2020-02-26

ハリガネゴケ雄株に集まるミドリハシリダニ


 上の写真には、造精器をたくさんつけたハリガネゴケの雄株と、ミドリハシリダニの一種 Penthaleus sp. と、無性芽をつけたギンゴケが写っていますが、今回はミドリハシリダニに関してです。
 ミドリハシリダニは夏を除けばよく見られる植物食性のダニですが、上の写真では4頭が確認できます。 これだけの面積の所に4頭もいるのですから、「集まっている」と言ってもいいのではないでしょうか。 集まるには何らかの理由があるはずです。 もしかしたら造精器から吸汁しているのかもしれません。

(2020.2.23. 奈良市高畑町)

2020-02-25

コスギゴケの蒴


 上はコスギゴケ Pogonatum inflexum です。 コスギゴケの蒴についてもこれまでに何度か書いていますが(こちらこちら)、もう少し異なった面から、特に蒴歯について観察してみました。


 上は帽も蓋もなくなった蒴です。 蒴柄がねじれているのは、乾いてしまったからです。
 スギゴケ科の蒴口は口膜で覆われていて、胞子は蒴歯の隙間から出ることは前に書いています。 下はこの蒴の断面です。


 緑色をした胞子がぎっしり詰まっています。 この胞子に隠され、蒴の中央にある中軸は全体が見えません。


 中軸を少し引き出してみました(上の写真)。 口膜はこの中軸の頂部が広がったものです。
 この中軸を取り去り、胞子も洗い出して光が通るようにして蒴歯の部分を顕微鏡で撮影したのが下の写真です。


 上の写真は口膜がついていますので、口膜も取り去って撮ったのが下の写真です。


 多くの蘚類では、向かい合う細胞の細胞壁だけが残って蒴歯が形成されていますが、スギゴケの仲間では多数の細胞全体で蒴歯を構成しています。 ですから、多くの蘚類の蒴歯は関節があるように見えるのに対し、スギゴケの仲間では関節らしいものは見あたりません。


 上は蒴壁の細胞で、細胞の上部に1個の大きなパピラがあります。

(材料としたコスギゴケは、2020.2.23.に奈良県の白毫寺町で採集したものです。)

2020-02-19

ツチノウエノコゴケ


 上の写真は2種類のコケが混生しています。 葉が細長く蒴が低く丸みを帯びているのがトジクチゴケ Weissia exerta で、それよりも葉が幅広く短く、細長い蒴が高く突き出しているのがツチノウエノコゴケ Weissia controversa でしょう。 両者は同属ですが、このように近い仲間が混生していることは、コケの世界では稀ではないようです。
 蒴柄は黄色から次第に褐色みを帯びてくるようです。


 葉は乾くと巻縮します(上の写真)。 蒴柄は上の写真では5mmほどですが、もう少し長くなる場合もあるようです。


 上は胞子体をつけていない配偶体です。 葉は上部の縁が狭く内曲しています。


 上は葉先付近です。 中肋は短く突出していますが、突出しない場合もあるようです。 黒くなっている所はパピラの隙間に入り込んだ空気の残っている部分です。


 上は葉の基部から葉長へ1/3ほどの所です。 上部の丸みを帯びた方形の細胞にはパピラが見られますが、矩形に移行するとパピラは見られなくなり、基部近くの細胞は透明で、しばしばV字形に配列します。


 上は葉の中央部の葉身細胞です。 それぞれの細胞に、先が分かれた複数のパピラがあります。


 蒴には蓋も帽もあります。 口環は赤みを帯びています。


 蒴歯の先端に胞子がくっついてしまいましたが、蒴歯は披針形で鈍頭、小さなパピラに覆われています(上の写真)。


 上は胞子で、表面には細かい突起が見られます。

(2020.2.12. 兵庫県三田市)

こちらではもう少し若い蒴をつけた本種で、雌苞葉などを見ています。

2020-02-13

ケミノゴケ


 上はコナラの樹幹についていたケミノゴケ Macromitrium comatum です。 帽は蒴全体をほぼ覆っています。 帽の取れた蒴を見ると、蒴はミノゴケより少し細長いようです。


 ミノゴケでは湿らせて開いた葉でも葉先は腹側に曲がっていますが(こちら)、本種ではほとんど曲がっていません(上の写真)。 葉先もミノゴケは鈍頭であるのに対し、本種の葉先は鋭頭です。


 雌雄異株で、雌株は基物上を這う茎から立ち上がる枝先に胞子体をつけます(上の写真)。 雄株は矮雄を作るようです。


 枝葉は2~3mm、上の写真の蒴柄は4mmほどあります。


 上は枝葉です。 葉身細胞は厚壁で細胞間の境が明瞭なため、上のような倍率でも細胞が認識できます。


 上は枝葉の葉先付近を背面から見ています。 葉の上部は竜骨状になっています。 上の倍率ではパピラはあまりはっきりしませんが、表面が膨らんでいることが確認できます。


 葉の中上部では、それぞれの細胞に数個の小さなパピラが見られます。


 葉の下部の細胞には1個の大きなパピラが見られました。


 葉身細胞の長さは 10~13μmです。 上の写真は細胞の輪郭がはっきりする所にピントを合わせていますので、パピラはぼやけています。


 上は蒴歯(の一部)です。 内蒴歯は無く、16本の外蒴歯の表面は密にパピラに覆われています。 丸いものは胞子です。


 蒴の下部には気孔が見られます。 上の写真には気孔が4個写っています。


 上は胞子です。 胞子の大きさには、かなりのばらつきがあります。

(2020.2.12. 兵庫県三田市)

