2022-01-28

ミヤマシッポゴケ


 岩上に育つ、ひときわ濃い緑のコケ、以下の観察結果からミヤマシッポゴケ Dicranoloma cylindrothecium ではないかと思います。 前に載せたもの(こちら)とは色も印象もかなり異なりますし、平凡社では「山地の樹幹や腐木上に群生」とあるのですが・・・。

 茎の長さは数cm、枝は少なく、中部以下の葉のほとんどは途中から折れて無くなっていますが、完全な葉は線状披針形で、長さは約7mmです。

 若い仮根は白っぽく、次第に褐色になっていくようです(上の写真)。

 上は葉先です。 葉の上半の葉縁には小歯があります。 下の写真と比較して、細胞の多くは中肋のものと思われ、中肋は葉先に達していると言って良さそうです。

 上は葉の中部やや上部寄りの所を背面から撮っています。 中肋背面に歯があります。

 上は2つ折れになった葉の中部やや上部寄りで、色の濃い部分は中肋です。 葉身細胞は平滑、細い矩形で、長さ70~90μm、厚壁で、赤い丸印の所などに明瞭なくびれがあります。

 上は葉の基部です。 翼細胞はよく発達し、褐色です。 平凡社では翼細胞は方形とありますが・・・。
 翼部と中肋との間には非常に細長く、よく見ると壁にくびれのある細胞が並んでいます。
 中肋は細く、平凡社では「葉の下部で葉の幅の1/15以下」となっていますが、上の場合は1/13ほどです。
 細かい所では平凡社と一致していませんが、葉は千切れやすいうえに同じ株でも葉の変異は大きいようですので、下にもう1枚、葉の基部の写真(倍率は異なります)を載せておきます。

 上の写真の場合は、方形の翼細胞も見られますが、褐色の部分はほんのわずかで、翼細胞はほぼ透明です。 また、葉身細胞は壁にくびれが多く見られます。

 上は翼部のすぐ上の葉の横断面と、その中肋部の拡大です。 断面で中肋は一様な細胞からなり、ステライドは不明瞭です。

(2021.11.29. 東京都 御岳山ロックガーデン)

2022-01-19

イトラッキョウゴケ

 渓谷の木に覆われた岩上にあった写真のコケ、センボンゴケ科だろうと平凡社のコケ図鑑の検索表で調べたのですが、下のあちこちに書いたような理由で、どうしてもそれらしいコケに行き当たることができません。 Facebookに載せ、秋山先生に同定を依頼した結果は、以前にも載せた(こちら)イトラッキョウゴケ Anoectangium thomsonii だろうということになりました。

 上は少し離れた所にあった、岩から垂れ下がるようにして育っていたコケで、蒴は付けていませんが、葉を調べた結果は同種のようでした。

 上の写真の上は乾いた状態で、下は湿った状態です。 湿った状態では仮根が分かりにくくなっていますが、葉が褐色になった部分の茎では仮根が発達し、互いに絡み合って密なタフトを形成しています。 そのうえに古い茎はもろくなっていて、上の写真のいずれも、茎の下部は切れてしまっています。
 葉は長さ1~1.5mmで、乾くと葉は中央で折り畳まれ、ゆるく茎につきます。 蒴柄は長さ約5mm、蒴は短円筒形で、長さは約 0.7mmです。

 葉は狭楕円形~狭披針形、葉縁は全縁で平坦、葉先は鋭尖です(上の写真)。 葉の基部は広がらず、鞘状になっていません。 中肋は葉先に達しています。
 葉の幅は中央付近で最も広くなっています。 平凡社のセンボンゴケ科の属の検索表では、本種の属するメンボウゴケ属(Anoectangium)に至るには「ふつう基部付近でもっとも幅広い。」を選ぶことになります。 この選択は[葉は狭いか幅広いか]とのセットですので、どうにかクリアできますが・・・。

