2020-06-30

ケゼニゴケの生殖に関するフェノロジー


 開裂後の蒴をつけたケゼニゴケ Dumortiera hirsuta を観察しました。


 たくさんの弾糸が残っていて、蒴の様子はよく分かりません。 下はこの弾糸の大部分を取り除き、雌器托を裏返しにして撮影しています。


 蒴は4裂しています。



 上は弾糸と胞子です。

(以上、2020.6.24. 奈良県宇陀市)

 では、このケゼニゴケはいつ胞子を散布するのか、過去の写真を探すと、2018.6.13.に大阪府高槻市の川久保渓谷で撮影した、胞子を出している下の写真がありました。


 この機会に、ケゼニゴケの生殖に関する変化を追えるように、下にまとめておきます。

雌器托
・若い胚、柄は伸びていない(12月中旬) → こちら
・高く伸びている(5月下旬) → こちら
・胞子散布(6月中旬) → 上の写真
・胞子散布後(6月下旬) → 上の写真

雄器托
・まだ緑色(9月中旬) → こちら
・精子放出後(12月中旬) → こちら

 上の流れからすると、受精は11月下旬~12月上旬あたりになるのでしょうか。

2020-06-29

マルトビムシの一種



 コケを見ていると、いろいろなトビムシにも出会います。 写真はマルトビムシの一種で、ケゼニゴケの雌器托の裏に潜んでいました。
 このトビムシはこれまでもコケを見ていて何度かみつけたことはあるのですが、それ以外では見たことがありません。 コケが好きなトビムシかもしれませんが、単にルーペでもなかなか気づきにくい大きさだからかもしれません。 動いているので、ものさしを横に置いての撮影はできませんが、写真から体長を計算したところ、0.75mmでした。



2020-06-28

テイカカズラの花


 テイカカズラ Trachelospermum asiaticum はキョウチクトウ科のつる性常緑低木です。 和名は謡曲「定家」に由来しています。

謡曲「定家」:
 賀茂の斎院だった式子内親王は藤原定家と人目を忍ぶ深い契りを結びましたが、世間に漏れ、逢えぬまま亡くなりました。 それ以来定家の執心が、葛となって内親王の墓にまといつき、内親王の魂もまた安まることがありませんでしたが、旅の僧の法力によって成仏し、テイカカズラにまといつかれた墓の中に帰ります。


 テイカカズラの花の色は歌人藤原定家の心の色かもしれません。 ところがこの花、外見は清楚ですが、生殖器官としての花のつくりとなると、さすがにキョウチクトウ科の花、なかなか複雑です。


 上は花の中央部を見たものですが、中心に円錐形のものが見えるだけで、オシベもメシベもはっきりしません。 白く芳香のある花は、夜の蛾による花粉媒介を思わせます。 円錐形の周囲の5つの穴は、蛾が口吻を差し込む所なのでしょう。


 上は花を横から見たものです。 ガク片は5枚、色の付いた花筒が長く伸びています。 この花の断面を作ってみると・・・


 上の花の断面を見ると、写真の左側に子房があり、そこから花柱が長く伸び、三角錐の部分に入っています。 三角錐の部分はゴチャゴチャしているうえに花粉があって分かりづらくなっています。


 上は花粉が出る前のツボミの三角錐付近の断面です。 花粉の入ったオシベの葯が三角錐の内側にあります。 つまり花粉は花の外にではなく、三角錐の内側に出されます。


 上は咲いている花の三角錐付近の断面です。 花粉が三角錐の外側に出ていますが、これは断面を作る時に出たものです。

 この花は蛾にどのように花粉媒をさせようとしているのか、考えられるシナリオは次のようになるでしょう。
 他の花で吸蜜し、口吻に花粉をつけた蛾が飛来したとしましょう。 蛾は三角錐の周囲にある穴から口吻を差し込み、花筒の底にある蜜を求めて口吻を伸ばします。 さて、蜜を吸い終え、口吻を抜こうとした時です。 どうやら花筒の内側に生えている毛によって、口吻は三角錐の細い隙間に誘導されるようです。 そして口吻を抜く過程で、口吻に付けていた他の花から運んできた花粉は拭われて①にくっつき、②の所で粘液をつけられ、その粘液に③の花粉がくっつく、ということになるようです。 花粉を受け取るメシベの柱頭は①の場所にあります。

※ 上は、Part1の2014.6.14.の記事にエラーが出ているため、少し加筆のうえ、こちらに引っ越しさせたものです。

2020-06-27

コミミゴケ


 キダチヒラゴケの上を覆う糸状のコケ、コミミゴケ Lejeunea compacta でしょう。 笹かまぼこのような形をしたものがたくさんついています。 そのうちの1つだけを赤い矢印で示しましたが、他も同じで、雄花序だろうと思います。 本種は雌雄異株で、この中に造精器ができるのだと思いますが、まだ若いようで、解剖してみたのですが、造精器は見つけられませんでした。


