2021-03-31

蒴をつけたシナクジャクゴケ


 シナクジャクゴケ Hypopterygium tenellum が蒴をつけていました。 蒴柄は上部が褐色で下部は黒色に近く、クジャクゴケの蒴柄よりも濃い色です。

 蒴柄はクジャクゴケなどに比べるとかなり短く、長くても1cmほどです。

 上は植物体を腹面から見ています。 クジャクゴケやヒメクジャクゴケに比較すると葉は丸みを持っていて、腹葉の中肋は葉の中央以下で終わっています。
◎ 本種の側葉や腹葉の顕微鏡写真はこちらに載せています。

 上の群落から少し離れた所には・・・


 上のような群落もありました。 この群落では蒴は見られませんでしたが、新しい葉が多く、とても明るく美しい群落でした。

(2021.3.1. 鹿児島県・大隅半島)

2021-03-30

イワヒトデ

 

 イワヒトデ Colysis elliptica は本州南岸から四国、九州に分布する常緑性のシダ植物で、ほとんどの場合、岩に着生して育っています。 葉は単羽状複葉または羽状全裂で、側羽片は2-5対あります。
 和名は、岩に着生していることと、葉の切れ込みを人の手の指を広げた様子にみたてたところからでしょう。

 胞子葉と栄養葉があり、葉形はよく似ていますが、胞子葉の方が細長く背が高くなっています。 胞子嚢群は線形で、胞子葉の裏側全体に矢筈状につきますが、葉の表側からも胞子嚢群の様子が分かります(上の写真)。

(2021.3.3. 宮崎県日南市)


2021-03-29

蒴をつけたオオサワゴケ

 載せるのが遅くなりましたが、3月1日に鹿児島県の大隅半島で撮ったオオサワゴケ Philonotis turneriana です。
 

 和名に「オオ」とつくように、茎も長く、蒴柄も長いのですが、相対的に蒴は小さく見えます。

 葉の長さは2mmに届きません。

 葉は狭三角状披針形で、最下端が最も幅広くなっています。 葉縁には細かい歯があります。

 中肋は葉先に届くか、上の写真のように葉先から突出します。 突出部にはパピラ状の突起が見られます。 葉身細胞の腹面上端にはパピラがあります。

 上は葉の中央部で、葉身細胞の長さは 30~60μmです。 葉縁は平らまたは上の写真のように弱く反曲します。

 上は葉の基部です。

こちらには無性芽をつけたオオサワゴケを載せています。

2021-03-28

トサノタスキゴケ

 


 写真はトサノタスキゴケ Pseudobarbella laosiensis だと思います。 木の枝から垂れ下がっていました。 分布は平凡社の図鑑では近畿地方以西となっています。
 上の写真では、互いに絡まって枝分かれの様子もよく分からないので・・・

 湿らせて軟らかくし、姿を整えたのが上の写真です。 枝はほぼ同じ太さを保ち、ひも状になって伸びています。


 二次茎の基部では葉は扁平についていますが、そこから少し離れると葉は上の写真のように丸くついています。 葉は枝や茎からあまり離れることが無く、重なりあっています。 葉の長さは2~2.5mmです。

 上は二次茎の葉です。 上部の縁は波打ち、葉先は糸状に伸び、縮れています。

 葉縁には歯があります。
 葉身細胞は線形で長さ 50~60μm、中央に1個のパピラがあります。 上の写真では色の違う1対のパピラがあるようも見えますが、背面にも腹面にもパピラがあり、明るい細胞を透かして両方が見えているためでしょう。
 細胞が薄いのか、上の写真では差脂肪壁の様子がよく分からないので・・・

 上はグレースケールに変換してコントラストを強めた写真です。 細胞壁にはくびれが見られます。

(2021.3.3. 宮崎県日南市)

2021-03-27

ヒメハゴロモゴケ

 

 写真はヒメハゴロモゴケ Homaliodendron exiguum だと思います。 樹幹についていました。 分布は本州中部以西となっています。

 所々二次茎の先や枝先が細く伸びています(上の写真)。

 属名の Homaliodendron は「扁平な樹」で、たしかに分枝もしていますが、種小名の exiguum は「小さい」という意味で、上の写真のように小さなヒラゴケです。

 葉は円頭で、連続的に舌形~倒卵形と変化しています。


 上の2枚は茎葉です。


 上は葉の先端付近と中央部です。 葉身細胞は方形~六角形で厚壁です。 葉縁は細胞の突起による小さな凹凸があります。

 上は枝葉で、基部が狭くなっています。

(2021.3.3. 宮崎県日南市)

