2023-12-15

キサゴゴケ

 写真はキサゴゴケ Hypnodontopsis apiculata だと思います。 ヤシ(フェニックス?)の樹幹についていました。 蒴柄がらせん状に巻く特徴的な胞子体があれば、もっと確実になるのですが、蒴は確認できませんでした。

 湿ると上のようになります。

 茎の長さは約3mmです(上の写真)。

 上は葉です。 中肋は太く、葉縁は平坦でほぼ全縁です。 葉の基部の細胞は矩形で透明、平滑です。

 中肋は葉先に届いています(上の写真)。

 葉身細胞は円状六角形で長さ7~10μm、3~5個のパピラがあります。

 葉腋を中心に、たくさんの無性芽をつけています(上の写真)。

 上は無性芽です。

2023-12-05

フタバムチゴケ

 写真はフタバムチゴケ Bazzania bidentula だと思います。 北海道・雌阿寒温泉近くの森の、朽木の凹んだ穴の奥にありました。 比較的小形のムチゴケで、茎は基物にくっついて這い、鞭枝も同様に基物にくっついていました。
 水谷(1992)によれば、大雪山から屋久島の高地まで点々と分布するが、中部高地の標高 1,000~2,000mの朽木上には普産するとのことです。


 葉は細長い卵形(~卵形)で、葉先に向かうにつれて次第に幅が狭くなり、そのまま尖るか2歯になります。 3歯になることはありません。 葉も腹葉も脱落し易く、プレパラート作成過程でもしばしば脱落しました。

 上は葉です。 葉身細胞は方形~多角形です。

 葉と腹葉は合着していません。 腹葉は大きさも形も変異が大きいのですが、多くはやや縦長ぎみで、幅は茎の2倍以下、歯や切れ込みは少なく、比較的平らです。

 腹葉は葉と同じ色で不透明です(上の写真)。

【参考文献】
水谷正美:フタバムチゴケとニシムチゴケ(新称).日本蘚苔類学会会報5(12),1992.

2023-11-27

コマノキヌイトゴケ

 コマノキヌイトゴケ Anomodon thraustusマキハキヌゴケ Pylaisiella subcircinata の混生した群落が、北海道の阿寒湖畔の樹幹にありました(2023.9.8.撮影)。
 上の写真の、光沢のある葉が巻いているのかマキハキヌゴケで、蒴もこのコケのものです。 そして、コマノキヌイトゴケの葉は光沢が無く茎にくっついています。

 上は乾いた状態で、下は上とほぼ同じ場所を同倍率で湿らせて撮った写真です。

 コマノキヌイトゴケが葉を広げて茎を持ち上げ、マキハキヌゴケはほとんど隠されてしまいました。 コマノキヌイトゴケの葉は、湿ってもギボウシゴケモドキのように側方に偏って展開する様子は見られません。
 以下、コマノキヌイトゴケについてです。 なお、本種の分布は平凡社では北海道~本州となっています。


 葉は上部が折れやすく、多くの葉で上部が欠けていました(上の3枚の写真)。 中肋は葉の中央を通り、葉の上部で不明瞭です。 反りぎみの葉にカバーグラスをかけていますので、葉の所々が折り重なっていて分かりにくくなっていますが、葉はほぼ相称です。


 1つの葉身細胞に多くの高いパピラがあります。 上の2枚の写真は、同じ所で細胞の輪郭とパピラの輪郭にピントをずらして撮った写真です。 細胞は丸みのある六角形で、長さは約10μmです。

◎ コマノキヌイトゴケはこちらにも載せています。

2023-11-25

ムツヤノネゴケ(エゾヤノネゴケ)

 これまでもアオギヌゴケ科の同定は難しいと書いてきましたが、上の写真は、左にコツボゴケなど、いろいろ混生していますが、多くはムツヤノネゴケ Brachythecium noecicum(アオギヌゴケ科)だろうと思います。 なお、エゾヤノネゴケはシノニムでしょう。
 本種は、岩月(2012)の日本産蘚類の和名リスト(Ⅲ)などには Bryhnia noecica の学名で記載されていますが、平凡社にはムツヤノネゴケの名は無く、エゾヤノネゴケ Bryhnia tokubuchii が載せられていて、野口(1991)にもこの学名で載せられています。 なお、平凡社の Bryhnia(ヤノネゴケ属)の説明には、アオギヌゴケ属(Brachythecium)に似るとあります。

