昨日は生育地で撮った写真を使ってヒカリゴケ Schistostega pennata の生活環を紹介しました(こちら)。 今日は室内で観察した結果を載せます。
ヒカリゴケが光っているのは原糸体であることは昨日も書きましたが、上がその原糸体です。
蘚類の多くの原糸体は細胞が1列につながっていますが、本種の場合はその細胞の一部がレンズ状細胞と呼ばれる丸い細胞になっています。 丸くなっても原糸体の細胞ですから、1列につながっていることには変わりなく、そのことは上の写真の右側でよく分かります。
原糸体が黄緑色に光る様子は神秘的で美しいのですが、では、なぜ光るのでしょうか。
ヒカリゴケは薄暗い洞を好んで生えているのではありません。 植物にとって好条件な環境は他の植物との生存競争に負け、他の植物が生きていくのに必要な量の光合成ができない薄暗い所で、さまざまな工夫を凝らしてどうにか生きているのがヒカリゴケです。
下は光るしくみと意義を説明するための模式図です。
自然光はいろいろな波長の光(いわゆる虹の7色)の集まりです。 植物は光を葉緑体で吸収し、そのエネルギーで生きるために必要な物質を合成しているのですが、葉緑体が吸収できる光は赤と紫が中心で、緑色の光は使えません。(だから、植物が吸収できなかった緑色の光は透過または反射し、私たちの目に入ってくるので、植物は緑色に見えるのです。)
原糸体のレンズ細胞に入った光のうち、赤や紫の光はレンズ細胞の中にある葉緑体で吸収され、減少します。 レンズ細胞はその形のため光を細胞壁で反射し、光は何度も葉緑体を通り、そのたびに赤や紫の光は減少し、レンズ細胞から出る時は吸収されなかった緑色を中心とした光になっています。
以上をまとめると、ヒカリゴケの原糸体が光るのは、光を有効利用するために光を反射するからで、光が黄緑色に見えるのは、それらの波長の光が吸収されなかったためです。 私たちが見ているのは反射光ですから、強い光を当ててやれば強く光ります。
上は原糸体から育ったヒカリゴケの植物体です。 以下、上の ①~⑤ について、順番に見ていくことにします。
① は生殖器をつけていない配偶体ですが、乾いて縮んできています。 水分を失い易いつくりのようです。 元気な姿は昨日の写真を見てください。
葉は茎の左右に2列に並んでいますが、基部は下延し、下の葉と融合しています。
葉身細胞は長い菱形で、長さは 90~140μmでした(上の写真)。
② は胞子体を茎頂につけた配偶体です。 同じ配偶体でも①よりずっと小さく、葉も小さく、茎頂に集まって5列についています。
③ は胞子体です。 蒴柄は約5mm、蒴はほぼ球形で小さく、幅は3mmほどしかありません。
上は蒴の拡大です。 蒴歯は無いようですが、胞子があふれ出ていてよく分かりません。 そこで・・・
蒴口近くを顕微鏡で観察してみました(上の写真)。 退化した小さな蒴歯も無いようです。
上は胞子で、長さは 10~12μmです。
胞子体が作られているということは、卵と精子が出会っているはずです。 平凡社ではヒカリゴケに関しては雌雄同株とも雌雄異株とも書いてありません。 調べてみることにしました。
④は②と葉の付き方などがそっくりです。 調べてみると・・・
④の茎頂はたくさんの小さな葉で覆われていました。 その葉をできるだけ取り去り顕微鏡で観察したのが上の写真です。 気泡が入ってしまいましたが、造卵器の姿を残したまま、中の卵細胞が受精し、胚として生長している姿を観察することができました。 ほぼ予想通りです。
⑤ は④と似ているのですが、小さな葉が比較的茎の下にまでついています。 これも同様に茎頂の葉をできるだけ取り去って顕微鏡で観察すると・・・
茎頂には複数の造精器がついていました(上の写真)。
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