2025-12-02

ウサミヤスデゴケ

 写真はウサミヤスデゴケ Frullania usamiensis だと思います。 SJさんが2023年の8月2日に剣山の標高1750m付近の樹幹で採集された標本を、11月26日のオカモスの顕微鏡観察会で分けていただきました。 採集から2年以上経っていますが、生育時の色も黄褐色~赤褐色です。
 本州~九州の、山地帯高地から亜高山帯のおもに樹幹上に着生する大形のヤスデゴケです。

 上は腹面から深度合成しています。 腹葉は長さより幅広く、茎の6~7倍幅で、先端は円頭~凹形ですが、右下の枝の腹葉のように、時には2裂します。
 上の写真でも腹片は少し見えていますが、腹片の様子を確認するため、上の腹葉を数枚取り去って撮ったのが下の写真です(倍率は少し変えています)。 上下の写真を比較すると、上では腹片のほぼ半分が見えています。 腹葉が2裂しないものはアカヤスデゴケに似ていますが、アカヤスデゴケの腹片がこんなに見えることはありません。


 腹片は幅広い帽状で、幅が長さの2倍以上あり、嘴が発達しています(上の写真)。

 上は背片です。 背片は広楕円形、背縁基部の膨らみは小さく、全縁、円頭です。

 上は腹葉です。 腹葉は広腎臓形で、基部は膨らんでいません。

 上は背片の葉身細胞です。

 本種は雌雄異株ですが、写真の株は雌株だったようで、花被がついていました。 上は腹面から撮っていますが、背面は最初の写真に写っています。
 花被は西洋梨形で3褶、平滑です。 雌苞葉や腹苞葉は反り返って、上の写真では分かりにくいのですが、雌苞葉は背片も腹片も鋭頭、腹苞葉も深く2裂して裂片は狭三角形です。

2025-11-29

ヒメハネゴケ

 写真はヒメハネゴケ Plagiochila porelloides だと思います。 SJさんが今年の7月20日に剣山の標高1800m付近の湿岩上で採集された標本を、11月26日のオカモスの顕微鏡観察会で分けていただきました。 北海道~四国の、おもに亜高山帯以上に分布します。
 採集から少し時間が経っていますので緑色が薄くなっていますが、本来の色も淡緑色~黄緑色です。 なお、本種は平凡社では P. satoi となっています。

 上は背面から撮っています。 葉は重なり、背縁は外曲し、その基部は少し下延しています。 茎頂には花被がついています。 茎は褐色~黄褐色です。

 上は腹面から撮っています。 ハネゴケ型分枝をしていますが、分枝は多くありません。 葉の腹縁基部はほとんど下延していません。
 今回は腹葉は確認できませんでしたが、井上(1958)によると、痕跡的で糸状の腹葉がある場合もあるようです。

 葉は長さと幅がほぼ等しく、縁には小さな低い歯があります(上の写真)。 なお、この歯が長いものがあり、井上(1958)では P. satoi forma japonomontana とされています。
 ビッタはありません。

 上は葉の中部の細胞です。 小さいが顕著なトリゴンがあります。 時間が経っていますので、油体は消えています。

【参考文献】
井上 浩:日本及び台湾のハネゴケ科(Ⅰ).服部植物研究所報告第19号.1958.

2025-11-24

トサノケクサリゴケ

 写真はトサノケクサリゴケ Cololejeunea kodamae でしょう。 岩上にありました。 大きさが分かるものを一緒に写し込めば良かったのですが、とにかく小さなコケです。


 上の2枚は腹面から撮っています。 葉は重なり、斜めに開出しています。 1枚の葉の長さは 0.2~0.3mmで、背の高いパピラが目立ちます。
 背片は卵形で、先端は内曲しています。 腹片は背片の約1/2の長さです。 腹葉はありません。

