2024-08-31

タカネシゲリゴケ


 枝にくっついていた写真のコケ、タカネシゲリゴケ Nipponolejeunea subalpina でしょう。 葉の縁に多くの長毛があります。


 上の2枚は腹面から撮っています。 茎の幅は葉を含めて 0.6~0.7㎜、背片の縁にある長毛は1細胞列で、長さは 0.2~0.3㎜です。 腹片は長さが背片の 3/4~4/5で、2歯があります。

 腹葉は茎径の2~3倍幅で、約1/3まで2裂しています(上の写真)。

 葉身細胞は薄壁で、長さは10~20μm、油体は各細胞に3~5個あります(上の写真)。

 本種は、平凡社ではクサリゴケ科になっていますが、ヒメウルシゴケ科に移されています。

(2024.8.26. 北海道 鹿追町 標高約1000m)

こちらには蒴をつけたタカネシゲリゴケを載せています。

2024-08-30

コケ観察会のご案内

 10月26日に、NHK文化センター京都教室の1日講座として、「コケの世界を訪ねる」と題して滋賀県大津市の石山寺でコケ観察会を行います。
 石山寺は紫式部ゆかりの地として知られていますが、コケの種類も量も多く、石灰岩につく珍しいコケも見られる所です。 写真も石灰岩につくタチヒラゴケです。
 コケの見分け方をはじめ、体のつくりや生活環などについて分かりやすく解説します。 ルーペを使って、ミクロの世界をじっくりと楽しみましょう。

 参加申し込みは【こちら】からお願いします。(クリックでNHKの京都教室に移ります。)

2024-08-29

冊子『顕微鏡でコケ観察』について

 コケは小さな植物で、違いを見分けるためには拡大する必要があります。 同定はルーペで可能な場合もありますが、顕微鏡が無いと同定できない場合も多くあります。
 顕微鏡は同定のためだけではありません。まだ見ぬ新しい世界が広がります。 価格的にも、コケの観察に必要な顕微鏡であれば、そんなに高価なものではありませんし、ていねいに扱えば一生使えます。 ただし倍率が高いから良くみえるとは限りませんので、その点は注意が必要です。
 この冊子は、顕微鏡を購入しようと思うが、どのような顕微鏡がいいのか分からないという人や、顕微鏡の使い方がよく分からない人などを対象に、コケ観察に限った顕微鏡の基礎を解説しています。

 冊子はA5版の18ページ(フルカラー)で、1冊500円、購入は大阪自然史センターの店頭または大阪市立自然史博物館友の会ネットショップでお願いします。

(認定NPO)大阪自然史センター
 〒546-0034 大阪市東住吉区長居公園1-23
 Tel:06-6697-6262 Fax:06-6697-6306

大阪市立自然史博物館友の会ネットショップ
 本冊子のページへ   ネットショップのメインページへ


 

2024-08-22

ベニヒダタケ

 以下はPart1の2013.9.5.からの引っ越し記事です。 


 写真はベニヒダタケ Pluteus leoninus(ウラベニガサ科)でしょう。 堺自然ふれあいの森の朽木に生えていました(2013.9.5.撮影)。
 傘の表面は平滑ですが、湿っていると周辺部に条線が見られます。

 ひだは離生し、初めは白色ですが、次第に肉色になってきます。

2024-08-21

エゾホウオウゴケ

 写真はエゾホウオウゴケ Fissidens bryoides だと思います。 中肋と舷がめだっています。 石灰岩上にありました。
 

 小形のホウオウゴケですが、平凡社によると、茎は葉を含め長さ 2.0~13.5㎜、葉は4~20対となっていて、大きさにはかなりの幅があるようです。 1枚の葉の大きさも異なり、上部の葉が大きくなっています。

 舷は全周にありますが、腹翼の舷が幅広くなっています(上の写真)。

 中肋は葉先に届き、舷と合流しています(上の写真)。 背翼の細胞は(方形~)六角形です。

 上は腹翼(左側)と上翼(右側)の境付近です。 腹翼の舷は4~7細胞列です。

(2024.7.21. 京都市大原野)

