2025-04-10

マイマイツボミゴケ

 

 湿岩上でマイマイツボミゴケ Solenostoma torticalyx がたくさん胞子体をつけていました(上の写真)。 胞子体に栄養を取られたためか、時期的なものか、あまり緑色は残っていません。 なお、上の写真で混生しているのはホソエヘチマゴケだと思います。

 最初の写真では茎の上部しか見えていませんが、茎は斜上~直立しています。 花被は紡錘形でひだがあり、上部はねじれています。


 葉は茎に斜めについてゆるく重なっています。 茎は葉を含めて幅 1.5㎜以上あります。 仮根は少なく、束になって茎に沿って流下する様子は見られません。

 上は胞子体を包み込んだ花被の縦断面で、ペリギニウムが発達しています。 緑色の円内で花被と最内側の雌苞葉が分かれていて、造卵器の位置はこれより明瞭に下に位置します。


 葉は円形で、全縁、円頭です(上の2枚の写真)。 葉縁の細胞が他の細胞より厚壁になることはありません。

 上は葉身細胞です。 薄膜でトリゴンは小さく、油体は各細胞に0~3個、楕円形でブドウ房状です。

 仮根は赤紫色です(上の写真)。

 上は胞子と弾糸です。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

◎ マイマイツボミゴケはこちらにも載せています。

2025-04-09

イヌムクムクゴケ

 上はイヌムクムクゴケ Trichocoleopsis sacculata を腹面から撮っています。 いろいろな蘚苔類が混生している群落にほんの少し混じっていました。 コケ群落を持ち帰って調べている時に見つけたので、生態写真はありません。 本来はもう少し緑色をしているコケですが、他のコケに覆われていたためか、時期的なものか(たぶん両方)、緑色は枝の先端に少し残っているだけです。
 和名はムクムクゴケの仲間に似ている所からでしょうが、葉はムクムクゴケの仲間ほどには細裂していません。

 もう少し拡大してみました(上の写真)。 たくさんの小さな袋状のものが並んでいます。 同じ科のサワラゴケは第3、4番目の枝につく葉が袋状の裂片を持ちますが、本種は全ての葉に袋状になった裂片があります。


 上の2枚は葉です。 葉は不等に2裂し、背側の裂片が大きく、腹側の裂片の腹縁が内巻きして袋状になっています。 各裂片の縁には長毛があります。

 上は葉身細胞です。


 腹葉も2裂し、長毛があります(上の写真)。

(2025.4.5. 京都府南丹市美山町 標高約500m)

2025-04-03

「苔類だけのコケ展」のおしらせ

 私たち(生物学的意味の)消費者は食べないと生きていくことはできません。 生産者である植物が海から陸上に上がってきてくれたからこそ、人類も誕生できたと言えるでしょう。 その上陸した光合成できる植物にいちばん近いのがコケ植物だと言われています。 そこからいろいろな植物が進化し、それらを食べるいろいろな動物が生まれ、現在の生態系が生まれました。 まさにコケ植物は「大地の母」と言えるのではないでしょうか。
 現在地球上で見られるコケ植物は、蘚類と苔類、それにごくわずかの種数のツノゴケ類に分かれますが、よく目立つのは蘚類で、コケテラリウムなどに使われているのも多くは蘚類です。 苔類も身近な所にもたくさんの種類が生活しているのですが、小さなものが多く、比較的大きなゼニゴケの仲間以外はあまり知られていません。 しかし苔類は遺伝子的には蘚類よりも上陸した最初の植物に近いとされていて、植物の進化を知る上でも大切なコケですし、その形質の多様性は蘚類以上かもしれません。
 近年はコケ展もあちこちで開催されるようになってきましたが、展示されるコケは蘚類中心です。 そのような状況にあって、苔類だけに限ったコケ展で苔類のおもしろさを知ってもらおうと、「苔類だけのコケ展」が計画されました。 

 このコケ展は、(公財)京都市都市緑化協会主催の「春の和の花展」の一環として、2025年5月9日(金)~5月11日(日)の3日間、梅小路公園の「緑の館」で開催されます。 開催場所の梅小路公園は、JR京都駅から約1km西に位置し、市バスもありますが、山陰本線「梅小路京都西」駅で下車するとすぐ前です。
 生きた苔類を100点以上展示し、それらを顕微鏡でも観察できる機会は貴重です。 拡大写真などでの解説も充実していますし、展示のガイドツアーも行います。 コケテラリウムのような作る楽しみや観賞には向いていませんが、知れば知るほどおもしろい苔類の沼にはまってみませんか?
 なお、「緑の館」に隣接する「朱雀の庭・いのちの森」では蘚苔類の観察会も行います。 こちらもコケ植物について知る良い機会になると思いますので、ぜひお立ち寄りください。

