2022-12-30

ホソバコケシノブ(コケ植物との比較)


 ホソバコケシノブ Hymenophyllum polyanthos がたくさんの胞子のうをつけていました(2022.12.6. 大分県 深耶馬渓)。 上の写真では葉ばかりが写っていますが・・・

 葉は長く走る匍匐茎から出ています。 元気な葉は乾くと丸まってしまうので、上の写真では枯れた葉を撮っています。

 コケシノブ属には何種か似た種がありますが、本種は羽片が平面的に開き、裂片が全縁で、葉身は無毛、羽軸などの毛は早落性、裂片は軸に対して 50°~70°でつきます。

 この仲間は小形のシダ植物で、コケ植物によく似ています。 似ているのは形態だけではなく、コケテラリウムに本種(の仲間)を入れている人の話では、生活のしかたもコケ植物によく似ていて、たとえば水分の吸収も根からよりも葉から直接吸収しているように思うという話を聞きました。 たしかに乾いて丸まった葉も水をかけてやれば、時間はかかりますが、元に近い形に戻ります。
こちらではコウヤコケシノブでもそのことを確かめています。

 どれくらいコケ植物に似ているのか、組織の観察をしてみました。


 上は匍匐茎の断面です。 茎の周囲には毛が生えています。 中央部に木部があり、その周囲を師部が取り囲む原生中心柱が確認できます。

 上は葉柄基部の断面で、写真の上が腹面、下が背面です。 背腹の違いがあり、中央部の維管束の下部が木部で3本の道管が確認でき、その上に師部があります。
 上の写真の切断面から少し葉先側に進むと、葉柄の左右に薄いシート状の葉身が広がりはじめます。 下はその部分の断面です。

 切片が少し厚かったため、葉脈の左側の葉身部は倒れていますが、右側で分かるように、葉身部は1層の細胞です。 写真中央の維管束には道管も確認できますが、径は細くなっています。
 そして・・・

 上は葉の裂片の断面です。 葉身部は1層の細胞で、クチクラ層も確認できませんし、導管も確認できません。 水分の運搬や保水のためのしくみを退化させ、葉身細胞が必要とする水は自ら外界から吸収する(または隣の細胞からの拡散に頼る)しかありません。 葉身の大部分は、かなりコケ植物に近い生き方をしているようです。

 胞子のうについても、もう少し見ておきます。

 上の写真は、葉をほぼ横から見ています。 胞子のうは葉脈(中肋と呼ぶべきか?)の先端が伸びた胞子のう床の周囲につきます。 上の写真では、たくさんの胞子のう(上の写真では白と褐色の粒)に囲まれ、胞子のう床は見えません。 これらの胞子のう群の上下には包膜があります。
 胞子のうには環帯と呼ばれる細胞壁が厚い部分と薄い部分が交互に繰り返される帯状の組織があります。 中の胞子が成熟し、乾燥すると、環帯の細胞壁が薄い部分が縮み、耐えきれなくなった胞子のうは勢いよく割れます。 その勢いで胞子は飛散され、同時に胞子のう自体も飛び散ります。

 上はその飛び散った胞子のうと胞子(ピントが合っていない小さな粒)です。 赤褐色の部分が環帯で、胞子のうの多くの部分を占める白い部分は破れやすい薄い膜でできています。 胞子が出た後の胞子のう内部は空です。
 胞子のうの「のう(嚢)」は物を詰め込む「ふくろ」の意味です。 コケ植物の蒴は胞子のうに相当するのですが、蒴は胞子体と一体となっていて、その内部も胞子ばかりではありません。 やはりコケ植物の場合は、シダ植物などの「胞子のう」とは別の「蒴」と呼ぶ方がいいように思います。

2022-12-28

マツムラゴケ

 写真はマツムラゴケ Duthiella speciosissima のようです。 林内の岩上で育っていました。


 大形のコケで、葉はやや密につき、葉の長さも4mmを超えることもあります。

 上は顕微鏡の視野に入る小さめの葉です。 大きな葉ではもう少し基部が広くなっていました。 葉の上部は波打ち、多くの葉で葉先がねじれていました。 葉縁には全周に歯があり、特に上部には大きな歯がありました。 基部の両翼はわずかに耳状になっています。

