2025-07-13

チャボマツバウロコゴケの花被など

 上は岩上に育つコケ群落で、マルバコオイゴケやコウヤケビラゴケなどに混じってチャボマツバウロコゴケ Blepharostoma minus がありました。

 葉や腹葉についてはこちらこちらに載せていますので、今回は省きますが・・・

 あちこちに花被がついていました(上の写真)。 花被は茎に頂生し、円筒形で、口部は広く繊毛があります(平凡社の図鑑より)。
 「繊毛」と聞くとゾウリムシなどの波打つ細い毛の集まりを想像してしまいますが、「繊」は「細い」という意味の漢字ですから、それでいいのでしょうね。
 ところで、本種の属名の Blepharostoma はギリシャ語の Blepharis(まつ毛)+stoma(口)で、これもこの花被の様子に由来しているのでしょう。 ちなみに、種小名の minus は「より小さい」という意味です。


 上の2枚は花被の口部の拡大です。

 上の写真の中央から右上にかけて球形のものがいくつかありますが、これは造精器だと思います。 造精器がむき出しのようにも見えますが、造精器を包む苞葉も深裂しているので、このように見えるのだと思います。

(2025.6.1. 京都市右京区 標高500m付近)

2025-07-10

トウヨウネジクチゴケ

 写真はトウヨウネジクチゴケ Barbula indica だと思います。 法面の濡れた窪みにありました。 上は湿った状態、下は乾いた状態です。

 乾くと葉はキールして凹み、ねじれて茎に寄ります。

 葉は披針形で、基部は多くのセンボンゴケ科と同様、透明な細胞からなっています(上の写真)。 上の写真では、この透明細胞群が葉縁に沿ってせり上がっているようにも見えますが、多くの葉を見ると、そのようではありません。(上の葉を載せたのは、基部までいちばんよく残っていたからです。)
 葉縁は上部で平坦、下部で狭く反曲しています。

 上は葉先で、中肋は少し突出しています。

 中肋背面の表皮細胞は細胞の上下の両端(=前後の細胞のつなぎ目)に大きなこぶ状のパピラがあります(上の写真)。

 中肋腹面の表皮細胞も厚壁で丸みを帯びた長方形です(上の写真)。

 上~中部の葉身細胞は方形ですが、細胞の輪郭は不明瞭で、C字形のパピラがあります(上の写真)。 上は葉の背面ですが・・・

 上は葉の中部の断面です。 パピラは背腹両面に同じようにあります。

 上は葉の中部の中肋付近の断面です。 中肋は強く竜骨状となり背面に突き出ています。 ステライドは背腹両面にあります。 中肋の背面にも腹面にもパピラがあります。

 葉の下部の細胞は矩形で透明です(上の写真)。

 上は葉の下部の断面です。 パピラは無く、葉縁は狭く反曲しています。

 上は無性芽です。 葉腋についているはずですが、全部落ちてしまっていました。


 上の2枚は茎の断面です。 表皮細胞は分化せず、中心束があります。

(2025.6.29. 貝塚市 秋山川遊歩道)

◎ トウヨウネジクチゴケはこちらにも載せていますし、こちらには蒴をつけた姿を載せています。

2025-07-03

ミヤマスナゴケ


 写真はミヤマスナゴケ Dilutineuron fasciculare だと思います。 岩上に大きな群落を作っていました。

 上の最小目盛は1㎜です。 生育している様子から受けた印象より長く伸びていて、何年も伸び続けているようです。 伸びながら古い分枝は切り離されるのか、分枝は茎の上部で見られます。 種小名の fasciculus はラテン語の「小束」に由来しますが、上のような茎が集まった群落の様子を表しているのではないでしょうか。

 上の写真で、葉の長さは約2㎜、中肋は弱く(下の葉の断面でも分かります)、上の倍率では少し分かりにくいのですが、葉先近くにまで延びてきています。 蒴柄の長さは約 2.5㎜です。
 属名 Dilutineuron は、ラテン語の Diluti-(希薄な)とギリシャ語由来の -neuron(糸状の構造)からなっています。 私はこの属名は中肋の様子に由来すると思っているのですが、どうでしょうか。

 上は葉の断面です。 中肋は2細胞層で、背面に突出し、腹面は平坦です。

 葉先の細胞はパピラも無く、細長くなっていますが、透明尖はありません(上の写真)。 また、葉先近くから葉の基部に至るまで、細胞は長方形です。

 上は葉身細胞、下はその横断面です。

 葉身細胞には縦壁上にかぶさるように平坦な大きなこぶ状のパピラがあります。


 翼部の様子は葉によって少し異なりますが、有色で、無色になることはありません(上の2枚の写真)。


 蒴歯は短列で、表面は微小なパピラで覆われ、少なくとも中ほどまでやや対になって裂けています(上の2枚の写真)。

(2025.6.1. 京都市右京区 標高500m付近)

2025-07-01

ヤマモモ


 上はヤマモモ  Morella rubra の果実で、果実の重みで枝が垂れ下がっています。 2025.6.29.に貝塚市にある大阪府立少年自然の家での撮影ですが、ここではたくさん自生している木が見られ、地面に落ちてしまった果実もたくさんありました。
 本種は関東以南に自生する常緑樹です。 放線菌の一種であるフランキア菌によって根粒を形成していますので、やせ地でも育つことができます。

