2026-09-28

ガガブタ

 9月27日に堺植物同好会の観察会が泉北ニュータウンの栂・美木多地区で実施されました。 いろいろな植物を観察しましたが、そのうちの1種がガガブタ Nymphoides indica でした。 あちこちの池で美しく咲いていたのですが、柵がしてあり、近づけません。 採集していただいたものを間近に観察することができたのですが、ここでは Part1からの引っ越しも兼ねて、これまでに撮った写真を使い、ガガブタについてまとめなおすことにしました。 上も2023年8月31日に神戸市立森林植物園で撮った写真です。
 ガガブタは本州や九州に分布する多年生の水草です。 花は径1.5cmほどで、7月~9月頃に咲き、朝に開き夕方には水中に没する1日花です。 花弁の周囲は細かく裂けていて、いちめんに毛が生えたようになっています。
 葉はスイレンに似た少し小ぶりの浮葉で、属名の Nymphoides も「スイレン( Nymphaea )に似た」という意味です。 しかし、スイレンはスイレン科ですし、ガガブタはミツガシワ科の植物で、花も違えば全体の体制も異なります。

 上はガガブタを少し持ち上げて花柄の付け根付近を撮った写真です。 たくさんのツボミも残っています。 花はどこについているのでしょうか。
 花の基は花芽という芽です。 種子植物の芽のできるところは、茎の先端と葉の付け根の2ヶ所しかありません(前者の芽は「頂芽」、後者の芽は「腋芽」と呼ばれています)。 長い葉柄の途中に花がつくことはありません。
 つまりガガブタは、下に示すように、水面近くまで伸びる長い茎があり、その先にたくさんの花芽や短い葉柄を持つ葉をつけていると理解すべきでしょう。 そしてその花芽が順次伸び、次々と花を咲かせていきます。
 ちなみに、スイレンの茎は地下茎で、そこから水面まで長い葉柄を伸ばして葉を広げます。

 上の写真には伸びはじめた殖芽(しょくが)も写っています。 本種は茎と葉柄の境から根を出すことも可能で、例えば水位が下がった時に、ここから出た根で定着するなど、スイレンとは違った生活を可能にしています。 ガガブタは夏から秋にかけて、この根がバナナの房のように変形し、さらに肥大して太く短くなり、その根が集合して房状となった殖芽というものをつくります。 寒くなると茎や葉は枯れますが、栄養を蓄えた殖芽が水底に沈み、春になると殖芽から新しい株が育ちます。 その際、殖芽に貯めた栄養を使って水面近くまで茎を伸ばさなければならず、ガガブタは水深の深い所では育つことができません。

 上は9月27日に見たガガブタの花で、メシベが突き出し、その基部にオシベが見えます。 じつはガガブタにはメシベが長いタイプの花(長花柱花)とメシベが短いタイプの花(短花柱花)の2つのタイプの花があり(異型花柱性)、上は長花柱花です。
 長花柱花と短花柱花の違いは遺伝的に決まっているようです。 そして本種には自家不和合性があり、異なるタイプの花同士で受粉しなければ種子ができません。
 観察した池とその周辺の池のガガブタの花は全て長花柱花でした。 つまりこのあたりのガガブタは種子を作れず、殖芽によって増えたものなのでしょう。 上の写真でも、花粉はちゃんと作られているように見えるのですが、2~3枚目の写真の花の終わった後を見ても、種子ができそうな様子はありません。
 上の写真はオシベにピントを合わせていますので、メシベはボケています。 メシベにピントを合わせた写真を下に載せておきます。

 上は長花柱花のメシベの拡大です。柱頭は2裂し、縁には毛が密生していて繊細なつくりです。

 上はいちばん最初の写真の花で、短花柱花です。 5本のオシベが目立っています。 なお、このオシベは花粉を出してしまった後のようです。 そしてよく見ると、花の中央に小さなメシベがあります。

2026-09-21

ケチョウチンゴケ

 上は2026年9月12日に京都市右京区京北上弓削町にあったコケで、見慣れた姿とは少し異なるのですが、調べた結果はケチョウチンゴケ Rhizomnium tuomikoskii だろうと思います。 上の撮り方では分かりにくいのですが、まだ細い若い胞子体があちこちについています。

 本種の茎には、ふつう黒褐色の仮根が密生し、よく見られるのは葉の上にまで仮根が広がっている姿ですが(こちらやこちら)、上の横から撮った写真で見ても、茎の上部の仮根は多くありません。 胞子体をつけていることが影響しているのかとも思いましたが、最初の写真を見ても、不稔の茎でも葉の上の仮根は確認できません。


