2018-06-30

ヒナイトゴケ(イトスズゴケ)



 写真はヒナイトゴケ Forsstroemia japonica でしょう。 乾いている状態で、葉は茎に接しています。 蒴柄は短く、蒴は枝の間に見え隠れしています。


 一次茎は細くて這い、そこから立ち上がった二次茎は密に羽状に分枝しています。


 上は湿った状態です。 一滴の水で瞬時に上のような状態になりました。 長さの揃った枝が密に出ている様は、まさに「羽状」です。
 蒴柄の長さは2mmほどです。


 上は枝葉です。 平凡社の図鑑では枝葉の長さは 0.5~1.3mmとなっていて、上の写真のものは1mmほどの長さですから、平均的な大きさです。 中肋は葉の長さの2/3ほどの所で終わっています。


 上は葉身細胞です。中肋(右側)から葉縁(左側)までを1枚の写真に入れてみました(深度合成しています)。


 上は胞子体です。 蒴柄より長い先の尖った雌苞葉があるのですが、途中で千切れてしまっています。 蒴は卵状球形です。


 蒴歯はほぼ平滑です(上の写真)。

(2018.5.30. 青森県 蔦沼めぐり自然研究路)

◎ ヒナイトゴケはこちらにも載せています。


2018-06-29

カギヤスデゴケ


 樹幹に育つカラフトキンモウゴケを撮り(上の写真)、少し持ち帰ったところ、カギヤスデゴケが混じっていました。 上の写真の赤い円で囲った所にもカギヤスデゴケが写っていますが、気がついていないので、もちろんピントは合っていません。
 写真は青森県の紅葉で知られている蔦沼近くの標高 460m付近で撮ったものですが(2018.5.30.撮影)、カギヤスデゴケ Frullania hamatiloba の分布は、平凡社の図鑑では北海道~九州の落葉樹林帯となっています。
 カラフトキンモウゴケをほぐしてみると、思いのほか多くのカギヤスデゴケが隠れていました。


 上はカギヤスデゴケを、上段は背面から、下段は腹面から撮ったものです。


 上の写真(深度合成しています)は、中央やや左が腹葉で、右下が腹片です。 腹片の先は嘴状になっています。


 上の写真(深度合成しています)では、中央に腹葉があり、左右に嘴状になった腹片の先が写っています。 腹葉の側縁はほぼ全縁と言って良いでしょう。 腹葉の左下から右上に扇状に広がっているのは仮根束です。


 上は腹葉の形がよく分かるように深度合成したものです。 これらの腹葉の側縁は全縁に近いですが、場所によっては目立つ鋸歯のある腹葉も見られました。


 上は背片で、背縁基部に耳状の突起があります。 下は上の赤い四角で囲った部分の拡大です。


 油体は各細胞に数個で楕円体、微粒の集合です。

◎ カギヤスデゴケはこちらにも載せています。


2018-06-28

アオモリサナダゴケ?


 上の写真にはいろんなコケが写っていますが、いちばん大きな面積を占めているのはアオモリサナダゴケ Taxiphyllum aomoriense でしょう。 雨に濡れていることもありますが、光沢があります。 腐木上に育っていました。
 分布は北海道~九州ですが、東北地方でよく見られるようです。


 葉は密に重なり、扁平になっています。 枝の幅は葉を含めて 1.5~2mmです。


 上は腹面から撮っています。 葉先が急に細くなっている葉も多く、上は少し乾いてきているので、葉先は下を向いています。

 以上のような顕微鏡を使わないレベルの拡大率では、細かい違いはいろいろあるものの、ヒラハイゴケとよく似ていますので、枝の切片を作ってみました(下の写真)。


 Taxiphyllum属の茎の表皮細胞は小さく厚壁のはずですが、上の写真はそう見ていいものなのか、一部の外側の壁が薄くなっている所があるようにも見え、少し疑問が残ります。


 上は、凹んでいるために葉が折れてしまいましたが、枝葉です。 卵形~長卵形で、上の葉では葉先は急に細くなり、葉縁の上部には明瞭な歯がありますが、下のような葉先もありました。


 葉身細胞は線形です。



 上は2枚の異なる葉の翼部です。 翼部の細胞は方形~矩形で、葉縁で4~6個が縦に並んでいます。


 中肋は短く2叉しています。

(2018.5.31. 青森県十和田市)

2018-06-27

コヨウラクツツジ



 写真はコヨウラクツツジ Menziesia pentandra です。 全国の冷温帯~亜寒帯の林内や岩地に分布します。 写真のものは蔦沼のほとりに咲いていました(2018.5.30.)。

◎ コヨウラクツツジはこちらにも載せています。


2018-06-26

オシダ


 上は奥入瀬渓流で撮ったオシダを中心とした林床の様子です(2018.5.31.撮影)。
 オシダ Dryopteris crassirhizoma はブナ林域を中心に分布する夏緑性のシダです。 しかしブナ林の林床はササに覆われることが多く、オシダは、地下茎を伸ばすササの生育しにくい礫を多く含むような場所によく見られます。
 オシダの分布は、北海道から九州までの日本全国で見られますが、そもそもブナ帯の少ない西日本や四国では比較的稀になり、九州における分布は稀となります。
 奥入瀬の成立過程(こちら)から、奥入瀬は上の写真のように岩の多い環境で、地下茎を伸ばさないオシダの生育には適しているのか、あちこちで大きな株が見られました。

 奥入瀬の近くの蔦の七沼を巡る自然探求路(こちら)にも似たような環境があるのか、オシダの群落があちこちで見られました。 以下は特別保護区ではなく自由に観察できる蔦の七沼付近で撮った写真です(2018.6.1.撮影)。