 枝はやや羽状に出ています。 茎葉の長さは 1.5~2mmです。


 上の2枚は茎葉です。 茎葉は卵状披針形で、基部近くが最も幅広く、葉先は漸尖して尖り、しばしばねじれます。 基部は広く下延します。 翼細胞は、あまり明瞭な区画を作っていません。 葉縁には鋸歯があり、葉先近くで少し外曲する傾向があります。 中肋は強壮で、多くの葉で葉先近くに達しています。
 枝葉は茎葉より小形です。

 葉身細胞は長さ 20~35μm、幅 4.5~7.0μm、上端にプロラ(パピラのようにはっきりしないかすかな突起)があります。 プロラは上の写真では分かりにくいのですが、赤い円で囲った所などで、どうにか分るでしょうか。

 前に「?」付きで載せたエゾヤノネゴケ(こちら)と比較すると、今回のものは中肋背面の先端が明瞭な歯で終わってはいませんし、葉身細胞の背面上端の小さな突起もはっきりしていません。 個体差なのか、どちらかが間違っているのかもしれません。

2023-11-24

咲くやこの花館の「コケ講座」と「コケの観察・解説ツアー」について

 大阪市の「咲くやこの花館」で、2024年1月の6日から21日までの予定でコケ展が開催されます。

 期間中、盛りだくさんの内容が予定されていますが、私の担当は「もっとコケを知ろう」で、「コケ講座」と「コケの観察・解説ツアー」を実施します。 コケの楽しみ方は、見る楽しみ、作る楽しみ、育てる楽しみなど、いろいろですが、私の担当は「知る楽しみ」といったところでしょうか。

◎ 2024年1月5日現在、「コケ講座」は受付を終了し、「コケの観察・解説ツアー」も定員に達しています。

 1月7日(日)の午前と午後に、内容を変えて上記のコケ講座を実施します。

【午前】(10:30~12:00)
(入門編講座)コケってどんな植物?
 ちょっと注意すれば、都会の真ん中など、どこにでもあるコケですが、種子植物を見慣れている私たちにとっては、知れば知るほど不思議なおもしろい植物です。
 「コケのことを見聞きすることが多くなって、私も関心があるのだが、コケについては何も知らない」という人にも分かるように、コケとはどのような植物なのかを解説します。 なお、午後の講座内容も、この講座でコケ植物を理解していただいたうえでなら、理解していただけると思いますので、別途参加費が必要になりますが、よろしければご参加ください。

【午後】(13:00~14:30)
コケの生活史 - 種子植物にどうつながる? 胞子と種子の関係は? -
 花も咲かず目立たないコケですが、およそ5億年前に陸上に現れてから、ちゃんと子孫を残し続け、進化しながら、現在に生き続けています。 どのようにして子孫を残しているのでしょうか。
 コケは胞子で増えると言われていますが、卵と精子が受精するという有性生殖を行わないと多様性も進化も起こりません。 どこでどのように有性生殖を行っているのでしょうか。
 また、コケ植物とシダ植物や種子植物は、最初に陸に上がった同じ植物から分かれた植物とされています。 つまりコケの生活史は、種子で増えるというコケとは全く違うように見える種子植物の生活史につながっています。
 そのような内容を、分かりやすくお話しします。


 1月の12日(金)と18日(木)に「コケの観察・解説ツアー」を実施します。 両日とも午前は初心者向け、午後は中級者向けの内容にします。
 温室内の狭い通路で行いますので、実施日は比較的来館者の少ない平日とし、参加人数も各回10名に限らせていただきます。

【午前】(10:30~11:30) 初心者向け
 館内には自生のコケも植えられたコケもありますが、その中で比較的大きく特徴の分かりやすいコケを観察するとともに、それらのコケを使って、コケとはどのような植物なのかも説明します(観察ツアーではなく、観察・解説ツアーです)。
 

【午後】(13:00~14:00) 中級者向け
 特に熱帯雨林室には、暖かい地方のコケも何種類か自生しています。 これらは、館でお貸しする倍率のルーペでは見分けることが難しく、10倍以上のルーペが必要なほどの小形のコケが多いのですが、大阪付近ではなかなか見ることができないコケを見る機会でもあります。 そのようなコケも含め、館内に育っているいろいろなコケを観察しながら、解説していきます。

