2025-12-19

タカオジャゴケ

 

 写真はタカオジャゴケ Conocephalum salebrosum でしょう。 福岡県の古処山で、2025.9.30.に撮影しました。

 古処山の標高700m付近から870mの山頂にかけては石灰岩の露頭が多く見られますが、その地帯の斜面には、本種の大きな群落があちこちに見られました。

 気室間の溝が浅く、葉状体の表面がのっぺりした印象を受けました。 気室孔はオオジャゴケなどに比較すると、とても小さく感じます。

 上は腹面から撮っています。 中肋上に腹鱗片の付属物が並んでいるように見えます。 この部分を拡大すると・・・

 円形の付属物のある腹鱗片が2列についています(上の写真)。

 上は腹鱗片の付属物です。

 上は中肋付近の断面です。 葉緑体を多く持つ細胞は、表皮組織のすぐ下に集中しています。

 上は気室孔です。

こちらには本種とオオジャゴケを比較できる写真を載せています。

2025-12-18

コケの観察・解説ツアーのご案内

 

 大阪市の鶴見緑地にある「咲くやこの花館」では、2026年1月17日(土)~1月18日(日)の2日間、大温室を大きなテラリウムに見立てた「咲くやリウム」が開催されます。
 内容はコケテラリウムやパルダリウムなどのワークショップや作品の販売など、さまざまですが、その実施内容の1つとして、1月17日(土)にコケの観察・解説ツアーを実施します。

 コケの観察・解説ツアーは、昨年は温室の改修のため実施せず、1昨年までは温室内だけで行っていました。 今回は土曜で混雑が予想されるため、熱帯雨林植物室の狭い通路での観察は取りやめ、温室内でのコケ観察は高山植物室のみにして、荒天でなければ外に出て咲くやこの花館の周囲のコケ植物を観察することにしました。
 実施日時は、1月17日(土)の ①10:30〜(約60分) と ②13:00〜(約60分) で、各 10名の定員で先着順とさせていただきます。 なお、①と②は同じ内容です。
 「コケの観察・解説ツアー」の案内と申し込み受付【こちら】からお願いします。
 受付は 12月17日からで、既に始まっています。 なお、上記受付は、オンラインショップの受付システムを流用しているため、おかしな表現になっています。 「送料無料でお届けします」と表示されていますが、届くものは何もありません。 申し込みは「カートに入れる」をクリックしてください。 また、「SOLD OUT」は定員に達したことを、「再入荷お知らせ」はキャンセル待ちを意味します。 受付が完了すると「商品の発送が完了いたしました!」のメールが届きますが、チケットなどの発送はありません。 当日、所定の場所にお集まりください。

◎ 「咲くやリウム」全体の内容は【こちら】をご覧ください。

2025-12-15

トゲクラマゴケモドキ?

 樹幹に育つ写真のコケ、以下の観察からは、トゲクラマゴケモドキ Porella spinulosa のように思います。 しかし採集地は福岡県にある古処山の標高650m付近(採集日は 2025.9.30.)ですが、平凡社での本種の分布は「本州(東北~近畿)のおもにブナ帯」となっていますので、タイトルには「?」をつけています。

 上は腹面から反射光で撮っています。 少し乾いて来ていますが、湿った状態でも背片の先は少し内曲していました。 幅の広い腹片が目立っています。

 上は腹面から透過光で撮っています。 腹葉は茎の 1.5~2倍幅です。 腹片や腹葉の縁は鋸歯状で、背片にもわずかですが歯があります。

 上は腹葉を取り去って撮っています。 腹片は卵形で、腹縁基部はほとんど下延していません。 キールはありません。


 上の2枚は腹葉です。 腹葉の基部は長く下延しています。 下延部まで取り出すのは難しいのですが、2枚目の写真では赤い矢印の所まで伸びています。

 上は背片です。長さは幅より少し長い程度で、平凡社では長さと幅の比は 2.5:2.0 となっています。 上にも書いたように、葉先の歯はわずかです。

 上は背片中央の葉身細胞です。

2025-12-04

オオチョウチンゴケモドキ?


 『ミクロの世界のコケ図鑑』作成時にp217の写真を提供いただいた北海道の泉田さんから、環境省絶滅危惧Ⅰ類のテヅカチョウチンゴケ Plagiomnium tezukae かもしれないので見てほしいと、生育環境を撮った上の写真と共に、標本が送られてきました。 生育地はやや湿った土上で、同種と思われる群落は他の同様の環境でもみつかっているとのことです。
 上の写真でも分かりますが、送られてきた標本は匍匐茎ばかりでした。 チョウチンゴケ科で匍匐茎のあるのは Plagiomnium(ツルチョウチンゴケ属)だけですので、この属に絞って検討しました。
 平凡社の検索表をたどると、たしかにテヅカチョウチンゴケに落ちそうなのですが、特に葉縁の歯の様子などから、私はオオチョウチンゴケモドキ Plagiomnium ellipticum ではないかと思います。
 本種は平凡社では和名は新称とされていて検索表にあるだけですし、野口図鑑にも記載されていません。 ネットで検索すると、和名ではほとんど情報は得られませんが、学名で検索するといろいろ出てきました。 分布地図を見ると、ヨーロッパ、カナダ、アラスカなど北半球を中心に広く分布し、日本でも北海道や本州中部(たぶん高山)で確認されているようです。