2025-03-28

よく見られるクラマゴケモドキ属の検索表

 平凡社の図鑑では日本産クラマゴケモドキ属全15種の検索表が載せられています。 腰を据えてきちんと調べるにはこの検索表を使うべきでしょうが、初心者にはなかなか使いにくいのも事実です。 例えば、この検索表ではキールの有無から始まっていますが、キールの有無は分かりにくく、確認に光学顕微鏡が必要な場合もあります。
 クラマゴケモドキ属は、植物体の大きさや色、光沢などが種によって異なり、外観で判別できる場合も多いのですが、大きさも見慣れていれば分かりますが、初心者にとっては、2種を並べればどちらが大きいかは分かりますが、1種だけで大きいか小さいかの判断はできません。 色や光沢の違いも、経験があってはじめて分かることでしょう。
 そこで、よく見られるクラマゴケモドキ属に限り、初心者でもできるだけルーペで見当がつけられる(と思われる)検索表を作成してみました。 もちろん、クラマゴケモドキの仲間だと見当がつけられ、背片、腹片、腹葉が分かり、湿らせて観察することが前提ですが・・・。
 使ってみての感想やご意見をいただければ幸いです。


【 検索表 】

1 背片は全縁で円頭。 ・・・・・ オオクラマゴケモドキ
1 背片の先は歯または長毛があるか尖る。 ・・・・・ 2

2 背片の縁にも歯がある。石灰岩地。 ・・・・・ カハルクラマゴケモドキ
2 背片の縁はほぼ全縁。 ・・・・・ 3

3 腹片は比較的よく目立ち、全縁または先端に1~2歯がある。 ・・・・・ 4
3 腹片は比較的よく目立ち、長毛または長歯がある。 ・・・・・ 5
3 腹片は細長く、茎に接するように存在し、あまり目立たない。 ・・・・・ 7

4 腹葉は円頭で全縁。 ・・・・・ シゲリクラマゴケモドキ
4 腹葉は円頭で先端に1~2歯がある。 ・・・・・ サンカククラマゴケモドキ
4 腹葉は切頭で歯がある。背片の先は長く漸尖する。 ・・・・・ ヒメクラマゴケモドキ

5 背片の先はほとんど曲がらない。背片の先にも腹片にも腹葉にも長毛がある。
   ・・・・・ クラマゴケモドキ
5 背片の先は内曲する。背片の先にも腹片にも腹葉にも歯がある。 ・・・・・ 6

6 腹葉は基部が最大幅、ブナ帯以下。 ・・・・・ ニスビキカヤゴケ
6 腹葉は中ほどが最大幅、ブナ帯以上。 ・・・・・ ケクラマゴケモドキ

7 背片と腹片の接続部(キール)はごく短い。 ・・・・・ ヤマトクラマゴケモドキ
 (本州の埼玉県以西と四国の石灰岩地にはよく似たタカキクラマゴケモドキがある)
7 背片と腹片の接続部(キール)は明瞭。 ・・・・・ トサクラマゴケモドキ


2025-03-27

ホソウリゴケ

 場所からも雰囲気からもホソウリゴケ Brachymenium exile だと思った写真のコケ、これまで蒴は観察したことが無く、古い蒴がついていたので持ち帰って調べました。 育っていたのは街の道路の隅です。


 上の2枚は乾いた状態で、乾くと葉は縮れず、茎に接着します。
 平凡社などでは、ホソウリゴケの茎の長さは5㎜以下となっていますが、上の2枚の写真では1cm前後の高さがあります。 これはホソウリゴケではないのでは? と心配になってコケサロンで聞いたところ、「5㎜以下」というのは緑色をした元気な所の高さだろうということでした。 たしかに上の写真の白い線を引いた所でとても切れやすくなっていて、線以下の所は色も少し異なり、前年の(枯れた?)部分のようです。

 上は葉で、長さは平凡社では 0.6~1㎜となっています。 中肋は葉先から短く突出します。

 葉身細胞は狭菱形~狭六角形、 葉縁の細胞は細長くなっていますが、舷と呼べるほどではありません(上の写真)。

 仮根の表面には、多くの細かいパピラがあります(上の写真)。

 最初の写真でもよく見ると、あちこちの葉腋に無性芽がついているのが写っていますが、いろいろ観察していると、無性芽がポロポロ落ちます。 それを集めて撮ったのが上の写真です。

