2022.6.8.に神戸市北区道場町でツチアケビ Cyrtosia septentrionalis を見ました。
上の2枚は2019年に同じ場所のほぼ同じ時期に撮った写真で、今年は上より少し大形化しているようでした。 上の写真のすぐ横には前年の黒くなった実をつけた茎がありましたし、今年も同様でした。 つまり、上の写真はまだツボミの状態ですが、毎年同じ場所で花を咲かせて結実しているようです。
上の写真では根元がシダの葉に隠されていますが、地下茎に鱗片のような葉があるのみで、どこにも光合成できるような葉はありません。
上は2012.6.17.に大阪府交野市にある大阪公立大学付属植物園(撮影時は大阪市立大学付属植物園)で撮った本種の花です。 花を見れば本種がラン科であることが分かります。
下は2012.9.22.の同植物園での撮影で、上の写真の花が結実した様子です。
和名はこの実をアケビの実に例えたものでしょう。 アケビの実よりはるかに赤いですが・・・。 、土から突き出た赤褐色の枝に、赤い大きな実をたくさんぶら下げるので、ハイキングの人などを驚かせることになり、時にはニュースに取り上げられたりします。 果実は肉質の液果で、その点では同じラン科のバニラなどと共通していて、両者はやや近縁とも言われています。 ラン科の多くは水分の少ない蒴果で、花被が裂けて細かい多くの種子を散布するのですが、肉質の液果は食べられることによる種子散布を思わせます。 しかし、この赤い色の果実は秋が深まってもそのまま残っています。 どのように種子散布が行われているのか、不思議に思われていたのですが、末次健司氏によって明らかにされました( Nature Plants,2015 )。 秋に赤い色をしていても食べると渋いのですが、冬になると渋さが無くなり、鳥に食べられるようになります。 たくさんの蜜を持ったツバキの赤い花の色など、赤い色は鳥に食べ物のありかを教える色です。 なお、この発見は、ラン科全体で世界初の動物散布の報告となるとのことです。
ところで、本種は光合成するような緑の部分は見当たらないと上に書きました。 本種はどのようにして花を咲かせ結実に必要な栄養を得ているのでしょうか。
これらのことを最初にまとめたのは濱田稔氏の研究(1939~1940年)です。(日本植物学輯報,10(1,2,4)) これによると、ツチアケビはナラタケと大きな関りを持っています。 ナラタケの菌糸の存在しない場所にはツチアケビは生えません。 なお、ナラタケには何種かあり、ここではナラタケ属の意味で使っています。
上はナラタケ属の1種です。 ナラタケは木材腐朽菌で、ナラなどの枯木内に菌糸を張り巡らせ、材を腐らせて栄養を得ています。 夏から秋にかけてナラタケの成長の盛んな時期、ナラタケの菌糸は枯木を求めて黒い針金のような菌糸束を伸ばしていきます。 菌糸は、ツチアケビの根に出会うと、その根に侵入します。 どうやらツチアケビは枯木を装う物質を作っているようです。 身を切らせて骨を切るツチアケビの作戦です。
ナラタケの菌糸はツチアケビの根の中で増え、他の枯木から得た栄養分も含め、栄養分を貯える菌糸の塊を作ります。 そして冬、気温の低下と共に、ナラタケの活動は低下します。 ツチアケビはその時を待っていたかのように自らの根の中で増えていたナラタケの菌糸を消化し、自らの栄養とするのです。
昨年の4月~6月に大阪市立自然史博物館で特別展「大阪アンダーグラウンド -掘ってわかった大地のひみつ-」が開催されました。 上はその時の展示で、ツチアケビとナラタケの関係を示しています。 下はその一部の拡大です。
白いのがツチアケビの根、黒いのがナラタケの菌糸束です。
※ 上は Part1の 2012.6.24.の記事を、新しく写真も加え、大幅に書き直しています。
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