2019-04-30

ジングウホウオウゴケ


 コケ観察会で、上のような小さなホウオウゴケをみつけていただき、調べたところ、ジングウホウオウゴケ Fissidens obscurirete でした。 私が見つけたのではありませんので、場所の写真はありませんが、育っていたのは薄暗い谷間の湿った斜面の土上だったとのことです。


 葉の長さは、長いもので1.4mmほどあります。 胞子体は頂生しています。 蒴柄の長さは、平凡社の図鑑では1.5~3mmとなっていますが、上の写真では4mmほどあります。長そうなものを選んだのは事実ですが・・・。


 葉は3~5対のものが多かったのですが、平凡社の図鑑では3~12対となっています。 中肋は透明、明瞭で葉先から短く突出しています。 舷は無いように見えますが・・・


 よく見ると蒴柄近くの葉の腹翼に数列の細胞からなる舷があります。 このままでは葉が重なり合っていて分かりづらいので、葉を1枚剥がして腹翼を中心に撮ったのが下です。


 剥がす時に破れてしまいましたが、腹翼に舷があることは、はっきり分かります。


 上は上翼の葉身細胞で、長さは5~8mm、多くの小さなパピラがあります。

(2019.4.21. 堺自然ふれあいの森)

2019-04-22

トウカエデ

 トウカエデ Acer buergerianum は中国南東部・台湾原産の落葉高木です。 日本へは1721年に長崎に入ったようです。 大気汚染に強く、強健で、紅葉も美しいため、暖地では街路樹や公園などによく植えられています。 葉は浅く3裂し、英語圏では trident maple と呼ばれています。
 そのトウカエデが花を咲かせていました(4月20日、富田林市 寺ヶ池公園)。


 本種は両性花と雄花が混じるのですが、上の写真はほとんどが雄花です。 オシベは8本ほどあるのですが、両性花のオシベは花弁よりやや短く、雄花ではやや超出しています。 子房には密に毛があるのですが、分果は無毛です。

2019-04-11

チヂミカヤゴケ(雄株)


 太い木の枝に着生していた上の写真のコケ、このような苔類は腹面(基物に接している側)を観察しなければ同定できません。 以下に書く観察の結果はチヂミカヤゴケの雄株のようでした。
 チヂミカヤゴケ Porella ulophylla は雌雄異株で、雌株はその名のとおりクチャクチャに縮れています(こちらこちら)。 しかし雄株はほとんど縮れません。


 上は腹面からで、腹片にピントを合わせています。 平凡社の図鑑では、チヂミカヤゴケの腹片に関しては、「雌株では舌形で,雄株では三角形,ともに稀に袋状」となっています。 上のように袋状の腹片が続くことは稀なようです。


 上は腹葉ですが、わかりにくいので、赤い線を入れてみたものを下に載せておきます。


 腹葉は茎の2倍ほどの幅で全縁、先端は外曲しています。


 上は葉身細胞です。 油体は小さな楕円体です。

(2019.3.13. 兵庫県三田市)

◎ 腹片が袋状になったチヂミカヤゴケの雄株はこちらにも載せています。


2019-04-04

蘚苔類の胞子体の足(コツリガネゴケの場合)

 蘚苔類は植物体(=配偶体)と胞子体という2種類の体を持っています。 配偶体は卵と精子による有性生殖によって子孫を作り、胞子体は胞子による無性生殖によって子孫を増やします。 多くの場合、胞子体は配偶体から栄養をもらって寄生的に生活しているため、配偶体の体の一部と誤って見られることも多いようです。 しかし核相から見ても、配偶体の体を作っている細胞の核相は単相(n)で、胞子体の体を作っている細胞の核相は複相(2n)と、異なっています。
 胞子体の体は、蒴、蒴柄、足からなっています。 蒴と蒴柄は外部から見る事ができますが、足は配偶体の体の中に埋まっているため、その存在に気付く人は多くありません。 しかし胞子体の足は大切な働きをしています。 蒴柄が伸びる時には蒴柄を支える働きをしていますし、胞子体が配偶体から栄養をもらうのは足の部分をとおしてです。