 最初の写真にも写っていますが、上のような若い胞子体もありました。 時期的に、まだ造卵器も見られるのではないかと思い、探してみたところ、やはりありました。

 造卵器は上の白い円で囲った膨らみの中にありました。

 上は苞葉を取り除いて撮った雌器で、造卵器と側糸が写っています。

 本種は雌雄異株です。 ですから卵細胞と精子が出会いにくく、胞子体があまり作られないのでしょう。 しかし、この群落では胞子体ができています。 雄株も混じっているのではないかと探したところ、造精器もみつけることができました。

 上の茎頂の膨らみが造精器の入っていた所です。

 上のバナナのようなものがが造精器です。 もっとたくさんあったのですが、葉を取り去る過程で外れてしまいました。

(2025.3.8. 滋賀県野洲市 市街地の道路の端)

◎ ホソウリゴケはこちらこちらにも載せています。

2025-03-26

マイマイツボミゴケ

 マイマイツボミゴケ Solenostoma torticalyx だというタイ類(上の写真)をいただきました。 同定にポイントとなる花被は無く、油体も消えてしまっていて、私には同定を信じるしかありませんが・・・。 なお、上のスケールの最小目盛は 0.1㎜です。
 

 葉は円頭で、幅が長さと同じかより広い葉が多いようです。 仮根は束にならず、茎に沿って流下していません。

 上は葉身細胞で、小さなトリゴンがあります。 本種ならブドウ房状の油体があるはずですが、採集から時間が経っているためか、消えてしまっています。

 仮根は赤紫色で、茎の腹面からまばらに出ています。

2025-03-24

ヤナギハムシ

 昨日(2025.3.24.)、コケの上を歩くヤナギハムシ Chrysomela vigintipunctata を見ました(上の写真:大阪府交野市で撮影)。 和名は「ヤナギ類の葉を食べる虫」の意味です。 ヤナギの葉も開いていない時期ですので、成虫越冬から目覚めて歩き出し、これからヤナギの枝に産卵するのでしょう。 そのことの確認を兼ねて、過去に撮った本種の写真を拾い出してみました。

 上は4月20日(2013年)に撮った本種の幼虫で、ヤナギの葉をたべています。

 上は5月25日(2012年)に撮った新成虫です。 1枚目の写真と比較すると、上翅が黄色っぽいですが、本種の未成熟個体の上翅は黄色く、次第に朱赤色に変化します。 なお、黒い斑紋の大きさには変異があり、極端な場合には消失する場合もあるようです。

2025-03-18

アツブサゴケモドキ

 写真はアツブサゴケモドキ Palamocladium leskeoides でしょう。垂直に近い岩から垂れ下がっていました。

 上は乾いた状態で、下は同じ枝の湿った状態です。 湿ると枝の曲がりは伸びますが、葉の開き方はほとんど変化しません。

 葉は密生していて、茎はほとんど見えません。


 上の2枚の写真は葉です(茎葉と枝葉でほとんど違いはありません)。 葉は長さ 1.5~2㎜、三角状披針形で、深い縦じわがあります

 上は葉先です。 中肋は葉先近くに達しているのですが、葉先近くではやや不明瞭です。

 翼部には短い細胞が集まり、暗くみえます(上の写真)。 葉縁には全周に細かい歯があります。

 葉身細胞は長楕円形~線形でやや厚壁、長さは 30~50μmです(上の写真)。

(2025.2.12. 西宮名塩~武田尾の廃線敷)

◎ アツブサゴケモドキはこちらにも載せています。 またこちらには胞子体をつけた本種を載せています。

2025-03-16

顕微鏡の光源にCOBライトを使ってみました

 私の使っている顕微鏡はかなり古いもので、光源はハロゲンランプです。 ハロゲンランプは電球の一種ですから、熱は出るし寿命も短いので、LEDに変えたいと思っています。 しかし顕微鏡の光源を変換するためのLED光源は、需要が限られていることもあって、かなり高価です。 下にLEDライトを置くことも考えましたが、うまく置けるようなものは見つけられません。 そのうちに自作でもしようかと思いながらハロゲンランプを使い続けています。 が・・・ 

 ダイソーで上のような COB LED を使ったライトをみつけました。 写真右下がライト、左が入っていた箱で、大きさが分かるように右上に10円硬貨を置きました。 値段は消費税込みで330円、顕微鏡の光源に使えるかもしれないと、購入して確かめることにしました。
 COBとは Chip On Board の頭文字で、基板(ボード)の上に多くの LEDチップを直接並べた構造を意味します。 上の写真のものでは6×5個のLEDチップが並んでいました。
 上のライトは充電式ですのでとても薄く、顕微鏡光源の位置に簡単に置けます。 一般に、COB LED は発光面が広く広範囲を照らすことができる反面、遠距離への照射には不向きとされていますが、顕微鏡の光源からレンズまでの距離なら問題ありません。 明るさも、もう少し明るい方が良いのですが、40×10でも、どうにか使えます。



