しています。
深度合成については理解していただけたと思いますが、じつはこの写真はTG-4を使っていますが、深度合成モードで作ったものではありません。(この写真の作成方法は後述します。)
● TG-4で深度合成
TG-4の顕微鏡モードには、①顕微鏡モード、②深度合成モード、③フォーカスBKTモード、④顕微鏡コントロールモードの4種のサブモードが用意されています。 ①と④は性能的に同じで、ズームレンズのように連続して倍率を変えていけるのか(①)、顕微鏡の対物レンズを交換するように倍率を変えていくのか(②)の違いです。
TG-4購入時に私が期待したのは深度合成モードでしたが、期待外れに終わりました。 TG-4の深度合成モードは、自動的にピントをずらして8枚の写真を撮り、カメラ内の処理で自動的に深度合成した写真を作るというものです。 深度合成という技法は昔からありましたが、このようなカメラ内で自動的に深度合成してくれる機能は、TG-3がはじめて実現させたものです。
しかし、このような作業を自動的にカメラ内で行うには、8枚の写真データをメモリに残し、比較し、処理するワーキングエリアも必要となります。 そのために、TG-4の深度合成モードには、様々な制約がつけられています。 まず、できてくる写真の画像サイズです。 上記①の顕微鏡モードなどでは最大4,608×3,456 の写真が得られるのですが、深度合成モードでは 3,200×2400 以下に限定されます。 また、デジタルズーム無しで顕微鏡モードなどでは8倍にまで拡大できるのですが、深度合成モードでは4倍までです。 そしてもうひとつ、これが私のいちばん気に入らなかった点なのですが、画像の粗さです。
写真は明るすぎたり暗すぎたりしないように、被写体からの適度の光が必要なのですが、この光に関する条件が3つあります。 シャッター速度と絞りとISO感度つまりフィルムに相当する撮像素子の光に対する敏感さです。 レンズの小さなコンパクトカメラでは、元々小さなレンズなのですから、絞りはあまり関係しません。 問題はISO感度です。 デジカメではISO感度を電子的に調節できるのですが、ISO感度が高いと少しの光情報で処理してしまうことになり、粗い写真になってしまいますし、ISO感度が低いとたくさんの光を取り込まねばならず、シャッター速度が遅くなり、手振れし易くなります。
TG-4の深度合成モードでは他のモードでは可能であるISO感度の調節ができません。 これは手持ちで深度合成モードを使うには当然かもしれません。 しかし大きく撮るために被写体にカメラをほぼ密着するまで近づけると、LG-1を使用しても光は不足気味で(
こちら)、深度合成モードではISO感度は自動的に上がり、粗い写真になってしまいます。
TG-4の深度合成モードは被写体が十分明るい条件でその性能を発揮するのでしょう。
私が最近愛用しているのは、上記③の「フォーカスBKTモード」です。 このモードは、ピントを自動的に少しずつずらして複数枚の写真を撮ってくれるものです。 この機能を持ったカメラは以前からありましたが、大きく拡大した状態でフォーカスBKTが可能なのは、今のところTG-3とTG-4のみです。
TG-4のフォーカスBKT(たぶんTG-3でも同じ)では、拡大率は4倍までですが、ピントをずらして撮る枚数を10、20、30から選択できますし、撮影ステップ(どれくらいピントをずらすか)も、狭い、標準、広いの3段階から調節できます。 サイズも 4,608×3,456 の画像が得られますし、何よりもISO感度を選ぶことができます! カメラを被写体に近づけて大きく拡大した写真では、手持ち撮影は無理です。 どうせカメラを固定するのならISO感度優先で、私は100に決めています。
カメラを固定する工夫として私はペットボトルを利用して下の写真の右のようなものを作っています。 厚さの異なる複数枚を作っておき、被写体の厚さによって使い分けています。 左はこれをLG-1をつけたTG-4に取り付けた状態です。 写真を撮る時は、この状態で机の上の被写体に被せて撮っています。
