2020-12-30

陸上植物の世代交代と最初の陸上植物

 陸上植物は、(量的には異なるものの、)同じ遺伝子を持ちながら、配偶体世代と胞子体世代という、形態の異なった2種類の世代を持っています。 この世代交代はどのように制御されているのか、ヒメツリガネゴケで世代交代の制御因子を発見された榊原恵子博士の本(下の写真)を図書館で借りて読みました。 なお、博士はヒメツリガネゴケという和名の名付け親でもあります。 

 この本は、研究結果として確立された内容だけでなく、研究者としての歩んだ道や、研究結果に至るまでの道筋が書かれていて、おもしろく読み終える事ができました。
 この本に書かれている個々の世代交代制御因子の話は置くとして、大きなまとめとしては、動物は離れた系統でも共通の発生調節転写因子群を持ち、使い方を少し変化させて形の多様性を生み出しているのに対し、植物は遺伝子重複で少しずつ違った遺伝子を増やし、この遺伝子の有無が形の違いを反映しているように思われる、ということでした。
 上記の本の初版は2016年2月ですが、2017年には同じ著者が、大阪府高槻市にある生命誌研究館発行の「生命誌ジャーナル」92号に、本の要約的な内容を書かれています(こちら)。

 ここで注目したいのは、KNOX2遺伝子です。 コケの体は、配偶体世代(n世代)は枝分かれしますが、胞子体世代(2n世代)に枝分かれは見られません。 ところがKNOX2遺伝子を取り除いた受精卵からは、複相(2n)のままで枝分かれした単相(n)の表現型が出現します。 つまりコケの胞子体は枝分かれできないのではなく、枝分かれしないように抑制されているということになります。

 現在の地球上で繁栄している陸上植物は、枝分かれして大きく育つ胞子体世代をもつ種子植物です。 種子植物と蘚苔類は(シダ植物なども併せて)、光合成色素などから、単系統つまり共通の祖先に由来することが分かっています。 この共通の祖先つまり初期の陸上植物の胞子体世代はどのような姿であったのか、従来は蘚苔類のような枝分かれしない単純な胞子体を持った植物が次第に枝分かれするようになったと考えられてきました。 しかしこの説の弱点として、蘚苔類の化石よりずっと古く、維管束は無いものの枝分かれをした前維管束植物の化石がたくさんみつかっていることでした。
 しかし上記のように、蘚苔類は何らかの理由で枝分かれが抑制されているのだとすれば、陸上植物の祖先は枝分かれした前維管束植物であり、それが一方では枝分かれを抑制するように進化し蘚苔類となり、他方では維管束を発達させてシダ植物から種子植物へと進化してきたという仮説が成立します(2009年 9月10日 基礎生物学研究所プレスリリース)。


2020-12-27

こけ展の打ち合わせに

  1月9日~17日に、大阪市の「咲くやこの花館」でこけ展が開催されます。

 このコケ展では、上のような様々な展示や催しが予定されていますが、写真関係の協力者の1人として、打ち合わせに行ってきました。

 温室前には、はやくも「こけ展」の看板が・・・ お正月中にやらなければならない宿題をもらって帰ってきました。


2020-12-26

フジハイゴケ

 

 朽木を覆っていた写真のコケ、フジハイゴケ Hypnum fujiyamae だと思います。

 茎からは不規則な羽状に少数の枝が出ています。

 茎葉は長さ2~3mmです。

 上は茎葉です。 茎葉は卵状披針形で漸尖し、先は弱く鎌状に曲がっています。 葉身部には縦じわがあり、葉縁の下半分は反曲する傾向があります。 また葉先近くには小歯が見られます。

 上の写真では翼部にある薄壁で透明な細胞が、薄壁であるためか、つぶれています。

 葉身細胞の長さは 50~80μmです(上の写真)。

 上の2枚は枝葉とその翼部です。 翼部に薄壁で大きな細胞があり、葉の基部には厚壁で赤褐色の細胞が並ぶ特徴は茎葉と同じなのですが、今回はその特徴が枝葉の方にはっきり出ています。

 上は茎の横断面です。 表皮細胞は小さく、中心束があります。

 蒴は円筒形で傾き、少し曲がっています。 帽は僧帽形で、蓋には嘴があります(上の写真)。

(2020.11.26. 奈良県 上北山村)

◎ フジハイゴケはこちらにも載せています。


2020-12-24

ツルウメモドキ

 

 写真のツルウメモドキ Celastrus orbiculatus、林縁の日当たりがあまり良くない所に育っていたせいもあるのか、12月中旬になって、やっと黄色の果皮が割れ、赤い仮種皮が見えだしました。 上の写真の左上には、まだ果皮が割れていないものがたくさん残っています。
 果皮は3つに裂開し、黄色と赤との対比は色彩的になかなかのものです。 写真のように落葉後も果実の色鮮やかさは保たれるため、花材などに使われます。

