2019-02-28

ヒメイサワゴケ

 スギの樹皮の割れ目に沿って群落を形成していた写真のコケ、ヒメイサワゴケ Syrrhopodon fimbriatulus のようです。 平凡社図鑑の種の解説には、葉の形は広披針形となっていますが、葉の幅の変異は大きいようで、お聞きしたところによると、今回の写真のものの幅が平均的なもので、もっと幅の広い株もあるとのことです。
★ 平凡社の記載に近い本種をこちらに載せています。
 よく見ると、多くの葉の葉先に無性芽がついていて、白っぽく写っています。


 上の写真では、葉の長さは1mmほどに見えますが、葉鞘部が隠れています。 平凡社の図鑑によると、葉の長さは1~3mmとなっています。


 葉の基部の中肋の左右には明瞭な網目状組織があります。 中肋は強壮で葉先に達していますが、上の写真では葉先付近は無性芽に覆われています。 なお、今回観察した葉ではパピラは低かったのですが、これも変異の内だと思っています。


 上は葉先付近の無性芽にピントを合わせて撮っています。


 葉鞘部の肩には透明な刺があります(上の写真)。

(2019.2.2. 奈良市春日野町)

2019-02-23

イクビゴケ


 イクビゴケ Diphyscium fulvifolium は、蒴(さく)が特徴的ですが、逆に蒴が無いと見逃してしまいやすいコケです。
 多くの蘚類の蒴(さく)は長い蒴柄の先についていますが、このイクビゴケの蒴は葉の間に埋もれるようについていて、長い蒴柄はみあたりません。 和名は、この様子を首が無いようにみえるイノシシの首(猪首)に由来します。(ほんとうはイノシシもキリンなどと同じ数の首の骨(=頚椎)を持っているのですが・・・。)
 イクビゴケの仲間(イクビゴケ属)は日本には5種ありますが、このように変った胞子体を持っていることなどから、イクビゴケ属のみでイクビゴケ科を構成しています。 平凡社の図鑑では、ウチワチョウジゴケクマノチョウジゴケなど一見胞子体のよく似たキセルゴケ属のコケとともにキセルゴケ科に分類されていますが、その後の研究で、キセルゴケ属とイクビゴケ属とはかなり異なっているとして、『新しい植物分類学Ⅱ』(講談社,2012)では、前者はキセルゴケ亜綱キセルゴケ目キセルゴケ科のままですが、イクビゴケの仲間はイクビゴケ亜綱イクビゴケ目イクビゴケ科に分離されています。
 蒴には基部から長い毛があるようにみえますが、じつはこれは蒴の周囲の葉の中肋です。 よく見ると、どの葉も中肋が少し飛び出ていますが、特に蒴の周囲の葉は短く、中肋だけが長く伸びています(詳しくはこちら)。


 蒴の周囲の葉では中肋だけが長く伸びていることは、上のような蒴がまだ生長していない株を見るとよく分かります。


 イクビゴケの属名 Diphyscium は「2つ」+「胃袋」という意味です。 胞子を出し終えたイクビゴケがあったので、水に浸したところ、蒴の中に水が入り、上の写真のように透けて蒴の内部が見えるようになりました。 「胃袋」はともかく、ちゃんと2重の袋になっているのがよく分かります。
 蒴の断面を作ろうとしたのですが、外の袋は意外に弾力性があって丈夫で、うまく切れませんでした。
 このイクビゴケの蒴のつくりは、以下のように胞子散布に役立っているのだと思います。 胞子は内側の袋に入っていて、内側の袋と外側の袋との間には気体が入っているのでしょう。 雨粒が当たるなどで、内部を保護する丈夫な外側の袋の1点に力が加わると、その力は袋と袋の間にある気体の中を広がり、内部の袋を周囲から押すことになり、胞子は狭い口から勢いよく吹き出て遠くにまで飛ばされるのでしょう。

◎ イクビゴケの蒴の蓋や蒴歯の様子はこちらに載せています。

2019-02-21

マルバハネゴケ(若い胞子体や造精器など)


 マルバハネゴケは雌雄異株ですが、花被をつけた雌株と雄花序をつけた雄株が混生していました(上の写真)。



 上は花被をつけた雌株の枝です。 花被は頂生しています。


 花被の長さは4mmほどです。 葉を広げるためにしばらく水に浸けておいたところ、花被内に水が入り込み、内部が透けて見えるようになりました。
 下は上の花被の部分の拡大です。



