2024-07-01

ウマノスズクサ

 以下は Part1の2010年7月2日に載せていた記事(撮影は100630)を、少し補筆し、こちらに引っ越しさせたものです。 

 

 ウマノスズクサ Aristolochia debilis の花が咲き始めました。 これから9月まで、次々と咲いてくれることでしょう。
 花はおもしろい形をしています。 葉腋から伸びる柄の先につく花は、基部が膨らみ、そこから細長く、やや曲がって伸び、先端はラッパ状に開いています。

 ところで、保育社の原色日本植物図鑑は、合弁花類、離弁花類、単子葉類の3巻の構成になっています。 このウマノスズクサはどこに載せられているのか、予想してみてください。
 じつはウマノスズクサは離弁花類になります。 花弁のどこが分かれているのか、それよりもまず、ガクと花弁を区別しようと再度花を見ると・・・ 区別できません。
 このような花を「単花被である」と表現できますが、いろんな条件から考えると、どうやらウマノスズクサの花は、ガクが変化したもので、花弁は退化して無くなっているようです。 つまり、もし花弁があれば、系統的に考えても離弁のはずだ、というわけです。
 花は生殖用の器官ですから、花が特殊ということは、植物が特殊な方法での花粉の受け渡しを“ねらって”進化した、ということになります。
 ウマノスズクサの周囲には、あまりいいにおいとは言えない、特有のにおいがあります。 花の色やにおいから、私はラフレシアなどを連想しました。 このにおいと色は、花粉媒介者として、ハエを呼び寄せているのでしょう。
 花の断面を作ってみると、下の(1)と(2)の2つの状態が確認できました。 2つの状態とは、花粉を受け取る時期(=雌性期)と花粉を渡す時期(=雄性期)ということになるのでしょう。

(1)


(2)

 (1)はまだ花粉が出ていませんし、(2)は花粉が出ていますので、花の変化は(1)から(2)へと変化すると考えられます。 つまり、(1)が雌性期で、6分割されたようになっているのが柱頭なのでしょう。 そして(2)が雄性期ということになり、ウマノスズクサは雌性先熟の花ということになります。
 (1)と(2)の比較では、もう1つ、注目したい違いがあります。 それはラッパ状の筒の内面の毛の様子です。 特に膨らみ近くの毛の様子に注目すると、(1)では毛が膨らみの方向に向かって伸びています(断面を作る時にかなり取れてしまいましたが・・・)が、(2)ではこの毛が水分を失ったように短くなってしまっています。

 以上のことを総合してウマノスズクサの種子生産の“戦略”を考えてみます。
 ウマノスズクサの花のにおいに誘われて、ハエがラッパ状に開いた入り口から侵入してきます。膨らみに達したハエは、花が(1)の状態にある時は、来た道を戻ろうとしても、毛が邪魔になってなかなか戻れません。 もしこの時、ハエの体に花粉が付いていれば、もがいているうちに花粉は柱頭に付けられることでしょう。
 時間が経つにつれ、広がっていた柱頭が互いにくっつきあい、(2)の写真のように円柱状になるにつれ、柱頭の下部に位置していた葯は“円柱”の横に位置するようになり、花粉を出し始めます。 膨らみの中で暴れているハエの体には新しい花粉が付くことでしょう。 この時、ハエの脱出を阻んでいた毛は縮小しており、ハエは体に花粉を付けて外へ出て行くことが可能になります。
 実際、膨らみの中の様子を確認するために切ってみると、(1)の状態ではほとんどの花の中に、場合によっては複数のハエがいました。 ところが(2)の状態の花で、中にハエがいたケースはありませんでした。
 一般的に小さな脳しか持たない昆虫の学習能力は低いものです。 (2)の状態から脱出した体に花粉を付けたハエは、脱出に苦労したことを忘れ、またにおいに誘われてフラフラと花に入り、もしその花が(1)の状態なら、そこでウマノスズクサの受粉に協力させられることは上に書いたとおりです。

 ウマノスズクサはジャコウアゲハホソオチョウなどの幼虫の食草です。 これらの蝶の記事の所でも書きましたが、ウマノスズクサには有毒成分が含まれています。 ウマノスズクサの仲間は、昔は生薬として重宝されたようですが、ウマノスズクサの成分が解明されるにつれ、最近では生薬としては殆ど使用されなくなりました。

◎ ウマノスズクサが分類されている Aristolochia属は、オーストラリア大陸を除く世界の熱帯ー亜熱帯を中心に500種以上が知られています。 そのうちの植物園の温室で育てられている外国産のいくつかの種をこちらに載せています。

0 件のコメント: