2025-08-30

タラダケヤスデゴケ

 樹幹についていた写真のコケ、乾燥して傷んでいて良い写真は撮れませんでしたが、タラダケヤスデゴケ Frullania taradakensis だと思います。

 上の写真、左の枝の先に花被がついています。 花被は西洋ナシ形で3褶、表面にいぼは無く平滑です。

 腹片の幅は背片の幅の1/5以上あります。 腹葉の幅は、少し分かりにくいのですが、茎径の4倍以上あります(上の写真)。


 上の2枚は、腹片と、スチルスが垂れ下がっていたのでその拡大です。 腹片はできるだけ重なりや汚れが少ないものを撮ったのですが、多くの腹片はもう少し幅が長く、嘴が発達しています。
 スチルスは10細胞列の長さです。 前に載せた本種(こちら)も長かったのですが、湯澤(2001)では4~5細胞列、上村(1961)では3~4細胞列となっています。

 上は腹葉で、側縁は全縁です。

 上は葉身細胞です。

(2025.8.18. 伊吹山)

2025-08-28

ヒゲハネゴケ


  写真はヒゲハネゴケ Plagiochila gracilis だと思います。 Sさんが剣山の標高1500m付近の岩上で採集されたものを、8月26日に行われたオカモス関西の顕微鏡観察会で分けていただいたもので、生態写真はありません。 分布は平凡社では全国のブナ帯となっています。
 植物体は褐色みを帯び、まばらに分枝しています。


 葉を含めた茎の幅は約2cm、葉は長楕円状で長さが幅の1.5倍以下、縁には大きく不規則な三角形状の歯が数個あります。

 背縁基部は長く下延しています(上の写真の黄色の矢印)。

 葉縁の歯は基部が2~3細胞幅で、2~3細胞の高さがあります(上の写真)。

 上は葉身細胞です。 細胞壁は褐色でトリゴンは大きく、油体は微粒の集合です。

2025-08-27

トゲハヒシャクゴケ

 上の黄緑色のコケはトゲハヒシャクゴケ Scapania hirosakiensis だと思います。 奈良県 天川村の標高900mのスギの朽木についていたものを、 8月26日のオカモス関西の顕微鏡観察会で分けていただきました。 分布は平凡社によると、紀伊半島以北の本州の亜高山帯となっています。



 葉の縁は鋸歯状で、外観はややウニバヒシャクゴケに似ていますが、それより小さなコケです。

 腹片は長楕円形で、縁に長披針形の歯があります。 背片は腹片の3/4以下の長さで、やはり葉縁にはやや長い歯があります。 キールは明瞭で、翼はありません。

 上は腹片の歯です。 歯は1細胞幅で、先端は披針形の細胞からなっています。

 上は腹片の表面です。 葉身細胞の表面には顕著ないぼ状ベルカが密生していて、細胞の形が分かりづらくなっています。

2025-08-25

タチヤナギゴケ



  太い木の枝に生える小さなコケ、タチヤナギゴケ Orthoamblystegium spurio-subtile だと思います。 古い胞子体と伸び始めた新しい胞子体が写っています。

 基物上をはう茎から長さ2~5㎜の枝を不規則な羽状に出しています。 乾いた状態では葉は茎に接していますが・・・


 湿ると葉は斜めに開きます(上の2枚の写真)。 蒴は直立、蒴柄の長さは5~11㎜でした。

 わずかですが、披針形の毛葉がありました(上の写真)。

 上は茎葉です。 中肋は太く(多くのウスグロゴケ科に見られる特徴)、葉先に達しています。 中部以下の葉縁は弱く反曲しています。

 翼部の細胞はよく分化しています(上の写真)。

 葉身細胞は長さ16~27μm、長六角形~長い菱形です(上の写真)。

 上は蒴を半分に切って撮っていますので、本来の外蒴歯は16本です。 外蒴歯は小さいパピラで覆われています。 内蒴歯の歯突起は痕跡的です。

(2025.8.18. 伊吹山)