 上は背面から撮っています。 背片の背面にもパピラがあります。 背片に眼点細胞は確認できません。


 上の2枚は、どちらも腹片にピントを合わせていますが、下は深度合成しています。 腹片は卵形で膨れ、第1歯は線状で2(~3)細胞からなっています。 第2歯はほとんど分かりません。
 腹片の腹面は、基部はほぼ平滑ですが、上部の細胞には大きなパピラがあります。

 上は茎頂付近で、若い葉の基部に1細胞からなるスチルスがあります。
 下は上とほぼ同じ所をピントをずらして撮っています。

 小形の苔類(=光が透過しやすい)を高倍率(=ピントの合う深度が浅い)で観察すると、まるで切片を作ったような写真が撮れます。 背片と腹片の間に位置する柄のついた球形のものは若い造卵器でしょうか。

 本種は雌雄異株で、古い花被もついていました(上の写真)。 花被は倒卵形で5稜、密にパピラがあります。

 上は無性芽です。 無性芽の作られている所は残念ながら確認できませんでしたが、文献によると背片の腹面にできるようです。 たしかに背片の背面はパピラがあり、無性芽ができそうにありません。

(2025.11.22. 大阪府貝塚市)

◎ 本種はこちらにも載せています。 また本種はナカジマヒメクサリゴケとよく似ていますが、背片の先端が内曲することや腹片の腹面にパピラがあることなどで区別できます。

【参考文献】
MASAMI MIZUTANI:NOTES ON THE LEJEUNEACEAE. 11. COLOLEJEUNEA SPINOSA AND ITS RELATED SPECIES IN JAPAN.Journ. Hattori Bot. Lab. No.60:439-450 (1986)


2025-11-20

タカサゴキリゴケ?

 上の写真の樹幹のコケ群落(2025.11.15. 貝塚市にて撮影)、ナガハシゴケやオカムラケビラゴケなどが混生していますが、群落をほぐし、左端に少し写っているナガハシゴケより少し大きな葉のコケを取りだして撮ったのが下の写真です。

 枝先が尾状に起き上がっています。 蒴が未熟で、蒴歯の特徴などは確認できず、あまり自信は無いのですが、タカサゴキリゴケ Sematophyllum subpinnatum ではないかと思います。
 蒴柄は長く平滑、蒴はほぼ相称で、少し傾いています。 蓋は、帽に覆われていてよく分かりませんが、長い嘴がありそうです。

 上は茎葉で、長さは1~1.5㎜です。 中肋は無く、翼部が分化し、葉縁は所々狭く反曲しています。

 上は葉の中央付近の葉身細胞です。 細胞の長さはかなりの違いがありますが、40~50μmのものが多いようです。 幅は6~8μmです。

 葉頂付近の細胞は菱形で、長さは葉の中央付近の細胞よりかなり短くなっています(上の写真)。


 上の2枚は翼部です。 翼細胞は主に横に並んでいます。

2025-11-19

オカムラケビラゴケのひも状の茎

 写真はオカムラケビラゴケ Radula okamurana でしょう。 茎の先がひも状になって立ち上がり、その先に小さな葉をつけています。 11月15日の貝塚市でのオカモス関西の観察会で、枝分かれした木の股で育っていました。

 上はひも状になっていない茎を背面から、下は同じ茎を腹面から撮っています。スケールの最小目盛は 0.1㎜です。

 本種はヒメケビラゴケとよく似ていますが、本種の方が少し大形で、よく分枝し、葉は密生し、葉の頂端が内曲します。 また、腹片はより長大で横によく伸び、基部は茎を覆って膨らみ、頂端が三角形になって突出する傾向があります。 また、茎の先端部が起き上がって伸び、ひも状になる性質は、山田(1994)によると、ヒメケビラゴケには見られない性質です。
 分布は、平凡社によれば、ヒメケビラゴケが宮城県以南であるのに対し、本種は三重県以西となっています。