 上はオシダをほぼ横から撮ったもので、葉はロート状に開いています。 葉柄は短く、葉の幅は、葉の先端から1/3ほどの所で最も広くなります。


 ソーラスは葉身の上部のみに付き、円形に近い円腎形です。 葉の裏面全体に細長い毛状の鱗片があります。 羽軸上の鱗片から中軸上の鱗片へと変化するにつれ、鱗片の幅は少しずつ広くなり、色も濃くなっていきます。


 上は中軸の下部から葉柄にかけての様子で、褐色の鱗片が密生しています。 鱗片の幅は下に行くほど(=地面に近づくほど)広くなります。


2018-06-25

オオギボウシゴケモドキ



 写真はオオギボウシゴケモドキ Anomodon giraldii でしょう。 樹幹にマット状の大きな群落を作っていました。


 樹幹を這う一次茎から出た二次茎は、中~上部で多くの枝を出し、全体が樹状になっています。


 上は乾いた状態で、葉は覆瓦状に枝に接しています。


 上は湿った状態です。 葉の長さは2mm前後のものが多いようです。


 葉は卵形で、中肋は葉先近くに達しています。 葉の先は漸尖して鋭頭、基部の両側は細く下延しています。 平凡社の図鑑の解説では、縁に少数の歯があるとありますが、何枚かの他の葉を見ても歯はみあたりませんでした。


 上は葉身細胞です。 各細胞には複数のパピラがありますが、細胞の輪郭は不明瞭にはなっていません。

(2018.6.1. 青森県 蔦沼めぐり自然研究路)

◎ オオギボウシゴケモドキはこちらにも載せています。


2018-06-24

ミヤマリュウビゴケ



 岩上に育つイワダレゴケ科のミヤマリュウビゴケ Hylocomiastrum pyrenaicum、濡れているのは雨のせいです。 分布は、平凡社の図鑑によると北海道~四国です。


 茎は不規則な羽状に分枝していますが、イワダレゴケのような階段状にはなりません。


 茎は赤褐色で、たくさんの毛葉が見られます。 茎葉は卵形で、深い縦じわがあり、葉先は急に細くなり、短く尖っています。


 上は茎葉の葉先部分で、葉縁の上半には鋭い歯があります。


 茎葉と枝葉は連続的に変化しているように思います。 上は茎葉に近い葉で、深い縦じわがあって分かりにくくなっていますが、細い中肋が写真で示した所まで伸びています。
 葉の基部の細胞は幅広く、褐色です。


 上は枝葉です。 披針形で、縦じわはほとんどありません。


 枝葉の中肋は背面上端が刺で終わっています(上の写真)。


 上は枝葉の葉の基部です。 やはり基部の細胞は幅広く、褐色です。


 上は毛葉です。 毛葉は1~2細胞列で、細く枝分かれしています。

(2018.5.31. 青森県十和田市)

◎ ミヤマリュウビゴケはこちらこちらにも載せています。


2018-06-23

ドクダミの花

Part1、2014.6.29.からの引っ越し記事です。
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 昔から十薬(じゅうやく)という名の生薬としても親しまれてきたドクダミ、あの嫌なにおいも乾燥させるとほとんど消えますし、加熱してもほとんど消えるので天ぷらにして食べたりもします。 今回はこのドクダミの花のつくりを見ていくことにします。
 種子植物の花は生殖器官としてとても大切なもので、その植物を理解するためのポイントとなります。 花の中央にメシベがあり、その周囲にオシベがあり、それらを取り囲むように花弁があり、花弁の外側にガクがある、これが花のつくりの基本で、場合によってはそのいずれかが欠ける場合もありますが、これらの位置関係は変わりません。 このことを頭において、ドクダミの花を見ましょう。

 ドクダミの花の白い4枚を花弁と思っている人もいるようです。 しかしもしこれが花弁なら、その内側にあるはずのオシベと、さらにその中心部にあるはずのメシベはどれでしょうか。
 オシベが退化した雌花やメシベが退化した雄花の可能性も考える必要がありますが、メシベがあれば花粉をどこでどのように受け取るのかを考える必要がありますし、オシベがあれば花粉が出ているはずです。


 じつはドクダミの花は小さく、たくさんの花が寄り集まっています。 上の写真の「たくさんの花のあつまり」と書いてある部分がそうです。
 一見1つの花とは思えない小さなほんとうの1つの花を「小花」と呼ぶことにします。 また「花序」とは花の付き方を言うのですが、ここでは「花の集団」の意味で使うことにします。 すると、「ドクダミは棒状の花序に小花を密生させる」と表現することができます。
 ここまで見てくると、4枚の白い花弁のようなものは、花弁では無いことが分かります。 花弁はそれぞれの花の構成要素ですが、この4枚の白い花弁のようなものはたくさんの花からなる花序の下に位置します。 この白い4枚は、“たくさんの花を包み込む”という意味で「総苞」と呼ばれています。 この総苞は、花の集団の存在場所を虫たちに教える“広告塔”としての働きをしているのでしょう。


 上は花序の一部を拡大したもので、たくさんの小花(=ほんとうの花)が集まっています。 1つの小花は、白い色をした柱頭が3つに分かれた1本のメシベと3本のオシベからなり、花弁もガクも退化しています。
 たくさんの小花がぎっしりと並んでいるので、上の写真では1つの小花が分かりにくいかもしれません。 そこで花序を横に切断し、切断面を上から見たのが下の写真です。 赤い四角で囲ったのが1つの小花です。 3本のオシベのうちの2本がメシベの左右に出ています。 メシベ基部の緑色に膨らんでいる部分は子房です。