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2022-09-22

ヒカリゴケの原糸体・配偶体・胞子体 ②

  昨日は生育地で撮った写真を使ってヒカリゴケ Schistostega pennata の生活環を紹介しました(こちら)。 今日は室内で観察した結果を載せます。

 ヒカリゴケが光っているのは原糸体であることは昨日も書きましたが、上がその原糸体です。
 蘚類の多くの原糸体は細胞が1列につながっていますが、本種の場合はその細胞の一部がレンズ状細胞と呼ばれる丸い細胞になっています。 丸くなっても原糸体の細胞ですから、1列につながっていることには変わりなく、そのことは上の写真の右側でよく分かります。

 原糸体が黄緑色に光る様子は神秘的で美しいのですが、では、なぜ光るのでしょうか。
 ヒカリゴケは薄暗い洞を好んで生えているのではありません。 植物にとって好条件な環境は他の植物との生存競争に負け、他の植物が生きていくのに必要な量の光合成ができない薄暗い所で、さまざまな工夫を凝らしてどうにか生きているのがヒカリゴケです。
 下は光るしくみと意義を説明するための模式図です。

 自然光はいろいろな波長の光(いわゆる虹の7色)の集まりです。 植物は光を葉緑体で吸収し、そのエネルギーで生きるために必要な物質を合成しているのですが、葉緑体が吸収できる光は赤と紫が中心で、緑色の光は使えません。(だから、植物が吸収できなかった緑色の光は透過または反射し、私たちの目に入ってくるので、植物は緑色に見えるのです。)
 原糸体のレンズ細胞に入った光のうち、赤や紫の光はレンズ細胞の中にある葉緑体で吸収され、減少します。 レンズ細胞はその形のため光を細胞壁で反射し、光は何度も葉緑体を通り、そのたびに赤や紫の光は減少し、レンズ細胞から出る時は吸収されなかった緑色を中心とした光になっています。
 以上をまとめると、ヒカリゴケの原糸体が光るのは、光を有効利用するために光を反射するからで、光が黄緑色に見えるのは、それらの波長の光が吸収されなかったためです。 私たちが見ているのは反射光ですから、強い光を当ててやれば強く光ります。

 上は原糸体から育ったヒカリゴケの植物体です。 以下、上の ①~⑤ について、順番に見ていくことにします。

 ① は生殖器をつけていない配偶体ですが、乾いて縮んできています。 水分を失い易いつくりのようです。 元気な姿は昨日の写真を見てください。

 葉は茎の左右に2列に並んでいますが、基部は下延し、下の葉と融合しています。

 葉身細胞は長い菱形で、長さは 90~140μmでした(上の写真)。

 ② は胞子体を茎頂につけた配偶体です。 同じ配偶体でも①よりずっと小さく、葉も小さく、茎頂に集まって5列についています。

 ③ は胞子体です。 蒴柄は約5mm、蒴はほぼ球形で小さく、幅は3mmほどしかありません。

 上は蒴の拡大です。 蒴歯は無いようですが、胞子があふれ出ていてよく分かりません。 そこで・・・

 蒴口近くを顕微鏡で観察してみました(上の写真)。 退化した小さな蒴歯も無いようです。

 上は胞子で、長さは 10~12μmです。

 胞子体が作られているということは、卵と精子が出会っているはずです。 平凡社ではヒカリゴケに関しては雌雄同株とも雌雄異株とも書いてありません。 調べてみることにしました。

 ④は②と葉の付き方などがそっくりです。 調べてみると・・・

 ④の茎頂はたくさんの小さな葉で覆われていました。 その葉をできるだけ取り去り顕微鏡で観察したのが上の写真です。 気泡が入ってしまいましたが、造卵器の姿を残したまま、中の卵細胞が受精し、胚として生長している姿を観察することができました。 ほぼ予想通りです。

