2015-11-25

ケカガミゴケ(コモチイトゴケ)

  ケカガミゴケは少し前までコモチイトゴケと混同されていて、平凡社の図鑑などでもケカガミゴケの名は無く、コモチイトゴケの名前で出ています。 しかし両種の葉の曲がり具合などの形態的な違いは安定していて、分子系統解析の結果も別種であることを支持しています(秋山,2019.蘚苔類研究12(1))。
 しかし従来から「コモチイトゴケ」の名前で呼ばれてきていましたので、この名前についても簡単に触れておきます。 「イトゴケ」の名は「糸のようなコケ」という意味ですが「○○イトゴケ」という名の細くて長いコケは、ハイヒモゴケ科のイトゴケ、シノブゴケ科のイワイトゴケコバノイトゴケなどなど、いろいろな科で見られます。 その中で本種は大気汚染にも強く、都市部を含め、広く分布するコケです。 ただ、「子持ち」つまり無性芽を付けているのが特徴ですが、この無性芽も葉に隠されていてそのままでは見えず、「動物の毛並みのような群落」と言われていても、どれがそうなのか、なかなか難しいでしょうね。


 上の写真のケカガミゴケ Brotherella yokohamae はクスノキの幹についているものですが、葉の1枚1枚が分かる大きさにまで拡大すると、緑の“動物の毛”という印象は無くなってしまいますね・・・。
◎ 従来、写真のコモチイトゴケの学名は Pylaisiadelpha tenuirostris とされてきましたが、この学名のコケは写真のものではないようです(詳しくは【こちら】)。


 実際の大きさを実感していただくために、100円硬貨の上に置いてみました。 葉は小さいですが、葉に比較して大きな胞子体です。 胞子体は側生です。


 上の写真の左は帽のついた蒴、右は帽の取れた蒴です。 蒴の蓋には(=それを覆う帽には)長い嘴があります。
こちらでは本種の蒴歯などを観察しています。


 水を与えると葉は広がります。 葉は茎に放射状についています。 無性芽は葉腋につくのですが、上の写真には無性芽は見られません。


 葉は卵状披針形でほぼ全縁、先端は鋭く尖っています。 上の写真で、中肋は非常に短いものがあるようにも無いようにも見えますが、本種の葉の多くはこのような状態のようです。


 上は葉の翼部を拡大したものです。 翼部は数個の方形の細胞からなっています。


 上が無性芽です。 本種の無性芽は褐色の細胞が一列に連なっています。


 上の写真の無性芽は、プレパラート作成時に葉腋から離れてしまったもののようです。

(2015.11.23. 京都府立植物園)

◎ ケカガミゴケはこちらにも載せています。 また、こちらでは無性芽を葉の中にある状態で載せていますし、こちらには葉についている無性芽や造精器の様子などを載せています。