2020-05-31

チヂレゴケ属( Ptychomitrium )ブログ掲載種一覧

葉はふつう全縁、帽は深く蒴を覆う

ヒダゴケ P. fauriei


チヂレゴケ P. sinense


葉の上部葉縁に鋸歯があり、帽は蒴の中ほどまで

葉は広披針形
ハチヂレゴケ P. dentatum


コバノヒダゴケ P. wilsonii


葉は線状披針形で、基部は広くなる
ナガバチヂレゴケ(イシノウエノヒダゴケ) P. linearifolium


シナチヂレゴケ P. gardneri




2020-05-30

ゼニゴケ(腹鱗片の付属物 and 本種に関する内容一覧)


 上はゼニゴケ Marchantia polymorpha です(撮影:2020.5.29. 大阪府豊能郡豊能町 初谷)。 中央部に黒い線が入っていますが、このような線が見られない場合の方が多いでしょう。
 ところで、ゼニゴケの変種にヤチゼニゴケ M. polymorpha var. aquatica があります。 和名のとおり谷地(やち=湿地)に生育し、中央部の黒い線が明瞭です。 珍しいコケですし、杯状体をめったにつけないコケですから、上の写真のコケはこの変種ではなく、母種のゼニゴケでしょう。 しかし両者の違いを決定づけるのは、腹鱗片の付属物の形態の違いです。 この機会にゼニゴケの腹鱗片を観察しました。


 上は1枚目の写真のゼニゴケを腹面から撮っています。 ゼニゴケの腹鱗片はほぼ6列に並んで腹面いちめんにあるはずですが、この腹鱗片はよほど条件が良い時にしか判別は不可能です。 しかし腹鱗片の上縁に付属物がついていて、この付属物は有色のことが多く、存在の確認が容易です。 今回は赤い円で囲った腹鱗片の付属物を観察しました。
 なお、上の写真で、たくさんある白い糸状のものは仮根です。 仮根は腹鱗片のあちこちの細胞から出て次第にまとまって束になっていきます。


 上の赤褐色に薄く染まっているのが腹鱗片の付属物です。 腹鱗片と重なり、あまりいい写真とは言えませんが・・・。
 ゼニゴケの腹鱗片の付属物はほぼ円形で、縁に鋸歯があります。 ヤチゼニゴケの腹鱗片の付属物は縁に鋸歯は無く、中央部より小さな細胞で縁取られています。
 なお、上の写真で左上に伸びているのは仮根(有紋仮根)です。

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 ゼニゴケについては、さすがに(?)身近な所にある苔類の代表で、これまでいろんな所でいろんなことを書いてきました。 どこで何を書いてきたのか、私自身見返す時に不便を感じるようになってきましたので、下にまとめてみました。 (ゼニゴケの仲間に関することは省いてあります。)

このブログのゼニゴケに関する内容一覧

(クリックでそれぞれの内容にジャンプします)
植物体(葉状体)に関して
 気室と気室孔
 腹鱗片の付属物 本稿
無性生殖に関して
 杯状体(無性芽器)と無性芽
 杯状体の断面と無性芽の顕微鏡レベルの観察
有性生殖に関して
 有性生殖の概略
 雄器托、雌器托と胞子体
 精子
 造卵器
 受精のみちすじ①(仮根の働き)
 受精のみちすじ②

2020-05-29

サンゴサキジロゴケ


 写真はフォーリーサキジロゴケ Gymnomitrion faurianum です。 北海道~九州の高山帯の岩の隙間などに密生して生えるコケです。 本種は従来サンゴサキジロゴケ G. corallioides とされてきましたが、それとは別種であるという見解が出されています。
 密生は高山の乾燥に対する適応でしょう。 また、紫外線の強い光に対する適応からか、全体が光を反射し易い白っぽい色をしているのですが、上は昔にいただいた標本で、少し色補正をしたところ、おかしな色になってしまいました。

 今日はいろいろあって時間が無くなりましたので、この1枚のみにします。

2020-05-28

オオツボミゴケ



 写真はオオツボミゴケ Solenostoma radicellosum だと思います。 保育社の図鑑には記載がなく、平凡社の図鑑でも検索表にあるだけですので、不安ですが・・・。 分布は近畿以西となっています。



 上に2枚の葉を並べましたが、葉形には変異がありそうです。 1~2枚目の写真を見ても、葉の多くは円頭で、長さより幅が広いようです。 また、腎臓形の葉が混じるのが特徴のようです。