◎ タチヤナギゴケはこちらにも載せています。

2025-08-24

カサゴケとカサゴケモドキとツクシハリガネゴケ

 伊吹山で 2025.8.18.に見た上の写真のコケ、ツクシハリガネゴケだと思ったのですが、確認のため持ち帰って調べたところ・・・



 ツクシハリガネゴケ(以下、「ツクシ」とします)は株立ちですし、茎は密に仮根で覆われますが、上の写真を見ると、茎の下部が地下茎状に地中をはっていたようですし、茎の仮根もそんなに多くありません。 さらに・・・

 葉縁が反曲し上部に歯があることはツクシと同じですが・・・

 ツクシの歯も単生ですが、上の写真より小さな歯ですし、ツクシには舷があるのですが、上の写真には舷はありません。

 以上の観察から、このコケはハリガネゴケ属のツクシハリガネゴケ Bryum billardieri ではなく、カサゴケ属( Rhodobryum )でしょう。

 カサゴケ属には、オオカサゴケカサゴケモドキカサゴケの3種があります。 このうちオオカサゴケは葉縁の歯が双生ですので、今回のコケではないのですが、この機会にこの3種の関係を整理しておきたいと思います。
 オオカサゴケは、コケテラリウムによく用いられ、栽培も盛んに行われているのですが、多くの場合、テラリウム内で新しく伸び出したオオカサゴケは小形になります。 そのようなこともあってか、コケテラリウム作家やコケの流通業界ではカサゴケ属3種を区別せずに「カサゴケ」としたり、オオカサゴケをカサゴケと呼んでいることも多くあります。
 カサゴケとカサゴケモドキについても、下は平凡社の図鑑から違いを抜き出してにまとめたものですが、違いは微妙です。 平凡社のカサゴケの解説文にも、「前者(カサゴケモドキ)に非常によく似ているが、(以下略)」と書かれています。


カサゴケモドキ カサゴケ
1茎の葉の数 20~50枚 16~21枚
葉の形 倒卵形~楕円形 へら形~倒卵形
葉縁(中部以下) 強く反曲 弱く反曲
葉先 広く尖る(90~120度) 鋭頭(65~100度)
中肋 葉先に届く~短く突出 ふつう葉先に達しない
中肋断面の
ステライド
ツクシハリガネゴケより
発達が悪い
発達はより悪い

 ところで、蘚類の同定時に比較的入手し易くよく使われている図鑑として、野口による『 Illustrated Moss Flora of Japan 』と 平凡社の『日本の野生植物 コケ』があります。 前者は全5巻で、ハリガネゴケ科は2巻にあり、1988年の発行です。 平凡社図鑑の初版は2001年の発行で、新しく記載された種名などには(新称)と書かれています。 野口図鑑にも載せられている種で平凡社で(新称)とされている種はたくさんあります。 ところが、平凡社のカサゴケモドキは(新称)となっていないにもかかわらず、野口図鑑にはカサゴケモドキは載せられていません。 つまりカサゴケモドキは野口図鑑以前にも認識されていたが、野口図鑑ではそれを認めず、カサゴケと同種として扱っていたのでしょう。 そして上の表からすると、野口図鑑のカサゴケの図はカサゴケモドキの図のようにみえます。
 平凡社では、カサゴケとカサゴケモドキとの関係は、変種でも亜種でもなく、別種として扱われています。 そしてどうやら両種をいちばん明瞭に区別できるのは、葉の中肋断面のステライドのようです。 しかし、「発達が悪い」と「発達がより悪い」の違いが具体的にどのような違いなのか、図を探してみたのですが、みつけることはできていません。
 私の見聞きした経験からすると、暖帯で見られるのはほとんどがオオカサゴケで、カサゴケモドキは落葉樹林下で見られるが稀、カサゴケは多雪地帯に見られるが非常に稀なようで、私もこれまでカサゴケに出会ったことは無いと思います(採集品を見直していてカサゴケがあればうれしいのですが・・・)。 なお、このようにカサゴケは極めて稀なはずなのですが、上記のいろいろなことが関係しているのか、カサゴケモドキは環境省の絶滅危惧Ⅱ類になっていますが、カサゴケは絶滅危惧種のリストには載せられていません。

