上はナガエノスナゴケ Dilutineuron canaliculatum でしょう。 これも10月8日に千苅浄水場の岩上で育っていたコケです。 スナゴケの仲間(旧シモフリゴケ属)は分類が大きく変わり、属が細分化されています。 本種はこれまでにもこのブログに載せていますが(こちらやこちら)、今回は、検索表をたどるように写真を載せ、新しい検索表で再確認してみることにしました。
属の検索は蘚苔類研究12巻3号に載せられている出口ら(2020)の「日本産シモフリゴケ類の分類の現況」にある検索表によりました。
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写真3 |
上は葉身細胞です。 検索表の[ 1.パピラ(乳頭)あり]を選び、 2.に進みます。
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写真4 |
上は葉の基部です。 写真3と併せて検索表は[ 2.隔壁上にかぶさるように平坦な大きなこぶ状の乳頭がある;翼細胞は不明瞭,褐色~黄橙色で,決して透明にはならない]を選び、 検索表の 3.に進みます。
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写真5 |
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写真6 |
上は葉と葉先です。 検索表の[ 3.葉の透明尖はないかあっても平滑ないし鋸歯状で,決して乳頭はなく,また明瞭には下延しない;(蒴に関しては略);中肋は葉頂に達せず,葉頂から離れたところで終わり,しばしばまばらに棘状に分枝する]を選び、 4.に進みます。
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写真7 |
上は葉の4カ所の断面を合成したもので、上から ①葉頂近く、②葉先から1/6ほどの所、③中央やや下、④基部近く の断面です(同一の葉ではありません)。 葉の上部(①や②)では中肋が存在しません。 なお、葉縁は①と②しか載せていませんが、③も④も葉縁の細胞は1層でした。
検索表の 4.は下のようになっています。
4. 葉頂部葉身細胞は短く,等径;中肋の厚さは葉身の厚さに比べて厚く,その輪郭は明瞭,基部で幅80 μm 以上,上部で2‒3 細胞層,下部で3‒6 層,一列の大形の腹面ガイド細胞と小形の中央・背面細胞をもつ,背面側に著しく突出し,広く開いた葉の浅い溝の底に位置する;葉は舌状~広卵状披針形か披針形 . . . . チョウセンスナゴケ属Codriophorus
4. 葉頂部葉身細胞は長方形~線形(例外:D. brevisetum);中肋は薄く,葉身の厚さとあまり差がなく,その輪郭は不明瞭;基部で幅70 μm 以下,葉基部で縦襞のある葉身部の襞の間に沈生し,腹面側に突出し,背面はほぼ平坦;葉は狭披針形~披針形 . . . . . . . . . . . . . ミヤマスナゴケ属Dilutineuron
この 4.は、葉頂の葉身細胞はほぼ等径で、すぐに長方形に移行するなど、違いがわずかで難しいのですが、断面の、特に中肋の腹面側が膨れていることに注目し、ミヤマスナゴケ属だろうと思いました。
種の検索は、2019年の日本蘚苔類学会でいただいた出口先生の資料を使わせていただきました。 この資料では上記検索表で迷ったチョウセンスナゴケ属とミヤマスナゴケ属がまとめられた検索表が提供されています。 この2つの属はそれほど似ているということでしょうか。
この検索表は、葉身上部の細胞が方形か長方形かで始まっています。 上に書いたように、この違いは悩ましいのですが、上で葉の断面の様子からミヤマスナゴケ属を選び、この属の
葉頂部の葉身細胞は長方形でしたので、長方形を選び、5.に進みます。
写真5の様子から[ 5.中肋は葉の3/4-5/6に達する;葉の上部は蛇状にうねらない ]を選び、6.に進みます。
[ 6.中肋は葉の腹側に膨れ上がる(convex);背面は平坦~しばしば溝状にくぼむ;中肋は葉の縦ひだの中に落ち込んで位置することが多い;葉の先端部はとさか状 ]を選ぶと、ナガエノスナゴケ Dilutineuron canaliculatum になります。 なお、中肋が葉の腹面に膨れ上がっていることや、中肋が葉の縦ひだの中に落ち込んでいる様子は写真7の④から分かりますし、中肋背面がしばしば溝状にくぼむことは写真7の③から分かります。 また葉の先端部がとさか状であることは、写真6で分かります。
なお、検索表では使われなかった形質ですが、本種の葉縁基部には、壁が波打たない透明な細胞が1列につながっています。 写真4では分かりにくいので、下に載せておきます。
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写真8 |