 花被の内部に、カリプトラに保護された若い胞子体が見えます(上の写真)。


 花被とカリプトラを破り、若い胞子体を裸出させました(上の写真)。


 上は雄花序のついている枝です。 雄花序の外見は、雄苞葉が規則正しく重なって見えます。(雄花序はこちらにも載せています。)
 この雄苞葉の一部を取り去ったのが下です。


 雄苞葉を取り去ると、柄のついた球形のものが出てきました。 これが造精器なのでしょう。 雄花序の先近くの造精器の方がよく発達しているようです。


 上は造精器を透過光で透かして見ています。

(2019.2.13. 神戸市・谷上から六甲山への道)

◎ マルバハネゴケの腹葉や葉身細胞の様子などはこちらに載せています。

2019-02-13

キマユホオジロ

アオジと

後姿

眉斑は黄色

オスの白い頭央線は明瞭です

 連日あちこちのブログに取り上げられている堺市のキマユホオジロのオス、私も見に行ってきました。 久しぶりの鳥撮りです。
 キマユホオジロ Emberiza chrysophrys は、シベリア中部で繁殖し、冬季は中国中部および南東部に渡り越冬します。 日本では、特に春の対馬など西日本の島嶼部を中心に観察される数少ない旅鳥です。 ところが今回は、1月19日に最初に発見されて以来、ずっと同じ場所に居続けていますから、この場所で越冬していると思われます。 これが日本で最初の越冬記録になるかもしれませんから、注目されているのも尤もです。


 ミヤマホオジロ Emberiza elegans もいました(上の写真)。

(2019.2.12. 大阪府堺市)


2019-02-12

トジクチゴケ


 写真はトジクチゴケ Weissia exerta でしょう。 ジンガサゴケに囲まれ、小さな群落が育っていました。


 上の写真の葉の長さは1~2mmあります。 群落から1本抜き取る時に古い茎が2mmほど千切れてしいまいました。


 上は手前の葉を取り除いて蒴を撮っています。 蒴柄は短く、帽には長い嘴があります。 また、上の写真をいくらよく見ても、蒴の壺と蓋の境目が分かりません。 このような蒴は閉鎖果と呼ばれていて、蓋は分化しておらず、成熟すると蒴が崩れて胞子がばらまかれます。
 上の写真はかなり乾いてきている状態で、葉は強く捲縮しています。


 上は、葉よりかなり長い雌苞葉です。 狭披針形で、中肋は短く突出し、上部3/4ほどの葉縁は狭く反曲しています。 下部の細胞は大きく、矩形で透明です。


 雌苞葉の上部の細胞は丸みを帯びた方形で、パピラがあります。


 上は胞子です。

 トジクチゴケは平凡社の図鑑でも検索表にしか記載されていません。 このコケを見つけた時には、よく知られているツチノウエノタマゴケ Weissia crispa と思い込み、当初はこの記事のタイトルもそのようにしていましたが、野口図鑑などで再検討した結果、変更します。
 両者の違いは次のようになります。
  ツチノウエノタマゴケ   トジクチゴケ  
蒴柄の長さ  0.4mm以下 0.5~1.2mm
蒴の形 球形 卵形~楕円形
蒴の位置 雌苞葉に深く沈生 雌苞葉から出る
中肋の突出部 葉縁から滑らかに続く 葉縁との境に小さな段

(2019.2.11. 堺自然ふれあいの森)

2019-02-07

チヂレゴケ ②雄小枝


 昨日載せたチヂレゴケを観察中に、上の写真のようなものをみつけました。 上の赤い楕円で囲んだ所に、小さな葉をつけた枝のようなものが見えます。
 昨日も書きましたが、チヂレゴケ属は雌雄同株(異苞)で、胞子体の基部の鞘に雄小枝をつけ、その枝の先に雄花序をつけることが知られています。 上の赤い楕円で囲んだものが雄小枝だろうと思いました。


 雄小枝らしきものは、探すと多くの株で見つかりました。 上の赤い楕円で囲んだものもそのうちの1つで、1枚目のものよりずっと短く、まだ小さな葉も左右に広げていません。
 1枚目のものは既に精子を放出してしまっている可能性もあるかと思い、造精器の確認は上のもので行うことにしました。
 下は上の写真の赤い楕円部分を残し、その周囲の葉を取り除いたところです。


 雄小枝らしきものは、胞子体の基部の鞘から出ているようです。 そして青い楕円で囲んだ所は、葉が何枚も重なっていて、内部を保護しているようです。 この葉も取り除いていくと・・・