 上は昨日載せたコツリガネゴケで、配偶体の葉が集まっている中央から蒴柄が伸びています。 この蒴柄の下に足があるはずで、それを確かめるために黄色の線の所で切片をつくり、顕微鏡で見たのが下の写真です。


 黒い輪郭を持った気泡がたくさん入ってしまいましたが、中央に円形の組織があります。 これが足の組織です。

2019-04-03

コツリガネゴケ

 コツリガネゴケとヒロクチゴケはとてもよく似ています。 平凡社の図鑑のヒロクチゴケの項には「前者(=コツリガネゴケ)に非常によく似るが、・・・かろうじて区別される。」(ボールドにしたのは管理者)と書かれています。 そして、かろうじて区別できる点として、検索表などには次のような違いが書かれています。 なお、「この属は同じ種でも大きさなどに変異が大きい。」とも書かれています。

    中 肋    蒴柄の長さ  蒴の幅 胞子の径 胞子の表面
コツリガネゴケ 葉先に達する ふつう8mm以上 1.1mm以上 15-25μm 密にパビラ
ヒロクチゴケ 葉先から短く突出 ふつう8mm以下 0.9mm以下 25-30μm 密に小さな刺

 なお、余談ながら、和名もこの名前に至るまでの混乱の跡が窺えます。 ツリガネゴケ属(Physcomitrium)の中でコツリガネゴケがいちばん大きいのにもかかわらず、「小(こ)」がつき、ツリガネゴケという和名のコケは無く、釣鐘なのに蓋が取れた跡の口は上を向いて開いています。 ハリガネゴケの仲間あたりとの混同があったのかもしれません。

 閑話休題、上の表の識別ポイントに従って下の写真のコケを調べると・・・



 結論から書くと、以下の結果から、コツリガネゴケ Physcomitrium japonicum のように思います。 撮っている時には、ヒロクチゴケより蒴柄が長い印象を受けました。


 蒴柄は10mmほどありそうですし、蒴の幅も1.7mmほどありそうです。 上の写真では茎の下部は土に埋まっていて、葉は茎の上部に集まっています。 葉は胞子体に栄養を送り続け、かなり弱ってしまっているようです。
 なお、ヒョウタンゴケ科の多くは雌雄同株(異苞)です。 上の写真の右下に見えているのが雄小枝かもしれません(調べるには小さすぎました)。


 下方の葉は小さく、上に行くにしたがって大きな葉になりますが、葉の長さはそれでも4mmほどです。


 上は1枚の葉です。 中肋が葉先に達しているか葉先から短く突出しているかは微妙です。 少なくともルーペレベルでは見分けるのは難しそうです。


 葉先の部分を拡大してみました(上の写真)。 「中肋が葉先に達している」とは葉先に中肋があり、中肋の左右には葉身細胞もある状態で、「中肋が葉先から短く突出している」とは葉先の中肋の左右には葉身細胞が無い状態だと理解しているのですが、ほんとうに微妙です。 ただ、ヒロクチゴケの葉先は、中肋の左右に葉身細胞が無いことが、もっとはっきりしていたと思います。


 葉縁には2~3列の細長い細胞があり(上の写真)、舷はやや分化していると言えるでしょう。


 上は葉の先端から基部に向かって葉長の1/3ほどの所の葉身細胞です。 細胞は方形~六角形で、長さは 30~60μmほどです。


 上は葉の先端から基部に向かって葉長の2/3ほどの所の葉身細胞です。 細胞は方形で、長さは 100μm前後です。
 ちなみに平凡社の図鑑では、葉身細胞の長さは 40~70μmとなっていて、ヒロクチゴケの葉身細胞の大きさに関する記載はありません。


 上は蒴の中にあった胞子らしきもので、径は図鑑の記載にほぼ一致していますが、パピラの存在がよく分かりません。 胞子はまだ出来上がっていないはずで、写真のものが減数分裂後の細胞である確証もありません。 なお、右下隅は蒴の一部です。


 上は蒴の頸部の表面で、たくさんの気孔が見られました。

(2019.4.3. 堺市美原区平尾)