 Rhizomnium(ウチワチョウチンゴケ属)では、うちわのような広い葉が茎の上部に集まってつきますが、この葉の様子は最初の写真で分かります。 上の2枚は茎の中央につく葉です。 葉は丸みを帯びた四角形です。
 以下も上のような茎の中央につく葉についての観察結果です。

 葉先は円頭で、中肋は葉先に届いていません。

 葉先には小さな突起があり、舷は葉先にもあります。

 上は葉の中央付近の舷です。 舷は3~4列で、今回は褐色でした。


 葉身細胞は大きく、0.1㎜前後の長さがあります(上の2枚の写真)。

 上は仮根(大仮根)です。

(2026.9.12. 京都市右京区京北上弓削町 標高 500m)

◎ こちらには胞子体をつけた雌株の様子を、こちらには雄花盤をつけた雄株の様子を載せています。

2026-09-19

ナメリチョウチンゴケ

 マツタケジャゴケの隙間から伸び出していた小さなチョウチンゴケ(上の写真)、ホシガタチョウチンゴケかも、と思って調べた結果はナメリチョウチンゴケ Mnium lycopodioides のようです。

 今回は最初の写真のように不稔の茎しか見られませんでしたが、不稔の茎の葉は上の写真のように離れてついていて2列にみえます。 茎の長さは1~3cmです。
 下は上と同じ植物体の乾いた状態です。

 乾くと上の写真のように縮れます。

 葉は鋭頭で、中部(より少し下)で最も幅広くなっています(上の写真)。

 上は葉先近くを背面から撮っています。 中肋はほぼ葉先に達しています。 中肋背面に小歯は見られません。

 葉縁には2~3細胞列の舷があり、歯は双歯です(上の写真)。 平凡社の図鑑には、舷は褐色とあり、たしかにその傾向はあるのですが(こちらやこちら)、環境条件によっては褐色でない場合もあるようです。

 葉身細胞は円形~丸みを帯びた方形~六角形です(上の写真)。 細胞はほぼ等径で、上では20~23㎛です。 平凡社では12~18㎛で(不稔の茎の葉の径は)やや大きいことがあるとなっています。

 上は茎の断面で、中心束があるのは Mnium(チョウチンゴケ属)の特徴です。

(2026.9.12. 京都市右京区京北上弓削町 標高 500m)

◎ 本種は雌雄異株です。 雄株の雄花盤の様子などはこちらに、雌株の胞子体の様子などはこちらに載せています。

2026-09-16

ユミゴケ@9月

 ユミゴケ Dicranodontium denudatum の葉は落ちやすく、落ちた葉は無性生殖に使われると思われることはこちらやこちらに書いていますが、ほとんど茎だけになったようなユミゴケの群落がありました。 時期や環境によってどのように異なるのか興味あるところですが、とりあえず記録として残しておきます。

(2026.9.12. 京都市右京区京北上弓削町 標高 500m)

2026-09-08

ホソミゾゴケ?

 上は2024.8.26.に北海道の然別湖近くで撮った写真です。 岩上にあったコケ群落で、多くはタカネツボミゴケですが、以下に取り上げるのは緑の矢印のコケです。

 葉は基部から開出しています。 Marsupella(ミゾゴケ属)だろうと思い、平凡社のの検索表をたどりました。

 上は葉です。 キールが無く、裂片は鋭頭です。 平凡社の検索表では葉はほぼ左右対称か左右非対称かの分岐があるのですが、前者を選べばヤクシマミゾゴケに、後者を選べばホソミゾゴケになりそうです。 北川(1963)の図を見ても、このどちらかだと思うのですが、平凡社によると、ヤクシマミゾゴケの分布は本州(近畿地方)~九州ですし、ホソミゾゴケの分布も本州~九州で、どちらも北海道に分布しません。 この記事が今日になった最大の原因はここにあります。


 葉身細胞はトリゴンが小さく、油体は各細胞に6~8個で眼点はありません(上の2枚の写真)。 ちなみに、ヤクシマミゾゴケの油体は2~3個のようです。

 ここではホソミゾゴケ Marsupella pseudofunckii としておき、ご意見をいただきたいと思います。

【参考資料】
北川尚史:日本産 Marsupellaceae の研究.服部植物研究所報告第26号.1963.

◎ ホソミゾゴケと思われるコケはこちらにも載せています。