2017-12-17

ヒメシリブトガガンボの幼虫


 コケを観察していると、上のような幼虫がいました。 体長は8mmほどですので、肉眼的には、体の黒い模様もコケの葉と葉の隙間に見えて、みごとな擬態としか言いようがありません。


 体節は明瞭なのですが、上の写真のように腹面から見ると、節のある脚がありません。


 上は体の斜め下から体の末端付近を撮っています。 体全体に肉質の突起が目立つのですが、特に体の末端に肉質突起が発達しているようです。
 体節が明瞭、節のある脚が無い、体の末端の肉質突起・・・これらの特徴を見ていると、以前水生生物の調査をしていた時のガガンボの幼虫を思い出しました。 ガガンボ科の幼虫には水中で暮らすものも多く、このように全身に肉質突起を持つものは知りませんが、上に挙げた3つの特徴はガガンボ科の幼虫にあてはまります。 それにコケの隙間の湿った環境と水中とも共通点がありそうです。 そこで、「ガガンボ幼虫 コケ」で画像検索してみると、伊藤知紗さんのブログ「てくてく日記」にヒットしました。
 「てくてく日記」には、これによく似た幼虫が「ミカドシリブトガガンボと思われる幼虫」または「シリブトガガンボ幼虫」として、2012年から継続的に載せられています。 さっそく伊藤さんに連絡を取り、いろいろ教えていただきました。
 伊藤さんに教えていただいた学研の『日本産幼虫図鑑』(2005年発売)には、体色は異なるものの、よく似た模様と形態の幼虫がミカドシリブトガガンボ Liogma mikado として載せられていて、記載されている特徴もほぼ一致します。 ですから、この記事のタイトルもミカドシリブトガガンボとしても良かったのですが、こちらに載せている幼虫との関係がよく分からないので、上のようなタイトルにしました。

 2021年1月22日の愛媛大学の今田弓女助教の講演(詳しくは【こちら】)で、ヒメシリブトガガンボ Liogma brevipecten であることが分かりました。 これまで「シリブトガガンボ亜科の一種の幼虫①」としていたタイトルも変更しておきます。
 ミカドシリブトガガンボは、本種とよく似た模様を持っていますが、シノブゴケ科、ツヤゴケ科、ヒラゴケ科などの腋性蘚類を食べ、チョウチンゴケ科は食べないようです。 なお、腋性蘚類が繁栄したのは比較的新しく、被子植物が繁栄しだした頃とほぼ一致するということでした。 また、シリブトガガンボ亜科の幼虫には、陸生で被子植物食のもの、陸生で蘚類食のもの、水生で蘚類食のものがいますが、これらの系統関係を見ると、陸生・被子植物食 → 水生・蘚類食 → 陸生・蘚類食の順に進化したようで、自然史的にもおもしろいと思いました。


 上は頭部を狙って撮ったのですが、口器らしいものがはっきりしません。 ガガンボ科の幼虫には頭部が退化しているものが多いので、この種もそうなのでしょう。


 上はこの幼虫がいた最初の状態で、コケを持ち上げるといました。 全く動かず、肉質の突起は背面にくっつけ、頭部は下に潜らせています。 この幼虫の頭部を見ようとしていると、肉質突起を起こしてゆっくり体をくねらせはじめたので、撮り易い所に移動させて撮ったのが1~4枚目に載せた写真です。
 伊藤さんからいただいた私信によると、この時期にもなると、これらの幼虫たちは、コケから離れ土にうっすら軽く潜っているようです。 学研の図鑑にも「幼虫で越冬」とあります。

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