 葉は重なって茎にくっついていて、葉を含めた茎の幅は 0.3mmほどです。


 上は顕微鏡でほぼ腹面から撮っていますので、腹葉の形は分かりますが、葉(側葉)の形はよく分かりません。 しかし、葉と腹葉の大きさはほぼ同じであることや、葉は湿ってもほとんど開いていないことは分かります。


 上は腹葉(左)と葉(右)を同じ拡大率で並べたものです。腹葉は長さと幅がほぼ同長で、上の写真では1/3ほどV字形に切れ込んでいますが、もう少し深く1/2ほどまで切れ込むことがあります。 基部は耳状になっています。
 葉の背片は、ほぼ三角形です。 腹片(赤い四角の下方)は背片の1/3ほどの長さです。 下は赤い四角に相当する部分の別の葉の拡大です。


 腹片の第1歯(歯牙)は、上の写真では他の細胞と重なってしまっていますが、単細胞で、キール側の縁が環状に曲がっています。


 上は葉身細胞です。 トリゴンは大きく、油体は楕円体で微粒の集合です。

(2020.6.24. 奈良県宇陀市)

◎ コミミゴケはこちらにも載せています。

2020-06-26

ヤドリバエ科の1種


 ミントに来ていた写真のハエ目、ヤドリバエ科の1種だと思います。 幼虫は他の昆虫などに捕食寄生しますが、花の蜜は成虫にとって大切な食糧です。


 口吻を伸ばして熱心に蜜を吸っています。 一般的に昆虫は雨の中では翅が濡れて重くなるのか、ほとんど行動しません。 雨あがりで腹を空かしていたのか、近づいても逃げませんでした。

(2020.6.19. 大阪市立長居植物園)

2020-06-25

大阪市内にいたミゾゴイ

 新宿駅前にミゾゴイがいたと、昨日(6月24日)のニュースやツイッターなどで話題になっています。 そこで7年前(2013年)の秋に大阪市内にいたミゾゴイの記事(エラー発生中)を、一部訂正のうえ、こちらに移植しました。

 ミゾゴイは主に日本各地の里山で繁殖し、冬季には南下して九州~フィリピンで越冬しますが、世界で1,000羽以下しかいないと言われており、国際自然保護連合の絶滅危惧種に指定されていますし、環境省第4次レッドリスト(2012)では絶滅危惧II類(VU)に指定されています。
 そんな珍しいミゾゴイが、10月4日に梅田のビルの地下駐車場に迷い込んでいたところを発見されました。 地上の緑地に放してやると、ミミズや昆虫などの食べ物も多く、水浴びする所もあり、その場所が気にいったのか、元気に飛ぶこともできるのに、居続けているとのことです。 その様子はNHK関西のニュースでも紹介されました。
 発見されてから2週間近くにもなり、渡りの途中でしょうし、さすがにもういなくなっているだろうと思いながらも行ってみると、まだいて、よく人に慣れ、愛嬌をふりまいていました。


 上はカラスが上を飛んだ時にとった擬態の姿勢です。 カラスをワシタカ類と同様に見たのでしょう。 このままの姿勢で、しばらくは全く動きませんでした。 周囲が緑の環境では上のように目立ちますが、本来の環境である薄暗い木立などの間にいると、紛れてわからなくなるのでしょうね。 たくさんの人の前で野性の姿を見せてくれました。


 上は、動きがあるので少しブレていますが、大きな太いミミズを土の中から引っぱり出しているところです。


 オンブバッタをGet!


 羽をきれいに開いたところも撮りたかったのですが・・・


 上は歩いているところで、足の指(の色)まで分かりますし、羽冠の様子も確認できます。

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 上記のミゾゴイは、結局50日ほど滞在しました。 そんなこともあって翌年(2014年)にはミゾゴイについての講演会があり、その内容をこちらにまとめています(写真は上記のミゾゴイです)。

2020-06-24

マダニ体験記

 ダニに咬まれました。 以下はその体験記です。

6月9日
 京都の西芳寺~嵐山をハイキング。

6月10日
 夕方より太ももが痒く、見ると、径12cmほど赤くなり、その中心部の径2cmほどはしこりができている。 中心に赤い小さな点があり、ブユなどの虫に刺されたのだろうと、かゆみ止め(ムヒ)を何度か塗る。