 上は葉身細胞です。 油体は楕円体で微粒の集合です。


 仮根は多くは茎から、一部は葉の基部から出ていて、3枚目の写真にも右下に仮根が写っています。 平凡社の検索表には、「仮根は明瞭な束になり,茎に沿って流下する。」とあるのですが、上の写真はそのようではありません。 汚れの少ない茎の上部を観察したからでしょうか。

(2015.9.13. 京都市 宝が池公園)

2020-05-27

蒴をつけたアサイトゴケ


 アサイトゴケ Pseudoleskeopsis zippelii が蒴をつけていました。 育っていたのは、水を保ちやすい岩質なのか、しっとり湿っている岩の上でした。


 枝葉の長さは 0.5~1mmですが、雌苞葉は2mm以上あります。



 枝葉は広卵形で、葉縁には細かい歯があります。 中肋は太く、葉先付近で分からなくなります。


 上は葉先付近の拡大です。


 翼部の分化はほとんど見られません。


 葉身細胞の背面上端には目立たない突起があります。


 上は蒴歯を蒴の外側から見ています。 外蒴歯と内蒴歯はほぼ同じ長さです。 内蒴歯は互いにつながっています。 その様子はほとんど外蒴歯に隠されていますが、★で示した所で確認できます。


 蒴の下部には気孔が見られます(上の写真)。

(2020.5.20. 奈良市白毫寺町)

◎ アサイトゴケはこちらにも載せています。

2020-05-26

アシウテンナンショウ




 上はアシウテンナンショウ Arisaema amurense subsp. robustum var. ovale です。 分布は、京都、滋賀、福井の限られた地域とされています。 写真は昨年の5月26日に芦生で撮ったものです。
 学名が示しているように、分類学的にはアムールテンナンショウ(中国~アムールに分布)の亜種であるヒロハテンナンショウの変種に位置づけられています。
 葉は1枚で、5~7小葉に分かれています。 仏炎苞は葉の下につき、褐紫色で、白色の条があります。 なお、ヒロハテンナンショウの仏炎苞はもう少し小さく、ふつう緑色に白色の条が入ります。


 花序の付属体の先は太く、幅は6~8mmもあります。 上は仏炎苞を持ち上げて撮っています。 ヒロハテンナンショウの花序の附属体は細く、先端の幅は2~4.5mmです。

 芦生にはコウライテンナンショウやムロウテンナンショウも分布しているのですが、これらは仏炎苞が葉の上に出ます。 下は同じ日に撮ったコウライテンナンショウ Arisaema peninsulae です。



2020-05-25

オオバチョウチンゴケに産卵するガガンボの一種


 昨日載せたオオバチョウチンゴケにガガンボの一種が来ていました(5月20日に撮影)。 上の写真の3小葉からなる腹葉はトウゴクサバノオですが、その奥にあるのはオオバチョウチンゴケです。


 オオバチョウチンゴケの群落はかなり大きいのですが、ガガンボは少し飛んでは暫くとまっていることを繰り返し、この群落から離れようとしません。 ですから、上のように接近して撮影することもできたのですが、たぶんあちこちに卵を産みつけているのでしょう。
 ガガンボの種名は、少し調べてみましたが分かりませんでした。 日本産のガガンボは、学名がついているだけでも700種ほどあり、未記載種はその数倍あるとされています。


 上の写真では、腹部の先を曲げて葉の隙間に差し込んでいます。 卵は確認できませんでしたが、この時に産卵しているのでしょう。
 ここで産みつけられた卵から生まれた幼虫が何を食べて成長するのかは分かりません。 コケ群落の下層で腐植化したものを食べるのかもしれませんし、緑のコケの葉を食べるのかもしれません。


 ガガンボの同定には翅脈も大切です。 どなたかに同定していただけることを期待して、翅の写真を載せておきます。

 コケを食べる虫は少ないのですが、いろいろと見つかってきています。 ガガンボも、春にコケが新しく枝を伸ばす時期にコケの近くでよく見かけますので、何種類かのガガンボの幼虫がコケを食べている可能性があります。
 こちらには、ジャゴケとアオハイゴケの混生しているところで、ガガンボの一種が産卵している写真を載せています。 また、こちらこちらにはツルチョウチンゴケ属(種名を確認していませんが、オオバチョウチンゴケだったかもしれません)の葉を食べるシリブトガガンボ亜科の幼虫の写真を載せています。


2020-05-24

オオバチョウチンゴケの“雌花盤”


 上はオオバチョウチンゴケ Plagiomnium vesicatum です。 水がじわじわと流れる岩の表面で育っていました。 上の撮影は2月23日で、直立茎がまさに伸びはじめていて、匍匐茎も見えています。
 同じ場所を5月20日に訪れると・・・


