2022-10-31

ヒジキゴケ

 上は岩上のヒジキゴケ Hedwigia ciliataケギボウシゴケ Grimmia pilifera です。 適度な雨で、水による反射も無く、美しく葉を広げていました。 特にヒジキゴケは古い葉がほんのり色づいて美しかったので、1枚の葉を顕微鏡で鑑賞しました。


 葉に糸状藻類がついているのは美的には残念ですが、乾燥しだすと葉をぴったり茎にくっつけて乾燥に耐える(こちら)という本種のしくみが、糸状藻類の存在を可能にしたのだと思います。


 葉先は縁に歯がある透明尖になっています(上の写真)。

 上は葉の基部です。 中肋はありません。

 上は葉身細胞です。 長さは8~18μmで、各細胞に(1個~)2個(~数個)のパピラがあります。

(2022.10.25. 兵庫県三田市)

こちらには本種の蒴の様子などを載せています。

2022-10-30

キヌゴケ

 上は樹幹に育っていたキヌゴケ Pylaisiella brotheri です。 葉先はやや鎌状に曲がり、蒴は卵形で直立しています。

 帽を取り去って蓋の形を確認しておきました(上の写真)。 蓋には短い嘴があります。

 這う茎から長さ2~3mmの枝が羽状に出ています(上の写真)。

 茎葉は全縁で長さ約1mm、2叉して短い中肋があります。 葉身部は広卵形で、最広部は基部近くにあり、先はやや急に細くなっています(上の写真)。

 翼部は小形で方形の細胞がたくさん集まっていて、葉縁に沿って25~35細胞が並んでいます(上の写真)。

 上は葉身細胞です。

(2022.10.25. 兵庫県三田市)

こちらには蓋の取れた本種の蒴の様子や蒴糸などを観察しています。

2022-10-29

ナガスジススキゴケ

 上の写真、薄く緑色に覆われた地表の所々に赤っぽい所があります。 そこに近づいいてみると・・・

 赤っぽいのはたくさんの蒴や蒴柄の色でした。 さらに近づいて・・・


 いろいろな蒴の色が目を楽しませてくれますが、じつは蒴を含めた高さが7mmほどの、とても小さなコケで、ルーペが無いと、この美しさを鑑賞できません。
 このコケ、以前同じ場所で写真を撮り、葉の観察もしていて(こちら)、ナガスジススキゴケ Dicranella varia だと分かっていますので、今回は葉の顕微鏡観察などは行っていません。 前回は蒴歯が見える状態であったのに対し、今回は帽もついている状態ですが、色彩的には今回の方が美しいようです。

(2022.10.25. 兵庫県三田市)

2022-10-28

ヤマトツノゴケモドキ

 ヤマトツノゴケモドキ Notothylas temperata が畑の畔に点々と育っていました。 配偶体の組織(包膜)に包まれた胞子体がたくさん見えます。

 葉状体の所々には共生しているラン藻が濃い緑色の塊として見えます。

 上は葉状体の断面です。 細胞は薄壁で、葉緑体は表皮細胞には各細胞に1個ありますが、内部の細胞にはほとんどありません。 葉状体内部に細胞間隙はありません。

 上はラン藻が共生している所の断面です。

 上は共生していたラン藻です。

 胞子体のなかには、上のように成熟した胞子の黒い色が透けて見えるものもありました。 ツノゴケモドキの仲間の蒴は成熟するまで包膜に包まれています。

 上は蒴を覆っていた包膜の組織です。

 上は蒴の表皮細胞です。 1層の細胞なのですが、一部重なってしまいました。 黒い球形のものは胞子です。

 上は蒴の中にあった細胞です。 黒っぽい色をしているのが胞子で、まだ黒くなりきれていない未熟な胞子も、減数分裂が終わったばかりの細胞もあります。 透明な直方体に近い立体は弾糸ですが、ツノゴケモドキの仲間の弾糸は発達が悪く、一部の細胞壁が肥厚しますが、糸状にはなりません。

(2022.10.25. 兵庫県三田市)

◎ ヤマトツノゴケモドキはこちらにも載せています。

2022-10-27

コモチミドリゼニゴケ

 不規則に分枝しながら(①)地面に広がる上の写真のコケは・・・

 拡大すると、葉状体の縁に近い背面にたくさんの無性芽らしきものをつけています(上の写真)。
 とりあえず、葉状体の断面を観察することにしました。

 上は葉状体の断面で、片側の 1/3ほどは写っていません。 中肋部は不明瞭で、仮根は腹面中央部から出ています(②)。
 採集した状態の葉状体は柔らかすぎて、なかなかうまく切れませんでした。 上はいったん乾かしたものを切っています。
 下は上の一部の拡大です。

 葉状体の細胞は薄膜でトリゴンはありません。 これらはスジゴケ科の特徴です。

 上は本種(右上)の大きさを示すため、ホソバミズゼニゴケ(左上)やゼニゴケ(左下)と混生している様子を示した写真です。 スジゴケ科でこのように大きく、上で見てきたように①不規則に分枝し、②仮根が中央部から出ているのは Aneura(ミドリゼニゴケ属)です。 そしてこの属で無性芽をもつのはコモチミドリゼニゴケ Aneura gemmifera です。 平凡社によると、分布は関東以西となっています。


