2025-10-19

ナガエノスナゴケ


 上はナガエノスナゴケ Dilutineuron canaliculatum でしょう。 これも10月8日に千苅浄水場の岩上で育っていたコケです。 スナゴケの仲間(旧シモフリゴケ属)は分類が大きく変わり、属が細分化されています。 本種はこれまでにもこのブログに載せていますが(こちらこちら)、今回は、検索表をたどるように写真を載せ、新しい検索表で再確認してみることにしました。
 属の検索は蘚苔類研究12巻3号に載せられている出口ら(2020)の「日本産シモフリゴケ類の分類の現況」にある検索表によりました。

写真3

 上は葉身細胞です。 検索表の[ 1.パピラ(乳頭)あり]を選び、 2.に進みます。

写真4

 上は葉の基部です。 写真3と併せて検索表は[ 2.隔壁上にかぶさるように平坦な大きなこぶ状の乳頭がある;翼細胞は不明瞭,褐色~黄橙色で,決して透明にはならない]を選び、 検索表の 3.に進みます。

写真5

写真6

 上は葉と葉先です。 検索表の[ 3.葉の透明尖はないかあっても平滑ないし鋸歯状で,決して乳頭はなく,また明瞭には下延しない;(蒴に関しては略);中肋は葉頂に達せず,葉頂から離れたところで終わり,しばしばまばらに棘状に分枝する]を選び、 4.に進みます。

写真7

 上は葉の4カ所の断面を合成したもので、上から ①葉頂近く、②葉先から1/6ほどの所、③中央やや下、④基部近く の断面です(同一の葉ではありません)。 葉の上部(①や②)では中肋が存在しません。 なお、葉縁は①と②しか載せていませんが、③も④も葉縁の細胞は1層でした。
 検索表の 4.は下のようになっています。
4. 葉頂部葉身細胞は短く,等径;中肋の厚さは葉身の厚さに比べて厚く,その輪郭は明瞭,基部で幅80 μm 以上,上部で2‒3 細胞層,下部で3‒6 層,一列の大形の腹面ガイド細胞と小形の中央・背面細胞をもつ,背面側に著しく突出し,広く開いた葉の浅い溝の底に位置する;葉は舌状~広卵状披針形か披針形 . . . . チョウセンスナゴケ属Codriophorus
4. 葉頂部葉身細胞は長方形~線形(例外:D. brevisetum);中肋は薄く,葉身の厚さとあまり差がなく,その輪郭は不明瞭;基部で幅70 μm 以下,葉基部で縦襞のある葉身部の襞の間に沈生し,腹面側に突出し,背面はほぼ平坦;葉は狭披針形~披針形 . . . . . . . . . . . . . ミヤマスナゴケ属Dilutineuron

 この 4.は、葉頂の葉身細胞はほぼ等径で、すぐに長方形に移行するなど、違いがわずかで難しいのですが、断面の、特に中肋の腹面側が膨れていることに注目し、ミヤマスナゴケ属だろうと思いました。

 種の検索は、2019年の日本蘚苔類学会でいただいた出口先生の資料を使わせていただきました。 この資料では上記検索表で迷ったチョウセンスナゴケ属とミヤマスナゴケ属がまとめられた検索表が提供されています。 この2つの属はそれほど似ているということでしょうか。
 この検索表は、葉身上部の細胞が方形か長方形かで始まっています。 上に書いたように、この違いは悩ましいのですが、上で葉の断面の様子からミヤマスナゴケ属を選び、この属の
葉頂部の葉身細胞は長方形でしたので、長方形を選び、5.に進みます。
 写真5の様子から[ 5.中肋は葉の3/4-5/6に達する;葉の上部は蛇状にうねらない ]を選び、6.に進みます。
 [ 6.中肋は葉の腹側に膨れ上がる(convex);背面は平坦~しばしば溝状にくぼむ;中肋は葉の縦ひだの中に落ち込んで位置することが多い;葉の先端部はとさか状 ]を選ぶと、ナガエノスナゴケ Dilutineuron canaliculatum になります。 なお、中肋が葉の腹面に膨れ上がっていることや、中肋が葉の縦ひだの中に落ち込んでいる様子は写真7の④から分かりますし、中肋背面がしばしば溝状にくぼむことは写真7の③から分かります。 また葉の先端部がとさか状であることは、写真6で分かります。

 なお、検索表では使われなかった形質ですが、本種の葉縁基部には、壁が波打たない透明な細胞が1列につながっています。 写真4では分かりにくいので、下に載せておきます。

写真8


2025-10-15

無性芽をつけたヒメクサリゴケ

 写真はヒメクサリゴケ Cololejeunea longifolia でしょう。 10月8日のオカモス関西の観察会で、千苅浄水場の岩上に育っていました。
 ルーペで上のようなコケを見た場合、Drepanolejeunea(サンカクゴケ属)の可能性もあるのですが、顕微鏡で観察したところ腹葉は無く、Cololejeunea(ヒメクサリゴケ属)であることが分かりました。

 顕微鏡で観察すると(上の写真)、ゴミも多いのですが、円い無性芽がたくさんついています。

 上は葉についている無性芽です。 無性芽は1細胞層の円盤状で、3カ所から上下に角のような突起があるのですが、無性芽はいろんな方向を向いているので、分かりにくいですね。

