2021-04-29

ヒナイトゴケ

 樹幹に細長い蘚類の群落があり、その蘚類に、上の写真のように苔類が着生していました。 この苔類をを調べようと採集しましたが、何に着生していたのかを知るために蘚類も少し持ち帰りました。
 苔類はあまり無性芽をつけていないクビレケビラゴケでしたが、蘚類は以下の観察の結果はヒナイトゴケ(別名イトスズゴケ) Forsstroemia japonica でした。
 以下はこのヒナイトゴケの観察結果ですが、そんなわけで、本種のフィールドでの写真は、上のような写真しかありません。

 上は乾いた状態で、下は湿らせた状態です。 倍率は同じです。

 一次茎は這い、そこから立ち上がる二次茎は密に羽状に分枝しています。

 枝葉は長さ 0.5~1.3mmで、二次茎上部の茎葉は長いものでは2mm前後ありますが、上の写真では緑色が抜けていて分かりにくくなっています。
 蒴は卵状球形で長さは1mmほど、蒴柄は2mmほどです。 上の写真では蒴柄が比較的長く伸び出しているようですが、拡大して見ると・・・

 上の写真では、湿らせた状態のこともあり、半透明になっている苞葉が蒴柄にくっついていて、苞葉から抜き出ている蒴柄の部分はわずかです。

 上には3種類の葉が写っています。 乾いた状態では葉は茎や枝に接しますが、縮れません。


 上は枝葉です。 中肋は中部付近で終わっています。

 上は枝葉の葉身細胞です。 葉身細胞は厚壁、厚角で、長さは 10~18μmです。

 上は枝葉と茎葉です。

 上は茎葉の基部です。

 上は苞葉で、葉先は細く伸びて尖っています。 葉の基部についているのは・・・ 下はその部分の拡大です(少し回転させて撮っています)。


 苞葉の基部についていたのは胞子体に生長できなかった卵細胞を持つ造卵器と側糸でした。

 上は蒴歯です。 蒴歯はほぼ平滑な外蒴歯のみです。

(2021.4.15. 兵庫県養父市大屋町 三ノ宮神社)

◎ ヒナイトゴケはこちらにも載せています。

2021-04-28

ジュウニヒトエ

 ジュウニヒトエ Ajuga nipponensis の花があちこちに咲いていました。 和名は多くの花が上下に幾重にも重なり合う様子を「十二単」に例えたようですが、少し時期が早く、多くの花はまだツボミです。

 ジュウニヒトエは山林に生える多年草で、分布は本州と四国ということです。 茎も葉も、全体が白い軟毛に包まれています。

 花は白っぽく、4本のオシベは短い上唇を越えて伸び出しています。 昨日載せたツクバキンモンソウもそうでしたが、上唇が短いのは Ajuga属の特徴です。 属名も「対にならない」という意味で、下唇に対応する上唇が短いことからでしょう。

(2021.4.15. 兵庫県養父市 天滝渓谷)

2021-04-27

ツクバキンモンソウ

 前にキランソウ、タチキランソウ、セイヨウジュウニヒトエを載せましたが(こちら)、写真は同じキランソウの仲間(Ajuga :キランソウ属=)で、ツクバキンモンソウ Ajuga yesoensis var. tsukubana です。
 ツクバキンモンソウはニシキゴロモの変種とされています。 ツクバキンモンソウが宮城県から和歌山県にかけての本州太平洋側と四国に分布するのに対し、ニシキゴロモは日本海側を中心に分布します。 ニシキゴロモはツクバキンモンソウに比較して、花冠上唇がよく発達しているようです。
 ツクバキンモンソウは山地に生える多年草です。 写真のツクバキンモンソウは大阪府と奈良県の境にある大和葛城山で 2013.4.26.に撮ったものですが、登り口はキランソウばかりで、登っていくとツクバキンモンソウばかりになりました。

 上は赤紫色の葉の裏にピントを合わせています。
 ツクバキンモンソウの「ツクバ」は標本の採られた茨城県の筑波山から、「キンモンソウ」は「錦紋草」で、葉の模様が美しいからと言われています。 たしかに葉の表は葉脈に沿って赤紫色を帯びていますし、葉の裏も上の写真のように美しいのですが、「錦」とまで言えるのかどうか・・・。