 上は葉先です。 密なパピラがあるため、細胞の輪郭は不明瞭です。

 上は葉の基部です。 平凡社の図鑑では本種の葉の基部の細胞は広楕円形となっていますが、矩形の細胞が多いようです。 中肋に近い細胞は長く、葉縁に近づくにつれて短くなっています。
 センボンゴケ科の葉の下部の細胞は、ふつう透明で平滑ですが、上の写真では透明ではありません。 これもセンボンゴケ科を疑うことになった理由の1つですが・・・

 上のような葉もありました。 葉の細部も複数の葉で確認しなければならないということですね。

 上は葉の中央付近です。 上のような倍率まで拡大すると細胞の輪郭も分かります。 葉身細胞は厚壁、方形で、各細胞にはイボ状のパピラが4~6個あります。

 上は葉の横断面です。 中肋の横断面でステライドは背面側だけにあります。 これが私が同定できなかった最大の原因で、平凡社のセンボンゴケ科の属の検索表では、「中肋のステライドはふつう背腹両面にある。」を選ばないと、本種の属するメンボウゴケ属(Anoectangium)には至りません。 メンボウゴケ属の解説文には「中肋の横断面でガイドセルの背面側にステライドがある。」とあるのですが・・・。

 中肋の横断面は多くの葉で作りましたので、もう1枚載せておきます。 上の写真では中肋の背面にもパピラがあること、葉身細胞のパピラは背面にも腹面にも同様にあることが分かります。

 上は茎の横断面で、中心束があります。

 上は蒴の断面を内側から撮っています。 蒴には蒴歯も口環もありません。

(2021.12.24. 奈良県十津川村)

2022-01-17

チヂミバコブゴケ

 


 散策路横の岩についていた写真のコケ、よ~く見れば若い蒴の基部に小さなこぶ状の突起があるのですが、それに気づかず、平凡社のシッポゴケ科の検索表をたどってチヂミバコブゴケ Oncophorus crispifolius と分かりました。
 上の2枚は少し乾きかけですが、乾くと葉は強く巻縮しました。 蒴柄の乾湿による変化はほとんどありませんでした。

 葉の長さは3~4mmです。

 葉は鞘部から線状に伸びています(上の写真)。 翼部の細胞はほとんど分化していません。 中肋の太さは、鞘部の最も幅の広い所の1/5ほどです。

 葉身細胞は丸みのある方形で、長さは5~10μmです。 葉縁に舷はありません。

 上部の縁には目立たない歯が並びます。

 上は葉の横断面です。 葉身部の多くは2細胞層ですが、一部1細胞層の所もあります。 最初から5枚目の写真でも、帯状に明るくみえている所が1細胞層でしょう。
 中肋の横断面で、ガイドセルがあり、ステライドは明瞭です。 葉身細胞は平滑で、パピラやマミラは見られません。

(2021.12.23. 奈良県十津川村)

◎ 今回よりもう少し生長した蒴を持った2月のチヂミバコブゴケをこちらに、蓋も取れて蒴歯がよく分かる6月の様子をこちらに載せています。

2022-01-13

ヒナノハイゴケ

  ヒナノハイゴケ Venturiella sinensis の蒴が目立ってきました。 本種はこちらなど、何度かこのブログに載せていますが、昔の記事にはスケールを入れていませんでしたので、改めてスケール入りの写真を載せておきます。

 茎は這い、葉は密生しています。 蒴の長さは約 1.5mm、赤い口環は上のような倍率でもはっきり分かります。 雌苞葉は葉よりも大きく、2mmほどの長さがあります。

 葉の長さは1~1.5mm、葉先は急に細くなり、透明尖になっています。 葉縁は全縁で、中肋はありません。

 葉身細胞はほぼ六角形で、長さは 25~40μmです。

2022-01-09

チャボマツバウロコゴケ

 


 東京都の御岳山にある「七代の滝」の岩壁(標高約700m)で、いろいろなコケが混生していましたが(こちら)、上はそのうちの1種のチャボマツバウロコゴケ Blepharostoma minus です。
 本種は前に岩にくっついている姿を載せていますので(こちら)、今回は顕微鏡写真のみにしました。 葉(側葉)と腹葉は同形同大で長さは約 0.15mm、立体的な位置関係を見ないと両者の区別は難しいので、以下両者を区別せずに「葉」とします。