2024-08-19

アオカナブン?の構造色

 アオカナブン Rhomborrhina unicolor とカナブン R. japonica はよく似ています。 アオカナブンには上のような色の個体が多いのですが橙色の個体も見られますし、カナブンも銅色や真鍮色の個体が多いのですが,緑色の個体も見られます。 両者の違いは後脚の付け根がいちばんはっきりしていて、前者の後脚の付け根は接していますが、後者は明確に離れています。
 上の写真はアオカナブンだと思うのですが、この点を確認していませんので、「?」をつけておきますが、ここで取り上げたいのは、体の色です。
 上の写真は、フラッシュを使用せず、自然光下で撮影しました。 下は同じ個体を、フラッシュの光を使って撮影した写真です。

 この色の違いは構造色(structural color)によるものでしょう。 アオカナブンなどの体の表面は微細な構造を持った薄いキチン質の膜が何層も重なっています。 この微細な構造によって反射光が干渉し、特定の波長の色が強調されます。 自然光とフラッシュの光の違いが違う光の干渉を生じさせ、違う色が現れたのでしょう。

2024-08-17

ヤツメカミキリ


 暑い日は出かけず写真の整理など。 上は6月中旬に滋賀県大津市で撮ったカミキリで、ヤツメカミキリ Eutetrapha ocelota だろうと思うのですが、赤い楕円で囲った所の黒斑はシナカミキリのようなパターンです。 カミキリの仲間はとても種類が多く似たものもたくさんいて、個体変異も多く難しいのですが、Eutetrapha(シナカミキリ属)であることには間違いないと思います。 背面にたくさんある小さな黒い点にみえるものは、黒い剛毛です。

 カミキリムシの仲間を見分ける時には、触角の色や形も大切なポイントになるのですが、本種の触角の第3節は第4節より長くなっています。
 本種はサクラやウメなどの老木に産卵するらしく、体の色は、それらの幹に多いウメノキゴケなどの地衣類の上で保護色になると言われています。 しかし上の写真の色では、保護色になりそうもないですね。 じつは上はフラッシュの光を当てています。 自然光の下ではもうすこしウメノキゴケに似た色をしているのですが、フラッシュの強光で構造色が変化したようです。

 下はPart1の2014.6.10.から引っ越した写真で、間違いの無いヤツメカミキリです。 上の2枚目の赤い楕円で囲った所の模様と比較してみてください。


 上の2枚は5月下旬に、サクラの葉の上にいた本種を撮った写真です。


2024-08-11

ツルゴケ

 写真はツルゴケ Pilotrichopsis dentata のようです。 一次茎は石灰岩の割れ目に生えた木の根元近くをはい、二次茎は絡まるように育ち、その一部は長く垂れ下がっていました。 なお、周囲は石灰岩ですが、ツルゴケは樹上や岩上に生えるコケで、石灰岩地帯であることとは無関係のようです。

 上は垂れ下がっている二次茎を拡大した写真です。 乾いた状態では、葉は茎に密着していて、細く見えます。 枝はまばらにほぼ直角に出ています。 このような長く垂れ下がる茎やそのからの枝の様子は、本種を見分ける良い特徴になります。

 湿らせると上の写真のように彙状に開きます。

 上は枝葉で、長さは1.5~2㎜、卵形の基部から披針形に伸び、披針形の部分には鈍歯があります。 中肋は葉先近くに達しています。

 上は葉先付近です

 葉の基部の縁には小形で横長の細胞がたくさん並んでいます(上の写真)。

 葉身細胞は長い菱形~楕円形で長さ8~25μm、細胞壁は不規則に肥厚しています(上の写真)。

 上は葉の背面の細胞を斜めから撮っています。 上端に小さなパピラのある細胞が混じっています。

 上は葉を取り去って撮った偽毛葉ですが、白い矢印は毛葉のようにもみえます。

(2023.12.30. 高知県 横倉山)

◎ ツルゴケはこちらこちらにも載せています。

2024-08-06

ハスの葉の上で水が沸騰?