 下の写真の中央(やや左上)はツボミです。 上の写真の葉でも白い毛が確認できますが、花弁にもガクにも白い毛が見られます。

※ 上は Part1の 2013.5.7.からの引っ越し記事です。



2021-04-26

ナメリチョウチンゴケ@4月

 

 ナメリチョウチンゴケ Mnium lycopodioides は雌雄異株です。 雌株が蒴をつけていました(上の写真)。 蒴の蓋にはやや長い嘴があり、それを覆う僧帽型の帽は長く伸びています。

 胞子体は頂生、葉は乾くと縮れますが、縮れ方は若い葉の方が大きいようです。(こちらでは本種の新しい葉と古い葉とを比較し、変水性や色の違いについて書いています。)
 雌苞葉は線形です。

 下部の葉は小さく、上方に比べて疎生の傾向があります。 上方の葉は卵形~卵状披針形で、長さは3~4mmです。

 葉の最も幅が広い所は中部以下、葉縁には舷があり、上半部の縁には鋭い歯があります。 中肋は葉先に達しています。

 舷は同じ幅を保って葉先にまで続いています。 上の写真でもよく見ると、歯は双歯であることが分かります。

 葉身細胞は円形~丸みを帯びた方形~六角形で、厚角です。

 上は蓋の取れた蒴です。 口環がきれいに分化しています。 蒴歯は2列で完全です。

 近くには雄花盤をつけた雄株の群落もありました(上の写真)。

 上は雄花盤の断面で、たくさんの造精器と側糸があります。 まだ未熟のようですが、次の胞子体誕生への準備が、もうここまで進んでいます。
 造精器がここまでできているならと、雌株の胞子体をつけていない茎の先の断面も観察してみたところ、側糸は確認できましたが、造卵器を確認できる時期には至っていないようでした。
(受精が済んで若い胞子体が伸びたしてきている11月の様子をこちらに載せています。)

(2021.4.15. 兵庫県養父市 天滝渓谷

2021-04-25

キスジコヤガの幼虫

 下は Part1の 2014.4.14.からの引っ越し記事です。

 キスジコヤガ Enispa lutefascialis の幼虫は地衣類を食べて育つのですが、幼虫は食料でもある地衣類を体につけてカムフラージュしています。 上の写真にも、画面の中央に大きく写っているのですが、分かるでしょうか。 頭部にだけは地衣類をくっつけていませんので、それを目印に探してみてください。

 上の写真では脚が見えています。


 上は動画です。 動けばすぐに分かります。 三脚を使っていませんので、画像は揺れていますが・・・。

(2014.4.11. 大阪府東大阪市 枚岡公園)


2021-04-24

イボヤマトイタチゴケ

 

 樹幹についていた上の写真のコケ、茎は赤みを帯び、比較的大形で、これまで見たことの無いコケだと思って撮ったのですが・・・

 乾くにつれて次第に葉は茎に接し、二次茎は湾曲しはじめました。 上の写真でも二次茎の先が少し右に曲がりかけています。 これは・・・

 葉を確認すると、やはりイタチゴケの仲間のようです。 翼細胞(上の写真では色が濃く見えています)は葉縁に沿ってかなり上までありますが、それでも葉長の1/3ほどです。
 そういえば・・・

 最初の写真のすぐ近くには上の写真のようなイタチゴケの仲間の群落がありました。 最初の写真のような湿った状態のイタチゴケの仲間の群落を野外で見るのはたぶんはじめてで、分からなかったのだと思います。

 上の写真は二次茎の断面です。 イタチゴケとイボヤマトイタチゴケはよく似ていますが、前者の二次茎には中心束があるのに対し、後者の二次茎には中心束がありません。 平凡社の図鑑ではイタチゴケ属として11種が載せられていて、蒴を調べないと断定はできませんが、生育状況から見て、普通種のイボヤマトイタチゴケ Leucodon atrovirens だと思います。

(2021.4.7. 神戸市北区有馬町)

こちらにはイボヤマトイタチゴケの蒴の様子も載せています。

2021-04-23

ナミハセイボウ

 昨日載せたサイジョウハムシドロバチの群に混じって、あちこちに上の写真のような青い金属光沢の蜂が混じっていました。 この蜂はナミハセイボウ Chrysis japonica のメスでしょう。
 名前の「セイボウ」は「青蜂」ですが、「ナミハ」は?