 上の写真の背景は1㎜方眼です。 上の茎の長さは約5cmですが、文献(北アメリカ産)では最長12cmほどにまでなるようです。


 葉の混み方にはかなりの違いがあります(上の2枚の写真)。 葉の大きさも条件によって変化するようです。 ネットで検索して出て来る本種(北アメリカ産)の葉の長さは (1-)2-6(-8)mm となっていますから、写真のものは少し小さめのようです。

 葉は乾くと上のように縮れてねじれます。

 葉の基部はほとんど下延していません(上の写真)。


 上の2枚は(匍匐茎の)葉ですが、最初から2枚目の写真を見ても、葉形は、楕円形、卵形、円形など、変異があります。
 平凡社の検索表では、葉先が円頭ならテヅカチョウチンゴケになり、本種へ向かうには「葉は鋭頭」を選ばなくてはなりません。 最初から2枚目の写真を見ても、円頭を選びたくなるのですが、本種を学名で検索して出てくる写真は上に近い写真ばかりです(例えばこちら)。 検索表の「鋭頭」は葉先の尖突している部分のことでしょうか?


 中肋は葉先に届くか、葉先近くに達しています(上の2枚の写真)。 ヨーロッパや北アメリカのものでは突出することも多いようです。

 上は葉先から1/3ほどの所です。明瞭な舷があります。 なお、この舷は全周で明瞭です。
 葉身細胞の多くは細長い六角形で、並び方は縦列および斜列です。 細胞の大きさは、縁近くでは明らかに小さくなっています。


 上の2枚は葉縁を撮った写真で、上は葉先から1/3ほどの所、下は葉先から2/3ほどの所です。 葉縁上部には、1~2細胞からなる鈍い歯がありますが、葉縁下部には歯は存在しません。 テヅカチョウチンゴケでは葉縁全周に2~3(~4)細胞の鋭い歯があるはずで、この違いが両種を区別する最も明瞭な特徴ではないかと思います。

 上は中央付近の葉身細胞です。 細胞壁のあちこちにくびれが見られます。 なお、最初から12枚目の写真(中肋~葉縁が写っている写真)の所にも書きましたが、葉身細胞の大きさや形にはかなりの違いがあり、細胞の長さは文献では(30-)50-65(-85)μmとなっています。

【参考文献】
いろいろなサイトを見たのですが、いちばん参考にした所を、1つだけ下に載せておきます。 Flora of North America @ efloras.org の vol.28 の 233ページです。
http://www.efloras.org/florataxon.aspx?flora_id=1&taxon_id=200001513

2025-12-02

ウサミヤスデゴケ

 写真はウサミヤスデゴケ Frullania usamiensis だと思います。 SJさんが2023年の8月2日に剣山の標高1750m付近の樹幹で採集された標本を、11月26日のオカモスの顕微鏡観察会で分けていただきました。 採集から2年以上経っていますが、生育時の色も黄褐色~赤褐色です。
 本州~九州の、山地帯高地から亜高山帯のおもに樹幹上に着生する大形のヤスデゴケです。

 上は腹面から深度合成しています。 腹葉は長さより幅広く、茎の6~7倍幅で、先端は円頭~凹形ですが、右下の枝の腹葉のように、時には2裂します。
 上の写真でも腹片は少し見えていますが、腹片の様子を確認するため、上の腹葉を数枚取り去って撮ったのが下の写真です(倍率は少し変えています)。 上下の写真を比較すると、上では腹片のほぼ半分が見えています。 腹葉が2裂しないものはアカヤスデゴケに似ていますが、アカヤスデゴケの腹片がこんなに見えることはありません。


 腹片は幅広い帽状で、幅が長さの2倍以上あり、嘴が発達しています(上の写真)。

 上は背片です。 背片は広楕円形、背縁基部の膨らみは小さく、全縁、円頭です。

 上は腹葉です。 腹葉は広腎臓形で、基部は膨らんでいません。

 上は背片の葉身細胞です。

 本種は雌雄異株ですが、写真の株は雌株だったようで、花被がついていました。 上は腹面から撮っていますが、背面は最初の写真に写っています。
 花被は西洋梨形で3褶、平滑です。 雌苞葉や腹苞葉は反り返って、上の写真では分かりにくいのですが、雌苞葉は背片も腹片も鋭頭、腹苞葉も深く2裂して裂片は狭三角形です。