2023-06-30

ヒメハナガサゴケ

 上はヒメハナガサゴケ Splachnum melanoeaulon の蒴です。 2023年6月24日に、長野県・麦草峠にある麦草ヒュッテの島立さんに案内していただき、撮影することができました。
 本種は岩月らにより2005年に日本新産として報告された稀なコケで(蘚苔類研究9(1))、2001年に出版された平凡社の図鑑にも記載はありません。

 蒴柄は暗紫色で、長さ2~3cmです。 蒴のスカート状に広がった部分は、上記撮影日の5日ほど前に島立さんが撮られた写真では白色~淡いピンクですが、時間が経つと上の写真のように濃い色になるようです。

 本種はいわゆる「糞ゴケ」で、糞の上に生育します。 そのため、自身も糞に似たにおいを出し、糞を好むハエを呼び寄せ、ハエの体に胞子をつけて新しい糞に胞子を運んでもらいます。
 上の写真はクロバネキノコバエ科の1種と思います。 このハエが糞を好むのかどうかは分かりませんが、撮影時には数頭来ていました。

 蘚類の胞子は蒴の壺に入っています。 上の写真で、壺は色の濃い円筒形の部分で、それより少し色が薄くなり、次第に広がっているのは頸部です。 ふつう蒴柄と壺の間にある頸部は壺より小さいのですが、本種の場合はこの部分が発達し、スカート状に広がっています。 この部分がにおいを出すなどハエを呼ぶ役割を担っているのでしょう。

 上の写真の右側には、蒴柄が3本写っていますが、蒴が何者かにかじり取られています。 少し引いて見ると・・・

 かなり多くの蒴がかじり取られています。 上記の5日ほど前の写真を見ると、かじり取られた跡は見えません。 他の蘚類でも蒴がかじられているのはよく見かけますが、このように短期間に蒴がきれいに食べられるのは、あまり見かけません。 犯人は誰なのでしょうね。

 上記岩月ら(2005)によると、本種は雌雄異株とされています。 たくさんの胞子体があるので、雄株も近くにあるはずです。 上の写真にも雄株が混生しているのでしょう。

 葉は倒卵形で、葉先は先細りに長く伸びています。 胞子体をつけた配偶体は胞子体に栄養を送り続け、かなり弱っています。

2023-06-29

ジューンベリー

 


 上は長野県茅野市の標高1,130m付近で見たジューンベリーです(撮影:2023.6.25.)。 果実が色づき始めていました。
 ジューンベリー(Juneberry)は「6月になる果実」を意味し、生食しても美味ですが、ジャムに加工できます。 今回の北八ヶ岳コケ観察会では、主宰していただいたK先生は自宅の庭になる本種のジャムを持参され、美味しくいただくことができました。
 本種は日本在来のザイフリボク Amelanchier asiatica と同属で花も似ており、アメリカザイフリボクとも呼ばれていますが、学名は混乱しており、A. canadensisA. laevisA. x grandiflora などがあてられています。 なお、日本在来のザイフリボク(別名シデザクラ)の果実が黒紫色に熟すのは9~10月です。

 上は本種の葉です。

2023-06-23

ブログをしばらく休みます

  北八ヶ岳に来ています。 帰ってからの整理もありますので、ブログはしばらく休みます。

 

2023-06-22

ケカガミゴケの蒴

 写真はケカガミゴケ Brotherella yokohamae でしょう。 上は3月3日の撮影で、蒴には長い嘴のある蓋がついています。 下は同じ公園で4月27日に撮影した写真で、蒴歯が見えています。

 本種の蒴はこちらにも載せていますが、この時は蒴が若くて蒴歯の観察ができませんでした。

 内蒴歯の歯突起と外蒴歯はほぼ同じ長さです(上の写真)。 内蒴歯の間毛はありません。

 外蒴歯の上部にはパピラがあり、下部には細かい横条があります(上の写真)。

 本種であることの確認も兼ねて各部の長さや観察もしておきます。

 茎はやや羽状に分枝しています。

 葉腋には無性芽がついています(上の写真)。


 上の2枚は枝葉です。 翼部には方形の細胞が見られます。

 上は葉身細胞です。

2023-06-20

マキノゴケなど学名に牧野の名前のついたコケ

 牧野富太郎博士の人生をモデルとしたNHK連続テレビ小説「らんまん」の最後に毎回「植物図鑑」として博士ゆかりの植物が紹介されています。 本日(6月20日)放送の「植物図鑑」はマキノゴケでした。

