写真は雑木林の林床に自生していたマンリョウ Ardisia crenata です。 庭に植えられているマンリョウは、自生地のものより実が少し大きいなど、園芸的に選択されている点もありますが、林床に自生しているマンリョウと庭に植えられているマンリョウとは同種の植物であり、本質的な違いはありません。 写真のマンリョウも、庭に植えられていたマンリョウの実を食べた鳥が糞と一緒に林に落とし、林に“里帰り”したマンリョウかもしれません。
マンリョウはサクラソウ科の常緑小低木で、東アジアからインドにかけての温暖な場所に広く分布し、日本では、関東地方以西から四国・九州・沖縄の林床に自生しています。
美しい赤い実をつけるのですが、この実はあまり鳥などには食べられず、かなり遅くまでよく残っています。
液果は鳥などに食べられて種子散布してもらうことに意義があるのに、なぜでしょうか? ちなみに私が食べてみたところでは、青ぐさみが強く後味も悪く、人にとってはとても美味しいと言える実ではありませんが、とても食べられないといった実でもありませんでした。
おもしろい本をみつけました。 多田多恵子著『野に咲く花の生態図鑑』(河出書房新社:2012年10月30日初版発行)です。
この本では、「もし実がおいしくて鳥が一気に食べたら、種子は同じ場所に落とされてしまう。」と書かれています(「 」は引用部分、以下同じ)。 マンリョウは小さな木で、実の数も限られています。 実がおいしくて一時に全ての実が食い尽くされ、その種子が同じ糞に混じって同じ場所に排泄されるとすると、その場所がたとえマンリョウの木から離れていたとしても、決して効率的な種子散布とは言えないでしょう。 おいしそうに見えて、食べてみるとそんなにおいしくなく、少し食べて飛び去ってしまうということが何度もある方が、種子は「時間的にも空間的にも幅広く運ばれることになる」わけです。 マンリョウはあえてあまりおいしくない実を用意しているのだ、というわけです。 「美しい外見とまずい中身。 食べてね、でも、ちょっとだけよ。」というわけで、著者はこれを「ちょっとだけよの法則」と呼んでいます。
アメリカのフロリダでは、マンリョウにとって環境も良かったのでしょう、日本から持ち込まれたと思われるマンリョウが二次林に広がり、林床のほとんどをびっしりと覆ってしまっている所もあるようで、帰化有害植物に指定されているようです。 この地でのマンリョウと鳥との関係はどうなっているのでしょうね。
マンリョウは葉も特徴的です。
葉の縁は凸凹していますが、これをきょ歯と呼んでいいのでしょうか。 凹んでいる部分は葉の表側に隆起しています。
そして、この葉を太陽の光に透かしてみると・・・
褐色~黒色の小斑点が葉面全体に広がっています。
葉の断面をつくってみました(上の写真)。 葉縁の隆起した所の内部には、球形の部屋がありました。 そして、褐色の点と黒色の点は、いずれも葉肉内に存在します。
上記『野に咲く花の生態図鑑』によれば、この小さな隆起は「葉粒(ようりゅう)」と呼ばれていて、「共生細菌のドームハウス」だそうです。この中には葉粒菌がいて、窒素同化(水と空気中の窒素から、タンパク質を作る材料となるアンモニアを合成)を行っているようです。 この葉粒菌は「茎の先端、芽の内部に巣くっており、そこから「感染」する形で新しい枝や葉に移り住む。 さらに花や実を経て種子にも「垂直感染」し、次世代に受け継がれる。」ということです。 また、褐色~黒色の小斑点は油点で、「被食防止の防衛物質を貯めている。」と書かれています。
上は8月上旬に撮影した花ですが、花柄にもガクにも花弁にもオシベの葯にも、そして若い実の表面にも斑点がついています。
若い果実の斑点は、実が熟してくると分からなくなりますが、それは赤い色によって目立たなくなるだけで、よ~く見ると、何となく実にも小斑点があるようです(上の写真)。
これらの花や果実についている斑点は油体によるものなのでしょうか、葉粒菌によるものなのでしょうか、それとも全く別のものなのでしょうか。
※ 上は Part1の 2011年1月3日と4日、2013年1月4日に載せた記事を併せ、大幅に書き換えたもので、花を除いた写真は2011年1月3日に撮影しました。
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