フォーカスBKTでえられた写真は、その中から自分が気に入った場所にピントの合った写真を1枚選び、他は捨てるという使い方もありますが、私はここで得られた複数枚の写真を、コンピュータのフリーの深度合成ソフト(CombineZP)を使って深度合成しています。
CombineZP は昔からよく使われているソフトですが、Windows10でもちゃんと動きます(私がそのように使っています)。 アメリカで作られたソフトで、表示は全て英語ですが、その使用方法はいろんなところで(日本語でも)紹介されていますので、検索してみてください。(この記事の字数もかなり多くなったので、ここに載せるのは省きますが、要望があれば別の記事にします。)
1つだけ注意があります。TG-4のフォーカスBKTでは、最初の1枚はシャッターを押した時の写真になります。 そしてピントを手前にずらして、最初の1枚のピントの位置を経て、奥にピントを合わせていきます。 CombineZPで深度合成するためには、ピントの合っている位置が、手前から奥でも、奥から手前でもいいのですが、順番になるように写真(のファイル名)を並べておく必要があります。 ですから、TG-4のフォーカスBKTで撮った写真を使って深度合成する場合は、最初の1枚は、必ず省いてください。(私はこの写真を写真整理の際の Index として使っています。)
● コケの深度合成
最近私がよく撮っているコケの深度合成について、その難しさを簡単に書いておきます。 深度合成は簡単ですが、コケの深度合成は難しいという話です。
乾いたコケを撮る時は問題ないのですが、葉を湿らせて広げて撮ろうとする場合が問題です。 まず葉の表面に水が残っていると、水で光の屈折率が変化して、深度合成すると、とても変な写真になってしまいます。
そこで十分水を細胞に吸わせてから表面の水を拭き取り、撮影に入るのですが、今度は乾燥との戦いになります。 コケの種類によっては、短時間のうちに乾燥によって葉が巻き込んできます。 深度合成するためには被写体が動かないことが絶対条件になりますが、下手に湿度を保つ工夫をすると、今度はレンズが曇ります。
コケの深度合成に比較すると、標本など死んでいる昆虫の深度合成は比較にならないほど簡単だ、というのが私の感想です。
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最後に、少し余談気味になりますが、カメラ内深度合成について補足しておきます。 カメラ内深度合成は今のところはオリンパスの独壇場のようです。 2015年の秋には、ミラーレス一眼レフカメラ(レンズ交換式アドハンスカメラ)の「OLYMPUS OM-D E-M1」にファームウェア Ver. 4.0 が提供され、カメラ内深度合成やフォーカスBKT機能が追加されました。 OM-D E-M1のカメラ内深度合成は、8枚の写真で深度合成する点はTG-3やTG-4と変わりませんが、写真の緻密さでは格段に優れています。 またフォーカスBKTでは 999枚まで撮ることができますし、フォーカスステップ(ピントを変える幅)は1~10から選択できます。
それに根本にあるのはフィルムに相当する撮像素子の大きさの違いです。 コンパクトなカメラの特徴を持たせるため、TG-4の撮像素子の大きさは6.2×4.6mmであるのに対し、OM-D E-M1の撮像素子の大きさは17.3×13.0mmで、面積にすると約8倍もあります。 こんな小さな撮像素子で画質でかなうわけはありません。
小さなものを大きく撮るには、数値的には等倍マクロレンズではTG-3やTG-4にかなわないようにも見えますが、大きな撮像素子による美しい写真では大胆なトリミングも可能ですし、一眼レフではテレコンバーターを使うなど、レンズを工夫することも可能でしょう。 価格はTG-4の3~4倍はしますが、これから小さなものをしっかり撮っていこうとする方にはお勧めだと思います。 ちなみに私はニコン派で交換レンズもいろいろ揃えていますので、指をくわえています。