 上は、いつもと同じように明るさやコントラストなどの補正をしていますが、ハロゲンランプに代えて上記のCOBライトを光源にして撮ったツクシナギゴケモドキ(2025.3.8.採集)の葉とその細胞の写真です。 同じ顕微鏡で撮ったハロゲンランプを使ったこちらの写真と比較しても、見劣りしません。
 ただ、330円で理想的な顕微鏡光源が入手できるなら話がうますぎます。 この文は、私のように光源が LEDでない顕微鏡や、反射鏡だけで光源の無い顕微鏡を使っている人の参考になればと思って書いていますが、顕微鏡光源として使うには、いろいろと欠点もあります。 以下、私が感じた欠点を箇条書きにしました。

  1. 上にも書いたように、私の顕微鏡は LEDが無かった時代の古い顕微鏡ですが、当時の顕微鏡としては高級品で、絞りなどは細かい調整が可能です。 上の写真も対物レンズによって絞りの上下の位置を大きく変えて撮っていますが、この調整が面倒です。 また、絞りの位置を上下に移動できない顕微鏡ではどのように写るのか、分かりません。
  2. LEDが奥にあるのではなく表面に出ていますから、横から見ても眩しいのが困ります。 製品の注意書きにも「人の目に照らしたり、向けたりしない。人の目に障害を与えるおそれがあります。」と書かれています。
  3. 顕微鏡を覗いている時は問題ないのですが、カメラで撮ろうとすると、人の目より明暗の変化を敏感にとらえることができるのか、カメラモニター上ではちらつきます。 写真にするとちらつきの縞は写らないと思いますが、これもシャッター速度やカメラの種類によっては違いがあるかもしれません。
  4. DC5V、0.7A以下で充電する必要があります。 スマホの充電器では電流が強すぎます。 オリンパスのTGシリーズの充電器は使えますが、Type-Cケーブルを準備する必要があります。 これらが無い場合は充電器を別途購入する必要があります。
  5. 内臓バッテリーは小さく、点灯時間は通常の使用で1時間半です。 ブースター機能が内蔵されていて、さらに強く光らせることもできますが、この場合の点灯時間は1時間です。 点灯しながらの充電はできない仕様のようですので、長時間の顕微鏡観察には数個準備しておく必要があります(といっても、3個購入しても 1,000円未満ですけどね)。

 以上、ダイソーで330円で購入できるCOBライトが顕微鏡の光源として使用できるかを検証したレポートでした。 このライトは、裏面に立てるための脚もついていますし、磁石もついていますので、スチール製の何かにくっつけて使うこともできます。 また、三脚用の穴もありますので、ミニ三脚につけて使うこともできますし、カラビナもついています。 工夫次第でいろいろな使い方ができそうです。

2025-03-14

マルグンバイ


 写真はマルグンバイ Acalypta sauteri です。 コケ群落を調べていてみつけました。 体長は約2㎜です。
 グンバイムシ科の昆虫はふつう軍配のような形の体なのですが、マルグンバイ属はグンバイムシ科の中では珍しく、あまり軍配形ではありません。
 私が昔昆虫に熱心だった頃、グンバイムシの写真もたくさん撮っていたのですが、本種も見てみたい種の1つでした。 その頃はマルグンバイ属は3種が知られていたのですが、この文を書くのに調べてみたところ、相馬純(2025)(下記参考資料)ではマルグンバイ属は9種になっていました。
 

 マルグンバイ属でよく見られる種に、本種とミヤモトマルグンバイがあるのですが、本種では翅の縁の膜質部が1列であるのに対し、ミヤモトでは2列になっている部分があります。 いずれも湿ったコケ群落にいるのですが、上記の9種は、いずれもコケ群落にいるのでしょうか。
 グンバイムシの多くは特定の植物に依存しています。 本種も特定のコケに依存しているのか興味あるところですが、今回いたのは多種のコケが混生している所でした。 また、活動が低下している時期ですから、群落に潜り込んで越冬していたのなら、吸汁しているコケから離れていた可能性もあります。

 上は腹面から撮っています。 針状の口器が見えますが、これをコケに刺して吸汁するのでしょう。

(2025.3.8. 滋賀県野洲市)

【参考資料】
相馬 純,2025:日本産グンバイムシ科標本写真集
https://sites.google.com/view/junsouma/japanese-tingidae