6月11日
 かゆみ治まらず。 昼過ぎに見ると、中心に2mmほどの緑色の小さな膨らみがある。 化膿したのだと思い、膿がズボンにつかないようにガーゼで覆う。

6月12日
 かゆみ続く。 夜、入浴時にガーゼを外してみると、盛り上がった膿の膨らみが5mmほどの大きさになっていた。 こんな大きさになって破れないのが不思議だったし、普段の膿より少し色が濃いように思ったが、そのまま入浴。 入浴中に水を吸って破れるかと思ったが、変化なし。
 しばらくして化膿止めの薬を塗っておこうとして見ると、膿の袋が無くなっている。 どこかに落ちているはずの膿の袋を踏んでしまっては床を汚すと思い、探し出し、膿の袋(とまだ思っている)をティッシュでそっとつまむと、硬い! よく見ると、とても細い脚がついている。 ここではじめてダニだと気づきました。

 最初は老眼の眼では全く見えなかった大きさのダニが、私の体液を吸って5mmほどの大きさになったようです。 ハイキングの服装は長袖長ズボンでしたが、帰宅後に着換えた時に衣類についていたダニが乗り移ったのでしょうか。
 私から離れたのは、十分体液を吸ったからなのか、長時間の風呂で水攻めが苦しかったのかは分かりませんが、たぶん前者だったのだろうと思います。



 上がそのダニです。 2枚目はひっくり返して腹側から撮っています。 フラッシュの光を当てると、体表からの反射が強くなって体内の色が消され、褐色に写ってしまうようです。
 調べてみるとマダニのようです。 ただしマダニの仲間にはかなりの種類がいるようで、どのようなマダニだったのかは分かりません。
 気づくのが遅くなったのは、以前犬にマダニがついたことがあり、その時は褐色だったので、膿のような色のダニがいることを思いつかなかったからでしょう。 しかしそのことが幸いでした。 ダニに気づき、無理に引き抜こうとすると、マダニの一部が皮膚内に残ったり、マダニの体液を注入する事にもなりかねません。 今回はマダニが自発的に離れてくれたので、その点は大丈夫でしょう。 
 しかしまだ感染症の危険があります。 ダニがウイルスや細菌などを保有していた場合は、病気を発症することがあります。 マダニに咬まれて10日が経過しましたが、死に至る感染症もありますので、数週間は発熱等の体調の変化に注意をしておく必要がありそうです。

◎ とても小さなダニ(といっても安心はできません)に刺された体験記をこちらに載せています。


2020-06-23

クワキジラミ(幼虫と成虫)


 クワの枝に、白い糸くずのようなものがいっぱい絡まっていました。 この糸はクワキジラミ Anomoneura mori の幼虫が摂取しすぎた糖をワックスに変えて排泄したものでしょう。(同様の現象はトゲキジラミのところに詳しく書いています。)


 葉の裏に幼虫の姿を探したのですが、糸くずが多すぎてなかなか幼虫のくっきりとした姿が捉えられません。 上の写真には5頭の幼虫が写っていますが・・・。


 上は幼虫の全身が比較的よくわかるものです。 下は、頭部は糸で隠されていますが、腹部末端から長いワックスの糸を出しています。


(以上、2013.6.8. 金剛山)

 下はクワキジラミの成虫です。(2013.6.25. 金剛山にて撮影)


※ 上は、Part1の 2013.6.17.に載せていた記事に少し内容を追加し、引っ越しさせたものです。


2020-06-22

ネジレゴケモドキ


 上の写真はよく似た葉のコケが数種混じっているのですが、蒴はネジレゴケモドキ Tortella tortuosa のものだと思います。 育っていたのは側溝のコンクリート上でした。


 葉は長さ2mmほど、上の写真の蒴柄は12mmほどですが、平凡社の図鑑では14~17mmとなっていて、茎ももっと伸びるはずですから、標準サイズより少し小型のようです。 蒴は蓋を入れて長さ3mm、帽の先までだと4mmの長さです。


 細かい砂がたくさんついてしまいましたが、乾くと葉は上のように縮れます。

※ 標本として保存されていた乾ききった葉の様子はこちらに載せています。


 上はプレパラートにした1枚の葉です。 葉は湿ると波打ちます。 葉基部の細胞は長い矩形で平滑、透明です。 この透明の細胞群は葉縁に沿ってせり上がり、中部の緑色の細胞群との境界は明瞭なV字形になっています。 中肋は葉先から少し突出しています。


 葉身細胞は方形~丸みのある方形で、多くのパピラがあります(上の写真)。


 上は中肋付近の葉の横断面です。 中肋ではガイドセルを挟んで背腹両側にステライドがあります。 葉身細胞は1層で、パビラは背腹両面にあります。


 上は茎の横断面です。 上に書いたようにあまり生長の良くない群落のようで、どの植物体の茎も細く短く、あまり良い切片とは言えませんが・・・。
 同じ属に分類され、少し小型の種にコネジレゴケがあります。 植物体の生長が良くないのでこの種の可能性も疑ったのですが、決め手は上の写真でした。 本種の茎には中心束がありませんが、コネジレゴケの茎には中心束が存在します。


