上はヒメトロイブゴケ Apotreubia nana です。 亜高山帯の林床で、いろいろな蘚苔類に混じって育っていました。 肉眼的には緑の濃いムチゴケのような印象でした。 なお、同行の数名は湿岩上に育つ本種を確認しています。
COLE T.H.ら(2023)の「コケ植物系統樹ポスター」によれば、本種の分類されているトロイブゴケ科(Treuviaceae)は、コマチゴケ科とともに、他の苔類と最も早く分かれた祖先的な苔類とされています。
本種の配偶体は、上の写真のように、葉状体と茎葉体の中間的な形態をしていますが、ここでは平凡社の記載に倣い、葉状体の縁が深く切れ込んで半円形の葉のようになっているとしておきます。 葉状体の幅は、上の写真で約6㎜、平凡社によれば4~8㎜となっています。
葉状体の全体に散らばって白い点のようにみえるのは油体細胞でしょう。 葉状体の背面には舌状の背片が2列に並んでいます。
葉状体は二又状に分枝します。 上の写真では、ちょうど二又状に分枝し始めています。
葉状体の中肋部の背面に小さな球形のものが散在していますが、これは造精器ではないかと思います。 平凡社によると、造精器は、雄包膜などを伴わず、裸出しているとのことです。 本種は雌雄同株とされていて、造卵器も雌包膜や偽花被は無く、中肋部の背面に裸出し、多肉質のカリプトラが発達するとのことです。 なお、胞子体については、片桐ら(2009:下の参考文献)をご覧ください。
上は葉状体の横断面です。 中肋部の中央に中心束が1つあります。 油体細胞は葉状体内部に散在しています。 仮根は透明です。
上は葉状体の横断面の背面近くです。 油体細胞内には、細胞の2/3~3/4大の油体が1個あります。
(2024.9.7. 北八ヶ岳)
【参考文献】
片桐知之・桝崎浩亮・嶋村正樹:南アルプス甲斐駒ケ岳におけるヒメトロイブゴケ(Apotreubia nana)の胞子体の発見.蘚苔類研究9(11),2009.
2 件のコメント:
2017に山本航平さんらによって、ヒメトロイブゴケ(Apotreubia nana)の菌根様構造も調べられています。
道盛様、情報の提供ありがとうございます。
この報文の存在は知っていましたが、私の観察では菌根様構造はよく分かりませんでしたし、菌類とヒメトロイブゴケとの関係について書くには、まだまだ力不足です。
従属栄養である菌類は独立栄養である植物より後から陸上で勢力を拡大したのだと思いますが、菌類がいつ頃からどのように植物と関係を持ちはじめたのかはよくわかっていないと思います。
例えば、約3億年前に大きな森林が形成されていた石炭紀に、多くの植物遺体が堆積し石炭になった理由の1つとして、まだ菌類の活動がそれほど活発でなく、植物遺体の分解が進まなかったためとする説があります。
そのような意味で、菌類との関係は、ヒメトロイブゴケのような早くから陸上に見られた植物から始まったとも言えないと思っています。
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