 上の2枚は無性芽です。 本種の無性芽は棍棒状です。

(2022.10.25. 兵庫県三田市)

2022-10-26

アオチカラシバ

 上は兵庫県三田市で撮った写真で、チカラシバ Pennisetum alopecuroides とアオチカラシバ P. alopecuroides f. viridescens が混生しています(2022.10.15.撮影)。 前者はは道端などでよく見る多年草ですが、後者はその品種とされていて、前者ほど多くは見られません。
大阪市立自然史博物館友の会発行の「 Nature Study 」68巻9号には博物館に収蔵されている近畿地方の両者の標本の採集地点が載せられていて、アオチカラシバを見つけたら知らせてほしい旨のことが書かれています。
 記事掲載の後、何人かからいただいた連絡では、どこも上の写真のように混生しているようです。 混生地でも中間色が無いところから、色素を作る一連の化学反応の1カ所の遺伝子の変化で色が変わるのではないかと思います。

 上はチカラシバ、下はアオチカラシバです。

 色は異なりますが、穂や小穂のつくりや大きさなどには違いは無いように思います。

2022-10-24

タカネスギゴケ

 上は昨日の再掲で、北八ヶ岳で 2022.9.4.に撮影した写真です。 今回はこのうちのタカネスギゴケ Pogonatum sphaerothecium の観察結果です。

 蒴が無い時のPogonatum(ニワスギゴケ属)とPolytrichum(スギゴケ属)を見分ける1つの方法として、前者の葉は乾くと縮れるものが多く、後者の葉は乾いてもちぢれないとされています。 上の写真は乾いた状態なのですが、本種はニワスギゴケ属であるにもかかわらず縮れていません。 また湿った状態でも、あまり広く開きません。

 葉はやや広い葉鞘部から広披針形に伸びています。 薄板は厚く、光学顕微鏡で(=透過光で)観察すると、薄板のある所は光が通らず、葉身部はほとんど真っ黒に見えています(上の写真)。
 下は上の赤い四角で囲った所の拡大です(グレースケールに変換しています)。

 縁から少し内側に入った所の細胞は、たいへん厚壁です。

 上は葉身部の断面です。 葉身部の縁は筒状に内曲し、薄板を包み込んでいるのですが、断面作成時に開いてしまいました。

 上の写真で薄板は6細胞の高さですが、平凡社では6~11細胞高となっています。 端細胞は卵形です。

◎ タカネスギゴケはこちらにも載せています。

2022-10-23

ヌマゴケ

 北八ヶ岳のとある斜面、開けた場所ですが、いろいろな蘚類が混生していました(上の写真:2022.9.4.撮影)。 今回はそのうちのヌマゴケ Pohlia longicollis (と思っているコケ)です。 他のコケに押されて生育状況は良くないようで、平凡社の記載より少し小さいのですが、たくさんの蒴をつけていました。

 平凡社では、茎は長さ1~5cm、蒴柄は長さ 1.5~2cmとなっています。

 葉は披針形で、中肋は葉先に達し、葉縁は反曲せず、上部に小歯があります(上の写真)。

 上は葉の中央部の様子です。 葉身細胞は線状六角形で、長さは 60~75μmです。

 この時期は壺と頸部との境が分かりにくくなっていますが、よく見ると上の緑の線あたりで組織が少し変化しているように見えます。 たぶんここが境だと思います。

 こちらには同じ北八ヶ岳で上より1ヵ月後に撮った、蒴糸の見える蒴をつけた本種を載せていて、蒴糸についても観察していますので、今回は蒴糸の様子は載せません。
 ただ、少し強引に蓋を外したところ、口環がきれいに観察されました。 上がその様子で、蒴の外側から撮っています。

 強引に蓋を外したためだと思いますが、口環の一部が蒴口から分離していました(上の写真)。 他の組織との重なりも無く、本種の口環のつくりがよく分かります。

2022-10-22

蒴のついたカギハイゴケ

 

 上の写真、少しタチハイゴケも混じっていますが、多くはカギハイゴケ Sanionia uncinata で、たくさんの蒴をつけ、新しい胞子体も伸び始めています(2022.9.4. 北八ヶ岳)。

 蒴柄は約3cm、平凡社では2~3cmとなっています。

 茎葉は渦巻き状で、縦皺が多く中肋が分かりにくいことなど、葉についてはこちらに載せていますので、今回は蒴を中心に載せます。 上の写真の左端には雌苞葉が写っていますが、雌苞葉はほぼまっすぐです。

 蒴は傾き非相称です。 蒴糸は外蒴歯・内蒴歯がそろっています。

 上は蒴の内側から撮っています。 高い基礎膜があります。

 上は間毛にピントを合わせて撮っています。

 上は蒴の頸部の気孔です。