 上は翼部の細胞がきれいに撮れる所を探して撮った写真で、上記の耳状にはなっていません。

 上は葉先から1/3ほどの所の歯の様子を撮った写真です。 葉縁には細長い細胞があります。

 葉の中央部の葉身細胞は狭六角形~菱形で、長さは20~30μm、中央に1個のパピラがあります(上の写真)。

(2022.12.6. 大分県 深耶馬渓)

◎ マツムラゴケはこちらにも載せています。

2022-12-26

ホソハリガネゴケ

 大阪市・咲くやこの花館のバックヤードの鉢でナシゴケと混生していた写真のコケ、ホソハリガネゴケ Bryum caespiticium だと思います。(2022.12.19. 撮影)

 上の写真は、左が湿った状態で、右が乾いた状態です。 葉は乾くとねじれてきます。
 葉は多少茎の上方に集まってつく傾向があるようです。


 葉は卵状披針形で、中肋は芒状に長く突出しています。 葉縁は強く反曲しています。

 葉先近くでは葉縁の反曲が無く、舷の存在が確認できました(上の写真)。

 上は葉身細胞です。

 蒴は次第に下垂してきます。 未熟なうちは楕円体のように見えますが、頸部は長く、熟すにしたがって洋ナシ形になってきます。
 蒴柄は赤褐色です。

 上は蒴糸です。 外蒴歯の中央から先は反り返っています。

◎ ホソハリガネゴケはこちらにも載せています。

2022-12-24

キコミミゴケ

 枯れ枝にいろいろなコケがついています(上の写真)。 多くはキヨスミイトゴケでしたが・・・

 上の写真のようなコケもついていました。 調べたところ、キコミミゴケ Lejeunea flava のようです。 和名にあるように、黄色っぽい色が印象的でした。 種小名も「鮮黄色の」という意味です。
 平凡社には検索表にあるのみですが、保育社には解説があり、「神奈川県で見られるクサリゴケ図説4」にも載せられています。 分布は本州~琉球・小笠原です。

 上は腹面から撮っています。 大きな腹葉があります。 腹片もあるのですが、大きな腹葉に隠れてほとんど見えていません。 腹葉を外して腹片を観察することにしました。

 上は外した腹葉です。 腹葉はやや重なり、1/2まで2裂し、側縁は角張らず、茎につく所は広く湾入しています。


 上の2枚は、腹葉を取り去って見えるようになった腹片の写真です(2枚目は深度合成しています)。 歯牙は1細胞からなっています。 歯牙のキール側に目立つ大きな細胞はありません。

 上は背片の葉身細胞です。 トリゴンは小さく、油体は各細胞に3~15個、微粒の集合です。

(2022.12.6. 大分県 深耶馬渓

2022-12-22

ヒメフタマタゴケ

 

 写真はヒメフタマタゴケ Metzgeria decipiens だと思います。 小枝についていたのを腹面から撮っています。 よく見るヤマトフタマタゴケより明るい印象を受けました。
 以下の太字の部分は同定時に重視した本種の特徴です。

 葉状体の縁や中肋部の腹面には多くの毛が見られ、腹面全体にも毛が散生しています。

 毛のある膨らみは胞子体を保護しているシュートカリプトラです(詳しくはヤマトフタマタゴケのこちらを見てください)。 上の写真では造精器のある小さな膨らみのようなものも見えますが、本種は雌雄異株で、これらの膨らみは虫の営みに関するものか何かだと思います。

 上の写真のように、一部の葉状体の縁には無性芽がついていました。 ヤマトフタマタゴケがこのような無性芽をつけることはありません。
 葉状体の縁の毛も写っていますが、毛は単生です。

 中肋部の腹面には毛が左右2列に並んでいます(上の写真)。 この毛は腹鱗片に相当する粘液毛です(フタマタゴケ科の特徴)。
 同じように葉状体の縁に無性芽をつけるコモチフタマタゴケの葉状体の先端は細くなりますが、本種の葉状体の先端は円頭です。
 翼部の幅も同定の1要素です。 上の写真で、葉状体のいちばん幅の狭い所の翼部は8細胞幅です。

