2025-12-04

オオチョウチンゴケモドキ?


 『ミクロの世界のコケ図鑑』作成時にp217の写真を提供いただいた北海道の泉田さんから、環境省絶滅危惧Ⅰ類のテヅカチョウチンゴケ Plagiomnium tezukae かもしれないので見てほしいと、生育環境を撮った上の写真と共に、標本が送られてきました。 生育地はやや湿った土上で、同種と思われる群落は他の同様の環境でもみつかっているとのことです。
 上の写真でも分かりますが、送られてきた標本は匍匐茎ばかりでした。 チョウチンゴケ科で匍匐茎のあるのは Plagiomnium(ツルチョウチンゴケ属)だけですので、この属に絞って検討しました。
 平凡社の検索表をたどると、たしかにテヅカチョウチンゴケに落ちそうなのですが、特に葉縁の歯の様子などから、私はオオチョウチンゴケモドキ Plagiomnium ellipticum ではないかと思います。
 本種は平凡社では和名は新称とされていて検索表にあるだけですし、野口図鑑にも記載されていません。 ネットで検索すると、和名ではほとんど情報は得られませんが、学名で検索するといろいろ出てきました。 分布地図を見ると、ヨーロッパ、カナダ、アラスカなど北半球を中心に広く分布し、日本でも北海道や本州中部(たぶん高山)で確認されているようです。

 上の写真の背景は1㎜方眼です。 上の茎の長さは約5cmですが、文献(北アメリカ産)では最長12cmほどにまでなるようです。


 葉の混み方にはかなりの違いがあります(上の2枚の写真)。 葉の大きさも条件によって変化するようです。 ネットで検索して出て来る本種(北アメリカ産)の葉の長さは (1-)2-6(-8)mm となっていますから、写真のものは少し小さめのようです。

 葉は乾くと上のように縮れてねじれます。

 葉の基部はほとんど下延していません(上の写真)。


 上の2枚は(匍匐茎の)葉ですが、最初から2枚目の写真を見ても、葉形は、楕円形、卵形、円形など、変異があります。
 平凡社の検索表では、葉先が円頭ならテヅカチョウチンゴケになり、本種へ向かうには「葉は鋭頭」を選ばなくてはなりません。 最初から2枚目の写真を見ても、円頭を選びたくなるのですが、本種を学名で検索して出てくる写真は上に近い写真ばかりです(例えばこちら)。 検索表の「鋭頭」は葉先の尖突している部分のことでしょうか?


 中肋は葉先に届くか、葉先近くに達しています(上の2枚の写真)。 ヨーロッパや北アメリカのものでは突出することも多いようです。

 上は葉先から1/3ほどの所です。明瞭な舷があります。 なお、この舷は全周で明瞭です。
 葉身細胞の多くは細長い六角形で、並び方は縦列および斜列です。 細胞の大きさは、縁近くでは明らかに小さくなっています。


 上の2枚は葉縁を撮った写真で、上は葉先から1/3ほどの所、下は葉先から2/3ほどの所です。 葉縁上部には、1~2細胞からなる鈍い歯がありますが、葉縁下部には歯は存在しません。 テヅカチョウチンゴケでは葉縁全周に2~3(~4)細胞の鋭い歯があるはずで、この違いが両種を区別する最も明瞭な特徴ではないかと思います。

 上は中央付近の葉身細胞です。 細胞壁のあちこちにくびれが見られます。 なお、最初から12枚目の写真(中肋~葉縁が写っている写真)の所にも書きましたが、葉身細胞の大きさや形にはかなりの違いがあり、細胞の長さは文献では(30-)50-65(-85)μmとなっています。

【参考文献】
いろいろなサイトを見たのですが、いちばん参考にした所を、1つだけ下に載せておきます。 Flora of North America @ efloras.org の vol.28 の 233ページです。
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=200001513

2025-12-02

ウサミヤスデゴケ

 写真はウサミヤスデゴケ Frullania usamiensis だと思います。 SJさんが2023年の8月2日に剣山の標高1750m付近の樹幹で採集された標本を、11月26日のオカモスの顕微鏡観察会で分けていただきました。 採集から2年以上経っていますが、生育時の色も黄褐色~赤褐色です。
 本州~九州の、山地帯高地から亜高山帯のおもに樹幹上に着生する大形のヤスデゴケです。

 上は腹面から深度合成しています。 腹葉は長さより幅広く、茎の6~7倍幅で、先端は円頭~凹形ですが、右下の枝の腹葉のように、時には2裂します。
 上の写真でも腹片は少し見えていますが、腹片の様子を確認するため、上の腹葉を数枚取り去って撮ったのが下の写真です(倍率は少し変えています)。 上下の写真を比較すると、上では腹片のほぼ半分が見えています。 腹葉が2裂しないものはアカヤスデゴケに似ていますが、アカヤスデゴケの腹片がこんなに見えることはありません。


