2020-05-14

クリスマススターオーキッド


 新型コロナの外出自粛で、過去の標本を見直したり、撮った写真を整理したりしています。 今回は1月25日に大阪市の「咲くやこの花館」で撮ったクリスマススターオーキッド(Christmas star orchid)です。
 この名はもちろん英名で、オーキッドは蘭のことですから、クリスマスの頃に咲く星形をした花のランということでしょう。 また下に書くような歴史的ないきさつから、ダーウインズオーキッド(Darwin’s orchid)とも呼ばれています。 学名は Angraecum sesquipedale で、原産地はマダガスカル東部です。
 ラン科の花のいわゆる花びらは内花被片(花弁)3枚と外花被片(ガク片)3枚とからできています。 内花被片の1枚は唇弁と呼ばれていて、他の花びらとは形態が異なっているのですが、本種の唇弁は、色も他の花被片と同じ白色で、形も一見他の花被片とあまり違わないように見えます。
 この花は特に夜によくにおいます。 また、白い花は暗い夜に目立ちますので、この花は夜に虫を呼んで花粉媒介してもらおうとしているのでしょう。


 花を横から見ると、花の後ろにとても長いひも状のものがついています。 これは唇弁の一部が長く伸びたもので、距(きょ)と呼ばれていて、この奥に蜜腺があります。 ちなみに、学名の種小名は1フィート半(45cm)を意味しますが、この距の長さに由来しているのでしょう。
 進化論で有名なチャールズ・ダーウィンは、ランの栽培家からこの植物を手に入れ、このとても長い距の奥の蜜腺に届く長い口吻を持つ蛾がいるはずだと予言しました。 そして、ダーウィンの死後に、そのような口吻を持つスズメガの一種 Xanthopan morganii (以下、キサントパンスズメガと書きます)が見つかりました。
 虫媒花は花粉を同種の花のメシベにつけてもらってこそ意味があります。 他の種類の花に花粉を運んでもらっても意味がありません。 虫媒花の進化を見ると、大きく2つの方向があるように思います。 1つは、できるだけたくさんの昆虫に来てもらい、誰かに同種の花に花粉を運んでもらおうとする方向で、他の1つは、来てもらう昆虫を限定することで、その昆虫が次も同種の花に行く確率を高めようとする方向です。
 クリスマススターオーキッドは距を長くすることで、蜜を与える代わりに花粉を運んでもらう昆虫を限定しました。 昆虫側にすれば、蜜を得ることのできる種が少なくなればなるほど、競争相手は少なくなり、その花に行って蜜を得ることのできる確率が高くなります。 つまり花と蜜を得ることのできる昆虫との関係が1:1に近づくほど、花と昆虫はウィンウィンの関係になります。
 クリスマススターオーキッドはキサントパンスズメガ以外には蜜を吸われないように距を長くし、キサントパンスズメガはクリスマススターオーキッドの蜜が吸えるように口吻を長くします。 このように2種の要因(この場合は距の長さと口吻の長さ)が関係し合って進化する現象を「共進化」と呼んでいます。 上記は共進化の代表的な例として、よく知られています。

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