 葉に保護されて楕円体のものがたくさん見えます。 この楕円体のもの1つずつが造精器でしょう。 下はこの造精器にピントを合わせて高倍率で撮ったものです。


(観察材料 : 2019.2.2.に奈良市春日野町で採集)

2019-02-06

チヂレゴケ ①

 平凡社の図鑑のギボウシゴケ科チヂレゴケ属の種への検索表は、次の分岐から始まります。
  ① 葉はふつう全縁。帽は深く蒴を覆い、蒴の基部に達する。
  ② 葉の上部の葉縁に鋸歯がある。帽は蒴の中ほどまで覆う。
 (①②は私がつけました。)





 石の上で育っていた上のコケは、葉は全縁ですが、帽は蒴の基部まで達しているようには見えません。 葉の特徴を重視するか、帽の特徴を重視するかですが、蒴は成熟して最大に近い大きさになり、帽は外れる寸前だと判断し、①を選択しました。
 ①に含まれる種はヒダゴケとチヂレゴケしかありません。 検索表にはそれぞれの特徴がいろいろ書かれていますが、いちばん明瞭なのは胞子の径のようで、前者の径が約 10μmであるのに対し、後者の径は約 20μmです。


 上の写真の2つ上下に並んでいる蒴は、下は蓋がついていますが、上は蓋も取れて蒴歯が見えています。 後者の蒴で蒴歯と胞子を観察したのが下の写真です。


 胞子の径は、上の写真にはスケールをつけていませんが、測定したところ、18~21μmでした。 以上の結果から、写真のコケはチヂレゴケ Ptychomitrium sinense と同定しました。
 ちなみに、蒴歯は単列で、表面は微小なパピラで覆われていますが、これらはギボウシゴケ科全体に共通な特徴です。 蒴歯は所々隣と融合したり小さな枝分かれも見られたりしますが、大きく見れば線形で、基部付近まで2裂しています。

 平凡社の図鑑にはチヂレゴケの種別の解説は記載されていないのですが、検索表には葉身細胞の長さが約 10μmと書かれてあるので、これも確認しておきます。


 葉身細胞は丸みのある方形で、長辺の長さは約 10μmです(上の写真)。 ちなみに、検索表に書かれてあるヒダゴケの葉身細胞の長さは、約7μmです。

 上の写真は高倍率で撮影していますので、被写界深度も浅くて分かりませんが、葉身細胞を観察している時に、細胞が二重に見える所があることに気付き、葉の断面を作成してみました。


 上が葉の断面で、中肋を除いて細胞は2層になっています。 野口図鑑で確認したところ、所々二層になっている図が載せられていました。 上はかなり葉の上部での断面ですので、葉の中部になると細胞が1層の所と2層の所が混じり、下部になると1層の大きな細胞になるようです。

 チヂレゴケ属は雌雄同株(異苞)で、雄花序は胞子体の基部の鞘から生じた小さな枝の先端につきます。 上記の観察中にこの雄小枝も確認できましたので、こちらに載せておきます。

(2019.2.2. 奈良市春日野町)

◎ チヂレゴケはこちらにも載せています。 また、蒴のもう少し若い状態のものはこちらに載せています。

2019-02-05

エゾヒラゴケ


 写真はエゾヒラゴケ Neckera yezoana です。 樹幹についていました。 背景が白っぽいのは樹幹を覆っている地衣類の色です。
 和名に「エゾ」とついていますが、北海道から琉球列島まで分布しています。


 上は帽をつけた蒴、下は帽が取れて蓋が見えている蒴です。


 蒴は、枝葉を含めて外見がよく似ているチャボヒラゴケより深く、雌苞葉に沈生しているようです。 雌苞葉は線状披針形で漸尖しています。


 上は葉ですが、葉面が凹んでいるため、深度合成しています。


 葉身細胞は、チャボヒラゴケよりもかなり長く、30~70μmほどの長さがあります。 上の写真で左辺中央から上辺中央に斜めに伸びているのは中肋です。

(2019.2.2. 奈良市春日野町)

2019-02-04

アラハヒツジゴケ



 写真はアラハヒツジゴケ Brachythecium brotheri だと思います。


 茎葉の長さは2mm以上ありますし、枝葉の長さも長いものでは2mm近くあります。


 上は枝葉です。 茎葉・枝葉とも、全周にわたり細かい歯があります。 中肋は葉長の2/3~3/4まで伸びています。


 上は翼部です。


 葉身細胞は線形で、長さは 80~120μmほどもあります(上の写真)。

(2019.1.25. 堺自然ふれあいの森)