 葉状体の幅は一定ではなく、上は本種の葉状体の最も幅が広いように見えた所です。 上の写真の翼部は約18細胞幅です。 平凡社では本種の翼部は8~12細胞幅となっています。

 上は葉状体の断面で、中肋部から急に1細胞層の翼部になっています(フタマタゴケ科の特徴)。 中肋部は表皮細胞が大きく、内部細胞は小さく厚壁です(フタマタゴケ属の特徴)。 本種の中肋部腹面の表皮細胞は2細胞幅です。

(2022.12.6. 大分県 深耶馬渓うつくし谷)

2022-12-20

ウロコチャタテ科の一種とオオウロコチャタテ

 以下は Part1の2013.1.13.と2012.7.9.に載せていた記事を併せ、こちらに引っ越しさせたものです。




 上は 2012.12.23.に東大阪市の枚岡公園で撮ったウロコチャタテの一種です。 チャタテムシの仲間の翅は、模様があったり、翅脈に色が付いたりしていても、基本的には透明ですが、ウロコチャタテ科の翅は鱗粉に覆われています。 これが名前の「ウロコ」の由来でしょう。 上の体長は翅端まで5mmあり、下のオオウロコチャタテよりも大きなチャタテムシです。 たぶん和名はついていないと思いますが、オオウロコチャタテより大きいとなると、どんな和名になるのでしょうね。


 上はオオウロコチャタテ Stimulopalpus japonicus だと思います。 堺市岩室の、畑と林が混在している所の法面のコンクリート上にたくさんいたのですが、動くと速すぎて肉眼では識別不可、止まると背景と同化して識別不可、撮影には苦労しました(2012.7.2.撮影)。 体長を測定すると、個体差がかなりあるものの、3~4.5mmほどでした。
 「虫ナビ」などによると、ウロコチャタテとよく似ているのですが、オオウロコチャタテの頭部には白い斑紋があることで区別できるとのことです。 コンクリートの表面などのコケ、地衣類、菌類などを餌にしているようです。

 成虫に混じって幼虫もたくさんいました(上の写真)。 成虫と混じって同じような動きをしていましたので、オオウロコチャタテの幼虫だと思います。 体長は2mmほどでした。

2022-12-18

ハマヒサカキ

 上は大分県・国東半島の国見の海沿いで撮ったハマヒサカキ Eurya emarginata の花と実です(2022.12.7.撮影)。
 ハマヒサカキは、その名のとおり、本州中部以南の海岸斜面等に自生する常緑低木で、ヒサカキ E. japonica とは同じ属に分類されています。
 潮風にさらされた場所で生育している木ですから、乾燥にも強いだろうと、一時は道路の分離植栽や緑地帯にたくさん植えられましたが、耐乾性はそれほどでもなかったようです。 それに花にはガス臭に似たにおいがあり、ガス漏れ騒動を起こしたこともありました。
 葉はまるく厚く、光沢があり、低い鋸歯があります。 鋸歯の窪みには黒紫色の腺点状構造物があります(上の写真)。

 花を拡大してみました(上の写真)。 本種は雌雄異株で、上の写真は、たくさんの果実がなっていることからも分かるように雌株です。 雌花には柱頭が3裂したメシベのみで、オシベは見られません。 よく見ると、アザミウマの仲間など、複数の虫が来ています。

 これだけの果実ができているのですから、近くに雄株もあるはずですが、短時間の観察で確認できませんでしたので、過去に撮った雄花を下に載せておきます。

 上は大阪府堺市の大蓮公園で 2013.12.2.に撮影した雄花です。 雄花は雌花より幅が大きく、枝につく花の数も多いようです。
 花の少ない時期ですので、ここでもたくさんのハエの仲間などが来ていました。 カメラを近づけると逃げてしまいますが、写真の右上に1頭残っています。

 上は雄花の拡大です。 雄花にはメシベは見当たりません。