2021-03-25

アオシノブゴケ

 

 上の写真、目立っているコケはアオシノブゴケで、蒴はその下を這っているシロイチイゴケだと思います。 以下はアオシノブゴケ Thuidium pristocalyx の観察記録です。


 シノブゴケ科全体からみれば中~大型と言えるでしょう。 まだ緑色を保っている茎葉は茎にくっついていて目立ちませんが、1mmほどの長さがあります。

 上の写真では茎葉の間から茎の表面の毛葉がみえています。

 上は茎葉です。 茎葉の先は鋭頭で、透明尖にはなっていません。

 上は茎葉背面の中央の少し下で、写真中央は中肋です。 葉身細胞には先が複雑に分かれたパピラがあります。 多くの細胞ではパピラは1個ですが、隣り合って複数のパピラがある細胞もあります。 中肋にもパピラや細胞の一部の盛り上がりが見られます。

 上は茎葉の葉先部分です。 茎葉の先端の細胞は鈍頭で、複数(多くは3個)のパピラがあります。

 上は枝の顕微鏡写真です。 枝葉の大きさは、茎葉よりは小さいですが、大小さまざまです。

 上は枝葉です。 倍率は茎葉と異なります。

 上は枝葉の葉身細胞で、茎葉の葉身細胞とほぼ同じ特徴を持っています。

 上は毛葉です。 毛葉の細胞はやや細長く、パピラは細胞の中央にあります。

(2021.3.3. 宮崎県日南市)

◎アオシノブゴケはこちらこちらにも載せています。

 

2021-03-24

フクラゴケ(ナワゴケ)

 

 上の写真は、木の幹についているコケを、幹を見上げて撮った写真で、写真の上が梢の方向になります。 木の幹を這う一次茎から立ち上がった二次茎は葉を覆瓦状に密につけています。 分枝は少ないようです。
 ところで、コケ愛好家の集まりであるオカモス関西は、新型コロナの影響のため、このところビデオチャットサービスであるZoomを使った「コケサロン」を開催しています。 写真のコケの種名が分からなかったので、私もこのコケサロンに参加し、顕微鏡写真など数枚の写真を提示して意見を求めました。 写真からですし、小さな画面で分かりづらいこともあったでしょうが、いろいろ意見をいただきました。 その意見を参考に不足していた観察を追加した結果は、平凡社の図鑑の記載とは少し異なる点もあるのですが、フクラゴケ(ナワゴケ) Eumyurium sinicum だろうと思います。 分布は本州~琉球です。
 なお、この属名 Eumyurium は、野口(1947)が、他の Myurium とは色々の点で異なっているとして新属をたてたもので、写真のコケは Myurium hochstetteri ではないかという意見もいただきました。 Myurium属は世界的には広く分布していますが、岩月(1979)は日本の Myurium と思われていたものは Oedicladium であるとしています。(英文からですので、この理解が間違っているかもしれませんが・・・)
 Oedicladium属についても調べてみましたが、写真のコケに似たものはあっても、平凡社の記載からは、よく一致するコケはみつかりませんでした。


 写真のコケと同種と思われるコケは、あちこちに見られました。 場所によっては上の2枚の写真のように鞭枝状の枝を出しているものもありました。

 二次茎の葉は2mm前後で、茎の中上部の葉は縦ひだがありますが、下部につく葉にひだは見られません。


 上の2枚は、上が縦ひだのある葉、下はひだの無い葉です。 どちらの葉も広卵形で舟形に深く凹み、先は急に細くなって尖っています。 中肋はとても短く二叉しています。


 上の2枚は葉の基部です。 平凡社の図鑑では、「翼細胞は方形で褐色」とあるのですが、茎のどの場所についている葉を見ても、上の記載によく一致する葉は見あたりません。 たしかに他より矩形に近い細胞は少数存在するのですが・・・。 なお、野口図鑑には本種の翼細胞に関する図は載せられていません。

 上は右側の葉縁が折れて内側に来ています。 葉はほぼ全縁ですが、上の写真のように葉の上部に小さな歯が見られることもあります。

 上は葉身細胞です。 細胞の長さは 50~70μmです。

 上は二次茎の断面です。 表面近くは厚壁の細胞が厚い層を成しています。

(2021.3.3. 宮崎県日南市)

◎ フクラゴケはこちらにも載せています。