 ツルウメモドキはニシキギ科の落葉つる性木本で、雌雄異株です。 もちろん上は雌株ということになります。

 花は5月頃に咲きますが、小さな淡緑色の花で、あまり目立ちません。 上と下の写真は雌株の花(雌花)です。 雌花はガク片と花弁が5枚で、メシベは柱頭が3裂し、退化した5本のオシベがあります。

 雄株の花(雄花)は、写真は載せていませんが、5本のオシベが目立ち、中央に退化したメシベがあります。

(2012.12.21. 堺市南区畑)

※ 上は Part1の2012.12.25.の記事を少し書き換えてこちらに引っ越しさせたものです。




2020-12-23

タカネカモジゴケ

 

 樹幹についていた写真のコケ、2枚目の拡大した写真では、下部のほとんどの葉が途中で折れています。 以下の観察結果を併せると、タカネカモジゴケ Dicranum viride var. hakkodense でしょう。 なお、上の写真のあちこちに写っている苔類はケシゲリゴケでした。

 上は乾いた状態ですが、葉はかたく、縮れていません。 上部の折れていない葉の長さは、平凡社では3~4mmとなっていますが、上の写真では5~6mmあります。

 顕微鏡観察しようと葉を1枚茎からはずしたところ、ちょうど折れてくれました。 基部近くが折れ畳まれてしまいましたが、全体の様子はよく分かります。 葉は鞘部から線状披針形に漸尖し、翼部は明瞭で、大きな細胞からなっています。 葉の基部で中肋の幅は葉の幅の1/3以下です。

 上は葉先近くです。 葉先を除いて歯はありません。 ほとんど中肋で占められているようですが、そのことは下の葉の断面の組織の様子から見る方が明白なようです。

 上は葉の基部近くの横断面です。 中肋のステライドは明瞭です。 葉は1層の細胞からなり、中肋とは明瞭に区別できます。
 下は上と同倍率の葉の上部の横断面です。

 葉の上部では溝状の凹みが深くなり、ほとんどが中肋の組織になっています。 平凡社の図鑑では、葉の上部では葉身は2細胞の厚さがあると書かれています。 上の写真でどこまでが中肋なのか、連続していて分かりにくいのですが、中肋にはガイドセルやステライドがありますから、それらに注目すると、たしかに中肋以外の部分では2細胞層になっています。

(2020.11.26. 奈良県 上北山村)

◎ タカネカモジゴケはこちらにも載せています。 また、こちらにはタカネカモジゴケの蒴などを載せています。


2020-12-21

木星と土星が大接近

 ここしばらく、木星と土星が大接近している様子が大阪市内でも肉眼で見られますが、今日が最も接近している日ということで、カメラを向けてみました。

 上の写真、左下の大きく明るい星が木星で、右上の土星はなんとなく輪があるように見えます。

 画像処理をして、明暗を強調してみました(上の写真)。 ノイズがたくさん出ていますが、木星のガリレオ衛生のうち2つがどうにか確認できます(赤い円の中)。

 この2つの星がこのように接近して見えるのは非常にまれで、国立天文台によると、地球から見える2つの星の位置が0.1度の角度まで近付くのは、1623年以来、397年ぶりだそうです。 ちなみに、1623年は徳川家光が3代将軍になった年です。 なお、次に2つの星がこのように近づくのは60年後の2080年だそうです。
 この0.1度の角度というのはどれくらいのものか、上の写真では分かりにくいので、下に今夜同じ拡大率で撮った土星・木星の写真(右下は近くのビルです)と月とを並べておきます。




2020-12-20

ヘイケガニ

  2022年度のNHK大河ドラマは「鎌倉殿の13人」、源平合戦から始まり、北条義時が二代執権として武士の頂点に上り詰めるまでが描かれるようです。 三谷幸喜さんの脚本でもあり、2021年度大河の渋沢栄一を主人公とする「青天を衝け」より話題を集めているのかもしれません。
 滅びゆく平氏の平清盛役には松平健さん、清盛の後継者である平宗盛役は小泉孝太郎さんです。 平家は壇ノ浦の合戦で滅ぶのですが、壇ノ浦で海に沈んだ平家の人々の怨念はカニの甲羅に乗り移り、怒りの表情を甲羅に持ったヘイケガニになったと言われています。

 事実は、平家が世に出るず~~~っと前の化石の段階から、ヘイケガニの甲は人の顔の模様なんですけれど・・・。 それに分布域も、壇ノ浦周辺に限らず、北海道南部、相模湾~紀伊半島、瀬戸内海、有明海などに分布していますし、朝鮮半島、中国北部、ベトナムなどの東アジア沿岸域にも分布しています。
 ヘイケガニの名前はよく知られているのですが、実際のヘイケガニを見た人は、そんなに多くはないでしょう。 ヘイケガニは水深10~30mほどの海中で生活していて、海辺で見ることはほとんど無いでしょうし、網にはかかりますが、甲の幅は2~3cmほどのカニで、サワガニのようにから揚げにするには大きく硬く、下の写真のように脚も細くて食べる所が無く、市場にも並びません。