 直立茎が大きく育っていました。 多くの茎頂についている大きな苞葉を伴ったものは雄花盤と思ったのですが、黒っぽいものや褐色のものなどがあり、色の違いが何を意味するのか知りたくて少し持ち帰りました。



 まずは全体の観察から。 1枚の葉も植物体もかなりの大きさです。 植物体は匍匐茎から立ち上がった直立茎のようです。 なお、こちらには直立茎と匍匐茎の関係がよく分かる写真を載せています。


 葉縁には4~6細胞列の舷があります。 アツバチョウチンゴケも似た環境に育つ大きなチョウチンゴケですが、葉縁の舷は不明瞭です。
 本種の葉縁の歯は、上のような単細胞の歯が並ぶものから、こちらに載せたようなほとんど歯がないものまであります。


 雄花盤と思われるものの断面を見て驚きました。 予想に反して、たくさんの側糸の中に見えたのは造精器ではなく造卵器でした。 雄花盤はよく知られていますが、上の様子を見ると「雌花盤」という言葉があっても良さそうに思えます。


 上は造卵器の拡大です。 卵細胞らしきものも見えます。

 2枚目の写真のところで書いた色の違いは、断面の観察からはほとんど違いはなく、成熟度の違いだったようです。

2020-05-23

ヒメヒオウギ


 最近、こんな花をよく見ます。 上は近くの公園の芝生の端(5月13日撮影)、下は街路樹の根元です(5月20日撮影)。 どちらもいろんな草に紛れて分かりづらいですが、幅の広い細長い葉がこの花の葉です。


 この花は大正期に日本に持ち込まれ、鑑賞用に栽培されてきましたが、逃げ出してあちこちで見られるようになってきました。
 原産地は南アフリカで、本来は秋植え球根なのですが、こぼれ種子で増えてきているようです。 和名として定着した名前はまだありませんが、ヒメヒオウキやヒメヒオウギズイセンなどと呼ばれることが多く、学名で呼ばれることもあります。 ただその学名も、Lapeirousia(ラペイロウジア属)に分類されたり、Anomatheca(アノマテカ属)に分類されたりと定まらず、現在は Freesia(フリージア属)に分類され、Freesia laxa となっています。


 花の印象は違いますが、たしかに花の付き方はフリージアによく似ています。 上の写真では2つの花が重なってややこしくなっていますが、1つの花の花被片は6枚で、そのうちの下側になる3枚に模様が入るのがこの種の特徴です。 花の形は一見放射相称に見えますが、この模様から分かるように、左右対称の花です。 このことはオシベとメシベの配置を見れば良く分かります。


 オシベは3本あるのですが、葯は横並びにくっつきあい、全て模様のある花被片の方を向いています。 そして、先の割れたメシベはこの裏に隠れています。

2020-05-22

クモノスゴケの造卵器と造精器


 クモノスゴケ Pallavicinia subciliata が新しく生長しはじめていました。 さかんに伸びている葉状体は透明感もあり、とて美しいものでした。


 よく見ると、上の赤い円内のように、雌器もみつけることもができました。 雌器は中肋部の背面につきます。
 下は少し持ち帰ったうちの、このような雌器をつけていたものの1つです。


 上の写真では、雌包膜の内側に泥が入り込んで黒く写っていますし、葉状体の縁が乾燥で巻きかけていますが、このような小さい時期から生殖器官をつけるとは驚きです。


 上は雌包膜の拡大です。 葉縁には数細胞からなる毛が散生しています。 下は上の赤い線で切断して作成したプレパラートの顕微鏡写真です。


 断面を見ると、若い造卵器が確認できました。


 上はこれから造卵器になろうとする組織ではないかと思います。


 上のようなものもありました。 雄器をつけた雄株です。 雄器は中肋部背面の左右に並びます。


 下から光を当てて撮ると、雄包膜の下にある球形の造精器も、はっきりと確認できます。 これも赤い線で切断したプレパラートを作成したのですが・・・


 残念ながら切断時に造精器が離れてしまいました。 上の写真の右上にあるのが離れた造精器です。


 上は仮根です。 仮根は中肋部の腹面についています。 平凡社の図鑑では仮根は無色と書かれてあるのですが、無色の場合もあるのでしょうか? 疑問です。

◎ 上よりほんの少し後のよく似た時期のクモノスゴケをこちらに、上で簡単に触れた毛についてはこちらに載せています。 またこちらでは胞子体の変化を中心に載せています。