 上は帽を取り去った蒴です。 蒴がまだ若く、帽をピンセットで挟んで引っ張っても取れなかったので、蒴歯を見るために蒴壁を薄く切り取り、その切れ目に針を差し込んで帽を持ち上げて外しました。
 和名の「ネジレ」も学名の属名も種小名も、上の写真のように蒴歯がねじれていることに由来するのだと思います。

(2020.6.15. 兵庫県 六甲山)

◎ ネジレゴケモドキはこちらにも載せています。


2020-06-21

ハミズゴケ(6月の姿と生活環)


 上は6月15日に兵庫県の六甲山で撮ったハミズゴケ Pogonatum spinulosum で、まるでタケノコのように胞子体が伸びだしはじめていました。 ハミズゴケはスギゴケの仲間ですが、配偶体があまり発達しない代わりに原糸体が光合成を行い胞子体を育てます。 “タケノコ”の下に濃い緑色にいちめんに広がっているのが原糸体です。
 和名は「葉見ずゴケ」ですが、全く配偶体の葉が無いわけではなく、今ごろが最も配偶体が発達している時期かもしれません。 上で伸びはじめた胞子体をタケノコに例えましたが、配偶体の葉または苞葉は竹の皮のように、ピッタリと“タケノコ”に張り付いています。 しかしその葉身は緑色で薄く、葉を見分けるには葉先の褐色部分に頼るしかありません。


 上がその葉または苞葉です。 薄い葉で剥がす時に破れてしまっていますが・・・。 スギゴケの仲間の葉にはふつう薄板があるのですが、写真の葉では薄板は確認できませんでした。


 上は葉先付近です。 歯とも毛とも言えないようなおもしろい突起があります。 薄板のつくりとどこか共通点があるような気もしますが、よく分かりません。

 さて、1枚目の写真に戻って、この胞子体は生長し、秋の終わりにはコスギゴケなどとよく似た毛の多い帽のある蒴が見られます(こちらこちら)。 そして・・・


 上は2月13日に、同じ六甲山で撮ったハミズゴケで、胞子を飛散させ始めています。 なお、地表にあるのっぺりした濃い緑色は本種の原糸体ですが、明るい色の葉はアカイチイゴケです。
 下は同じ日に原糸体に近づいて撮ったもので・・・


 原糸体のあちこちに小さな紅色の芽が見られます。 この色は寒さに対する適応でしょうが、この芽が伸びて1枚目の写真の“タケノコ”になるのでしょう。

2020-06-20

ナガハシゴケ ② 蒴を中心に


 上は、手前に少しシノブゴケの仲間(たぶんミジンコシノブゴケ)が写っていますが、ナガハシゴケ Sematophyllum subhumile です。 ナガハシゴケは4日前に載せたばかりですが、蒴歯が観察できるまでに成熟した蒴がありましたので、4日前の記事を葉を中心に書き改め(こちら)、蒴に関しての観察結果をこちらにまとめることにしました。


 上はナガハシゴケの蒴歯(一部)を外側から撮っています。 外蒴歯と内蒴歯が交互にきれいに並んでいます。 本種の1つの蒴の蒴歯の数は、外蒴歯と内蒴歯それぞれ16本ずつですが、上の写真は光が通るように中の胞子を除去する目的で蒴を2分した片方ですので、ほぼ半数の蒴が写っています。

 ところで、平凡社の図鑑では、Sematophyllum(ナガハシゴケ属)の特徴の1つとして、蒴壁の細胞は厚角と書かれています。 しかし、上の写真で厚角と言えるでしょうか。


 上は蒴の外壁を構成している細胞だけに焦点が合うようにして撮った写真です。 少なくとも蒴の外壁を構成している細胞は厚角であるとは言えないでしょう。 そこで蒴壁の内側を観察すると・・・


 上が蒴の内壁の顕微鏡写真です。 倍率は外壁と同じです。 たしかに内壁を構成している細胞は厚角です。 同じ蒴壁を構成している細胞が外側と内側でこんなにも違うというのも驚きです。 いったい蒴壁は何層の細胞でできているのか、もう少し若い蒴を縦断してみました。


 上は蓋のついている少し若い蒴の縦断面です。 下は上の赤い四角で囲った部分の拡大です。


 蒴壁は3~4細胞層のようです。 そして外壁を構成している細胞を除くと、細胞壁は厚角のようです。

(2020.6.15. 兵庫県 六甲山)


こちらには蒴歯の見えているナガハシゴケのフィールド写真を載せています。