 葉は基部まで3(~4)裂していて、ムチゴケ科の Lepidozia(スギバゴケ属)に見られる掌部はありまません。 Kurzia(コスギバゴケ属)のトガリスギバゴケなどでは基部まで3~4裂していますが、全体の雰囲気はかなり異なります。

 上は葉の裂片のうちの1本で、先は円頭です。 細胞の長さは幅の約2倍で、細胞と細胞との境の壁は節のように盛り上がっています。 油体は球形で、各細胞に数個あります。

2022-01-07

エゾスナゴケの葉

  エゾスナゴケ Racomitrium japonicum については、これまで蒴の様子を中心に載せてきましたし、葉についても、乾いた時と湿った時の様子などを載せてきました(こちらなど)。 しかし顕微鏡レベルでの葉の特徴は、これまで載せていませんでした。

 葉は卵状披針形~卵状楕円形で、長さは約 2.5mm、葉先は短い透明尖になっています(上の写真)。

 上は葉先付近です。 透明尖の鋸歯にもパピラがあります。

 翼部には大形で透明、薄壁の細胞群が発達しています(上の写真)。

 葉基部の細胞は細長く、波状に肥厚し、背の高いパピラ(上の写真の下方の細胞でよく分かります)があります。

 葉の上部の細胞は方形で、各細胞に数個のパピラがあります。

2022-01-05

アオギヌゴケ

 写真はアオギヌゴケ Brachythecium populeum だと思います。 岩上を這っていました。

 上は湿らせた状態で、乾くと葉は茎や枝に寄ってきます。 茎葉も枝葉も長さは1.5~2mmです。

 上は茎葉です。 縦じわはほとんどありません。 中肋は葉先近くに達しています。 なお、枝葉の様子はこちらこちらに載せています。

 葉先は細くなっていますが、毛状とは言えないでしょう(上の写真)。

 上は葉の基部です。 翼細胞はやや分化しています。

 葉身細胞は他のアオギヌゴケ属に比べてやや幅広くて短く、長さは 30~50μmです(上の写真)。

 蒴は卵形で蓋には嘴があり、蒴柄は赤褐色です(上の写真)。 蒴柄の上部を上よりもう少し拡大すると・・・

 蒴柄の上部にはパピラがあります(上の写真)。

(2021.11.29. 東京都 御岳山ロックガーデン)

2022-01-04

オオハリガネゴケ

 

 写真はオオハリガネゴケ Bryum pseudotriquetrum でしょう。 茎の上部の葉腋には無性芽を、茎の中部以下には仮根をたくさんつけていました。

 葉の最も幅が広い所は、ハリガネゴケなどと異なり、中部(以下)です。 葉先は短く尖っています。
 中肋が赤い色をしています。 寒くなったからかと思いましたが、平凡社の図鑑では「中肋は(略)古くなると赤くなる。」とありました。

 上の写真では中肋は短く突出していますが、葉先に終わる場合もあるようです。 葉縁はほぼ全縁ですが、上の写真のように上部に少し小歯があります。 上の写真の葉身細胞の長さは約 40μmです。

 上は背面から舷にピントを合わせています。 舷が反曲しているため葉身細胞にはピントが合っていません。

 本種の無性芽と仮根は、肉眼的にはよく似ていますが、顕微鏡で観察すると、上の写真のように明瞭に異なります。 無性芽は矩形の細胞が1列につながっていて、ほぼ真っ直ぐなのに対し、仮根はくねくねと曲がっています。
 下は倍率をもう少し上げて仮根にピントを合わせています。

 仮根の太さはいろいろで、本種の仮根にはパピラがあるようです。 なお、上の写真では無性芽は右上の奥に写っているだけですが、本種の無性芽はこちらこちらにも載せています。
 それにしても、このように本種はよく無性芽をつけているのに、そのことが平凡社では全く触れられていないのはなぜなんでしょうね。

(2021.11.29. 東京都あきる野市 養沢)