 腹片は幅広い帽状で、幅が長さの2倍以上あり、嘴が発達しています(上の写真)。

 上は背片です。 背片は広楕円形、背縁基部の膨らみは小さく、全縁、円頭です。

 上は腹葉です。 腹葉は広腎臓形で、基部は膨らんでいません。

 上は背片の葉身細胞です。

 本種は雌雄異株ですが、写真の株は雌株だったようで、花被がついていました。 上は腹面から撮っていますが、背面は最初の写真に写っています。
 花被は西洋梨形で3褶、平滑です。 雌苞葉や腹苞葉は反り返って、上の写真では分かりにくいのですが、雌苞葉は背片も腹片も鋭頭、腹苞葉も深く2裂して裂片は狭三角形です。

2025-11-29

ヒメハネゴケ

 写真はヒメハネゴケ Plagiochila porelloides だと思います。 SJさんが今年の7月20日に剣山の標高1800m付近の湿岩上で採集された標本を、11月26日のオカモスの顕微鏡観察会で分けていただきました。 北海道~四国の、おもに亜高山帯以上に分布します。
 採集から少し時間が経っていますので緑色が薄くなっていますが、本来の色も淡緑色~黄緑色です。 なお、本種は平凡社では P. satoi となっています。

 上は背面から撮っています。 葉は重なり、背縁は外曲し、その基部は少し下延しています。 茎頂には花被がついています。 茎は褐色~黄褐色です。

 上は腹面から撮っています。 ハネゴケ型分枝をしていますが、分枝は多くありません。 葉の腹縁基部はほとんど下延していません。
 今回は腹葉は確認できませんでしたが、井上(1958)によると、痕跡的で糸状の腹葉がある場合もあるようです。

 葉は長さと幅がほぼ等しく、縁には小さな低い歯があります(上の写真)。 なお、この歯が長いものがあり、井上(1958)では P. satoi forma japonomontana とされています。
 ビッタはありません。

 上は葉の中部の細胞です。 小さいが顕著なトリゴンがあります。 時間が経っていますので、油体は消えています。

【参考文献】
井上 浩:日本及び台湾のハネゴケ科(Ⅰ).服部植物研究所報告第19号.1958.

2025-11-24

トサノケクサリゴケ

 写真はトサノケクサリゴケ Cololejeunea kodamae でしょう。 岩上にありました。 大きさが分かるものを一緒に写し込めば良かったのですが、とにかく小さなコケです。


 上の2枚は腹面から撮っています。 葉は重なり、斜めに開出しています。 1枚の葉の長さは 0.2~0.3mmで、背の高いパピラが目立ちます。
 背片は卵形で、先端は内曲しています。 腹片は背片の約1/2の長さです。 腹葉はありません。

 上は背面から撮っています。 背片の背面にもパピラがあります。 背片に眼点細胞は確認できません。


 上の2枚は、どちらも腹片にピントを合わせていますが、下は深度合成しています。 腹片は卵形で膨れ、第1歯は線状で2(~3)細胞からなっています。 第2歯はほとんど分かりません。
 腹片の腹面は、基部はほぼ平滑ですが、上部の細胞には大きなパピラがあります。

 上は茎頂付近で、若い葉の基部に1細胞からなるスチルスがあります。
 下は上とほぼ同じ所をピントをずらして撮っています。

 小形の苔類(=光が透過しやすい)を高倍率(=ピントの合う深度が浅い)で観察すると、まるで切片を作ったような写真が撮れます。 背片と腹片の間に位置する柄のついた球形のものは若い造卵器でしょうか。

 本種は雌雄異株で、古い花被もついていました(上の写真)。 花被は倒卵形で5稜、密にパピラがあります。

 上は無性芽です。 無性芽の作られている所は残念ながら確認できませんでしたが、文献によると背片の腹面にできるようです。 たしかに背片の背面はパピラがあり、無性芽ができそうにありません。

(2025.11.22. 大阪府貝塚市)

◎ 本種はこちらにも載せています。 また本種はナカジマヒメクサリゴケとよく似ていますが、背片の先端が内曲することや腹片の腹面にパピラがあることなどで区別できます。

【参考文献】
MASAMI MIZUTANI:NOTES ON THE LEJEUNEACEAE. 11. COLOLEJEUNEA SPINOSA AND ITS RELATED SPECIES IN JAPAN.Journ. Hattori Bot. Lab. No.60:439-450 (1986)


2025-11-20

タカサゴキリゴケ?

 上の写真の樹幹のコケ群落(2025.11.15. 貝塚市にて撮影)、ナガハシゴケやオカムラケビラゴケなどが混生していますが、群落をほぐし、左端に少し写っているナガハシゴケより少し大きな葉のコケを取りだして撮ったのが下の写真です。

 枝先が尾状に起き上がっています。 蒴が未熟で、蒴歯の特徴などは確認できず、あまり自信は無いのですが、タカサゴキリゴケ Sematophyllum subpinnatum ではないかと思います。
 蒴柄は長く平滑、蒴はほぼ相称で、少し傾いています。 蓋は、帽に覆われていてよく分かりませんが、長い嘴がありそうです。

 上は茎葉で、長さは1~1.5㎜です。 中肋は無く、翼部が分化し、葉縁は所々狭く反曲しています。

 上は葉の中央付近の葉身細胞です。 細胞の長さはかなりの違いがありますが、40~50μmのものが多いようです。 幅は6~8μmです。

 葉頂付近の細胞は菱形で、長さは葉の中央付近の細胞よりかなり短くなっています(上の写真)。


 上の2枚は翼部です。 翼細胞は主に横に並んでいます。