 
  本種の第3腹節後縁は細かく切れ込んでいて、この様子が「波歯」の名前の由来のようです。 上の写真でこの様子を示そうとしたのですが、歯は斜め下を向いていて、横から撮らないとよく分からないようで、上の写真では歯の先が白く光っています。

 このナミハセイボウはサイジョウハムシドロバチに寄生しています。 寄生といってもサイジョウハムシドロバチの成虫にではなく、餌が運び込まれ続けている巣に、サイジョウハムシドロバチが餌を取りに行っている間に卵を産みつけるだけです。 泥で蓋をされた巣の中で孵化した幼虫が集められた餌を食べる、つまりサイジョウハムシドロバチが働いた結果を横取りする労働寄生なのか、育ったサイジョウハムシドロバチの幼虫を食べる捕食寄生なのかは私は知りませんが、いずれにしても、サイジョウハムシドロバチにとっては、自身が襲われるのでもなく、集めた餌も見たところの変化もなく、被害を受けていることが分からないのか、ナミハセイボウには全く無関心のようにみえました。

 ナミハセイボウは歩き回って巣を覗き込み、狙う巣を探しているようでしたが、目立つ色にも関わらず誰に追われることも無く、その動きはサイジョウハムシドロバチに比べてきわめてゆっくりとしたものでした。 だから写真もちゃんと撮れました v(^-~)v

 上の写真は、脚を背側に回して体のお手入れ中です。

※ 上は Part1の 2014.5.21.からの引っ越し記事(撮影は 2014.5.13.)ですが、引っ越しにあたっては内容を一部書き改めています。 なお、2021.4.20.現在で、上記営みが継続していることを確認しています。

2021-04-22

サイジョウハムシドロバチ

 以下は Part1の 2014.5.20.からの引っ越しですが、撮影場所は昨日のクロミツボシアツバ幼虫と同じ公園です。 下記の営みが現在も続いていることが確認できましたので、この営みが少なくとも7年間継続していることの記録でもあります。

 上の写真、サイジョウハムシドロバチ Symmorphus apiciornatus と思われる3頭の蜂が写っていますが、いちばん下の蜂はノミゾウムシの幼虫らしきものを運んできています。
 これがどういうシチュエーションの写真かというと・・・

 2014.5.13.に、とある公園の東屋(上の写真)の茅葺屋根で撮影しています。

 手持ち撮影ですので画面が揺れますが、軒下での群飛の様子を動画にしてみました(上)。 BGMにはMusMus(ムズムズ)さんのフリーの楽曲をお借りしました。

 サイジョウハムシドロバチは屋根の中空の茅を巣として利用しています。 ここに幼虫の餌となるノミゾウムシの幼虫を入れ、卵を産み、泥で蓋をします。

 上の写真では、蓋をするのに使う泥玉を口に銜えています。


 運んできた泥玉で、巣に蓋をします(上の写真2枚)。

 上の写真あたりでは、完成した巣が並んでいます。

 上の写真にも、何頭かのサイジョウハムシドロバチが写っていますが、左上隅に色の違う蜂がいます。 この蜂は上の動画にも少しだけ登場しています。 明日はこの蜂について書く予定です。

2021-04-21

ヒナノハイゴケを食べるクロミツボシアツバ幼虫

 

 上は樹幹に広がるヒナノハイゴケですが、この中にイモムシが1頭いるのが分かるでしょうか。

 ググッと近づいて、上の写真の中央にいます。


 この幼虫はヤガ科のクロミツボシアツバ Sinarella japonica の幼虫で、食餌植物は蘚類とされています。


 上の2枚は同じ木にいた別の2個体です。 観察した3頭とも全く動かなかったのですが、これは昼間に動けば目立つからで、食事は夜間に行われるのではないかと思います。

 従来コケはあまり被食されないとされてきましたが、観察が進むにつれて被食の観察例が増えてきました。 被食に気づきにくい理由はいろいろあるでしょうが、コケ植物の小ささも理由の1つだと思います。 食害されていることに気づくきっかけの1つは食痕ですが、茎ごと全体が食べられてしまうと食痕も残りません。
 そのような目で上の3頭それぞれの周囲を見ると、周囲にコケの無い箇所があります。 その中にはコケが食べられて無くなった場所もあるのかもしれません。

 上は6枚目の写真の再掲ですが、黄色い矢印をつけた部分は、珍しく食べ残したものかもしれません。

(2021.4.20. 京都府相楽郡精華町)