 上の写真、右上の無性芽はほぼ真横から見ていますので、“角”の様子がよく分かります。

 上は葉から離れて散らばっていた無性芽です。 無性芽の直径は、上の写真では 65~95μm、平凡社では 80~150μmとなっています。


 上の2枚は葉です。 背片は長楕円形で、腹片の第1歯は2細胞からなり、第2歯も明瞭です。

 葉身細胞は薄壁で、トリゴンは小さく、中間肥厚しています(上の写真)。

◎ ヒメクサリゴケはこちらこちらにも載せています。 また、上のような無性芽は本種の仲間数種に見られるようで、こちらに載せています。

2025-10-14

メダカナガカメムシ

 上はメダカナガカメムシ Chauliops fallax です。 オカモス関西の観察会で、JR道場駅近くのクズの葉の裏にたくさんいました。 体長2~3mmの小さなカメムシで、逃げ回ってピントが合わないので、持ち帰って撮りました。
 本種はクズやダイズなどのマメ科植物から吸汁します。 この虫が増えてやっかいもののクズが減少するといいのですが、小さな虫ですので、増えても植物の成長に影響を及ぼすに至らないのでしょうか、ダイズやアズキなどの農業害虫としても、さほど重要視されていないようです。
 和名は、上の写真のように複眼が側方へ突出するところからでしょう。 日本産のメダカナガカメムシ科に分類されているのは、このメダカナガカメムシと、クワにつくオオメダカナガカメムシの2種だけです。

 下は Part1の 2013.7.1.に載せていた写真で、同日に堺自然ふれあいの森で撮りました。 交尾中で動きが鈍く、撮り易かったようです。


 なお、本種の幼虫をこちらに載せています。 上と同じ堺自然ふれあいの森で2013.9.11.に撮影しました。

 

2025-10-13

ツメレンゲ

 下は Part1の2012.11.9.を少し修正した引っ越し記事で、写真は2枚目が海南市で11月中旬に、他は全て槇尾山で11月上旬に撮影したものです。

 ツメレンゲは、ベンケイソウ科イワレンゲ属に分類される多年生の多肉植物で、関東以西の本州、四国、九州に分布します。
 多肉植物は多くの水分を組織内に貯えていて、乾燥に耐えることができます。 雨の多い日本でも、雨がしみ込まない岩上など、乾燥し易い所には、そのような多肉植物が見られます。 ツメレンゲも、他の植物がなかなか生きられない乾燥した岩場が本来の自生地です。

 上の写真のように年代を経た瓦屋根に生えているのも見かけることがありますが、このなかには、水分を多く含んだツメレンゲにより火災の延焼を防ごうと、意図的に移植されたものもあるようです。

 ツメレンゲは、他の植物がなかなか生きられない厳しい環境に生きている植物ですから、その成長はゆっくりです。 風に乗って運ばれてきた種子が発芽しても、開花までは3年ほどかかります。 この間は下のようなロゼットで過ごし、周囲に子株を形成していきます(上の写真)。
 ツメレンゲの名前は、このロゼットの様子を蓮華(れんげ)座(=仏様の台座)に見立て、また、葉の先端が尖っているのを獣の爪に見立てたものと思われます。

 花が咲くのは10月~11月です。 それまでロゼットで生活していたものの中央が伸び上がり、最初の写真のような塔状の花穂を形成します。 花は花穂の下から上へ順に咲いていきますが、花を咲かせることとその後の種子形成に貯えていた栄養分を使い果たし、開花した株は枯れてしまいます。
 1つの花は、花弁は5枚で白色、オシベは10本、メシベは5心皮からなります(上の写真)。
 ツメレンゲは、上に書いたように、乾燥という厳しい条件下でも生きられる逞しい植物ですが、ロゼットの時期に上を他の植物に覆われてしまうと光合成できなくなり、植物間の生存競争には弱い植物です。 限られた環境でしか生存できず、生長には時間がかかり、そこに人の営みによる悪影響が加わり、個体数は減少してきています。
 ツメレンゲはクロツバメシジミの主要な食草でもあります。 ツメレンゲの減少と共に、クロツバメシジミの絶滅も危惧されています。

2025-10-12

クロツバメシジミ

 上はクロツバメシジミ Tongeia fischeri でしょう。 10月8日のオカモス関西のコケ観察会で、JR道場駅~千苅浄水場間で撮影しました。
 本種は、ツバメシジミヤマトシジミなどと似ていますが、黒斑や赤斑の位置、細く短い尾状突起などで区別できます。 和名は翅表の一様な黒っぽい色に由来します。 年3~4回羽化するようで、4月~11月に見られます。
 幼虫の食餌植物はツメレンゲ・イワレンゲなどのベンケイソウ科の植物で、これらの植物の分布が局地的であるため、このチョウの分布も局地的です。 上記のコースの岸壁にはツメレンゲが多く見られます(下の写真)。

ツメレンゲ(左)とオニヤスデゴケ(右)

 クロツバメシジミは、あまり飛び回ることをしないチョウです。 遠くに行っても食餌植物が無いからかもしれません。 ですので、撮影は楽ですが、残念だったのは翅を開いてくれなかったことです。 カメラを恐れることもなく、マイペースで吸蜜するおっとりしたチョウでした。