 このブログのPC版の右に、過去7日の閲覧多数記事を載せていますが、それを見て驚きました。 「マキノゴケの胞子体」がトップになっています。 「らんまん」の影響かと思い、ブログの統計情報を見ると、普段の1時間あたりのブログのアクセス数は 50~100なのですが、8時台だけで410になっていました。 そして22時現在の過去24時間の「マキノゴケの胞子体」へのアクセス数は 962になっています。
 この数のほとんどはコケに関心のある人に限られるでしょうから、NHK全国放送の影響力の強さには改めて驚かされます。

 マキノゴケ Makinoa crispata は牧野富太郎が清澄山で採集したものを三宅驥一博士が受け取り調査した結果、これまでフォーリー氏が採集しステファニー氏がミズゼニゴケ属としていたものですが、ミズゼニゴケ属とは異なるとして、新属を創定し、この属の名称を牧野の姓を紀念して定めたということです(長田武正著、保育社カラー自然ガイド「こけの世界」より)。

 牧野富太郎は蘚苔類に関しても熱心に調査しています。 マキノゴケでは、和名や属名だけではなく、科名にも牧野の名前がついていますが、他にも牧野の名前が使われている蘚苔類が無いか、旧学名も含めて調べてみたところ、学名にたくさんの牧野の名前がみつかりました。 ただその多くは、その後の研究の結果、学名が変更され、現在牧野の名前がついているのは、マキノゴケの他は次の3種です。

 キブリハネゴケ Pinnatella makinoi

 コスギバゴケ Kurzia makinoana

 マキノミノゴケ Macromitrium japonicum var. makinoi
  ミノゴケの変種ですので、平凡社などにはこの和名は記載されていません。
 

2023-06-18

キノウエノケゴケ

  今年は春からなにかと忙しく、ブログの更新も飛び飛びになっています。 コケについても、どうしても大阪を離れて採集したコケを優先的に調べたくなり、近くで採集したコケを調べるのは後回しになってしまいます。

 上は3月15日に高槻市の原地区で撮った、ガードレールにくっついていたコケ群落です。 ノミハニワゴケ、タチヒダゴケの仲間(この時期は同定が難しい)、カラヤスデゴケなどが混生していましたが、その中にキノウエノケゴケ Schwetschkea matsumurae も混じっていました。 上の写真の左上に写っている、嘴のある蓋をつけた蒴が、本種の蒴だろうと思います。 多くの場合、樹幹についているコケです。

 上は湿った状態です。 茎は這い、不規則に分枝しています。 枝葉と茎葉はほぼ同じ長さで、0.7~1.5mmです。
 下は上と同じ枝で、乾いた状態です。

 葉は乾くと細く巻き、枝に接することはありません(上の写真)。

 枝葉は披針形で、基部はやや狭くなっており、葉先は細く伸びています(上の写真)。 中肋は葉の中部で終っています。

 翼部の細胞は方形です(上の写真)。

 葉身細胞は狭六角形~菱形で、中肋に近づくほど細長くなっています(上の写真)。

 上は葉先です。

 最初の写真から3カも月放置していた間に、蒴の蓋は取れてしまっていました。

 上は蓋の取れた蒴を真上から見ています。 乾いた状態ですが、Anacamptodon(ソリハゴケ属)とは異なり、外蒴歯は内側に曲がっています。
 内蒴歯は基底膜が低く、外蒴歯とほぼ同じ長さの細い歯突起があるのですが、細いためか、多くの歯突起が失われています。 間毛はありません。

 上は光学顕微鏡で見た蒴歯です。 外蒴歯は全面に細かいパピラがあります。 内蒴歯の歯突起は基部しか残っていません。

こちらには10月下旬に撮ったキノウエノケゴケを載せています。

2023-06-16

蓋あり容器で2年半育てたコツボゴケ

 上は最近作成したコケテラリウムで、手前はタマゴケですが、岩の後ろがタイトルのコツボゴケです。 2年半密集した状態で育てているうちに、ずいぶん葉が小さくなり、タマゴケとのバランスが良いかと思い、使ってみました。
 下は上の裏面から撮った写真です。

