平凡社の図鑑のギボウシゴケ科チヂレゴケ属の種への検索表は、次の分岐から始まります。
① 葉はふつう全縁。帽は深く蒴を覆い、蒴の基部に達する。
② 葉の上部の葉縁に鋸歯がある。帽は蒴の中ほどまで覆う。
(①②は私がつけました。)
石の上で育っていた上のコケは、葉は全縁ですが、帽は蒴の基部まで達しているようには見えません。 葉の特徴を重視するか、帽の特徴を重視するかですが、蒴は成熟して最大に近い大きさになり、帽は外れる寸前だと判断し、①を選択しました。
①に含まれる種はヒダゴケとチヂレゴケしかありません。 検索表にはそれぞれの特徴がいろいろ書かれていますが、いちばん明瞭なのは胞子の径のようで、前者の径が約 10μmであるのに対し、後者の径は約 20μmです。
上の写真の2つ上下に並んでいる蒴は、下は蓋がついていますが、上は蓋も取れて蒴歯が見えています。 後者の蒴で蒴歯と胞子を観察したのが下の写真です。
胞子の径は、上の写真にはスケールをつけていませんが、測定したところ、18~21μmでした。 以上の結果から、写真のコケは
チヂレゴケ Ptychomitrium sinense と同定しました。
ちなみに、蒴歯は単列で、表面は微小なパピラで覆われていますが、これらはギボウシゴケ科全体に共通な特徴です。 蒴歯は所々隣と融合したり小さな枝分かれも見られたりしますが、大きく見れば線形で、基部付近まで2裂しています。
平凡社の図鑑にはチヂレゴケの種別の解説は記載されていないのですが、検索表には葉身細胞の長さが約 10μmと書かれてあるので、これも確認しておきます。
葉身細胞は丸みのある方形で、長辺の長さは約 10μmです(上の写真)。 ちなみに、検索表に書かれてあるヒダゴケの葉身細胞の長さは、約7μmです。
上の写真は高倍率で撮影していますので、被写界深度も浅くて分かりませんが、葉身細胞を観察している時に、細胞が二重に見える所があることに気付き、葉の断面を作成してみました。
上が葉の断面で、中肋を除いて細胞は2層になっています。 野口図鑑で確認したところ、所々二層になっている図が載せられていました。 上はかなり葉の上部での断面ですので、葉の中部になると細胞が1層の所と2層の所が混じり、下部になると1層の大きな細胞になるようです。
チヂレゴケ属は雌雄同株(異苞)で、雄花序は胞子体の基部の鞘から生じた小さな枝の先端につきます。 上記の観察中にこの雄小枝も確認できましたので、
こちらに載せておきます。
(2019.2.2. 奈良市春日野町)
◎ チヂレゴケは
こちらにも載せています。 また、蒴のもう少し若い状態のものは
こちらに載せています。