 ヘイケガニはヘイケガニ科に分類されていますが、後ろの歩脚2本は小さくなっていて、ヤドカリなどに近い仲間です。 この小さな歩脚は貝殻や海綿などを背負うのに使います。
 下は裏側を撮ったものです。 鋏脚(ハサミ)は、小さいですが、ちゃんとあります。

※ 上は、Part1の 2012.12.24.に載せていた記事を、一部書き直してこちらに引っ越しさせたものです。


2020-12-19

ヒメサンカクゴケ

 

 上の写真は樹皮の上のコケ群落で、コダマハネゴケケシゲリゴケの隙間を埋めるように、葉は小さいが量的には最も繁茂していたのはヒメサンカクゴケ Drepanolejeunea angustifolia でした。

 背片は披針形、先端は鋭尖で内曲しています。 腹片は背片のほぼ1/2の長さです。

 腹片の歯牙は大きな単細胞です(上の写真)。

 葉の基部には眼点細胞があります(上の写真の赤い楕円で囲った所)。


 腹葉は茎径とほぼ同幅でU字形に2裂し、裂片は1細胞幅で2~3細胞の長さです。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは大きく、油体は油滴状です。

(2020.11.26. 奈良県 上北山村)

◎ ヒメサンカクゴケはこちらにも載せています。


2020-12-18

種子とは

 「コケ植物は胞子で増え、種子植物は種子で増える。」とか、「昆虫も魚も、動物は卵を産んで仲間を増やし、種子植物は種子を散布して仲間を増やそうとする。」と子供の頃に学校で学びました。
 これらの言い方は、「増え方」に関しては間違いとは言えないでしょう。 しかしこれらを聞いて、胞子、種子、卵を同じようなものと思っている人もいるようです。
 コケ植物の胞子は、卵(受精卵)からできる胞子体という世代がつくる生殖用の細胞であることは、このブログを見ていただいている人には、もう常識でしょう。 じつは種子植物の種子も、メシベの根元にある子房の中につくられる卵細胞が受精卵になるところからスタートします。 種子は、この受精卵からつくられた植物の“赤ちゃん”が、当面の“お弁当”も準備してもらい、成長に適する時期まで殻に閉じこもって待機している状態だと言えるでしょう。
 下はカキの種子の断面です。 ちゃんとカキの木の“赤ちゃん”が入っています。 正確には「胚」という言葉を使うべきでしょうが・・・。
 最近は種子の無いカキも多いのですが、カキの種子は身近で、断面を作るのに手頃な大きさです。 もし断面を作って自分の目で確かめたい場合は、怪我をしやすいので、くれぐれも慎重に。 

 上の写真で、「子葉」や「幼根」は胚の各部の名称です。 そして「胚乳」が胚の“お乳”つまり、殻に閉じこもって光合成できない間の、そして土の中から陽の当たる所まで成長するための“お弁当”です。
 なお、胚によっては、胚乳の栄養分を吸収して、すっかり子葉に移し替えてしまう植物もあります。 このような種子では、種皮の内側のほとんどが子葉で占められていて、「無胚乳種子」と呼ばれています。
 無胚乳種子の例として、お正月用の黒豆(=大豆の品種)を載せておきます。 下は黒豆に水を吸わせて膨らませたもの(奥)と、それから黒い皮(=種皮)を取り去ったもの(手前)です。

 カキ〇ーのピーナッツも、無胚乳種子をつくる双子葉植物(子葉が2枚)の種子ですから、栄養を貯めた2枚の子葉に簡単に分かれます。

※ 上は Part1の 2012.12.12.の記事を、少し書き換えてこちらに引っ越しさせたものです。





2020-12-17

ケシゲリゴケ

 

 樹幹に育っていた写真のコケ、以下の観察結果はケシゲリゴケ Nipponolejeunea pilifera でした。

 上は乾いた状態です。 背片の長さは1mmほどで、あちこちから長毛が出ています。

 近くにはいろんなコケに混生した本種があちこちに見られました。 上は赤い円で囲った所に花被をつけています。 花被は3稜です。

 上の2枚は腹面から撮っています。 長毛は背片の先端付近から出ているものが多く、細胞が1列につながっています。 腹片は背片のほぼ1/2~1/3の長さです。 腹葉は広卵形、茎径の4~5倍幅で、狭く2裂しているのですが、その様子はこちらに載せています。

 上は葉(側葉)です。

 上は腹片です。 2歯があり、上のように長毛状になっているものもありました。

 上は葉身細胞です。 トリゴンは大きく、油体は各細胞に1~6個で、小粒の集合です。

(2020.11.26. 奈良県 上北山村)