 以上のことを踏まえて、今回のコケを、上の表と見比べながら検討していくことにします。

 葉の枚数は、小さな葉があったり葉がくっつきあったりして、なかなか難しいものです。 正確には葉を全部バラバラにして並べればよいのですが、そこまでする必要性も感じず、実体顕微鏡下で数えたところでは、20枚ほどでした。 葉の形は倒卵形です。

 上は葉縁付近の横断面です。 反曲の程度の「強く」と「弱く」の判断は比較対象が無いと難しいのですが、この程度なら「強く」と判断して良いと思います。

 中肋は葉先から短く突出し、葉先の角度は 104°でした(上の写真)。

 上は中肋の横断面です。 前に載せたカサゴケモドキの中肋の横断面(こちら)と比較すると、上の方が少し発達が悪いのですが、変異の範囲内のように思います。

 以上の結果からも、カサゴケモドキとカサゴケの違いは微妙であることが分かりますが、とりあえず、今回調べたコケはカサゴケモドキ Rhodobryum ontariense としておきたいと思います。

(追記) 上記記事の参考となるよう、ツクシハリガネゴケの葉の中肋断面と葉縁の断面をこちらに載せました。

2025-08-23

マルバツヤゴケ

 写真はマルバツヤゴケ Entodon concinnus subsp. caliginosus でしょう。 石灰岩上にありました。

 茎は羽状に分枝しています。 上の写真の背景は1㎜方眼ですので茎の長さは約6cm、平凡社では茎の長さは10cm前後になるとあります。

 葉には光沢があります。 枝葉は茎葉より小形で細長くなっています。

 上は茎葉です。 和名のとおり、よく見るヒロハツヤゴケより円みがあります。 翼部が暗いのですが、その理由は・・・


 上の2枚は別の葉の翼部ですが、いずれも翼部の細胞は重なって見えます。

 上は翼部の横断面です。 翼部は2~4細胞層の厚さがあります。

 上は葉身細胞です。

(2025.8.18. 伊吹山)

2025-08-22

イボスジネジクチゴケ

 

 写真はイボスジネジクチゴケ Barbula horrinervis でしょう。 石灰岩上にありました。石灰岩性の蘚類で、本州と九州に分布する日本固有種です。
 左が乾いた状態、右が湿った状態で、撮影の倍率は同じです。 乾燥時には葉は内側に曲がっています。

 茎の長さは10~15㎜です(上の写真)。

 葉はやや鞘状の倒卵形のの基部から先端に向かって徐々に細くなっています(上の写真)。 葉縁は平坦です。

 上は葉先を腹面から撮っています。 葉先は、最初の写真からも分かるように変異があり、鋭頭~鈍頭で、しばしば小突起を伴っています。 中肋は多くの葉で葉先に達しています。

 上は葉の中央部の中肋を背面から撮っています。 中肋は太く、背面で目立ち、たくさんのパピラがあります。 和名はイボ(パピラ)のあるスジ(中肋)に由来していると思われます。

 上は上部背面の葉身細胞で、各細胞には大きく鈍いパピラが複数あります。

 上は中央付近の腹面の葉身細胞で、各細胞のパピラは大きく、数は少なくなっています。

 上は葉の中央付近の横断面です。

 葉の下部の細胞は長方形で、葉縁に向かうにつれて小さくなっています。 パピラはほとんど見られません。

 上は無性芽でしょう。 無性芽は楕円形で長さ0.15~0.25mm、多細胞で、表面は微小な突起に覆われています。

 上は無性芽がついていた柄だと思います。


 上は受精できなかった造卵器です。

(2025.8.18. 伊吹山)