 本種は雌雄異株で、4月に花を咲かせます。 上は雌花序で、1つの花序にたくさんの雌花がついていますが、そのうち果実として残るのは1(~3)個です。

 上は雄花序で、1つの雄花に5~8本のオシベがあります。

2025-06-30

タカネヤバネゴケ

 写真はタカネヤバネゴケ Fuscocephaloziopsis leucantha だと思います。 前に載せたナンジャモンジャゴケに混生していました。
 葉は横に近い斜めにつき、葉の幅は茎径とほぼ同じです。

 上は腹面を撮っています。 分枝は腹面からもしています。 腹葉はありません

 葉は幅が約 0.15㎜、1/2~1/3までV字形に2裂しています(上の写真)。 背側の裂片は小さく、欠くこともあるようです。 葉身細胞はやや厚壁で、トリゴンや油体はありません。

◎ タカネヤバネゴケはこちらにも載せています。

2025-06-28

ナンジャモンジャゴケ

 岡山コケの会関西支部では毎月第4火曜日に顕微鏡観察会を行っていますが、6月の観察会にと長野県のKさんからいろいろなコケを送っていただきました。 上はそのうちの1種で、ナンジャモンジャゴケです。

 上は葉の横断面です。 蘚類でも苔類でも葉には背面と腹面があるのですが、本種ではその区別がつきません。 現在では本種は蘚類の中で最も早く枝分かれしたグループとされていますが、そのことと関係しているのでしょうか。


 上の2枚は茎にあった粘液細胞です。 本種が発見された当初、蘚類か苔類かなのかも不明でしたが、苔類とする意見の方が多かったようです。 苔類とする根拠の1つが上の粘液細胞で、このような粘液細胞は苔類に見られますが、蘚類には見られません。
◎ 本種の粘液細胞はこちらにも載せています。

 上は茎の断面です。 葉とは異なり、茎は中実です。

こちらこちらには本種の自生している様子などを載せています。

2025-06-27

マルバコオイゴケモドキ

 上はマルバコオイゴケモドキDiplophyllum andrewsii で、大阪市立自然史博物館に収蔵されていた標本です。 先日載せたイボヒシャクゴケとマルバコオイゴケとを比較検討するにあたり、この標本も参考にしました。 以下はこの標本の観察結果です。

 腹片は長舌形でやや曲がり円頭、背片は腹片の1/2~3/4長です(上の写真)。 葉縁の鋸歯はほとんど目立ちません。

 上は腹片の葉先付近、下は背片の葉先付近です。

 葉身細胞はやや厚壁でトリゴンは不明瞭です。 マルバコオイゴケで問題になったいぼ状ベルカは確認できませんでした。

2025-06-26

イボヒシャクゴケ

 先日、マルバコオイゴケに似たコケを、著しいいぼ状パピラがあることなどから、イボヒシャクゴケ Scapania verrucosa ではないかと思い、こちらに載せましたが、先日大阪市立自然史博物館に収蔵されているイボヒシャクゴケの標本を見る機会があり、比較検討の結果、両者は全くの別種であることが分かりました。 なお、このイボヒシャクゴケの標本は、狩野・佐治(2016)により蘚苔類研究11(7)に報告されたもので、山田耕作博士により同定確認されています。
 以下はこのイボヒシャクゴケの標本の観察結果です。

 葉を含めた茎の幅は約2㎜で、マルバコオイゴケの約2倍の幅があります。腹片は腹方に反り返り気味です。 キールの長さは腹片の長さの1/3~1/4で、腹片の基部はキールより下に下延しています。

 腹片も背片もほぼ全周に長い歯があります。

 上は腹片の先端付近です。 下は上とほぼ同じ場所で倍率を上げて少し焦点をずらして撮った写真です。

 細胞表面には著しいいぼ状ベルカが見られます(上の写真)。 このベルカ、細胞表面にも細胞間の隔壁の表面にも同様に存在することからベルカ(verruca)と言わざるを得ないのでしょうが、よく見られるベルカよりは、はるかに大きなものです。 またこのようないぼ状ベルカの存在は、平凡社の図鑑を見るかぎりはイボヒシャクゴケの大きな特徴で、そのことが和名の由来にもなっているようですが、注意深く観察すれば、他のいろいろなヒシャクゴケ科でも見ることができそうです(2025年6月現在ではノコギリコオイゴケとマルバコオイゴケで確認しています)。

 背片も腹片から切り離して観察しました。 上は背片の背縁です。 背片はほぼ全周で透明な細胞に縁どられ、歯は腹片の歯より少し短めです。
 観察したのは、大切な標本ですので葉1枚だけの観察ですが、上の写真の葉では、背片におけるいぼ状ベルカは、葉先近くではあまり見られず、基部付近に多く見られました。

 上は腹片中央付近の、背片を取り除いた所を撮った写真です。 いぼ状ベルカは腹片全体にほぼ均一に見られました。
 上の写真には無性芽も写っています。 腹片と背片の間に挟まって残っていたようです。 無性芽は2細胞からなっています。