 ハスの葉は非常に水をはじきやすい構造になっています。 ハスの葉に降った雨は水滴となり、葉が揺れるたびにコロコロと葉の上を転げまわり、ついには葉から落ちてしまいます。
 なぜこんなに水をよくはじくのでしょうか。 1つには、雨の多い熱帯地方にも分布するハスですから、葉の表面にカビが繁殖して光合成能力が低下するのを防いでいるのかもしれません。 でも、それだけでしょうか。 こぼれないようにそっと葉の中心部に水を載せると・・・
 


 上の動画のように、すぐに水が沸騰したように飛び散ります。 もちろん暑さでほんとうに水が沸騰しているわけではありません。 なおこの現象は、若い葉で朝の方がよく見られるようです。
 植物の葉は光合成をして酸素を出しますが、地下茎やそこから出る根は、当然光合成できませんから、生きていくためには酸素が必要です。 しかし泥の中には空気があまり入って来ず、酸素が不足気味です。
 そこでハスは体の中に空気を通すスペースを作りました。 レンコンの穴です。 この穴を気体が通り、ガス交換するのですが、では、この空気の出入り口は?
 地下茎、つまりレンコンからは、葉が出ています。 この葉の葉柄の中にも、空気の通る細いパイプが数本入っています。 そして、この葉柄は、葉の中央につながっています。 ブクブクと水が沸いているように見えたのは、葉の中央の小さな孔から葉柄にある気体が上昇してきたためでしょう。
 このことを葉柄を切って確かめてみました(下の動画)。


 葉柄の中に空気を通すパイプが何本も通っているのが確認できます。 葉柄を切るとハスの組織が傷を塞ぐために白い物質を分泌しますが、この白い液体の動きで気体の流れが分かります。

 上は枯れた葉柄を乾燥させたものです。 ストローとして利用できますね。

(上はPart1に載せていた動画や写真を再構成したものです。)


2024-08-02

クマノチョウジゴケの無性芽と原糸体

 クマノチョウジゴケ Buxbaumia minakatae は配偶体が退化し、光合成は主に原糸体で行っていると考えられています。 胞子体が見られることも稀で、珍しいコケとされています。 私も2022年の3~4月に本種の胞子体を発見し(こちら)、その後数回見に行きましたが、本種を確認することはできませんでした。
 秋山・村尾(2023)は、クマノチョウジゴケの胞子体をみつけ、その原糸体を観察したところ、原糸体が無性芽を作ることを発見しました。 そして、本種の生殖活動は主にこの無性芽で行い、胞子生殖はあまり行われず、胞子体が無いと本種の存在に気付くのは困難なため、あちこちに本種の原糸体があっても気づかず、珍しいコケとされているのではないかとしています(蘚苔類研究13(1))。

 7月21日に上記の村尾さんに、京都市西京区大原野のクマノチョウジゴケを発見した朽木に案内していただきました。 水分をたっぷり含んだ柔らかくなった朽木でしたが、残念ながら胞子体は見られませんでした。 胞子体が見られるのは秋以降かもしれません。 これまでの観察によると、その朽木からは2年続けて胞子体が見られたが、周囲の同様の朽木からは全く見られないとのことでした。 ルーペで胞子体があったという朽木を観察しても、特記すべきようなものは何もありませんでしたが、表面に薄く原糸体らしきものがついている朽木表面の小片を持ち帰り、実体顕微鏡で観察したところ・・・

 球形に集まった無性芽の塊があちこちにありました(上の写真)。 これを顕微鏡で観察すると・・・

 束になって円錐形に少し盛り上がった原糸体の上に、たくさんの無性芽がついていました。
 風に乗ると遠くにまで運ばれる可能性のある胞子と異なり、本種の無性芽はそんなに高く持ち上がっていませんし、広く散布されることは無いでしょう。 周囲の朽木に見られないことは、そう考えると納得できます。

 上は朽木の繊維に絡んでいる原糸体です。