 容器で育てているコツボゴケ(以下「栽培コツボ」)は、容器の壁などに触れると仮根を出し、壁を這うように伸びます。 上の写真では、岩に這うように植えています。
 上の写真でみるかぎりではコツボゴケらしい葉形のようにも見えますが、肉眼的には野外で見るコツボゴケ(以下「コツボ」)とはずいぶん違います。 コツボゴケの生育環境に対応する“柔軟さ”に改めて驚かされますが、どれほど違うのか、両者を比較してみました。

 上は元気に育っていたコツボです(6月13日採集)。 古い匍匐茎から直立茎が立ち上がっているように見えます。 葉の長さは2~5mmです。

 上は容器の壁に沿って上に伸びていた栽培コツボで、あちこちから仮根を出しています。 葉は長さ 1.5~2mmで反っています。

 上はコツボの葉です。 葉縁の上部には歯が並んでいます。

 上は栽培コツボの葉で、反っているために葉先が折れ曲がっています。 葉縁上部の歯はとても小さくなっています。

 上はコツボの葉身細胞です。

 上は栽培コツボの葉身細胞です。 葉の形や大きさの違いに比較して、葉身細胞の形も大きさもそれほど違いが無いのがおもしろいところです。

(付記) 野外で見るコツボゴケの葉に限っても、変異があります。 例えば、雄花盤のことなどを書いたこちらの葉は楕円形で歯も尖っておらず、1月に撮ったこちらの葉は舌形に近く、鋭い歯が葉縁に見られます。

2023-06-14

チョウセンスナゴケ

 


 写真はチョウセンスナゴケ Codriophorus carinatus だと思います。 渓流脇の岩上で育っていました。 少し乾いてきており、葉の上部は中肋に沿って折りたたまれてきています。

 葉は狭卵状披針形、中肋は丈夫で輪郭がはっきりしています。 葉縁は基部で反曲しています。

 透明尖は数細胞からなっています。 透明尖直下の細胞はほぼ方形です。 中肋は葉頂から離れた所で終わっています。

 上は葉身細胞です。 大きく平坦なパピラが細胞の縦壁上にかぶさるように発達しています。 細胞の幅は4~8μmです。

 翼細胞は不明瞭で、透明にはなっていません(上の写真)。

(2023.5.12. 愛知県設楽町 標高800m付近)

こちらではチョウセンスナゴケの葉の断面や蒴歯なども観察しています。

2023-06-11

シノブヒバゴケ

 写真はシノブヒバゴケ Hylocomiastrum himalayanum でしょう。 岩を覆うように育っていました。


 本種は、毎年その年の茎の先端近くから新しい枝を出して育っていきます。 上の2枚の写真の2枚目は、茎を1年ごとに色分けしています。(背景は1mmの方眼紙です。)

 本種はイワダレゴケ科に分類されていますが、茎葉と枝葉が明瞭に異なり、毛葉がある点などの特徴はシノブゴケ科と共通で、特に枝が細く長く伸びるヒナトラノオゴケなどとは一見よく似ていますが、上記の枝分かれの様子などは異なります。

 上は茎葉です。 本種の葉は破れやすいうえに茎への付着線が長く、比較的強くくっついているので、なかなかうまく取り出せません。
 茎葉はほぼ三角形で、葉先はやや急に細くなっています。 深い縦じわがあり、全周に歯があります。 基部は褐色になっていますが、翼細胞の明瞭な分化は見られません。

 縦じわと紛れて分かりにくくなっていますが、茎葉の中肋は1本で、上の写真では赤い矢印の所まで伸びています。

 上は葉身細胞です(グレースケールに変換しています)。


 上の2枚は枝葉です(茎葉とスケールが異なります)。 2枚目の枝葉の基部には、毛葉がついています。
 下は上の1枚目の枝葉の上部で・・・

 枝葉の中肋は1個の刺で終わっています。

(2023.5.13. 愛知県設楽町 標高1200m付近)

◎ シノブヒバゴケはこちらにも載せています。