 上は這う茎が立ち上がる所をカバーグラスで押さえて平らにして撮った写真です。 立ち上がった茎では、鱗片状になった小さな葉が茎に圧着しています。
 この鱗片状の葉ですが、上の写真を見ると、鱗片状の葉は色の濃い部分と透明に近い部分からなっているようにみえます。 私は以前、これは腹片と小さくなった背片だと思っていました。 しかし最初の写真やこちらの反射光で見た写真を見ると、この鱗片状の葉は葉先が尖っています。 背片はこのように尖らないでしょう。
 山田(1994)や平凡社は、この鱗片状の葉は背片が落ちて残った腹片であるとしています。 上の写真の2つの部分の違いは、腹片の基部と頂端部の違いのように思います。 
 立ち上がった茎では、葉の性質が変わるようで、腹片は少し形が変化して茎に圧着し、背片は小さく円くなり、すぐに落ちてしまいますが、立ち上がった茎の先端の作られたばかりの新しい葉にだけ背片も残っているのだと思います。 上の写真の黄色の矢印で示した所では、ちょうど這う茎から立ち上がる茎への境で、背片の形質もその中間を示し、小さく円くなっていますが、落ちずに残っているのではないでしょうか。
 山田(1994)にも平凡社にも、この落ちた背片については書かれていませんが、無性生殖に使われるのだろうと思います。

 上は立ち上がる茎を伸ばし始めた状態だと思います。 茎の先には、できたばかりの小さな葉を含めて数枚の葉が重なるようについています。 まもなく離れるであろう背片の葉縁付近の一部の細胞は長く伸びはじめています。 仮根に分化していくのでしょうか。

 上は落ちた背片と思われるものです。

 本種の葉身細胞などはこれまで何度も載せているので、今回は省きます。 なお、こちらには花被などに守られた若い胞子体(胚)などを、こちらには開裂した蒴などを載せています。

【参考文献】
山田 耕作:オカムラケビラゴケとヒメケビラゴケについて.日本蘚苔類学会会報6(4),1994.

2025-11-17

イボヒメクサリゴケ

 写真はイボヒメクサリゴケ Cololejeunea macounii でしょう。 11月15日に貝塚市で行われたオカモス関西の観察会でみつけました。 平凡社には樹幹に着生とありますが、岩上に点々と小さな群落を作っていました。

 背片は重なり、円頭です。 植物体の多くの部分の細胞には大きなパピラがあり、上の写真では、それが小さな円に見えています。 腹葉はありません。

 背片は卵形です。 腹片は背片の約1/2長で基部は凸面状、第1歯は金槌形で2細胞長、第2歯は狭三角形で尖っています(上の写真)。

 上は背片の葉先で、左下に腹片の第1歯が写っています。 各葉身細胞の中央には、先の丸い大きなパピラがあります。

 上は背片背面の葉身細胞です。パピラの基部と上部が重なり、二重円のように写っています。

 腹片基部の細胞にはパピラはありません(上の写真)。 細胞壁に中間肥厚が見られます。

◎ イホヒメクサリゴケはこちらにも載せています。

2025-11-11

チチブハネゴケ

 写真はチチブハネゴケ Plagiochila flexuosa でしょう。 三重県松阪市で採集されたものをいただきました。 関東以西の暖帯~温帯の湿度の高い渓谷の岩上に育つコケです。
 上の写真の植物体の長さは約8cm(スケールは1目盛が1㎜)、他の茎を見ても分枝はほとんどありません。

 上は腹面から撮っています。 葉は矩形で、長さは幅の2倍以上あり、背縁は直線状で、腹縁はやや膨らみ、葉先に5個以上の歯をつけている葉が多く見られます。

 稀に上のようなハネゴケ型分枝(茎の側面からの有襟分枝)が見られます。


 上の2枚は葉です。 背縁は茎に長く下延しているのですが、切れてしまい、その部分まで取り出すことはできませんでした。

 上は葉先です。

 小さな腹葉があります(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 細胞壁に波状の中間肥厚は見られません。