 ⑤ は④と似ているのですが、小さな葉が比較的茎の下にまでついています。 これも同様に茎頂の葉をできるだけ取り去って顕微鏡で観察すると・・・

 茎頂には複数の造精器がついていました(上の写真)。

2022-09-21

ヒカリゴケの原糸体・配偶体・胞子体 ①

 今年行った北八ヶ岳(2022.9.3.~9.5.)では行った先々でヒカリゴケをみつけました。 群生地をまとめて1カ所としても、計5カ所になります。 何らかの影響で増えたのか、今まで気づかなかっただけなのか・・・。

 ヒカリゴケ Schistostega pennata が光るのは原糸体の丸い細胞が光を反射するからで、原糸体から生じる配偶体(いわゆるコケ本体)は光らないことはこちらに書きました。 上の写真でも、赤い円内などにわずかにみられる配偶体は光っていません。

 ヒカリゴケの群落が成熟するにつれ、配偶体が増えてきます。

 上の写真では配偶体ばかりが目立っています。 配偶体は葉を2列につけ、植物体全体としてはとても扁平なのですが、上の写真ではどの配偶体もカメラの方に広い面を向けています。 これはカメラの位置がヒカリゴケの生育する洞の入り口であり、洞に光が入る所にあるためです。 つまりヒカリゴケの配偶体はいちばん効率的に光を受け取ることのできる姿勢を取っていることになります。

 群落が充実してくると胞子体を作り始めるようです。 上の写真の右奥には、ピントは合っていませんが、胞子体をつけたヒカリゴケが写っています。

 上の写真の中央が胞子体です。 生殖器官をつけていない茎は上述のように葉を2列につけているのですが、胞子体を頂につけている茎はとても短く、その茎の葉は茎頂に集まり5列につきます(上の写真の赤い楕円内)。

 上は蒴で、胞子が出てきています。 蒴歯はありません。

 以上、生育地での様子をまとめました。 こちらには、室内でもう少し細部を細かく観察した結果を載せています。

2016-07-25

ヒカリゴケ


 岩の隙間の暗い空間を懐中電灯で照らすと、黄緑色に光る点が散らばって見えました。 ヒカリゴケです。
 上はフラッシュの光を当てて撮った写真のコントラストを少し強めています。 肉眼的には光る点が散らばっているようにしか見えなかったのですが、写真を確認すると、ヒカリゴケの植物体もたくさん写っていました。
 ヒカリゴケ Schistostega pennata は、その名のとおり光るコケとして知られていますが、上の写真のように、ヒカリゴケの植物体(=茎葉体=配偶体)は光っておらず、光っているものはその周囲に散らばっています。 じつはこの光っているものは、ヒカリゴケの原糸体のレンズ状細胞です。
 一般に、蘚類は胞子から発芽すると、一方向に細胞分裂を繰り返し、糸状に伸びていきます。 これを原糸体と呼んでいて、植物体はこの長く伸びた原糸体のあちこちにできる細胞の塊からできます。 多くの蘚類は植物体が育ちはじめると原糸体は消えていくのですが、ヒカリゴケの原糸体は残存性が高く、そこにレンズ状細胞と呼ばれる球形の細胞が混じります。 このレンズ状細胞が光を反射するので光って見えるわけです。


 上が顕微鏡下で撮ったレンズ状細胞です。 レンズ状細胞は光の当たる方向には光って見えますが、光は下から当てていて、上から見ていますから、光っているようには見えません。
 上の写真のようにレンズ状細胞は葉緑体を持っています。 ですからレンズ状細胞に白色光を当てても反射光には緑色が混じり、黄緑色に輝きます。


 上は植物体(=茎葉体=配偶体)です。 葉は左右2列に並んでいます。


 上は上下2枚の葉が接する所を撮った顕微鏡写真です。 下中央から右上隅に茎が走っています。 葉の基部は下延して下の葉と融合しています。 葉身細胞は長い菱形です。

 ヒカリゴケの分布は本州中部以北です。 1枚目の写真は 2016.7.20. に北八ヶ岳で撮影しました。

◎ ヒカリゴケの胞子体などについては、こちらには生育地での様子を、こちらには生殖器官をつけたものも含め、室内での観察結果を載せています。