◎ ケミノゴケはこちらにも載せています。


2020-02-11

ツツバナゴケ



 写真はツツバナゴケ Alobiellopsis parvifolia でしょう。 雌株の群落で、花被が林立しています。
 育っていたのは、観察路を広げるために削り取られて新しくできた、水がじんわりしみ出してくる土の表面です。


 花被は紡錘形で、上部は3稜になっています。
 茎の多くが茎頂に胞子体をつけていますが、それらの茎につく葉は緑色が薄れています。 胞子体をつけていない茎も弱々しく、群落全体が、かなり弱っているように見えます。


 大きな群落ですが、個々の植物体は、茎の長さは3~5mm、葉の長さは 0.4mmほどですから(上の写真のスケールの最小目盛は 0.1mm)、肉眼では花被も白い点にしか見えません。


 花被を破いて、その内側を観察しました(上の写真)。 若い胞子体の基部近くには、胞子体形成には至らなかった数個の造卵器が白く見えています。 下は上を顕微鏡で観察したものです。


 たくさんの造卵器の中で、1つだけから胞子体が育つのは、他の造卵器の受精を妨げるのか、受精卵の生長を阻害するのか、何らかの抑制機構があるのでしょうね。 1つの胞子体を育てるだけで精いっぱいなのに、複数の胞子体が育つと共倒れになってしまいます。


 上は胞子体をつけていない茎を背面から見ています。 葉は斜めに開出し、重なっています。


 上は腹面から見ています。 ゴミが多くて分かりづらいのですが、赤い楕円で囲った所に腹葉があります。 腹葉は舌形ですが、大きさにはかなりのばらつきがありました。 楕円で囲った腹葉の上(写真では右)にある腹葉は大きく、葉とつながっているようです。


 上は茎頂近くの腹葉です。


 葉身細胞はほぼ方形で、やや柵状に並び、薄壁で、トリゴンはありません(上の写真)。 油体は楕円体で、微粒の集合です。
 本種の葉のつき方などの形態は、下の◎印にあるように、変異が大きいようです。 やはり上のような細胞の形状や油体の様子を観察することが同定に必要になりそうです。

(2020.2.5. 堺自然ふれあいの森)

◎ 胞子体をつけていない、やや幼体っぽいツツバナゴケはこちらに、長く蒴柄を伸ばして蒴を開裂させている様子はこちらに載せています。 見比べると葉のつき方には変異があるようです。

2020-02-10

写真講座のご案内


 カメラやデジタル技術の進歩で、肉眼ではなかなか見ることのできない植物や昆虫などのミクロな世界も、少しの工夫とテクニックで、比較的簡単に美しい写真を撮影できるようになってきました。しかし撮影には、ある程度のカメラについての知識や、見栄えの良い写真にするための構図についての考え方なども必要になってきます。
 今回は2回の講座で、1回目は私の撮った写真を使って、撮影の方法や注意すべき点などについて説明します。2回目は、1回目の内容を踏まえて撮影された受講者の皆さんの写真を持ち寄り、互いに感想を話し合ったり、より良い写真が撮れるようなアドバイスをさせていただく予定です。
 写真撮影が趣味の方が撮影の幅を広げるのにも役立つでしょうし、いろいろな生物のことを写真に撮って知りたい、調べたい、記録に残したい、という人にとっても、同じ撮るなら美しい写真の方がいいでしょう。
 なお、現在持っておられるカメラの種類は問いませんが、これからカメラの購入を考えておられる方にも役立つはずです。

 参加申込はNHK文化センター神戸教室 Tel.(078) 360-6198 までお願いします。ご参加をお待ちしています。

2020-02-07

ホソバギボウシゴケ


 写真は擁壁についていたホソバギボウシゴケ Schistidium strictum です。 ほぼ同時期のものを前にも載せていますが(こちら)、多型で、変異の幅が大きい種ですので、再度いろいろ観察してみました。


 葉は卵状披針形で、基本は全縁ですが、上の写真の葉は先端付近でかすかな鋸歯が出ています。


 上は葉先付近を背面から撮っています。 中肋は葉先に達しています。 葉の先端はときに上のように短い透明尖になります。


 上は葉の基部の様子で、下は上の赤い四角で囲った部分の拡大です。


 葉縁基部では横長で矩形の細胞が多く見られます。 また、これらの細胞の横壁と縦壁はほぼ同じ厚さです。 これらの特徴は、本種によく似たコメバギボウシゴケと見分けるポイントの1つになります。


 上は葉の横断面です。 中肋は腹側が凹んでいます。 下の写真は上の中肋付近です。


 Schistidium属の中肋にはガイドセルもステライドも見られません。 平凡社の図鑑の検索表では、「(本種やコメバギボウシゴケの)中肋(少なくとも若い葉)の背面にパピラか低い鋸歯状の突起がある。」となっていますが、上の写真には該当のものが写っているのかゴミなのか、よく分かりません。


 葉身細胞は多くは1層ですが、所々2層になっている所があります。 また、2細胞層になって外曲している葉縁も多く見られます。


 横から見ると、Schistidium属の蒴は雌苞葉に沈生しています。 多くの雌苞葉には透明尖はありませんが、短い透明尖を持つ雌苞葉も見られました。


 上は雌苞葉と葉を少し取り除いて撮っています。 蒴は短い真っ直ぐな蒴柄についています。 蒴は茎に頂生しているのですが、すぐ横から新しく茎が伸び出し、側生しているように見えています。


 上は蒴の表皮細胞で、右が蒴口の方向になります。

(2019.12.11. 大阪府高槻市 川久保)