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 参加申し込みについて
 「コケ講座」も「コケの観察・解説ツアー」も、それぞれの実施日の1カ月前から、受付を開始し、実施日の3日前で締め切らせていただきます。 受付は先着順で、定員に達した段階で締め切ります。
 参加希望の方は、咲くやこの花館HP「イベント情報」の「こけ展」にある「コケ講座」や「コケの観察・解説ツアー」に進み、そこにある「WEB受付」ボタンをクリック、または直接「SAKUYA WORKSHOP」から申し込んでください。
 なお、上記受付は、オンラインショップの受付システムを流用しているため、おかしな表現になっています。 「送料無料でお届けします」と表示されていますが、届くものは何もありませんし、「SOLD OUT」は定員に達したことを、「再入荷お知らせ」はキャンセル待ちを意味します。 受付が完了すると「商品の発送が完了いたしました!」のメールが届きますが、チケットなどの発送はありません。

2023-11-23

オウコチョウ

 写真はオウコチョウ(黄胡蝶)Caesalpinia pulcherrima です。 マメ科ジャケツイバラ亜科の常緑性小高木です。 京都府立植物園の温室で撮影しました。
 西インド諸島の原産ですが、花が美しいため、現在では世界の熱帯から亜熱帯域に栽培されていて、日本でも沖縄などでは戸外でも育ち、「琉球の3名花」の1つとなっています。

 Caesalpinia(ジャケツイバラ属)ですので、ジャケツイバラ同様、葉は偶数二回羽状複葉で、枝には下向きの鋭い棘があります(上の写真の赤い矢印)。

 花はオシベ10本とメシベ1本、マメ科ですので、花の後には果実(豆果)ができます(上の写真の赤い矢印)。

 マメ科には“個性的な”花が多くありますが、本種の花もいろいろかわった特徴が見られます。
 花冠は不完全蝶形で、5枚の花弁(上の写真の1~5)のうち、上側の花弁(上の写真の1)が内側につくのはジャケツイバラ亜科の特徴ですが、本種の上側の花弁は下部が筒状になっていて、上部で開いています。 ガクは5裂していますが、そのうちの最下裂片が大きく目立つのも、Caesalpinia(ジャケツイバラ属)でしばしば見られる特徴です。

2023-11-20

イトヤナギゴケモドキ

 青森県産のイトヤナギゴケモドキ Platydictya subtilis をいただきました。 Kさんが採集されたもので、作沢川の蛇籠についていたそうです。 

 上は乾いた状態、下は湿った状態です。(倍率は同じです。)

 茎は糸状で、不規則に分枝しています。 葉はあまり横に広がらず、茎葉の長さは 0.3~0.4mmです。

 上は茎葉です。 卵形の下部からやや急に長く尖り、ほぼ全縁または目立たない細鈍鋸歯があります。 中肋は、平凡社などでは、短く不明瞭となっていますが、上の場合は不明瞭さはあるものの、中部にまで達しています。

 葉身細胞は長さ 15~20μmでした。

 仮根は平滑です(上の写真)。

 上は茎の横断面です。 中心束はありません。

2023-11-18

キノクニツルハシゴケ

 アオギヌゴケ科には同定の難しいコケが多く、平凡社の図鑑には「分類のもっともむずかしい科の一つである。」と書かれています。 なかでも Eurhynchium(ツルハシゴケ属)は、変異が大きく同定はむずかしい(平凡社)とされています。
 Kさんが確信を持って同定できたというキノクニツルハシゴケ Eurhynchium squarrifolium を少し分けていただくことができました。 青森県で10月に採集されたものです。 


 上の2枚はいずれも乾いた状態ですが、葉は丸くつき、彙状になる傾向があるようで、開出したままです。

 上は茎葉です。 広い基部からやや急に細くなって長く尖っていますが、どの葉も中ほどから大きく捩れていました。 葉縁には細かい歯があります。 葉の基部はほとんど下延せず、翼細胞はあまり明瞭な区画を作っていません。
 上の写真では中肋の先端は捩れと重なり、はっきりしませんが、葉長の2/3の少し上まで延びています。 別の葉で・・・

 上の写真も、中肋の先端は捩れと重なり分かりにくいのですが、中肋背面をほぼ横から見ていることになります。 Eurhynchium(ツルハシゴケ属)の背面の中肋先端は1個の歯で終わることが多いのですが、本種の茎葉では、雰囲気はあっても、中肋の歯は確認できないようです。

 上は基部から1/4ほどの所の葉身細胞です。


 上の2枚の写真は枝葉です。 枝葉は、葉形は茎葉とあまり違いませんが、茎葉より明らかに小さく、やはり捩れています。

 上は茎の横断面で、中心束があります。

 以上の観察結果からすると、これまでキノクニツルハシゴケとして載せていたこちらは本種では無く別種のようです。
 なお、いただいた標本には蒴は無かったのですが、Kさんによると、蒴柄はざらついていたようです。